15/09/19 講演内容 n 犬のリンパ腫の概要 n リンパ腫の分類 n High gradeリンパ腫とLow gradeリンパ腫 n Tリンパ球のリンパ腫とBリンパ球のリンパ腫 犬のリンパ腫 n 多中心型リンパ腫 n 消化器型リンパ腫 JAHA動物看護師 腫瘍学アドバンスセミナー n 縦隔型リンパ腫 n 皮膚型リンパ腫 n その他のリンパ腫 寛解の種類(WHO) 完治と寛解の違い n 完全寛解(CR):測定可能な病変なし n 完治 n 全てのがん細胞が根絶されている事 n 部分寛解(PR):測定可能な病変が50%以上縮小 n 維持病変(SD):50%未満の縮小から25%未満の増大まで n 完全寛解 n 詳細な検査を行っても病変が検出できない 状態 n 癌細胞が1g以下の状態(1g=10億個) n 進行性病変(PD):病変が25%以上増大(進行) 25%以上増大 > 維持病変 > 50%以上縮小 > 病変なし PD SD PR CR 奏効率(反応率)とは n 奏効率 n 完全緩解と部分寛解を加えたもの n 病変が50%以上縮小した症例の割合 n 維持病変は含めない リンパ腫 リンパ腫 悪性リンパ腫 リンパ肉腫 LSA 1 15/09/19 好発犬種とリスクの少ない犬種 (欧米) 概要 n 好発犬種 n 犬で最も認められる悪性腫瘍 n ボクサー,ブルマスティフ,バセットハウンド,セントバー ナード,スコティッシュテリア,エアデールテリア,ブルドック n 腫瘍全体の7~24% n リスクの少ない犬種 n 造血系悪性腫瘍の83% n ダックスフンド(日本以外),ポメラニアン n 年齢中央値:6~9歳 n 性差なし ※日本では若齢M.ダックスフンドに消化器型リンパ腫が多い 日本では…埼玉動物医療センター 1999−2007(多中心型リンパ腫) 何故うちの子が?:リンパ腫の原因 N=25 n 除草剤が関与 n 工業地域や化学物質(ペンキ等) n 強力な磁場の影響 リンパ腫の分類 リンパ腫の原因:免疫抑制 n リンパ腫の犬に免疫抑制はよく認められる n 免疫系の変化によりリンパ腫発症のリスクが増加 n シクロスポリンの治療後にリンパ腫発症例が報告 n 免疫抑制療法でリンパ腫発症の可能性 n 解剖学的分類:発生部位 n 組織学的悪性度による分類:腫瘍細胞の大きさ n 低悪性度(高分化型,Low Grade) n 中間悪性度(Intermediate Grade) n 高悪性度(低分化型,未分化型,High Grade) n 免疫学的な分類 n Bリンパ球の腫瘍 n Tリンパ球の腫瘍 n どちらにも分類できない腫瘍(NON-T,NON-B) 2 15/09/19 悪性度分類 解剖学的部位による分類 n 多中心型 80% n 縦隔型(胸腺型) 約5% n 消化器型 5 - 7% n 皮膚型 n その他:中枢神経系,骨,睾丸,膀胱,心臓,鼻腔 Low grade(低悪性度,高分化型) Low とHigh の違い(細胞診) Low grade リンパ腫 High grade リンパ腫 High grade(高悪性度,低分化型) Low とHigh の違い 血液中に出現した腫瘍細胞(ステージⅤ) Low grade リンパ腫 High grade リンパ腫 ※ 腫瘍細胞と赤血球の大きさの違いに注目! 多中心型リンパ腫の 悪性度の比率 悪性度分類 High grade Low grade 病期進行 急速 緩慢 Low grade 治療反応 高い 低い 生存期間 短い 長い Inter mediate grade High grade 埼玉AMC (1999-2007) 16% (4/25) 欧米の報告 5~10% 4% (1/25) 20~30% 80% (20/25) 60~70% Carter,Can J Vet Res,1986 Appelbaum,Hematol Onco ,1984 Taske,Exp Hematol,1994 K Rimpo VCS Proc 2008 3 15/09/19 リンパ腫の分類 (悪性度とT,B分類) B細胞型 High grade T細胞型 High grade 多中心型リンパ腫 n 犬のリンパ腫の大半(80%)を占める n 抗がん治療に最も反応する腫瘍 B細胞型 Low grade T細胞型 Low grade 体表リンパ節 体表リンパ節腫大の鑑別診断 n 腫瘍性疾患 n リンパ腫 n リンパ性白血病 n 組織球性肉腫 n 様々な悪性腫瘍のリンパ節転移 体表リンパ節腫大の鑑別診断 多中心型リンパ腫の臨床症状 n