新春スペシャル和食の極み寿司の神髄大研究

NHK総合テレビ 毎週水曜日・午後8時から放送中
http://www.nhk.or.jp/gatten/
新春スペシャル 和食の極み 寿司の神髄 大研究
2007年1月3日放送
過去12年間、数々の食を科学してきたガッテンが、新春一番初挑戦するテーマは、「和食の極み・寿
司」。これほど日本人に愛される食べ物なのに、調べてみると握り方からして大誤解だらけであること
が判明したのです。
今夜は二千年にもわたる寿司の歴史を遡り、数々の大実験を駆使して、寿司のおいしさの秘密を大解明
します!
「発信!極上寿司プロジェクト」
ガッテンが極上の食材を集めて極上寿司をつくるプロジェクトを始動! 手に入れたのは、超高級マグロ
の代名詞・「大間産の生マグロ」の赤身。そして、5年連続金賞に輝く魚沼産コシヒカリの新米。これら
を使って職人さんに寿司を握ってもらったところ、やはり大好評でした。
ところが、職人が持ち出した「別の寿司」と対決したところ、大間産マグロの握り寿司が敗北! なんと
職人が使った「別の寿司」のネタは、「スーパーの冷凍マグロ」の赤身だったのです!
刺身で食べ比べると、スーパーで売られている冷凍マグロより格段においしい大間産の生マグロ。これ
をネタに使ったのに、なぜ冷凍マグロの寿司に負けてしまったのでしょうか? 実は、冷凍マグロを極上
寿司に仕立て上げる「寿司職人のワザ」が、そこにあるのです。
「寿司のルーツを常夏の国に求めて」
リポーターが寿司のルーツを求めて訪れたのは、タイ。一見寿司とは無縁に思えるかもしれませんが、
実は今タイでは日本の寿司が大ブームなのです。人気の回転寿司店で寿司を握るタイ人の職人さんに寿
司のルーツを尋ねると、「タイ東北部に、魚と米で作るすっぱい食べ物がある」との答え。
コンケンというタイ東北部の町で、「プラ・ソム(すっぱい魚の意)」という伝統食品に出会いまし
た。これが実は日本の寿司のルーツに当たると言われているのです。作り方は、湖で捕れる鯉のような
淡水魚を一晩岩塩で塩漬けにし、蒸したモチ米をまぶして3日間放置するというものです。その間に米と
魚が発酵し、特有の酸味とうまみが出ておいしくなるのです。
プラ・ソムが寿司のルーツと言えるワケ
プラ・ソムは、日本の寿司の元祖とされる「ふなずし」(現在も滋賀県琵琶湖周辺で作られている)と
よく似た、魚と米で作る発酵食品です。
日本の複数の研究者がこれまで寿司のルーツについて様々な調査・研究を行った結果、もともとタイや
ラオス、中国南部など東南アジア地域で作られていたプラ・ソムと同じような発酵食品が、紀元前に稲
作文化とともに日本に渡来し、「ふなずし」から始まる現代の寿司への進化の大本となったと考えられ
ています。
酸味が出てくる理由
米が乳酸菌の働きによって発酵すると、デンプンが分解されて乳酸に変わります。これが発酵特有の酸
味をもち、また魚のたんぱく質がうまみ成分のアミノ酸に分解されるのを促します。一方、酸によって
雑菌の繁殖を抑えるため、保存食となるのです。
「こうして寿司のルーツは生まれた?」
今回、私たちの取材にこたえて地元で人気の劇団のみなさんが考えて歌と芝居で披露してくれた、プ
ラ・ソム誕生のエピソードは次のようなものです。
「昔々あるところに、結婚を誓い合った漁師の男とその恋人がいた。ところがある時男がしばらく留守
にした隙に、隣の男が恋人を誘惑し、彼女もすっかり気移りしてしまった。それをたまたま目撃した友
人が漁師に告げ口。怒った漁師は食べかけていたご飯を手にしたまま、慌てて二人を追いかけた。道す
