妊娠とくすり

お薬通信
NO.20
「妊娠中ですが薬を飲んでも大丈夫でしょうか?」という質問は、患者さんや担当医・担当
看護師などから薬剤師へ寄せられることの多い質問の一つです。今回は、妊娠と薬の影響に
ついてまとめました。注意が必要な薬、服用可能な薬などをご紹介します。
~妊娠中は服用してはならない薬・注意が必要な薬~
ほとんどの医薬品は先天異常の自然発生率を高めることはありませんが、
催奇形性・胎児毒性が報告されている以下の薬には注意が必要です。
薬剤名または薬剤群名
エトレチナート
高用量のビタミン A
当院採用薬
チガソン Cap
チョコラ A 滴
報告されている問題
催奇形性(男性も避妊が必要)
催奇形性
妊娠のどの時期でも胎児に形態異常を引き起こす可能
性がある(妊娠初期:鼻の低形成、椎骨・大腿骨の形
成不全等、妊娠後期:胎児の出血傾向)
ワルファリン
ワルファリン
カリウム錠
フェニトイン
アレビアチン錠・細粒、 催奇形性(ヒダントイン症候群:頭蓋顔面の形成不全、
ヒダントール F 等
四肢の異常、神経発達遅延等)
プロスタグランジン
アゴニスト治療剤
サイトテック錠
妊娠のどの時期でも胎児に形態異常を引き起こす可能
性がある(流早産の可能性もあり)
ア ンジオ テン シン変 換酵 素
(ACE)阻害剤
エースコール錠、
コバシル錠 等
胎児毒性(胎児低血圧、羊水減少、肺低形成、呼吸障
害、胎児・新生児死亡)
非ステロイド性
抗炎症薬
アミノグリコシド系抗菌薬
テトラサイクリン系抗菌薬
バファリン錠、
ボルタレン錠
カナマイシン Cap 等
ミノサイクリン錠 等
胎児毒性(動脈管閉鎖、新生児持続肺高血圧症、持続
胎児循環症、羊水過少、分娩遷延、予定日超過)
胎児毒性(非可逆性の第Ⅷ脳神経障害)
胎児毒性(乳歯のエナメル質染色、永久歯冠の染色)
~妊娠中に市販の痛み止めやかぜ薬を服用してもよい?~
市販薬の大部分には複数の成分が入っていますので、主成分だけではなく、少量でも配合
されている成分についても注意を払わなければなりません(ただし、各成分ともに医療用医
薬品と比較すると少量です。)服用の判断基準として、以下を目安にすることができます。
— 解熱鎮痛薬の第一選択はアセトアミノフェンであり、妊婦に投与して胎児に影響があったとする
報告はない(比較的安全である)ため、それらの成分が配合されている薬剤を選択する。
— 添付文書上、妊婦に対して禁忌である成分(アスピリンなど)が配合されている薬剤はなるべく
選択しない(特に妊娠末期)。ただし、低用量アスピリンは習慣流産等(抗リン脂質抗体症候群
と関連する場合)に用いられることもある。
— 添付文書上、妊婦に対して禁忌ではないが、妊娠末期においては動脈管収縮などの胎児毒性を起
こす可能性がある成分(イブプロフェンなど)が配合されている薬剤はなるべく選択しない。
なお、市販薬を服用する必要性があるかどうかを見極めることも重要です。また、実際
に服用する場合には、かかりつけの産婦人科医にもご相談下さい。
~妊娠中に使用できる抗菌薬は?~
ペニシリン系(ビクシリン錠 等)、セフェム系(フロモックス錠、セフゾン
Cap、メイアクト錠 等)、マクロライド系抗菌薬(ジスロマック錠、クラリス
ロマイシン錠 等)は、妊娠時に安全に使用できると考えられています。
~妊娠中に使用できる抗アレルギー薬は?~
可能な限り、点鼻・点眼・吸入などの外用剤を使用し、症状によって投与が
避けられない状況であれば、内服剤や注射剤を使用することもあります。
国内外での経験から、妊婦に使用しても安全であると考えられているのはク
ロルフェニラミン(ポララミン錠)です。海外では第一選択薬として、ロラタ
ジン(クラリチン錠)とセチリジン(当院未採用薬)が使用されています。
~妊娠中に使用できる胃腸薬・便秘薬・下痢止め薬は?~
胃腸薬
防御因子増強薬(ムコスタ錠、セルベックス細粒 等)が
経験的に多く利用されています。
便秘薬
一般的には塩類下剤(マグミット錠)が第一選択となります。腸管からほとん
ど吸収されず、習慣性も少ないため、少量の使用では妊婦に対して比較的安全
であると考えられます。それでも効果がない場合、大腸刺激性下剤(ラキソベ
ロン液、プルゼニド錠)が使用されます。
下痢止め薬
感染性の下痢の場合、抗生物質(ホスミシン錠)、生菌整腸剤(ラックビー
微粒 N)、乳酸菌製剤(ビオスリー錠)などが使用されます。非感染性の下
痢で症状が高度な場合のみ、下痢止め薬(ロペミンカプセル)を用います。
~サプリメントの妊娠への影響は?~
なかにはビタミン A 等のように過剰に摂取すると催奇形性のリスクが高まるものもあり、
注意が必要です。栄養素のバランスを考えた食事を摂取した上で、足りない分をサプリメン
トで補うような補助的な使い方が望ましいでしょう。
なお、葉酸(緑黄色野菜に多く含まれているビタミン B 群の一種)は、先天性神経管閉
鎖障害(二部脊椎症、無脳症 等)の予防に重要な働きをするといわれ、2000 年 12 月に厚
生省(当時)から、食品からの葉酸摂取に加えて、妊娠の1ヶ月以上前から妊娠 3 ヶ月まで
の間は 1 日 0.4mg の葉酸摂取を推奨する通達が出されています。
妊娠初期に気づかず常備薬を服用してしまったら?
妊娠に気がつかずに常備薬(総合感冒薬、解熱鎮痛薬、消化器官薬等)を服用した場合、
妊娠初期だからといって奇形発生の頻度や危険度が著しく上昇するとは考えられませんの
で、これらの服用を理由に妊娠を中断する必要はありません。しかし、長期連用や妊娠末期
の服用が問題となる成分(例:サリチル酸系の解熱鎮痛剤)が含まれる一般用医薬品もあり
ますので、自己判断による服用をせず、主治医や薬剤師に相談しましょう。
参考文献:妊娠・授乳とくすり Q&A
薬局 Vol.57, No.8 (2006)
上尾中央総合病院 医薬品情報室(文責)
TEL 048-773-1219(直通)
作成日:平成 21 年 5 月 11 日