リンパ節腫大,通常は痛み伴わない n 非腫瘍性疾患 n 感染症 n 免疫介在性疾患 n 全身性エリテマトーデス,慢性関節リウマチなど n アレルギー性疾患 n ノミアレルギー(特に猫)など n その他は,無症状の事も多い n 20 - 40%の症例に非特異的な症状 n 体重減少 n 無気力,元気,食欲低下 n 発熱 n 多飲多尿 n 腹位膨満(肝脾腫大) n 嘔吐,下痢 n 咳(肺浸潤) 4 15/09/19 診 断 進行度の把握:ステージング n 身体検査 n 多くは細胞診で診断可能 n 下顎リンパ節は避ける n CBC,血液化学検査 n Low grade(低悪性度,高分化型)のリンパ腫は, n 胸部,腹部X線検査 n 尿検査 リンパ節の切除生検(病理組織検査)が必要 n 超音波検査 n 肝臓,脾臓の細胞診 n 骨髄検査 n T,B分類(PCR) 進行度の把握:臨床ステージ(WHO) ステージ I : 単独のリンパ節,リンパ器官に限局 ステージ II : 局所リンパ節の腫脹 リンパ腫のサブステージ(WHO) サブステージa:臨床徴候なし サブステージb:臨床徴候あり ステージ III : 全身のリンパ節腫脹 ステージ IV : 肝臓・脾臓にリンパ腫が波及 ※高カルシウム血症がある場合臨床徴候に関わらずサブステージb ステージ V : 末梢血や骨髄に腫瘍細胞が出現 リンパ腫がリンパ器官以外の臓器に波及 T,B分類:PCR(ポリメラーゼ連鎖反応法) イメージ図 B B T B T T B B B B B T B T 反応性 B n 化学療法(抗がん治療) B B B B細胞性リンパ腫 T T T T T T T T T T 多中心型リンパ腫の治療 n 悪性腫瘍の治療 n 外科手術 n 放射線療法 n 免疫療法 n 光線力学療法 n 温熱療法 n 栄養療法 T細胞性リンパ腫 5 15/09/19 High Gradeリンパ腫の治療で 用 いられる代表的な抗がん剤 High Gradeリンパ腫の治療で 用いられる代表的な抗がん剤 第1選択薬:CHOPベースプロトコール(L-CHOP) 第2選択薬 (L) : L-アスパラギナーゼ アクチノマイシン-D ダカルバジン ミトキサントロン, イフォスファミド (O): ビンクリスチン(オンコビン) クロラムブシル シトシンアラビノサイト (P) : プレドニゾロン メトトレキセート ロムスチン (C): シクロフォスファミド (H) : ドキソルビシン(ハイドロキシダウノロビシン) もし治療をしなかったら? UW25プロトコール 1 n 無治療のリンパ腫の予後 n ほとんどの犬が4−6週間後に死亡 L-アスパラギナーゼ ⚫ ビンクリスチン ⚫ 2 3 5 6 7 8 ⚫ 10 ⚫ ⚫ 11 13 ⚫ ⚫ ⚫ ⚫ ドキソルビシン ⚫ 9 15 17 19 21 23 25 " ⚫ シクロフォスファミド プレドニゾン 4 ⚫ ⚫ ⚫ ⚫ ⚫ ⚫ ⚫ ⚫ ⚫ ⚫ L-アスパラギナーゼ:400IU/kg SC ビンクリスチン:0.7mg/m2 IV シクロフォスファミド:250mg/m2 IV ドキソルビシン:30mg/m2 プレドニゾン: 2mg/kg PO SID × 7日→1.5mg/kg × 7日→1mg/kg × 7日→0.5mg/kg × 7日 High grade 多中心型リンパ腫 多剤併用プロトコールの治療成績 その他の化学療法 n ドキソルビシン単剤 n 5回投与(30mg/m2 3週間毎) n 完全寛解率 50 - 70% n 完全寛解率:80%以上 n 生存期間の中央値:1年 n 2年生存率:25% n 完治率:? n 生存期間の中央値 6 – 8 カ月 n プレドニゾロン単独 n 経済的な事情などで化学療法が行えない場合の緩和治療 n 生存期間は約1 – 2 カ月(延命効果なし) n ※プレドニゾロンの単独治療を行うとその後の抗がん剤の効 果は低下する可能性あり! 