「自然法則の実在」という発想

2010年度学科共通科目
「哲学・思想の基礎」
国際文化コース
「比較思想研究」
第六~九回
客観的な正しさとは何か
~現代科学論の系譜~
担当:山口裕之
http://www.ias.tokushima-u.ac.jp/
shin-kokusai/index.htm
まずは、
• 初回の授業で述べたことを復習。
• どういう問題意識で、何を学んでほしいか。
「科学と哲学」
• 現代日本における「哲学」の一般的なイメージは・・・
・・・「難しそう」「役に立たなさそう」「変人」「簡単なこと
をあえて難しく言っている」!
つまり・・・科学と正反対!
→実は、「科学」のほうこそが「哲学」から派生してきた。
18世紀~19世紀初頭までは、
「哲学philosophy」という言葉は「科学」「理論」
というような意味で用いられていた。
• ニュートンの『プリンキピア』
=「自然哲学の数学的諸原理」
• ラマルク『動物哲学』、ジョフロワ・サンティ
レール『解剖哲学』etc.
「科学的知識」「正しい知識」とは
何なのか?
• プラトン以来の哲学における伝統的な問いの一つ。
• 現代日本における「科学」の一般的イメージは・・・
・・・「科学は正しい」。
・・・「科学的に考えるべきだ」。
→どうして「正しい」と言えるのか?その場合の「正し
い」とはどういう意味なのか?
→科学的に考えるとはどのように考えることなのか?
• こうしたことを考えないと、せっかくの科学が「オカル
ト」や「イデオロギー」と同じになってしまう。
科学技術が発達した現代において、
• 科学とは何か。
• 科学的知識はどのようにして生産されるのか。
• 科学的知識にはどのような限界があるのか。
• こうした問いについて考え、答えを与えること
が、現代における哲学の一つの意義。
• この授業では、フランス哲学をベースとして、
「科学哲学」の紹介と検討を行う。
プラトンとのつながり。
• 「すべての西洋哲学はプラトンへの注釈」
(ホワイトヘッド)
• イデア論の基本的発想=「物事を正しく知る
とは、イデアをつかむことだ」
• イデアは、人間が想定した観念や言葉ではな
く、何らかの形で「実在」する。
しかし、「イデア」とは?
• 我々は、柴犬を見てもセントバーナードを見
ても、さらにはチワワを見てもチャウチャウを
見ても、「犬」だと分かってしまう。これ
はなぜだろうか?
→「個々の犬という現象(仮の現われ)を通じて、
真の実在である「犬のイデア」を把握す
るからである。 」
どうして「イデア」が見えるのか?
「想起説」:
• 我々は生まれる前は、純粋なイデアの世界に
住んでいるのだが、この世に生まれたときに、
生みの苦しみによってそれを忘れてしまう。
• でも、なんとなくイデアを覚えているので、こ
の仮の世の現象を見ても、なんとなくイデア
が想起される。
・・・ずいぶん乱暴なまとめ方ですが(汗
こうした考え方は、
1. もっともなものだ。
2. ひょっとしたら、そう
かも。
3. ちょっと違うんじゃな
いか。
4. わけが分からない。
2%
24%
44%
30%
1
2
3
4
ところで、「現象の背後に自然法則が
実在する」という考え方は、
1. もっともなことだ。
2. ひょっとしたらそう
かも。
3. ちょっと違うんじゃ
ないか。
4. わけが分からない。
12%
34%
13%
42%
1
2
3
4
しかし、
• 「現象の背後」って、具体的にはどこか?
• 法則が「実在」するとは、どういう意味か?
• 「個々の現われの背後にイデアが実在する」
というイデア論と、どう違うのか?
• イデア論がバカげているというなら、自然科
学もバカげているということになるのではな
いか?
• 実は、「現象の背後の自然法則の実在」という
発想は、ギリシア哲学やキリスト教の影響を
受けて成立している。
*「実在」という概念について。
– 日本語で「実在」というと、「実際に存在しているも
の」という語感。
– 英語ではそれは「Actuality」。(反対語は
「Possibility」)
– 「実在Reality」は、実際に存在しているものだけ
でなく、可能なものも含む。
クイズ:「自然法則」という言葉を
作った人は誰?
