育てる教育相談に関する研究

平成 25 年度 研究紀要
6予防開発的教育相談に関する研究
育てる教育相談の在り方について
-だれもが行きたくなる学校・学級づくりをめざして-
Research to Determine the Ideal Method for Preventive Educational Counseling
-To make better school and class that everyone will gladly join-
≪研究の概要≫
教育相談部門ではこれまでの研究において、様々な角度から教育相談についての研究を進めてきた。こ
の間、平成3年度は 66,817 人(全体の 0.47%)だった不登校児童生徒の実数は、平成 24 年度には 112,689
人(全体の 1.09%)にまで増えている状況にある(「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する
調査」より)
。その中で千葉市教育センター(以下センター)では、早くから教育相談の研究に取り組み、平
成2年度の「教育相談の手引き」においても、予防開発的な教育相談活動を拡充させるための手引きを作
成している。これらの研究成果物の中には、普遍的なもので現代の学校にも適用できるものもあれば、流
行的なもので今の時代にそぐわないものや一部手直しが必要なものもある。
そこで本研究では、これまでの研究の成果を振り返るとともに、今の学校現場に即した教育相談の在り
方について研究し、
「だれもが行きたくなる学校・学級づくり」という視点をもとに改訂版“教育相談の手
引き”を作成することで学校現場に提言する。
不登校児童生徒の割合(平成24年度)
小学校0.3% (318人に1人)
1 問題の所在
中学校2.6% ( 39人に1人)
平成 20 年3月に告示された学習指導要領において、
計1.1% ( 92 人に1人)
教育基本法改正などで明確になった教育の理念を踏ま
え、改めて「生きる力」を育成することが示された。
学校では、子供が主体的に学習に取り組む態度を養う
とともに、知識・技能の習得と思考力・判断力・表現
力などの育成のバランスを重視した教育を行う必要が
ある。また、地域や学校の実態及び子供の心身の発達
段階や特性などを十分考慮しなければならない。しか
し、周知のように、豊かな人間性を育む場であるべき
学校において、いじめや暴力行為、不登校など様々な
[図 1]平成 24 年度 文部科学省
課題が、依然として生じていることも現実である。不
「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」
登校児童生徒数は近年減尐傾向にはあるが、平成初期
と比べると尐なくなっているわけではない[図 1]
。
ける対応の重要性が述べられている。また、平成 12、
センターでは、いち早く予防開発的な教育相談に着
13 年には「かかわりからふれあいへ」の研究に取り組
目し、平成2、3年に「望ましい学校教育相談のあり
み、改訂版「教育相談の手引き」を作成した。平成 19
方に関する研究」に取り組み、学校教育相談の手引き
年度からは「成長を促す指導」をめざし、不適応児童
を作成した。その手引きの中では、日常的な時間にお
生徒に対する予防開発的な学級経営プランとして「楽
44
6予防開発的教育相談に関する研究
しい教室プラン」の開発に取り組んできた。平成 23
<研究1>
年度には「マインドアップタイム実践ガイド集<小・
平成初期と現在の学校比較及び分析
中学校>」平成 24 年度には「マインドアップタイムモ
平成初期の頃と現在において、社会状況や教育環境
デル事例集<小・中学校>」を相次いで作成した。
がどう変化してきたかについて比較・分析した 。
これらの研究では学級経営全体へのアプローチを示
<研究2>
したが、20 数年を経た現在、児童生徒の実態や児童生
「だれもが行きたくなる学校・学級」の分析
徒を取り巻く環境は大きく変わってきている。
だれもが行きたくなる学校・学級とはどのような学
そこで、これまでの研究成果を振り返るとともに、
校・学級なのか、なぜ今、学校・学級経営が必要なの
「だれもが行きたくなる学校・学級」を視点とした現
かということについて、協力員によるアンケート調査
代の児童生徒の実情に合った「教育相談の手引き」を
や聞き取りをもとに分析した。
作成し、今の学校現場に役立つ望ましい教育相談の在
また、学校・学級がだれもが行きたくなるところで
