平成 25 年度木更津市景観フォーラム 開催概要 日時:平成 26 年 3 月 21 日(金・祝日)開演 13:30 会場:木更津市民会館 小ホール 1.開会 都市整備部長挨拶 平成 16 年に景観法制定から 10 年が経過し、木更津市は昨年 3 月に景観行政団体とな った。 都市や自然、人の営みなど様々な景観があるが、景観の面白がり方ということでこれ からご講演を頂き、木更津市の景観について考えていくためのきっかけとしていきた い。 2.講演 演題: 「景観の面白がり方」 講師:八馬智氏(千葉工業大学工学部デザイン科学科准教授) 【景観の発見】 イントロとして学生を指導する時の話から紹介したい。 大学 1 年生向けの導入教育として「ペーパーパッケージのリデザイン」という課題に 取組んでいる。森永のミルクキャラメルを女子高生向けに、オフィスソフトの 20 代女 性向けにリデザインする等の作品が提出されている。 課題の中ではグループワークを行い、モノの見方を広げ、デザインをしていく上での 手がかりを分析する。モノをつくる際の観点の「多様性」を実感させることができる。 グループワークのメリットは、自分が気付かないことに仲間が気付き、友達も増える ことや、買う側から作る側への視点のシフトが発生することなどである。 新たな「視座」の獲得は「面白い」という体験からはじまる。これが「デザインマイ ンド」の原点ではないか。景観の「発見」も同じことである。 良い景観として位置付けられている富士山や自然の湖、砂浜やイタリアのまちなみ、 松本城等は、もちろん良いものだが、新たの視座の獲得にはならない。もっと「面白 い」世界があるのではないか。受動から能動へ、客体から主体へと転換していくこと が必要ではないか。 【景観の価値】 景観の定義としては様々なものがあるが、 「人間をとりまく環境のながめ(中村良夫)」 を紹介したい。この定義からは景観の捉え方として以下の3つが整理される。 1 1.単に対象の形ではなく、要素の関係が重要である。 2.時代や社会のフィルターにかけられ、視覚現象にとどまらない。 3.それぞれの経験や知識に基づく心理現象である。 エッフェル塔は本当に価値があるだろうか、と授業で学生に質問すると大半が「価値 があると思う」に手を上げる。パリのランドマークになっており、価値があるものと 思われる。 エッフェル塔はパリ万博の前にコンペによりつくられた。文筆家のモーパッサンは展 望台のレストランに足しげく通っていた。理由は、 「この美しいパリの街の中で醜い巨 大骸骨が見えないのはここしかない」ということだった。芸術家の集まりや市民運動 では、エッフェル塔の建設に反対する動きがあった。パリの石造りの街の中で新しい 素材である練鉄の巨大構造物は受け入れられなかったようだ。 今はだれもが認めるランドマークだが、当初は反対の動きがあったことを紹介すると、 「価値がある」に手を上げる学生が減少する。景観の価値は絶対的なものではないと いうことがわかる。 東京の日本橋は石づくりの中にコンクリートを充填した橋梁で、装飾的な橋である。 その上に架かる高架高速道路については否定的な見方が多い。 一方、この高速道路の景観にも価値を見出す意見もある。東京オリンピックの際に建 設された高架道路は、物流への貢献等が大きく「この高架がなければ今の日本はなか ったのではないか」という見方がある。江戸の水路の上に、明治の橋梁、昭和の高架 橋が重なっている景観の重層性が日本的なのではないかという意見もある。 景観の価値とは個人によって異なる。社会環境に影響されるものであり、見方を変え れば新たな景観の価値が発見できる。 【産業景観の価値】 第二次産業やインフラの景観にも価値が見いだされてきている。 お茶の水の聖橋は、駿河台台地に開削された水路の上に鉄道が重層的に重なる特徴的 な景観であり、土木学会での対談でも取り上げられている。 ダムやジャンクションに価値を見出す人も出てきている。京葉コンビナートの工場や 宇都宮の地下採石場、宇部の炭鉱といった景観にファンが存在しており、数多くの写 真集が出版されている。 これらの景観には、 「表層にある面白さ」、 「景観の裏側にあるもの」に価値が見いださ れる。 「表層にある面白さ」とは、ダム等構造物としてのスーパースケールや、機能性を重 視した造形、もののバリエーション、秩序と混沌、コントラスト等が挙げられる。 「景観の裏側にあるもの」とは、水路などのシステム全体の概観、どうしてその形に なったかという社会的な事情の謎解き等が挙げられる。 2 【日常に潜む面白い景観】 面白いのは非日常の景観だけではない。 「日常」の眺めからの発見こそが面白い。 建築家等から構成される路上観察学会では、良い風景に指定されていない路上の無名 物件を対象に、本来の用途を超えた見立て等を行う活動を行っている。 