シ オマネ キ 有明海等環境情報・研究ネットワーク 研究関連情報 生物情報 ■ 学名 Uca arcuata (De Haan,1833) ■ 主な地方名 地方名 マガニ、マガネ ■ 分類上の位置 甲殻綱 十脚目 スナガニ科 写真提供:佐賀県有明水産振興センター 外部形態の特徴 雄では左右どちらかのはさみ脚が巨大化し、 極端な左右不相称になる。雌のはさみ脚は小さ く、相称である。小はさみ脚も雌雄により異な り、雄の小はさみ脚には歯はないが、雌では1 対の歯がかみ合わせ部の内部に発達する。 4対の歩脚の形態的な相違は小さいが、長節 の幅が著しく広い。甲はほぼ台形であり、前面 が最も幅広い。表面は滑らかである。日本のシ オマネキ類 10 種のうち、本種が最大で雄の甲 幅は最大 38mm、雌で 34mm に達する 1)。 貴重種、特産種、固有種、 レッドデータブック記載種など 種など レッドデータブック記載 希少種(水産庁)1) 生理・生態 【分布】 日本:福岡県・佐賀県・長崎県(有明海の湾奥 沿岸域) 、熊本県(八代海の湾奥沿岸域) のほか、福岡県(福岡市和白)、紀伊半 島、瀬戸内海沿岸などに分布 1)。 世界:韓国、台湾、中国本土の沿岸に分布 2) 3)。 【生息場所】 淡水が流入するか雨水の影響が大きく、塩分 が低くなるような内湾の奥、もしくは河口域に ある泥質干潟に分布する。高潮線付近で、大潮 以外には冠水しないような場所を好み、波浪の 影響を受けるような開けた場所には分布しな い。底質は巣穴が作れるような固さが必要で、 軟泥底は不適である 1)。 【生活史・寿命】 6月から7月に加入したゾエア幼生は棲息 地付近で生活し、メガロパに変態後、棲息適地 に戻り、再度変態し、稚ガニとなり、翌夏には 生殖に加わる 1)。寿命は5年以上である。 【移動・回遊】 ほぼ定住的に巣孔を保持するが、放浪する場 合もある。放浪する条件については明らかにさ れていないが、巣孔を捨て、干潟を動き回り、 摂食行動の後に、適当な空いている巣孔に入る ことが知られている 1)。 【産卵期・産卵場(環境条件)】 生殖期間は6月から7月である 1)。 【習性】 【習性】 本種は深さ 15~30cm の巣孔を掘り、活動に 不適な夜間、満潮時、雨天時あるいは温度が低 くなると、入口を泥で閉ざす。巣孔の入口付近 に泥をかき集め、小さな火山のような状態にす るが、その意味は不明である。求愛行動には不 明な点があるが、巣孔内様式と表面様式のふた とおりを使い分けていると考えられている。 巣孔内様式は雄が巨大なはさみを動かすこ とによって、雌を刺激し、自分の巣孔内に誘い 込み交尾する。表面様式は巨大なはさみを用い ず、雄が雌のところに出かけ、その場で交尾す る。 【成長(年令形質、成熟年齢、寿命)】 成長は早く、6月から7月にゾエア幼生とな った個体は年内に甲幅9mm 前後に成長する。 翌年の6月頃はじめには甲幅 15mm 以上とな り、産卵群となる。 【食性】 底質に付着する有機物あるいは微小生物を 摂餌する。 漁業 【漁期(禁漁期)】 漁獲対象とされている。 【漁獲制限サイズ】 【漁具・漁法(遊漁) 】 【漁場】 【漁獲量】 利用加工 文献 【食品としての利用】 塩辛として賞味されている。 【成分分析値】 がん漬(小型のカニ全体を塩辛にした加工 品)の参考値: エネルギー 59kcal, 水分 54.7g, たんぱく質 8.4g, 脂質 0.4g, 炭水化物 5.4g, 灰分 31.1g (可食部 100g 当たり) (五訂 日本食品標準成分表(2002))7) 【調理方法】 佐賀県では潰して食塩と唐辛子を加え、がん 漬けとして調理している 1) 2)。 1)山口隆男.シオマネキ.日本の希少な野生水生 生物に関する基礎資料(Ⅱ) 水産庁 1995;657-661. 2)上田常一.朝鮮産甲殻類の研究 第一報 蟹類.1941;289. 3)菅野 徹.有明海. 東海大学出版会 1981;7+194. 4)山口隆男.ハクセンシオマネキ巨大鉗脚の左右 性と二型性について. 動物分類雑誌 1973;82(3):154-158. 5)山口隆男.干潟棲カニ類の生活と生態. 海洋科学 1987;19(2):111-117. 6)山口隆男.干潟のスター・シオマネキ、ハクセンシ オマネキを中心に. アクアライフ 1987;9(7):118-123. 7)科学技術庁資源調査会編集.五訂日本食品標準 成分表. 科学技術庁資源調査会報告 2000;第 124 号. 8)小菅丈治.シオマネキ.有明海の生きものたち. 海游舎.2000;73-75. 9)山口隆男.ハクセンシオマネキ.甲殻類学、エビ・ カニとその仲間の世界. 東海大学出版会.2003;159-183. その他 【特記事項】 シオマネキ類はカニ類のなかでも特に進化 したグループであり、半地上生活者であるほか、 独特の生殖活動と社会生活を営み、学術研究上 からの価値が高い。 さらに、本種は大陸遺存種であり、動物地理 学的見地からも重要であるほか、分布域が埋め 立て、汚染負荷などを受け易い泥質干潟であり、 その生息環境が不安定な水域が多く、自然環境 の保全指標として考えることができる 1)。
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