り方を追究する必要があると考えた。
あるためには、どのような視点を持ち、どのような手
2 研究の目的と方法
立てが必要か検討した。
(1)研究の目的
<研究3>
学校生活の不適応を予防するための学校・学級の在
これまでの研究の振り返りと見直し
り方について、
「だれもが行きたくなる学校・学級」と
平成初期から昨年度までに教育相談部門が行ってき
いう視点からこれまでの研究を振り返り、改訂版“教
た研究成果物を分析し、普遍的なもので現代の学校に
育相談の手引き”を作成する。
も適用できるものと、流行的なもので今の時代にそぐ
(2)研究方法
わないものを選別し見直しを行った。
本研究を行うにあたっては、千葉大学の磯邉聡(以
<研究4>
下、磯邉)を長として、千葉市内小中学校の教諭を研
改訂版“教育相談の手引き”のプロット作成
究協力員(以下、協力員)として研究を進めた。
[表1]
現代の子供たちにあった”教育相談の手引き”を作
成するために、
「だれもが行きたくなる学校・学級」と
[表 1]研究協力員の構成
小学校
中学校
男
女
3
2
3
2
いう視点でプロットを作成した。
3 研究内容
教職経験 校務分掌等
(1)平成初期の頃と現在の学校の比較・分析
教職経験 10~19 年:4名
平成初期の頃と現在とを比べてみると、社会状況や
20~29 年:1名
教育現場を取り囲む様々な環境は大きく変わってきて
学級担任、研究主任、学年主任
いる。
そこで、
平成初期の頃と現在との変化について、
教務主任
社会環境、子供文化、教育環境、学級集団の4つの視
教職経験 10~19 年:2名
点から比較・分析した[図2]
。
20~29 年:2名、30 年~:1名
①社会環境の変化
学級担任、生徒指導主任、教育相談
昭和 56 年をピークに、
子供の数が減尐傾向にある。
指導教室担任、学年主任
総務省が行っている「人口推計」では、平成 24 年末
また、研究を実施するにあたって、教職員からアン
の子供(15 歳未満)の数は約 1,649 万人で、32 年連
ケートや聞き取り調査を行い、協力員による研究協力
続の減尐であると示された。中央教育審議会答申
員会議(以下、協力員会)において検討し、次の4つ
(2000 年4月)
によると尐子化が教育に及ぼす影響と
の研究を行った。
して、次のようなことが挙げられている。
45
平成 25 年度 研究紀要
ア 子供同士の切磋琢磨する機会の減尐
するようになり、それに関した子供同士のトラブルも
イ 親の子供に対する過保護、過干渉
増えている。架空世界での出来事を楽しむことで現実
ウ 子育てについての経験や知恵の伝承・共有の困
世界のことが見えなくなったり、相手の顔が見えない
難
ことで、簡単に他人を傷つける言葉を使ったりしてし
エ 良い意味での競争心が希薄
まうことがたくさん起きている。
つまり、子供の数が減ったことによって、子供同士
これら子供文化の変化が、子供たちのコミュニケー
の関わり合いやコミュニケーションの取り方に変化が
ション能力低下の原因の一つとなっていると考えられ
生じてきたと考えた。
る。
アとエについては、
「だれもが行きたくなる学校・学
③教育環境の変化
平成 4 年 9 月に「学校週 5 日制」が毎月 1 回、第 2
級の分析」の「視点 1」及び「視点3」につなげるこ
ととした。
土曜日に開始された。以降、平成 7 年 4 月からは月 2
②子供文化の変化
回、そして平成 14 年からはすべての土曜日が休みに
なる「完全学校週 5 日制」が実施され、年間の出席す
放課後を中心とした子供たちの遊び文化にも明らか
べき日数は 240 日から 200 日に減尐した。
に変化が見られる。現代の子供たちは、外で遊ぶこと
が尐なくなり、
「自分のやりたい遊びならやる」
「他の
一方、不登校児童生徒の数を見ると、増加していた
友達と遊ぶから今日は遊べない」という傾向が見られ
不登校児童生徒数が、この平成 14 年を境に減尐して
る。
きている[図 1]
。保坂(2007)は、
「長期欠席の定義
文部科学省調査の「子供とテレビゲームの現状」
が 50 日以上だったのが 30 日以上に変更された(平成
(2005)によると、
「テレビゲームに没頭していると、
11 年度より)状況を考えると、出席すべき日数が大幅
対面での生身の人間関係を持たなくなる結果、生身の
に減ったにも関わらず、長期欠席はわずかに減ってい
人間関係の中で育成されるべき技能が身に付かず、ま
るだけに過ぎない」と言っている。
