それぞれの強みを 活かした企業間 連携がより大きな 付加価値を生む 事例 1 医師のニーズを異業種チームで実現! 吸引機能付き携帯用ディスポーザブル内視鏡 株式会社住田光学ガラス 異業種連携チームの発足 優れた可とう性があります。その光ファイバーを束ねたイメージ 黒金: さいたま商工会議所は、約 13,000 の会員企業が連な ガイドファイバは画像伝送が可能で、数十年前から海外の医 り、様々な業種別の経営支援活動を展開しています。その活 療機器メーカーが内視鏡の中核部品として使っています。 動の一環で、2011 年 3 月、医療連携の取り組みとして、慶応 現在の内視鏡は CMOS センサを搭載し、数百万画素の画 義塾大学の医師とモノづくり企業との、ニーズ/シーズのマッ 質が実現しています。しかし、CMOS センサは基盤が必要で、 チングや交流を開始しました。相互理解を深めるため、企業 センサを搭載した先端部分から何㎝かは曲がりません。イメー のオペ見学や医師の製造現場の見学なども行い、住田光学 ジガイドファイバを使う場合は、細径化や可とう性に優れ、先 ガラスの技術を見た医師による、同社のイメージガイドファイバ 端部のすぐ後ろから曲がり、用途が広がります。内視鏡では、 を喀痰吸引用の内視鏡に応用するアイディアが、この開発プ イメージガイドファイバは前世代の技術とされますが、私達は ロジェクトのきっかけとなりました。 イメージガイドファイバでも十分な画質を実現する技術があり、 アイディアを同社で検討して頂き、経済産業省「平成 23 年 これからも様々な使用方法が考えられると思っています。今回 度 課題解決型医療機器の開発・改良に向けた病院・企業間 も医師達が私達の技術を見たことがきっかけになり、喀痰吸引 の連携支援事業」に申請したところ、採択となりプロジェクトが 用の内視鏡を開発するプロジェクトが始まりました。 本格的に開始しました。製品化を目指すために、医療機器メ ーカーの存在が重要になります。医療機器メーカーは、開発 難題に挑む 製品販売にマッチした、国内のチューブシェアナンバー1 であ 佐藤: 開発がスタートし、製品の具体的な姿を参加者全員で る、㈱トップの参加が実現しました。 議論しました。装置の全体構成は、医療機器に精通する㈱ト ップが主導し、現場に必要な性能・機能は医師の意見をもと 佐藤: 住田光学ガラスは、光学ガラスの材料やレンズを様々 に決めていきました。 な光学機器に提供しています。従来のガラスレンズは研磨加 この内視鏡は、画像をタブレット端末などに無線で伝送し、 工で製作されてきましたが、私達は熱加工技術を確立し、レン 口から挿入する先端部分を消耗品にする点が特徴です。無 ズ形状の自由度を高めました。それによって、従来は高価だ 線接続したタブレット端末を表示端末に用いる場合、現場作 った非球面レンズの大量生産・低コスト化を実現し、携帯端末 業に支障が出ない画質や遅延がない通信品質が求められま を含めて、光学機器の小型化・軽量化に貢献してきました。 す。そして、先端部分を消耗品(ディスポーザブル)にするた 材料、レンズに続く私達の製品が光ファイバーです。髪の めには、製造面で飛躍的な低コスト化を実現する必要がありま 毛ほどの細さにした光ファイバーは、指に巻くことができるほど した。 髙久: 内視鏡の中核部品を消耗品とするため、技術開発は 難題に挑むことになりました。普通に考えても、診療に耐える 光学系部品の製造は高コストです。内視鏡先端にレンズを貼 りつける作業は、人手で顕微鏡を見ながら行い、熟練者でも 1 本約 40 分を要します。 それを大量生産で消耗品にするには、従来と全く異なる製 ㈱住田光学ガラス 営業部・営業 3 課・課長 佐藤 忠信氏(左) 研究開発本部・素材開発部・副主席技師 髙久 英明氏(中央) さいたま商工会議所 総合政策推進部・副部長/ 政策企画推進課長 黒金 英明氏(右) 造技術が必要です。そこで、先端部分のレンズ貼り付けを自 動化する技術に取り組みました。ここが開発で最も難航しまし 26 Ⅰ 医療機器産業で新事業創出に挑む [STRATEGY] た。まだ開発中ですが、何とか目処がつきつつあります。 ディスポーザブル内視鏡 異業種連携の果実 髙久: 私達は、昨年頃から会社全体で本気で医療分野に取 り組むようになりました。