Understanding Diversity 「生きている図書館」 の歴史

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「生きている図書館」 の歴史
ヨーロッパ評議会が主催したシゲト・フェスティバルの「生きている図書館」で国境を超え、
いろいろな社会に適応できる力のある活動が創り出されました。多文化や多国籍の人たちが
参加した結果、
「辞書」のような工夫もありました。(辞書とは通訳も出来る「本」のことです。)
「生きている図書館」( 旧名:Menneske Biblioteket = 人間図書館 ) はデンマークにある
NGO(非政府団体)ストップザバイオレンス(Foreningen Stop Volden)
( 注 2) の発案です。
この工夫によって大勢のさまざまな国の市民が、その地域の言語がしゃべれない本と会話す
ることが出来ました。
2000 年に行われたデンマーク最大の音楽祭であるロスキルド・フェスティバルの催しの一
ヨーロッパ評議会の青少年人権プログラムの一部として主催されたイベントは最も参加者
つでした。コペンハーゲンを中心に活動しているストップザバイオレンスは、若者たちの間
が多く、各メディアの注目を浴び、そして最も多くイベントの活動・方法論・反響の記録が
での暴力防止活動や、青少年教育を目的に、青少年主体で運営している活動です。プロジェ
残っています。
クトの担当者たちはフェスティバルの運営委員会と連携を密に図って、ロスキルド財団の財
政的援助を得て、最初の「生きている図書館」を開催しました。この時「生きている図書館」
数年の間に他の主催者も「生きている図書館」の考え方やその可能性に気づき始めました。
が主催者やフェスティバル運営にかかわった人々の期待以上に可能性のある催しだというこ
2002 年にノルウェーのオスロ市で北欧聖職者委員会の青少年委員会「北欧の青少年」が
とが分かりました。
主催となって青少年向けイベントで「生きている図書館」が開催されました。実際の図書
館を舞台に実行され、450 人の北欧から参加している若者と共に一般市民にも公開されまし
イントロダクションで述べたように、ロスキルド・フェスティバルでの成功はヨーロッ
た。
パ評議会の青少年センター・ブダペスト(Council of Europe's European Youth Centre
2004 年の夏にはポルトガルで、暴力被害者とかかわる APAV という団体がリスボン市のロッ
Budapest (EYCB))の理事長に知られるようになりました。EYCB を通して、デンマークの
クインリオ・フェスティバルの「ベターワールドテント」で 1 日「生きている図書館」を開
主催者がシゲト・フェスティバル(Sziget Festival)に紹介されました。シゲト・フェス
催しました。そのイベントは小規模の予算で、限られた空き時間で開催されましたが大変興
ティバルはハンガリーの大規模な音楽祭です。2001 年にシゲトで最初の「生きている図書
味深い結果となりました。
館」が開催されました。2003 年以来、シゲト・フェスティバルの「生きている図書館」は、
リスボンでの「生きている図書館」の開催により、色々な国で成功出来ることだけでなく、
EYCB によってヨーロッパ評議会青少年センターのブースで 7 日間を通して行われています。
様々な規模や予算に合わせて実行することが可能だと分かりました。例えば、ロスキルドで
現在ではシゲト・フェスティバルでは4つの「生きている図書館」が行われ、フェスティバ
行われた最初の「生きている図書館」では 75 冊の本があり、シゲト・フェスティバルでは
ルの「市民アイランド」で中心的なアトラクションの一つです。(「市民アイランド」では、
50 冊ほどありましたが、リスボンでは 20 冊だけでした。
NGO等の組織が宣伝活動や参加できる市民活動を提供しています。)
ハンガリーでの「生きている図書館」の経験により、「生きている図書館」を念入りに準
「生きている図書館」イベント年表
2000 ロスキルド・フェスティバル(デンマーク ロスキルド)
2001 シゲト・フェスティバルの市民アイランド
(ハンガリー ブダペスト)
備して実行するやり方が、北欧の経験からは異なった場所でのやり方が、ポルトガルの経験
からは「生きている図書館」の適応能力が分かります。
「生きている図書館」はどの国でも実行可能と思われますし、さらに発展し続けます。下
2002 北欧閣僚理事会による青少年会議 2002(ノルウェイ オスロ)
の表に現在分かっている過去と未来の「生きている図書館」を記載します。間違いなくこれ
2002 シゲト・フェスティバルの市民アイランド
(ハンガリー ブダペスト)
からもたくさんの「生きている図書館」が出来るでしょう。
2002 アルベン青年学校(ノルウェイ ネソデン(Nesodden))
2003 シゲト・フェスティバルの市民アイランド