た、煩わしい生身の人間関係に向かっていこうという
近年は減尐傾向にある不登校児童生徒ではあるが、
意識も失い、ひきこもりや不登校のような社会的不適
学校に対して何らかの理由で不適応を起こしている児
応の状態になるのではないかと心配されている」とあ
童生徒は依然として多く、決して楽観できるような状
る。これらのことからも、テレビゲームの普及と集団
況ではないと考えられる。
遊びとの間に関わりがあるように思われる。
④学級集団の変化
家庭用ゲーム機が本格的に発売されたのは昭和 58
平成初期には
「発達障害」
という概念はみられない。
年だが、平成元年には携帯型ゲーム機が発売され、ゲ
平成3年度にセンターが発行した
「教育相談の手引き」
ームが家庭で友達と一緒に行うものから、個人で楽し
にも、
「学習障害児の行動特性」として、
「落ち着きが
むものに変化してきた。
現在、
放課後の公園に行くと、
なく、じっとしていない」
「特定のものへのこだわりが
子供たちがたくさん集まってきてはいるが、よく見る
ある」
などと記述されている。
これらは、
現在の ADHD
と一人一人ゲーム機を持ってきていて、一緒に遊んで
やアスペルガー症候群であると推測される。
平成 17 年に発達障害者支援法が施行され、発達障
いるように見えるが、実は一人でゲームをしているだ
けのことが多い。
害の定義付けが行われ、学校でも個別の教育支援計画
また、情報技術の進歩により、子供たちのコミュニ
を作成することが必要になった。
ケーションツールにも変化が起こっている。携帯電話
現在の学級には、発達障害と診断されている子供、
(スマートフォン)やタブレット端末の保有率が年々
診断はないが発達障害の傾向がみられる子供、学習に
増加し、それに伴い、メールや無料通話アプリを多用
不適応をおこしている子供などが多く存在する。この
46
6予防開発的教育相談に関する研究
ような子供たちがクラスには最初から存在しているこ
において変化している。したがって、平成初期の頃の
とを前提にして学級経営をしていかなければならない。
児童生徒への対応を、現在の児童生徒に合ったものに
以上のように、平成初期の頃と現在とでは様々な面
変えていかなければならないと考えた[図2]
。
育てる教育相談
平成初期の学校
628 万人減
現在の学校
子供同士が切磋琢磨する機会の減尐
①社会環境の変化
子供(15 歳未満)の数:約 2,277 万人
子供(15 歳未満)の数:約 1,649 万人
(人口推計「総務省統計局」
:平成 24 年)
(人口推計「総務省統計局」
:平成元年)
②子供文化の変化
コミュニケーション能力の低下
②子供文化の変化
・子供の遊び集団の人数
・子供の遊び集団の人数
平成 10 年は 10 人以上が5%
昭和 48 年までは6~10 人が 30%
(いま、子供社会に何がおこっているのか)
(いま、子供社会に何がおこっているのか>
・スマートフォン・タブレットの普及
・携帯電話の普及
(アナログ→デジタル 1990 年代)
(スマートフォン普及率 50%:平成 24 年)
・最新型携帯用ゲーム機の発売(平成23年)
・家庭用ゲーム機の発売(昭和 58 年)
③教育環境の変化
①社会環境の変化
年間授業日数と不登校の関係
③教育環境の変化
・学校:完全学校週 5 日制
・学校:学校週6日制
年間授業日数 240 日(平成3年度まで)
・いじめ、校内暴力、登校拒否の増加
平成 3 年登校拒否児童生徒数
小:12,645 人(全児童数の 0.14%)
中:54,172 人(全生徒数の 1.04%)
計:66,817 人(全体の 0.47%)
だ
れ
も
が
行
き
た
く
な
る
(登校拒否児童生徒数の推移:平成 3 年度)
年間授業日数 200 日(平成 14 年度~)
・不登校児童生徒数の増加:
平成 24 年不登校児童生徒数
小:21,243 人(全児童数の 0.31%)
中:91,446 人(全生徒数の 2.56%)
計:112,689 人(全体の 1.09%)
(児童生徒の問題行動等生徒
指導上の諸問題に関する調査:平成 24 年度)
④学級集団の変化
④学級集団の変化
個別対応の推進と学級経営
・発達障害という概念の未形成
・発達障害の概念形成と細分類化
注意欠陥多動性障害(ADHD)の分類
(昭和 62 年)
・教育相談:対処的(児童生徒の立場に
立った)教育相談
(生徒指導の手引き(改訂版)
:昭和 56 年)
学
校
・
学
級
づ
く
り
発達障害者支援法の施行(平成 17 年)