営業部門はそれ以前から医療分野の レンズ 開拓に注力してきましたが、現在は営業部門と技術部門が連 携して 1 つのプロジェクトに取り組むケースが増えています。 超極細径内視鏡 ディスポーザブル吸引チューブに 超極細径内視鏡を組み込む 黒金: 医療機器は、常に患者様の安全・低侵襲を基本に、 細かい部材 1 つにも高いレベルが求められます。このため、開 発過程における販売戦略の変更を余儀なくされることもありま す。そんな時はプロジェクトの原点に戻り、患者様の生命を第 一に、よりよい製品を安く提供できるよう検討を繰り返し、プロ のステージに進めると思います。営業部門も、医師との交流が ジェクトチーム一丸となって乗り越えています。 生まれて、会社全体のメリットになったと感じています。医師の ニーズを知り、大手の医療機器メーカーでは製品化が難しい 佐藤: 様々な課題はありますが、進捗はおおむね順調で、薬 分野は、私達のような小回りが利く企業に役割があることも分 事申請の日程も決まり、2014 年度に上市できる見通しです。 かりました。これまで、医療分野では部品を供給する立場でし このプロジェクトは社内でも注目され、期待されています。 たが、このプロジェクトではその枠を超えて、一緒に医療機器 私達も医療機器の開発にここまで踏み込んだのは初めてです。 の開発に取り組む経験ができました。 開発や製品化の苦労を参加者と共有でき、本当に貴重な体 験になりました。いろいろ大変でしたが、全体のスケジュール 製品化に向けて 管理等、黒金さんがいつもチームを細やかに調整してくれて 佐藤: 現在、製品化に向けた動物実験まで進んでいます。 本当に助かりました。 機器の全体像も固まり、事業の残り 1 年で自動化技術の最終 調整を遂行します。製品化したばかりの微細レンズシリーズ 髙久: 今回のプロジェクトが結果につながったのは、製品化 「FOCUSROD」が使用可能になり、それを画像処理しながら、 という目的が明確で、参加者全員が同じ方向にまとまったから 数ミクロン単位で正確に貼り付ける技術を開発しています。 だと思います。ゴールが曖昧だと難しかったと思います。 イメージガイドファイバ、製造自動化技術、新レンズが揃い、 プロジェクト開始当初、イメージガイドファイバ自体の完成度 一連のプロセスを内製化することで、何とか目標コストに収まる も不十分でした。この開発と同時並行して、スコープの試作も 道筋が見えてきました。 作製しなければならず、その点は大変でした。しかし、この経 装置自体の全体構成も固まりましたが、細かい調整項目は 済情勢の中で、予算支援を受けることができ、新技術に挑戦 残っており、製品化はもう少し大変な道のりが残っています。 する機会が得られました。吸収できた新技術やノウハウは、プ ロジェクト終了後も私達にとって様々な発展につながると思い 黒金: 国の委託事業として予算を獲得でき、次年度も事業が ます。 継続します。関わった先生達も多忙を極める人ばかりですが、 また、連携プロジェクトを通じて、今まで接点が少なかった 一緒に仕事しやすいお人柄で、出会いに恵まれたと感じてい 世界の人達とネットワークができました。医療界、医療機器、 ます。必ずや、製品化を実現し、このプロジェクトを無事、着陸 通信技術などの人達と一緒に仕事でき、この関わりは開発終 させるべく頑張りたいと思います。 了後も続いていくと思います。素晴らしいメンバーに恵まれ、 絶妙な組み合わせの異業種連携チームだと思います。 株式会社住田光学ガラス 【所在地】 〒330-8565 埼玉県さいたま市浦和区針ヶ谷 4-7-25 【設立】 1953 年 【資本金】 4,934 万円 【従業員】 350 名 【連絡先】 048-832-3165(代) 【事業内容】 光学機器用光学ガラスおよび加工品、光ファイバー、 ライトガイド、イメージバンドル、光源装置、ファイバースコープ、非球 面レンズ、蛍光ガラス、その他特殊ガラス等の製造販売 佐藤: プロジェクトがここまで進んできたのは、商工会議所ス タッフの力量によるところも大きいです。この「吸引機能付き携 帯用ディスポーザブル内視鏡」が製品化された後、私達も次 27 それぞれの強みを 活かした企業間 連携がより大きな 付加価値を生む 事例 2 盤石のチームで突き進む産学連携プロジェクト! 