2% 8%
1.
2.
3.
4.
プラトン
アリストテレス
デカルト
オカルト
41%
48%
1
2
3
4
「自然法則」という言葉
• Law of Nature
=「自然の法律」。
• 「法律」であるからには、「作った人」がいるは
ずだ。
=神。
→デカルトの「永遠真理創造説」
ニュートンもまた、
• 「万有引力の原因は神である」とほのめかしている。
• 「万有引力の法則」とは:
– 物体間には、質量に比例し、距離の二乗に反比例する引
力が働く 。
– しかし、「質量」と「引力」の間には、論理的には関係
がない。
– どうして質量の大きな物体には強い引力が働くのか?
→「神がそのように創造したからだ」と答える
ほかない。
対して、ライプニッツは、
• 「神も自然法則や数学など普遍的な真
理には従うはずだ」と考えた。
• ものを考えるときに、法則や数学や論理を無
視する者は、愚か者だ。
• 神が法則に従わないというなら、神は愚か者
だということになってしまう。
• 神は、法則や論理に従って、最善の世界を創
造した。この世界は、神の製作した時計のよ
うなものだ。
そこでマルブランシュは、
• 「そんな神はありがたくない」と反論。
• 神は全知全能であり、すべての現象の原因
である。
• この世の物体の運動が法則に従っているの
は、神が法則に従うように動かしているから
だ。
→マルブランシュの「機会原因論」。
さらにスピノザは、
• 「神は自然法則以外のことはしない。」
=神即自然。
・・・神さまは「自然そのもの」なのか?
じゃあ、自然研究だけしてればいいじゃない。
→自然研究から「神」という要素が排除される。
(ただしスピノザ自身は、「無神論」の嫌疑がか
けられ、彼の著作は禁書になった。)
ここまでのまとめ
• もともと自然研究は、「自然界に現れた神の
英知」を明らかにするという目的で進められた。
• 「自然法則」という概念は、「神による世界の
創造」を前提として考え出された概念である。
• 「現象の背後に自然法則が実在する」と
いう考え方は、「神による創造」「神による世
界の支配」「神の実在」という概念とセット。
• ところが、17世紀末には、自然研究が進展し、
「自然法則の普遍性」と「神の全知全能」
が齟齬をきたすようになってきた。
• マルブランシュの「機会原因論」などは、「現
象」の領域と「神」の領域を切り分けるもの
だった。
→18世紀以降、神の領域はとりあえずおいて
おこう、ということになった。
現在でも、
• 「現象の背後に自然法則が実在する」という
発想は、科学者の間でも根強く信じられてい
る。
• 変わった点:
– 17世紀には、キリスト教と結びついた「社会的
通念」だった。
– 現在では、科学者の「個人的信念」として語ら
れる。
しかし、とはいえ、
• だとすると、どうして「自然法則が正しい」と
いえるのか???
• 17世紀までは、「自然法則の実在」を神が保
証していた。
• 神抜きにして、何が法則の正しさを保証し
てくれるのか?
・・・「イギリス経験論哲学」が登場する
時代的背景。
で、クイズ。
イギリス経験論哲学の祖は誰?
1.
2.
3.
4.
デカルト
ホッブズ
ロック
ヘビメタ
5%
18%
40%
37%
デカルト
ホッブズ
ロック
ヘビメタ
イギリス経験論哲学
高校の「倫理」などでは、
• 「大陸合理論哲学のデカルトを、イギリス経験
論哲学のロックが批判した。」
当然、そんな単純な話ではない。
• 経験論哲学が登場したのは、神に代わる「真
理の根拠」を求めるという時代の要請に応え
るためであり、経験論哲学はそれを人間の
「経験」に置いたということがポイント。
経験は「真理」を保証できるのか?