(ハンガリー ブダペスト)
2003 スタヴァンゲル図書館フェスティバル(ノルウェイ スタヴァンゲル)
2004 ブダペスト サボー・エルヴィン図書館 100 周年記念
(ハンガリー)
2004 チナチス(Pszinapszis)青少年フェスティバル(ハンガリー ブダペスト)
2004 ロックインリオ・リスボン(ポルトガル リスボン)
2004 シゲト・フェスティバルの市民アイランド
(ハンガリー ブダペスト)
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NPO 法人暴力防止情報スペース・ APIS
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このリストは完全でもないし、義務でもありません。「生きている図書館」の開催目的
「本」 について
や条件にどのような「本」を選んだら良いかを合わせようとする時の主催者の参考になる
だけのものです。
「生きている図書館」では、一般的な図書館と同じく「本」は一番大切な資源です。質の
良い「本」を集めて、その「本」が快適な状態に保てるようにスタッフがかかわることが大
動物愛護運動家、亡命者、黒人、金髪の女の人、官僚、キリスト教信者、
切です。ブックリストの編集や「本」の募集は最も困難で繊細な作業であると共に「生きて
公務員、障害者、自動車学校の先生、環境保護運動家、元麻薬の乱用経験者、
いる図書館」の準備として最も大切なことです。各会場でブックリストの大きさや内容は変
元サッカーフーリガン、サッカーサポーター、元ネオナチ、元受刑者、
わります。主催者は十分に時間をかけてブックリストを考えて、議論してから決定するべき
フェミニスト、ゲイ、元ホームレス、ヒップホップの人、ユダヤ人、元文盲者、
です。
レズビアン、イスラム教信者、年金生活者(老人)、神父、警察官、元政治家、
ラビ、難民、ロマ民族(ジプシー)、セックスアドバイザー、
ハンガリーの若者からは「ドイツ人は本当に食後にパンで手を拭くの
か」と聞かれました。そのような質問に対応する心の準備をしてなくて、
ソーシャルワーカー、元州の長官、先生、スケートボーダー、車掌、
テレビジャーナーリスト、失業者、ベジタリアン
その思い切った質問に若干圧倒されたものの、プラスの刺激にもなりま
「生きている図書館~多様性に出会う in Osaka~」の場合
した。外国でドイツ人はどう見られているのかを見ることが出来ておも
しろかったし、私たち自身の持っている偏見をある程度乗り越えること
が出来たと思っています。そして、本当に自分たちはどのような人でど
んな考え方を持っているかを考えさせられて良かったです。
「ドイツ人の本」
大阪の「本」のタイトルは次の通り
・女性の議員って 実際どうなん?(元議員)
・虹色戦隊トランスジェンダー(トランスジェンダー)
・被差別部落に住みつづける意味について(被差別部落在住者)
・ある点訳ボランティアのつぶやき(点訳ボランティア)
・虹色の社会へ(レズビアン)
・薬物依存からの回復(元薬物依存者)
ブックリストの概要
・フェミニストカウンセラーってフェミニスト?(フェミニストカウンセラー)
・補聴機が自分と向き合うチャンスをくれた(聴覚障害者)
・「本」のタイトルは偏見、ステレオタイプ、あるいは差別の被害対象とよくなるグ
ループを代表するものであるべきです。その判断は主催者がそれぞれの環境を考慮
し解釈するべきです。
・ 読者が選べるように多様な「本」を集めるべきですが、場所や募集・事前打ち合わせ・
「本」の事後管理などをする主催者の管理能力を超えないほうが望ましいでしょう。
経験からみると、選べるための「本」の量としては 20 冊ぐらいが必要で、「本」が
50 冊以上と多くなるとまとまりにくいです。
・「本」のタイトルとともによくありがちなステレオタイプや偏見の説明をするのが
・I am asylum seeker(ビルマ難民)
・元裁判官(元裁判官)
・「市民」としての会社員ー司法参加実現への挑戦(市民活動家)
・裁判員と弁護士、弁護士会(弁護士)
・彼氏じゃなくて彼女やねん(レズビアン)
・裁判員制度を支える速記官〜 I am 元裁判所速記官!〜(元速記官)
・研究する人って変人?堅物?(元製薬会社研究員)
・障害を持って生きるということ(両下肢機能障害者)
・主夫でもいいじゃない!!(主夫)
良いでしょう。「本」のタイトルを決定する前にその情報を集めて話し合うことが
・イスラム教徒の女(イスラム教徒)
有効です。
・セクシュアルマイノリティ(性的な多様性を持つ者)の立場から社会参
加を考える(トランスジェンダー)
*本のタイトル
・ともし続ける「灯り」(JR 事故被害関係者)
次に、これまでの「生きている図書館」で成功したタイトルを例として挙げます。
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NPO 法人暴力防止情報スペース・ APIS