浜松発・内視鏡手術ナビゲーション 永島医科器械株式会社 プロジェクト始動 この時期に、重要な要素技術を持つ企業との出会いがあり 山本: 私は浜松医科大学を卒業後、脳神経外科医として、 ました。光を使った 3 次元イメージスキャナの技術を持つパル 約 10 年、臨床に従事しました。その後、大学に戻り、1990 年 ステック工業㈱と、CAD/CAM 関連ソフトウェアに強い㈱アメリ 代から診療業務とともに基礎研究にも注力、2000 年から浜松 オの 3 次元情報処理・解析技術で、いずれも浜松の企業です。 医科大学のメディカルフォトニクス研究センターに勤務してい この産学連携コンソーシアムは、浜松テクノポリス推進機構の ます。2002 年、浜松地域が文部科学省『知的クラスター創成 コーディネートによって実現しました。 要素技術が揃い、原理検証や基本構成も固まり、私達は製 事業』の実施地域となり、私はその事業で研究成果の臨床応 品化を強く意識していました。製品化は医療機器メーカーの 用を模索しました。 その時に取り組んだテーマが脳外科用の手術ナビゲーショ 存在が不可欠です。そのタイミングで、永島医科器械の齋藤 ンの開発です。当時、すでに海外製の高額なナビゲーション さんと出会いました。同社は「杉田クリップ」で有名な故・杉田 装置がありましたが、様々な手術に対応できる反面、設定が大 虔一郎先生と一緒に、日本で初めて脳外科手術用の顕微鏡 変で、精度にも問題がありました。脳は手術中に位置が 1 ㎝も を開発した企業です。私は杉田先生に憧れて脳外科に進ん 動く“ブレインシフト”という現象が起こります。事前に撮影した だ経緯があり、その先生と一緒に開発に取り組んできたのが MRI や CT 画像も、手術中に 1 ㎝も動くとナビゲーションになり 齋藤さんです。齋藤さんとお会いし、私達の開発内容を見て ません。そこで、その問題を解消し、一般病院でも導入可能な 頂き、齋藤さんの「一緒にやりましょう!」という一言で、製品化 脳外科用の手術ナビゲーションを実現するため、浜松の企業 への道が一気に現実味を帯びました。 や静岡大学と共同開発を進めました。しかし、ブレインシフトを ソフトウェアで的確に算出する難易度が高く、成果を出すには 齋藤: 永島医科器械は、100 年以上医療に携わり、耳鼻咽 軌道修正が必要になりました。 喉科向け機器で日本トップの実績を持ちます。耳鼻咽喉科に 必要な膨大な種類の医療機器を揃える、世界でも数少ないメ 仲間と出会い、技術が揃う ーカーです。日本の治療機器は輸入製品ばかりですが、私達 山本: その当時、耳鼻科分野でも内視鏡手術が広がりつつ は国産製品に強くこだわっています。 ありました。耳鼻科の内視鏡手術は、些細なミスが事故につな 私はこの世界で約 50 年の経験を持ちますが、プロジェクト がるため、執刀医の負担はきわめて過酷です。その問題に私 の内容・成果を見て、直感的に「これは優れている、進めるべ 達の研究が役立つと気づき、開発ターゲットを、耳鼻科の内視 きだ」と思いました。これからの時代に必要な技術だと思い、ま 鏡手術用ナビゲーションに変更しました。 た、先生やメンバーと議論・交流するうちに意気投合し、昔か ら気心が知れた仲間のように感じています。 手術用ナビゲーションシステム「NH-Y100」 山本: 2007~2008 年に経済産業省の「地域新生コンソーシ アム研究開発事業」「地域イノベーション創出研究開発事業」 の予算を獲得、同時並行で 2007 年から獲得した JST の予算も 投入し、仕様がほぼ固まりました。2008 年には「スーパー特区 浜松医科大学 産学共同研究センター センター長、 メディカルフォトニクス研究センター 教授 山本 清二氏(左) 永島医科器械㈱ 取締役 技術本部長 齋藤 博氏(右) 制度」にも採択され、臨床試験から製品化を短期間でこなしま した。そして、2012 年 3 月、ついに製品化を達成しました。 28 Ⅰ 医療機器産業で新事業創出に挑む [STRATEGY] 完成した「NH-Y100」は、人体に優しい白色光を使って、手 (操作側) (術者側) 術時の患者顔面を 3 次元情報として高速処理し、術前 CT 画 像と重ねて自動で位置合わせします。