・教育相談:育てる(発達促進的・開発的)
教育相談
(生徒指導提要:平成 22 年)
学校生活が、一人一人にとって有意義かつ
児童生徒の自己実現を図っていくため
興味深く、充実したものになるようにする
自己指導能力の育成を目指す
改訂版“教育相談の手引き”の作成
[図2] 児童生徒を取り巻く社会・教育環境の変化(平成初期の頃との比較)
47
平成 25 年度 研究紀要
(2)「だれもが行きたくなる学校・学級」の分析
が重要である。
」としている。心の居場所づくりの取組
本来、学校はすべての子供たちが安心して学べて、
においては、
「安心して通いのびのびと活動できる個性
一人一人の児童生徒にとって魅力ある場所となってい
発揮の場」などに留意することが重要であると述べら
るはずである。しかしながら、現在も学校に行きたく
れている。このことから、視点 1 を「安心感」とした。
ても行けない児童生徒がたくさん存在していることは
指定都市教育研究所連盟の研究では、
「
『わかった経
周知の事実である[図1]
。
験』や『認められた経験』が多くなることで授業や学
生徒指導資料第2集「不登校への対応と学校の取組
校生活の満足度と自己肯定感が高まり、授業や学校が
について」では、
「生きる力」の育成の実現を図る中で、
楽しいと感じられる」としている。このことから、視
「心の居場所づくり、共同の活動を通しての絆づくり
点2を「満足感」とした。
<視点 1>安心感
<手立て 1>安心感を高めるために
友達との良好な関係を築き、お互いに理解
だれもが落ち着いた雰囲気で過ごせるように、そ
し合い、一人一人の規範意識を高めることで
れぞれのクラスにおいて、自分たちで考えた必要最
生まれる「安心感」
小限のルールを定着させる。
<視点2>満足感
<手立て2>満足感を高めるために
一人一人が持っている能力や資質、感性等
構成的グループ・エンカウンター等、人間関係作
が学校生活の様々が場面で生かされ、認めら
りを行い、自己肯定感を高める。
れることによって得られる「満足感」
<視点3>充実感
<手立て3>充実感を高めるために
一人一人の活躍の場が保証されるようなわ
個に応じた手立てを充実させ、時には前の学習を
かる授業を推進することで、だれもが“わか
振り返ったり、もう一度教えたりしながら、自ら学
った”と実感できるような「充実感」
ぶ意欲が高まるような細やかな指導を心掛ける。
<視点4>達成感
<手立て4>達成感を高めるために
自らの課題を持って追究したり、考え、判
苦手な授業でも、一人一人が参加できるような工
断したりする活動を通し、できなかったこと
夫や仕掛けをつくる。行事等では、クラス全員でが
ができるようになった時の「達成感」
んばる、という雰囲気づくりをし、団結力を高める
ようにする。
<視点5>存在感
<手立て5>存在感を高めるために
日々の授業や学級の取組において、それぞ
委員会や係活動などで責任のある役割を与える
れの児童生徒の居場所と目的をつくること
ことによって、自分が必要とされているという実感
で、一人一人の自己肯定感が高まる「存在感」
を持たせる。
[資料1]
「だれもが行きたくなる学校・学級」にするための視点と手立て
48
6予防開発的教育相談に関する研究
生徒指導提要の教育課程と生徒指導では、
「授業の中
ってきた。その中には、普遍的なもので現在の子供た
で児童生徒一人一人のよさや得意分野を積極的に生か
ちにも当てはまる内容が多く見られたが、現在の子供
す指導によって、すべての児童生徒が充実感や達成感
の実情に合わず、見直しを必要とする内容もあった。
を味わう。
」
とある。
このことから、
視点3を
「充実感」
、
「普遍的なもの」とは、社会環境などの変化に関わ
視点4を「達成感」とした。
らず、どの時代の児童生徒にも当てはまる内容のこと
さらに、望ましい人間関係づくりと集団指導・個別
である。また、
「実情に合っていないもの」とは、時代
指導では、
「児童生徒一人一人が存在感をもち、共感的
の変化によって変わっていくもので、その時代に合わ
な人間関係をはぐくみ、自己決定の場を豊かにもち、
せて見直していく必要がある内容のことである。
自己実現を図っていける望ましい人間関係づくりは重
そこで、今までの研究を振り返るとともに、
「普遍的
要である。
」とされている。このことから、視点5を「存
なもの」と「実情に合っていないもの」を選別し、よ
在感」とした。
り今の現状に合った手引きとなるよう見直しを行った。
以上のことから、
「安心感」