6 15/09/19 LOW grade 多中心型リンパ腫の 治療ガイドライン LOW grade 多中心型リンパ腫の治 療 n リンパ節の腫脹によって臨床症状が発現している場合 n 症状の軽いものは無治療 n クロラムブシル+プレドニゾロン n メルファラン+プレドニゾロン (呼吸困難など) n 著しい臓器腫大が認められる場合 血球減少症が認められる場合 n 単クローン性高ガンマグロブリン血症が認められる場合 n 食欲低下・衰弱・体重減少などの全身症状が存在する時 辻本元(東大),高分化型リンパ腫治療のガイドライン,2008 口腔粘膜に発した Low gradeリンパ腫 口腔粘膜に発した Low gradeリンパ腫 12歳齢,ゴールデン・レトリーバー,去勢雄 主訴:顔が腫れている 下顎リンパ節腫脹 下顎リンパ節切除生検 口唇粘膜切開生検 ➡ T細胞型Low gradeリンパ腫 下顎リンパ節細胞診⇒Low gradeリンパ腫を疑う 口腔粘膜に発した Low grade リンパ腫 犬のHigh Grade消化器型リンパ腫 n 慢性消化器症状 n 体重減少,無気力,元気,食欲低下,嘔吐,下痢 n 低タンパク血症 n B 細胞性が主体だが T 細胞性タイプもある クロラムブシル+プレドニゾロンで治療後約1ヵ月後 7 15/09/19 High Grade消化器型リンパ腫 Low grade 消化器型リンパ腫 n 抗がん治療の成績(18頭の犬の研究) n 多剤併用プロトコール(VELCAP-SC) n 反応率56%(CR 9頭,PR 1頭) n データが少ない n 近年,診断される症例が増えてきている n リンパ球性腸炎との鑑別が難しい n 寛解期間の中央値 86日 n 猫ほど治療反応性が良くない? n 生存期間の中央値 77日 n T細胞性とB細胞性との生存期間に有意差なし Rassnick KM JVIM 2009 M・ダックスフンドの消化器型リンパ腫 2歳齢 雌 M・ダックス n 若齢で発症するケースが多い(平均約3歳齢) n 数日前に血便で近医を受診 n 原因はよくわかっていないが,長期生存例が多い n 腹腔内腫瘤を指摘 n 抗がん剤の反応比較的良好 n 予後の悪いものもいるが理由は? 細胞診 開腹所見 診断:High gradeリンパ腫 B細胞型 病理組織検査 8 15/09/19 治療と経過 4歳齢 雄 M・ダックス n 術後化学療法を開始 n ビンクリスチンが著効(完全寛解) n 治療開始1年後に抗がん治療中止 n 治療中止後,約6ヵ月で再発 n 治療(ビンクリスチン)を再開 n 主訴 n 血便 n しぶり n 肛門周囲のしこり n 2週後には再び完全寛解 n 現在,治療継続中(診断後約4年半) 肛門部腫瘤細胞診 治療経過 n 抗がん治療開始(UW25) n 完全寛解には至らないものの部分寛解の状態を維持 n 抗がん治療開始後、約1年半が経過 n 全身状態は,良好 B細胞性リンパ腫(mott cellへの分化を伴う) 9 15/09/19 縦隔型リンパ腫 X線所見 縦隔型リンパ腫 n 体表リンパ節や肝・脾腫大を伴うものは多中心型に分類 n 高Ca血症を伴うことが多い n リンパ腫で高Ca血症を示した犬37頭中16頭(43%)が縦隔型 n 多飲・多尿 n 呼吸困難 n T 細胞性が主体 縦隔型リンパ腫 エコー所見 血液化学検査 TP(g/dl) Alb(g/dl) Glb(g/dl) ALT(U/l) AST(U/l) ALP(U/l) Tcho(mg/dl) 6.4Glu(mg/dl) 3.3BUN(mg/dl) 3.1Cre(mg/dl) 58Ca(mg/dl) 37Na(mmol/l) 91K(mmol/l) 268Cl(mmol/l) 87.5 18.0 0.8 15.9 144.0 4.83 107.1 皮膚型リンパ腫 抗がん治療後 n 分類(口腔粘膜も含む) n 上皮向性(菌状息肉症):T 細胞性が主体 n 非上皮向性:B 細胞性が主体 10 15/09/19 肝脾臓型リンパ腫 皮膚型リンパ腫 n 比較的まれ n 肝臓の表面,脾臓,骨髄に浸潤 n 末梢リンパ節腫大無し n 殆どが T 細胞性 n 抗がん剤への反応乏しい 脾臓のIndolent リンパ腫 鼻腔内リンパ腫 n Indolent=おとなしい,緩慢な n 脾臓に発生するリンパ腫には進行がゆっくりなものがある n 脾臓摘出のみで長期生存が可能(約2年前後) n 化学療法の有効性は不明 Flood-Knapik et al. Vet and Comp Oncol 2012 犬のリンパ腫のまとめ n リンパ腫は抗がん剤に最も反応する腫瘍 n 多中心型リンパ腫の完全寛解率は80%以上 n 生存期間の中央値1年,2年生存率25% n 高分化型リンパ腫は長期生存(無治療の事も) n その他の部位に発生するリンパ腫は予後が悪い事 が多い n ミニチュア・ダックスフンドの消化器型リンパ腫は 長生きする症例が比較的多い n 脾臓のIndolent リンパ腫は脾摘のみで長期生存 11
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