瞬時に 2 ㎜以内の精度 で内視鏡先端位置を表示でき、患者が動いても自動追尾しま す。既存の手術ナビゲーション装置より安価で、市中病院が 購入できる価格帯を実現しました。優れた自動化機能により、 手術用ナビゲーションシステム「NH-Y100」 少人数で内視鏡手術を遂行できるようになります。 内視鏡は画面を見るだけでは位置、方向、距離感を判断し にくく、耳鼻科の手術はすぐ奥に脳や眼球などがあるため、常 使いました。これまでその経験がなかったため、試験の内容・ にリスクと隣り合わせです。この装置があれば先端位置を把握 方法や、評価方法に注意しました。同期の耳鼻科教授が現場 でき、安心して確実に手術できます。現在、大学病院は 2 台 として全面的に協力してくれたほか、様々な立場の人から多 目のナビゲーション装置を導入する時代ですが、脳外科が独 大な支援を頂きました。節目ごとに予算を獲得できる幸運にも 占する状況が多く、耳鼻科単独で装置を持つ病院は非常に 恵まれ、完成した装置の価格を抑えることができました。 少ないと思います。この装置は耳鼻科用ナビゲーションとして、 プロジェクトが様々な支援を受けて製品化に到達した要因 内視鏡手術の安全・安心に貢献します。 は、販売戦略を見据えて、医療機器メーカーも参加し、事業 化の意志が強いチームだったからだと思います。 齋藤: 私達は耳鼻科の医師や看護師の視点を熟知していま す。装置の外観・サイズ・重量、運用面の使いやすさも、長年 齋藤: 山本先生は、リーダーとして力量がありました。素晴ら の経験とノウハウで工夫しました。 しいチームで楽しく仕事できたと思います。先生は脳神経外 新製品として社内の期待も大きく、すでに販売・納品できる 科医として地域屈指の腕を持ちながら、基礎研究や技術開発 段階です。現在、営業部門が日本全国で販促・提案活動を展 にも真摯に取り組む姿勢に驚きました。研究者と臨床医の視 開しています。提案活動は実機デモをともなうため、搬送や現 点を持ち、いつも説得力があります。 地での組み立て・設定など大変ですが、実際に触って試した 今後は、この装置を頑張って販売します。そして現場の意 病院から、今後、購入の動きが出てくると思います。 見・要望を吸い上げ、将来はさらに改良します。医療機器は 売って終わりではなく、サポートも重要です。販売網はメンテ どこまで開発するのか、どこで実用化するのか ナンスやサポートを織り込む必要があり、そのネットワークが強 山本: 医療機器は、本来は現場で使いながら改良を重ねる 固ゆえに、私達は耳鼻咽喉科の信頼を獲得してきました。 ことで進化・最適化されます。しかし、臨床試験が始まれば、 このプロジェクトに参加し、私達も新たな視点を得ることがで その後は改善点が出ても変更できません。開発者は常にもっ きました。私達が持たない IT・エレクトロニクス技術が製品に融 と上を目指す気持ちに駆られますが、製品化はどこかで区切 合し、耳鼻咽喉科分野に新しい風が吹いています。 りをつける必要があり、その決断は本当に悩みました。 山本: このプロジェクトは、異分野の個性・技術が集まること 齋藤: 試験開始から製品化まで 2~3 年かかりますが、その で製品化を達成しました。うまく役割分担・連携できるチーム 間も装置を構成する要素技術が進歩します。臨床試験で使用 は、優れた力を発揮します。 して初めて気づく改善点も出ます。しかし、試験はやり直しが 日本の中小企業は、個々に高い技術を持つ企業が無数に ききません。届けた内容での製品化が前提で、変更すれば臨 存在します。反面、単独で研究開発する体力は乏しいと思い 床試験も諸々やり直しです。どの段階で線引きするのか、これ ます。個性と技術を結集し、異業種連携で開発・製品化する はメーカーにとっても、いつも悩ましい問題です。当然、使い 動きが、これからの日本にもっと必要だと思います。 勝手が悪ければ、現場は受け入れません。些細な変更を簡素 に改変できる仕組みや制度整備が必要だと感じます。 