がら、塩漬けの魚を作っていた女性に2人の行方を尋ねると、“あちらへ逃げた”という。怒りにかられて
男は塩漬け魚の入ったたらいに、手にしたご飯を投げ入れた! そうとは知らずに数日後、塩漬け魚を食
べようとすると、魚とご飯が一緒になって腐っている。しかし、いい香りがするので試しに食べてみる
と、酸味とうまみでとてもおいしいことを発見!こうしてプラ・ソムが生まれたとさ」
プラ・ソムはそのままでも食べられますが、現地では油で揚げて、蒸したモチ米と一緒に食べるのが好
まれています。
プラ・ソムの作り方
. 刺身でも食べられるような白身の魚をさばき、たっぷりの粗塩をまぶして一晩塩漬けにします。
2. 塩漬け魚を一度よく水洗いし、お好みで塩・砂糖などをすりこんで、下味を付けます。
3. 蒸したモチ米を刻んだニンニクと一緒に、魚の表面や内部によくまぶします。(蒸したモチ米は、
まぶす前に一度水洗いし、よく水を切ります。)
4. そのまま密閉容器などの中に入れ、暖かい場所に3日間程度置いておきます。酸味のある香りがし
てきたらできあがりです。
5. そのまま高温の油で表面をカリッと揚げて食べます。
※注意:うまく乳酸発酵が進まないと、雑菌が繁殖して腐敗し、食中毒の原因となる恐れもあります!
プラ・ソムが寿司になるまで
紀元前の昔、東南アジアからプラ・ソムのような発酵食品が稲作文化とともに日本に渡来すると、「ふ
なずし」のような食べ物として日本各地で好んで作られ、食べられるようになりました。
奈良時代の文献によると、当時は税として納められていた高貴な食べ物でした。当時の「発酵すし」で
は、米はただの漬け床で食べずに捨てていましたが、室町時代になって庶民にもこの「すし」が広く普
及し始めると、もったいないからといって試しに米を食べる人が現れました。これが、発酵と魚のうま
みがしみこんで非常においしいことから、以後日本では魚と米を一緒に食べる「寿司」へと進化し、大
変な人気料理となっていきます。
このおいしい寿司を、発酵を待たずに食べたいと考えた江戸時代の人々が考え出したのが、米の発酵調
味料である「酢」を米に染み込ませることで、“発酵させずに発酵風味を持たせる”という妙案でした。
こうして現代のように、酢飯と魚で発酵させずに発酵風味が楽しめる寿司が誕生しました。
「米(まい)った!どんぴシャリの職人ワザ」
発酵風味を引き出す重要な酢をしっかり染み込ませるワザ
「大間マグロの握り寿司」を負かした、職人の「冷凍マグロの寿司」。実はネタだけでなく「シャリに
使った米の種類」も変えていました。なんと寿司用の米には、「古米」を7割も混ぜていたのです。
同じ水加減で炊いた新米と古米の断面を電子顕微鏡で撮影すると、違いは一目瞭然。デンプンが水分を
たっぷり吸収して膨らんだ新米に比べ、古米は水分の吸収が悪いため、内部にひび割れ状の隙間がたく
さん入っています。ここに酢が入り込むことで、酢がしっかり染み込んだ酢飯になります。
ご飯として食べるのにはおいしい新米も、酢を十分染み込ませる酢飯には不向きだったのです!
職人ワザ・その1「あえて古米で酢を吸収」
⇒ 冷凍マグロが極上寿司にワンランクアップ!
「きょう どの お寿司?」
小野アナウンサーが郷土寿司の知恵を訪ねて、「ます寿司」で知られる富山県へ。そこでは最後に寿司
を押す重石の重さが、おいしさの鍵を握っていました。
一方、香川県の「カンカン寿司」は、専用の木枠に酢飯とサワラを詰め、くさびをカンカンと打ち込ん
で強く押しつけることでおいしくなります。また、山口県の「岩国寿司」は、酢飯の上に色とりどりの
具を置き、人が上に座って体重で押すことでおいしくなります。
「お寿司」は「押すし」だったのです!