「満足感」
「充実感」
「達
○平成3年度
成感」
「存在感」という5つの視点をもとに、
「だれも
「教育相談の手引きーふれあいを深めるためにー」
が行きたくなる学校・学級づくり」を追究した。その
<普遍的なもの>
上で、
すべての子供にとって学校が楽しい場所であり、
・一人一人の個性を生かす学級づ
行きたい場所となるには、これら5つの視点に基づい
くり
た手立てを考えていく必要があると考えた。これらが
子供にあった活動の場を提供し、
一つ一つ、単独で対応するのではなく、そのすべてを
子供の可能性を十分に引き出し、
満たすことで「だれもが行きたくなる学校・学級」に
伸ばしていくことが大切である。
なるだろう。その手立てが施されることによって、学
・保護者と手を取り合って
校が子供たちにとって、心から行きたくなる場所にな
教師は子供たちを集団として見ており、保護者はい
るであろうと考えた[資料1]
。
つも我が子ばかりを見がちであるが、教師と保護者が
お互いに理解し合うことに労力を惜しんではならない。
4月の学級開きで、児童生徒のスタートラインは皆
<実情と合っていないもの>
一緒ととらえてしまいがちである。しかし、実際はそ
・言語として見直しが必要なもの
ういうわけではない。一人一人の今までの経験や養っ
学習障害児、登校拒否などの用語は、現在では解釈
てきた力、気持ちは千差万別、十人十色である。自己
が変わっていたり、使われていなかったりするので見
肯定感が低下していたり、学校が楽しくないと思って
直す必要がある。特に、この頃は、
「落ち着きがない子」
いたりする子もいるかもしれない。そういった「一人
「情緒が不安定な子」
「特定のものへのこだわりがある
一人の気持ちや能力の違い」
を教師が受け入れた上で、
子」など、現在では発達障害と見られる子供も「学習
学級をマネージメントすることが集団を育てることに
障害児」として一括りにされているので、この点は分
つながっていく。
類する必要がある。
「だれもが行きたくなる学校・学級」をつくってい
○平成6年度「みんな輝いて」
くには、一人一人の状態をしっかりと把握した上で、
<普遍的なもの>
きめ細かい指導を心掛けていく必要がある。
・構成的グループ・エンカウンター
(3)これまでの研究の振り返りと見直し
小グループでの体験により自己理
教育相談部門では、
平成初期の頃から現在まで、
様々
解や他者理解、相互の関係を深め、
な視点から教育相談事業の在り方についての研究を行
自己の成長や快適な対人関係につな
49
平成 25 年度 研究紀要
がっていくことを意識した構成的グループ・エンカウ
となるような教師の関わり方、
観察の仕方を提案した。
ンターは現在でも多くの学校で取り組まれている。
「名
昨年度よりセンターの専門研修の中でマインドアッ
刺交換ゲーム」
「探偵ごっこ」などがあり、センターに
プタイムの取り組み方について取り上げ、若手教員を
おいても専門研修の中で構成的グループ・エンカウン
中心に多くの小中学校教員が受講している。
ターの取り組み方についての研修を行っている。
○平成8年度 「保健室(養護教諭)に望まれる
このように、これまでの研究の中には、精選する必
相談機能に関する研究」
要はあるが、今の若い先生方に参考にしてもらいたい
<実情と合っていないもの>
内容が多いことがわかった。
・法的整備による変更
平成 7 年の「文部省いじめ対策緊急会議報告」では
(4)改訂版“教育相談の手引き”プロット作成
「養護教諭を生徒指導に関する校内組織に加えるなど
研究 1、2、3を経て、だれもが行きたくなる学校・
校務分掌上より適切に位置づけること」
と述べられた。
現在では、平成20年に改正された「学校保健安全法」
学級づくりをめざすための手引き作成にあたり、全体
構成を検討し、次の5章にまとめた[資料2]
第8条「健康相談」の中で、
「養護教諭は職務の特質か
ら、心身の健康問題を発見しやすい立場にあり、いじ
第1章 だれもが行きたくなる学校・学級とは?
めや児童虐待などの早期発見・早期対応に果たす役割
・なぜ今、学校・学級づくりか
も求められている」とあり、今までより積極的な相談
・だれもが行きたくなる学校・学級とは
活動を行っていく必要があると述べられている。
第2章 一人一人の個性を生かす学級をめざして
○平成 12 年度
「ふれあいを生かした学校教育相談の在
~担任としてここは外せない!
り方に関する研究“かかわり”から“ふれあい”へ
(マネージメント能力を身につけよう!)