永島医科器械株式会社 連携プロジェクト成功のために 【所在地】 〒113-0033 東京都文京区本郷 5-24-1 【設立】 1937 年 (創業 1910 年) 【資本金】 1,164 万円 【従業員】 約 80 名 【連絡先】 03-3812-1271(代) 【事業内容】 医療器械の製造、販売および輸出入に関する業務 山本: 薬事申請は医療モデルを使った模擬手術のデータを 29 それぞれの強みを 活かした企業間 連携がより大きな 付加価値を生む 事例 3 浜松モノづくりの力を結集! 医療機器市場に挑むHAMINGの戦略 協同組合 HAMING (代表・橋本螺子株式会社) ネジの商社から医療機器製造へ こうした中、(公財)浜松地域イノベーション推進機構は新素材 橋本螺子は、静岡県浜松市に本社を置き、一般規格ネジ、 研究会を通じ、新たな成長分野育成のために「浜松地域チタ オーダーパーツ(客先仕様)の受注製作販売を行う商社部門 ン事業化研究会」を立ち上げました。その中にはいくつかのプ と、医療用ネジ、手術用器具を製造する医療機器製造部門の ロジェクトがあり、その内の 1 つにチタンを医療分野に活かす 2 本の柱で事業を行っています。もともと企業の母体は商社で “メディカルプロジェクト”がありました。このプロジェクトには、 あったわけですが、チタン製の部品加工をきっかけに医療機 浜松地域を中心に、チタンの医療分野への応用に関心のある 器メーカーとの接点が生まれ、2006 年医療機器事業部を立ち 企業が参加し、医療機器製造の実績を持つ橋本螺子がプロ 上げ、同分野の製造に参入しました。2007 年には、医療機器 ジェクトリーダーとなってチタン製の手術器具の試作を行った 製造業、ISO13485 の認証を取得し、現在は自社工場を構え、 のです。この結果は展示会などで紹介され、グループによる メディカル事業部と改組して、脊椎固定用インプラント、手術 新たな挑戦ということで注目を集め、鋼製器具製造の技術力 用各種鋼製器具を製造しています。 が浜松にあることが実証されました。 このように橋本螺子は、短いながらも医療機器製造の業界に また近年、浜松医工連携研究会など、商工会議所などの行 身を置き、徐々に活動の幅を広げつつありますが、当然中小 政支援により、浜松の次期基幹産業として「医療分野」への注 企業 1 社でできることは限界があり、技術、コスト、納期といっ 目が高まって参りました。しかし、実際に医療機器の参入には た点で断念せざるを得ない案件も多々見られるようになりまし いろいろな課題があります。特に「少量」「多品種」「高品質」を た。 キーワードとする医療機器は、本来日本の中小企業が得意と する分野であるにもかかわらず、独特の商流・薬事法の規制 協同組合HAMINGの設立背景 などがあり、利益を上げていくまでには多くの投資と時間が必 浜松地域の経済を見てみますと、車、バイク、楽器といった 要となるため、経済的に余力のない中小企業が参入するには 産業基盤があり、大企業と数多くの中小企業がそれを支えて 簡単ではありません。また前述しましたように、すでに参入して きました。しかし、リーマンショック以降の厳しい経済環境の中、 いる橋本螺子においても、現状課題打破のための施策が求 浜松地域の製造業は大きな打撃を受け、特に中小企業の中 められていました。 そこで橋本螺子の呼びかけにより、メディカルプロジェクトメ には事業存続の危機に直面している企業も少なくありません。 ンバー企業が集まり、各企業の得意技術、経験、販路などの 経営資源を結集し、医療機器製造にチャレンジする協同組合 HAMING(ハミング: Hamamatsu Medical Innovative Group)を 2012 年 11 月に設立しました。メンバーは橋本螺子㈱、橋本エ ンジニアリング㈱、㈲岩倉溶接工業、㈱榛葉鉄工所の 4 社に なります。 鋼製器具市場の課題に挑む 金属製の手術器具は、各お医者様の独自要求があるため に、大量生産ではなく、日本のまさに職人技でつくられてきた 歴史があります。一般的にこういった器具には図面はなく、職 協同組合 HAMING 理事長 橋本 秀比呂氏 (橋本螺子株式会社 代表取締役社長) 人の経験と勘と技でつくります。現在その職人の世界も高齢 30 Ⅰ 医療機器産業で新事業創出に挑む [STRATEGY] 化が進み、彼らが引退すると日本で製造できない器具が増え HAMING 鋼製器具 加工例 てしまいます。