• それは次回のお話。
クリッカーを使って、今日の授業に
ついてアンケート。
「自然法則」という概念とキリスト教の
関係が
よく分かった。
だいたい分かった。
ふつう。
あまり分からなかっ
た。
5. 分からなかった。
1.
2.
3.
4.
12%
4%
19%
14%
52%
よく分
よく 分 かった。
かった 。
ふつう。
ふつう。
分からなかった
分 からなかった。
からなかった 。
だいたい分
だいたい 分 かった。
かった 。
あまり分
あまり 分 からなかった。
からなかった 。
「現象の背後に自然法則が実在する」
という考え方は、
1. もっともなことだ。
2. ひょっとしたらそうかも。
3. ちょっと違うかもしれな
い。
4. いかがわしいんじゃな
いか。
7%
22%
27%
44%
もっともなことだ。
もっともなことだ 。
ちょっと違
ちょっと 違 うかもしれ...
うかもしれ ...
ひょっとしたらそうかも。
ひょっとしたらそうかも 。
いかがわしいんじゃな...
いかがわしいんじゃな...
ちなみに授業の最初の回答では、
1. もっともなことだ。
2. ひょっとしたらそう
かも。
3. ちょっと違うんじゃ
ないか。
4. わけが分からない。
12%
34%
13%
42%
1
2
3
4
今日の授業は、
1. ためになった。
2. どちらかというとた
めになった。
29%
3. ふつう。
4. あまりためにならな
かった。
5. ためにならなかっ
た。
ためになった。
ためになった 。
2%3%
ふつう。
ふつう 。
ためにならなかった。
ためにならなかった 。
23%
43%
どちらかというとため...
どちらかというとため ...
あまりためにならなか...
あまりためにならなか ...
今日の授業は(2)
1. 楽しかった。
2. どちらかというと楽
しかった。
3. ふつう。
4. どちらかというと退
屈だった。
5. 退屈だった。
10%
3%
24%
31%
楽しかった
楽 しかった。
しかった 。
ふつう。
ふつう 。
退屈だった
退屈 だった。
だった 。
32%
どちらかというと楽
どちらかというと 楽 し ...
どちらかというと退屈
どちらかというと 退屈...
退屈 ...
マークシートを使った小テスト。
問1
プラトンが唱えた説はどれか。
①機会原因論
②永遠真理創造説
③想起説
④神即自然
問2
「自然法則」という言葉を作った人は誰か。
①デカルト
②スピノザ
③プラトン
④ニュートン
問3
デカルトの考え方として正しいものはどれか。
①数学や自然法則などは普遍的なもので、神
も従わなければならない。
②物体の間には、質量に比例し、距離に反比
例する引力が働く。
③数学や自然法則なども神が創造した。
④ライプニッツの神はありがたくない。
問4
ライプニッツの考え方として正しいものはどれか。
①神も自然法則には従わなくてはならない。
②神とは自然そのものである。
③神は全知全能であり、すべての現象の原因
である。
④神はありがたくない。
問5
マルブランシュの考え方として正しいのはどれ
か。
①神即自然
②永遠真理創造説
③人間は生まれる前はイデアの世界に住んで
いる。
④全知全能の神がすべての現象の原因である。
問6
イギリス経験論哲学の考え方として正しいもの
はどれか。
①自然法則は神が創造した。
②自然法則の正しさの根拠は人間の経験にあ
る。
③現象を通じてイデアが想起される。
④人生はロックンロールである。
問7
実在(Realty)概念について、正しいものはどれか。
①Realityには、ActualなものとPossibleなものと
Imaginaryなものが含まれる。
②Realityとは、「実際に存在しているもの」という意味
である。
③Realityの反対語はPossibilityである。
④日本語の「実在」という語は、Realityでなく、むしろ
Actualityに対応する意味で使われることが多い。
問8
「自然法則の実在」という発想は、現代ではどう
なったか?
①すでに過去のものとなった。
②科学者個人の信念として語られる。
③非科学的である。
④ますますキリスト教との結びつきを強めてい
る。
問9
• 今日の授業を受けて学んだこと、考えたこと、
質問などを、シートの裏側に記入してください。