~授業の時間を中心に~」
<一人一人の個性を生かす学級とは>
<普遍的なもの>
・子供が理想としている教員とは
・早期発見、早期対応
・担任としてまずやるべきこと
日常的に子供とのふれあいを大切にし、言葉を交わ
・教育相談的なマネージメント
しながら、心の動きや表情を見逃さないという姿勢を
<授業の中で>
持つようにする。また、できるだけ早期に問題を発見
・かかわりからふれあいへ
し支援していくようにする、といった対応については
・ ルールとリレーション
現在でも変わりなく心掛けていきたい対応である。
<授業以外で担任が気をつけたいこと>
○平成 23、24 年度「予防的教育相談の在り方に関す
・マインドアップタイムについて
る研究 育てる教育相談のありかた」
・構成的グループエンカウンターについて
-生徒指導提要の趣旨を生かした心の居場所づくり-
第3章 個別の支援を要する子への対応
マインドアップタイム実践ガイド集<小・中学校>
・個別の支援を要する子とは
マインドアップタイムモデル事例集<小・中学校>
・さまざまなタイプの子への個別対応
<普遍的なもの>
小:授業が受けられない児童(発達障害)
・生活の中での教師の関わり方
中:学習遅滞による不登校
授業以外の日常の時間を「マイン
・面接法・観察法とは
ドアップタイム」と名付け、学校・
・担任として関わる保護者対応のポイントは
学級が子供たちにとって心の居場所
50
6予防開発的教育相談に関する研究
4 研究のまとめ
(1)成果
第4章 担任を支える学校体制
本研究では、センターが今まで行ってきた研究成果
~いっぱいいっぱいになる前のSOS!~
物を今の子供たちに合った内容に見直し、
「だれもが行
・校内連携・チーム支援づくり
きたくなる学校・学級づくり」という視点で、わかり
~特別支援、別室対応
やすく読みやすい“教育相談の手引き”のプロットを
・養護教諭との連携
作成した。プロットを作成したことにより、手引き作
・学校としての保護者対応(SCの活用)
成の方向性が明らかになった。
第5章 外部機関との連携
(2)課題
≪付録・トピック≫
今後はプロットの内容を吟味し、より現状に即した
・楽しい教室プラン、チェックリスト
手引きとなるよう、様々な実践を通して開発していく
・小1プロブレム・中1ギャップ解消に向けて
必要がある。
また、若い先生方が手に取り、活用しやすくなるよ
[資料2]
“教育相談の手引き”プロット
う工夫を施し、より普及していくよう努めていくこと
が課題である。
【研究組織】
○通年講師
千葉大学教育学部附属教員養成開発センター
准教授 磯邉
聡
千葉市立土気小学校
校長 猿渡 敦子
千葉市立草野中学校
校長 小倉 正彦
○研究協力員 千葉市立長作小学校
千葉市立轟町小学校
教諭 山根 布由子
千葉市立さつきが丘東小学校 教諭 梅澤 文則
千葉市立大宮台小学校
教諭 倉持 祉斗
千葉市立上の台小学校
教諭 中山 純也
千葉市立緑町中学校
教諭 明里 春美
千葉市立轟町中学校
教諭 松永 武洋
千葉市立千城台南中学校
教諭 髙橋 泰雄
千葉市立有吉中学校
教諭 梅野 祥史
千葉市立稲毛高等学校附属中学校 教諭 岡村 忍
○所内担当 教育相談部門
教諭 宮奈 香織
植草 伸之
手川 京子
依田 桂子
古川 健志
鈴木 巧(担当)
【主な引用/参考文献等】
・文部科学省 「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」(2012)
・文部科学省 「子供とテレビゲームの現状」
(2005)
・保坂享 「学校に行かない子供たち」月刊生徒指導 5 月号(2007)
・山本清祥 「いま、子供社会に何が起こっているのか」 北王路書房(1998)
・国立教育政策研究所 「生徒指導資料第2集 不登校への対応と学校の取組について」
(2011)
・指定都市教育研究所連盟 「第 16 次共同研究『指定都市の子供たちの姿や思いを探る』
」
(2009~2011)
・文部科学省 「生徒指導提要」
(2010)
千葉市教育センター 研究紀要第 22 号
○研究名:予防開発的教育相談に関する研究
○研究領域:教育内容・教育方法
○研究対象:小学校・中学校
○分類番号:教育相談 F9-01
○研究内容キーワード:育てる教育相談、だれもが行きたくなる学校・学級、マインドアップタイム
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