建設途中で台が途中で切れている「スリル満点滑り台」 、おそらくもともとあったドア が撤去され単に登って降りるだけのつくりになっている「真空の四谷階段」 、壁にハト がとまり勇ましい眉毛に見える「勇ましい蔵」等、周りの眺めを面白くとらえている。 このようなものの捉え方が、視座を獲得するということである。 空き地に自動販売機による一面の仮囲いがあった。おそらく駐車場に転用する許可を 得る間に暫定的に利用しているものと思われるが、変わったものを一歩引いて見て、 どうしてそうなったのか事情を想像することが大切だ。 まちなかで気になったものは、まず写真を撮ってみてほしい。写真が蓄積していくと 何が面白いのか、思考が整理される。 休憩 【視座の獲得】 2004 年から、あなたが感じた「良い景観」 「悪い景観」 「面白い景観」の写真を提示し つつその理由を述べる、という授業を行っており、ものの見方を拡張する訓練として 位置付けている。 2010 年からフィールドワーク「街の中のオモシロイもの」をおこなった。千葉大学、 千葉工業大学、台湾東海大学の「都市観光」というテーマでの国際交流で、約 2 週間 台湾の学生を日本のまちのなかに案内するものだった。まちなかの面白いものをドラ マ仕立てでプレゼンし、面白かったチームが優勝とした。 2010 年の優勝は、まちなかのゴミ箱をロボットに見立てたものだった。まちなかには さまざまなゴミ箱ロボットがあり、ゴミ箱が傷ついていたり、隣り合っていたり、上 目づかいだったりする中にストーリーが生まれ、最後にはゴミ箱が愛おしく思えるよ うになる。 2011 年の演習でも同様のフィールドワークを行い、カラーコーンとその色や柄、バー による繋がり方を分類し、学名のように命名したチームが優勝した。 「面白い景観」のフィールドワークは、興味を掘り下げ、モノの見方や、観点の多様 さを身につけるために有効である。 3 【京都府後院通の事例】 京都の後院通は、碁盤の目状の街の広がる中で斜め 45 度の道路が走り、地図を見ると 非常に目を引く場所である。 明治の頃に市電を引く計画があったが、土地が分断される材木の組合から大きな反対 があり、特殊な道路の走り方になったものという。 実際に訪れると、斜めに走る道路に対して、建築は東西南北に向いており、独特の景 観をつくり出している。京都の人々には、東西南北のグリッドを守る考え方が強く浸 透していることがうかがえる。 【富山県インフラツーリズムの事例】 富山県をドライブしているとロシア語の看板が目につく。ゴルフ練習場を活用した中 古車置き場や、コンビニを改装した富山モスクがあり、パキスタンカレーの店が多い。 富山は古来、飛騨の材木の集積地で、木材加工業が発達してきた。国産材の取り扱い が減少してからは、ロシア材(北洋材)の集積地となった。ロシアから材木を運んで 来た船のロシア人船員が、帰りの船に中古車を積む個人商売が流行り、パキスタン人 が仲介業者として流入してきたのが平成初期のことという。ブームが去った後もパキ スタン人のコミュニティが残っている。 富山県では、観光庁事業で、新湊大橋を「インフラツーリズム」を含めたコースとし て位置付けた。港を見ると地域の産業がひもとける。新湊は、アルミ関連の工場など が見られるが、アルミ需要があり、発電所ができる等地域の産業が現れている。 地域文化の文脈を体験的にトレースすることで価値の転換が促され、風景が違って見 える。自分たちの土地がどのように成り立っているのか、地域の人が理解することが 大切なポイントだ。 また、富山では「ダンメン」 (とりこわされた建物の痕跡が、隣の建物の壁面に残った もの)が多く見られた。これは建物の減少によるもので衰退をあらわすものではある が、視点を転換すると建築物が密集してつくられた歴史が見えてくる。建築家吉永氏 は「キョートダンメンロシュツ」という活動をされている。 【千葉県産業観光ツアーの事例】 2007 年に千葉県で産業観光ツアーを行った、現在工場鑑賞はメジャーになりつつある が、当時としては先進的な取り組みだった。 定員の五倍の申し込みがあり、ツアーの参加者は半数が女性だった。工場鑑賞は男性 の趣味と思われていたために驚かれた。実際には女性に好評だった。 公害の原因と思っていた工場が、手賀沼などから用水を引いてきて、元よりきれいに して海へ流していることを知った参加者は、 「工場は公害の巣と思っていたが、思った 4 以上の努力を知った」という感想を述べている。鑑賞から入って、疑問を持ち、学び へ繋がった。 【房総半島の採砂場の事例】 ゴルフ観戦に来た際に、房総の山砂の採砂場を見て非常に印象的だった。千葉の砂は、 東京などでコンクリートの原料に使われている。 1971 年から採砂がはじまった浅間山はすっかり削られ 170m だった山がなくなってし まった。