押した寿司と押さない寿司の違い
塩サバを酢飯の上に乗せ、押して作るのが「さば寿司」ですが、試しに押さずに作ったものと比べてみ
ました。まず食感を調べると、押さない寿司は魚が硬く、ご飯はもろく崩れるため、噛んだ時に魚と米
がバラバラになってしまいました。
一方、押した寿司は魚が柔らかく、ご飯は締まり、ひとつの食べ物のように一体化して噛み切れまし
た。さらに米の部分も魚の身も、押したほうがうまみ成分が増えていたのです!
押した寿司がうまくなる理由
酢飯に魚を乗せて強く押すと、酢飯の酸が密着した魚に浸透し、それが魚の身の中にある「たんぱく質
分解酵素」を目覚めさせます。この酵素が、魚のたんぱく質をうまみ成分のアミノ酸に分解します。こ
のうまみ成分が、押している間に再び酢飯の方にも浸透し、魚も米もうまみがアップしていたのです。
「酢」と「押す」の組み合わせは、すしが「発酵」によって行っていた過程を短時間で行う知恵だった
のです!
職人ワザ・その2「押しパワーで一体化」
⇒ 冷凍マグロが極上寿司にむかってさらにランクアップ!
「大実験!押しも押されもせぬ お寿司」
握り寿司も、ベテラン職人の握る手元をよく見ると、最後に強く押しています。押し寿司の一体感を、
手の中で押すことで置き換えたのが「握り寿司」だというのです。
そこで実験。職人がしっかり押しを効かせた握り寿司と、押さなかった握り寿司を風洞装置で強風に当
てたところ、押さない寿司は風速12メートル毎秒でネタがはがれたのに対し、押した寿司は風速25メー
トル毎秒まで持ちこたえました。さらに振動装置で両者に振動を与えると、押さない寿司はシャリが崩
れましたが、押した寿司はしっかり形を留めていました。
MRIで職人と素人が握った握り寿司の断面を撮影してみると……
素人: シャリの米粒が強く握られて、隙間なく固まっている
職人: シャリの表面はしっかり固まっているが、内部に空洞がある。そのため、噛むにつれて自然
にシャリがほどけ、口の中で魚とご飯が渾然一体になる
職人の握りワザを解明
職人は一体どんな風に握っているのでしょうか。薄型の圧力センサーをシャリ型の模型に貼り付けた
「シャリセンサー」を製作し、握る時の押す圧力を測定しました。
その結果、素人はネタの上から押す2本指の部分だけ押しているのに対し、職人は、むしろシャリの表面
全体を均等に押し固めていることがわかりました。シャリを乗せた左手の形を壁のように固く保持した
状態で、上から押さえることで、寿司の外側の米をしっかり固めていたのです。
「寿司をさらにおいしくする職人の仕事場拝見!」
寿司職人のSさんは、築地市場で毎朝とびきり新鮮なネタを仕入れると、店に戻って仕込みを始めます。
「鮮度が命!」かと思ったら、実はネタにするヒラメは2日も冷蔵庫で寝かせたものでした。うまみが倍
増するとともに、硬くコリコリしていた身が柔らかくほぐれるようになるのです。
さらに、一晩置いたマグロの赤身も、酒とみりん、しょうゆを合わせたタレ(煮きり醤油)に10分ほど
漬けた後、さらに一晩寝かせてから寿司に使います。これらの一手間によって、うまみがグンと増える
と同時に、酢飯と見事に一体化する魚肉の食感を生んでいたのです。
マグロの「づけ」の作り方
しょうゆ10に対して、酒1とみりん1を混ぜ合わせ、一煮立ちさせてアルコール分を飛ばします(煮きり
醤油)。これにマグロの切り身を10~15分漬け込んだ後、紙タオルでタレを拭き取り、乾燥しないよう
に密閉容器などに入れて、冷蔵庫で一昼夜寝かせます。
ただ単にいい食材を使えばおいしい寿司になるというわけではなく、それに職人それぞれがこだわる仕
込みの一手間を加えることによって、本当においしい寿司が作り出されるのです。
職人ワザ・その3「仕込みで魚のうまみ増」
⇒ 冷凍マグロがついに極上寿司に到達!
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