結果としてこれらの製造はアジア諸国に流出し ていますが、低コストである反面、品質に問題があることも多い ため医療現場での事故につながるケースもあるようです。 HAMING では、参加企業の得意技術と各企業の技術ネット ワークを活かし、職人技を機械化・自動化し、少量・多品種・ 低価格の実現を目標とした製品づくりにチャレンジしていくつ チタン製開腹器 チタン製圧定鈎 チタン製開創器 ステンレス製肛門鏡 もりです。すでに HAMING では、チタン製の手術用開創器の 試作、肛門鏡の試作・量産、眼科で使う手術用マイクロピンセ ットの開発・試作の実績があります。今後は製造アイテム数を 増やし、生産量の安定化を図っていきたいと考えます。 またこういった生産量の確保によって、浜松地域で定年を 迎えた人達や障害を抱えているが元気に働きたいと思ってい る人達にも仕事の場を提供できたらと考えています。 業のみならず、多くの企業とのコラボが生まれ、地域経済の発 製造・販売とコストの共有 展につなげられればと考えます。 現在の HAMING の活動は、月例の理事会で全員が集まり、 力を合わせて付加価値を高める 運営や将来戦略を議論しています。実際の製品プロジェクト では、中心となる技術担当企業を決め、各企業からの代表者 将来の HAMING の姿には、いろいろな可能性があります。 の参加をもって進めています。 1 つには幅広い加工技術を持つ製造専門の組織という考え方 組織を設立した以上、参加企業がその参加メリットを享受で です。図面作図、試作、量産(工程管理)、品質保証を体系的 きるか否かが課題となります。解決策の 1 つとして、組合参画 に行い、多くの市場要求に応えるためには、現在の組合参画 企業が納得できる仕事を獲得することが重要です。また組合 4 社では無理が出てくる可能性があります。その場合、新たな 参画により、企業単独では対応・解決が難しい問題を解決で 参画企業の呼びかけなど、守備範囲の強化が必要になるかも きるということも重要です。例えば、展示会に組合として共同出 しれません。いずれにせよ、まず現在の 4 社の絆を深め、その 展することで、経費節減とプロモーションの両方が達成できま 上で賛同企業を束ねて、それぞれ得意な分野で力を発揮し す。また組合で製造と販売を分担し、各企業の経営資源を効 て頂きたいと思います。 果的に利用することも可能だと考えます。医療機器は、儲かる また薬事対応、医師ニーズ収集、製品開発、プロモーション 案件は意外と少なく、厳しい状況も多々あります。中小製造業 などを、上流工程を担う別組織を立ち上げ、製造販売業許可 が 1 社単独で営業活動をし、医療機器製造業の許可や製造 を持つ新会社にする構想もあります。その場合 HAMING は製 設備を維持するのは楽なことではありません。HAMING のよう 造部門となり、製造販売会社と手を組んで、オリジナルブラン に医療機器製造業許可、ISO13485 の認証を持つ企業(橋本 ドの育成に挑戦するつもりです。 螺子)を中核に置き、他の参画企業が実際のモノづくりで寄与 浜松地域はこれまでバイクの街、楽器の街といわれてきまし するという形は、経営資源の共有化という点でメリットを生むと た。これからはこの浜松が「医療機器製造の街」呼ばれるよう いえます。少なくとも HAMING に参加することで、医療機器市 になることが、HAMING の使命とし、活動を推進していきます。 場や薬事法に関する経験・知識が増えていくことは当然であり、 それが新たなビジネスチャンスを生む可能性を大いに持って 橋本螺子株式会社 いるといえるでしょう。 【所在地】 〒430-0801 静岡県浜松市神立町 124-11 【設立】 1955 年 【資本金】 1,100 万円 【従業員】 16 名 【連絡先】 053-461-5012(代) 【事業内容】一般規格ネジ、特殊ネジ、オーダーパーツ、医療用ネジ、 金属製の手術器具、鋼製器具、医療機器の製造 これからの目標として HAMING は、健康機器、介護・福祉 機器にも挑戦していきます。現実的に、理学療法士の現場課 題を抽出し、いくつかの装置開発プロジェクトが始まっていま す。様々な現場の様々なニーズを拾って広げて、組合参画企 31
© Copyright 2024 Paperzz