砂は海辺の桟橋にベルトコンベヤーで運ばれ、東京湾の埋め立てやアクアラ インの建設資材として用いられた。 全国の砂利採取量の 13%は千葉県であり、これは広大な土地を持つ北海道に次いで 2 番目である。また、山砂に限定すると、全国の山砂採取量約 2.7 千万立米の半分が千葉 県産である。 鋸山には採石場が多く、石は東京の靖国神社や横浜でも使われている。 採砂場や採石場を地質図と重ねると当然ながら地質分布とちょうど重なる。 東京は千葉で出来ていると言っても過言ではない。千葉は文字通り身を削って東京の 発展に貢献してきた。千葉県は東京に近い半島であり、産業面でも、社会的にも「折 り合い」をつけてきた。 【結びに】 景観を面白がることは、感受性を強化すること、文化を体験することこと、地域を知 ることに繋がっている。 表層を愛でるマインドを持つこと、まちなかのものに愛情を持つことが大切だ。 まずは表層を愛で、ものの見方の観点のスケールや位置をどんどん変化させていくこ とで、その背後にあるストーリーを汲み取ることができると良い。 5 5.質疑応答 質問者1 あと 6 年後に東京オリンピックがあり、関東や東北で景観が変化していく ことと思う。招致のスピーチでも「おもてなし」の話があった。これから 6 年間で関東や東北はどのように変わっていけば良いのだろうか。 八馬先生 東京オリンピックは海外に日本を紹介する機会ともなり、非常にインパク トがある。一致団結して動いて行くことも大切だが、現代社会では景観に しても価値観にしても多様性が豊かであるため、方向性の良し悪しを一概 には決められない。地域文化の履歴をひも解いて、それを大切にしていく ことが大切だと思う。6 年後のオリンピックを、その後に繋げることを考 えて、歴史を振り返り、地域の方それぞれが為すべきことを考えていくこ とが大切なのではないか。 質問者2 60 年間木更津で暮らしている。千葉県の土木工事の安全性に対する配慮が 遅れていると感じている。 アクアラインは成田空港にも向かい、木更津を代表するものであるのに風 が吹くとすぐに止まる。防風柵が必要である。防風柵を作ると景観が見え なくなることもあるが、外国ではガラスでつくっている。日本のガラスの 品質は世界に誇るものと思うので是非使ってほしい。防護柵とあわせ風力 発電なども取り入れて世界に誇れるものとなると良い。 また、アクアラインの渋滞について、アメリカの取組を参考に、混雑状況 により車線数を変え、混雑している方面の車線を増加させることも必要で はないか。 千葉県は海岸がきれいなところだが、事故による重油の流出が発生してい る。これに対応するため海岸に砂を持ってくる取組も有効である。 日本の技術は世界に誇るものなので、海外で取り組まれているような取組 みを行うべきと思う。このような主張は個人で行っても政治家に訴えても 通らないので、ぜひ、県内の大学の先生にもお願いしたい。 八馬先生 大学は教育機関としての位置づけが増してきているところで、その面で政 策への影響力を期待されても難しいところがあるのは事実だ。行政へのア プローチについては、大切なものであり今後取組んでいく必要があると感 じている。 やはりアクアラインは、木更津にとって大切なものであると思う。海の上 の防風柵は技術的には可能と思うが、整備に非常に費用がかかるものと思 う。防風柵を設置するとなれば利用料金を値上げして予算を工面する等、 様々な政策上の繋がりが発生してくるものと考えられ、費用対効果の面で 防風柵の設置が必要かどうかは精査する必要があるのではないか。また、 海外では費用対効果の面で疑問がある防風柵を設置せずに、道路を止めた 6 方が良いという考え方になると思う。 質問者3 インターネットを見て興味を持ってきた。カラーコーディネーターの仕事 をしている。 景観の面白がり方ということで、木更津市の中で面白いと思った景観はあ ったか。 八馬先生 また、都市計画や建築の中での色彩についてどのように捉えているか。 木更津市は、山や台地、海等の多様性があり、また、中の島大橋は世界的 に見ても面白いものと思う。 シャッター通りについて、衰退している場所はある意味チャンスであると 思う。現在観光地としてもてはやされているところは、かつては高度成長 に取り残されているところであり、じっくりチャンスを待つことが必要と 思う。 都市における色彩の役割は大きいものである。色彩や素材は、破壊や調和 をもたらす要素として重要と思う。海外の有名な観光地では住民の色彩感 覚があり、奇抜な看板等がそもそも出来づらい。住民全体での意識醸成が 必要なことと思う。 6.閉会 以上 7
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