日本スポーツ心理学会第29回大会 ミニ・シンポジウム スポーツ・オノマトペ −スポーツ技能の獲得・発揮法及びスポーツ指導における 効果的な教示法としての擬音語・擬態語の可能性を探る− ■司 会:吉川政夫 (東海大学) ■演 者:竹中晃二 (早稲田大学) 藤野良孝 (早稲田大学大学院) 外山さゆり (東海大学大学院) Key words:スポーツ・オノマトペ、使用実態、使用意識、運動の学習と遂行、効果的な教示法 はじめに オノマトペとは、フランス語に語源を持つ擬音語・擬態語を意味する。擬音語は実際の音を真似て言 葉とした語であり、擬態語は視覚、触覚など聴覚以外の感覚印象を言葉に表した語である。すなわち、 両者は五感による感覚印象を言葉で表現する言語活動である。筆者らは運動・スポーツ領域で活用され ている擬音語・擬態語をスポーツ・オノマトペと名づけた〔藤野・吉川(2001)〕。 運動・スポーツ領域でオノマトペが使用される場合、運動の「コツ」を表現する際の言葉として使用 されることが多い。具体的には、動きに関して、パワー(動きのカの強さの程度、たとえば、腰を落とし て「グッ」と押す)、スピード(動きの速さの程度、相手の懐に「サッ」と体を入れる)、持続性(動きの持 続時間の長短、 「ポーン」とボールを打ち返す)、タイミング(動きの実行効果を最大にするための時間的 調整、「ピタッ」とタイミングを合わせる)、リズム(一連の動きの時系列的調整、「トン・ト・トン」と 足を踏み込む)などを表現する言葉としてオノマトペが使われている。 上述したような表現語として適切かつ巧みに使い分けられることにより、オノマトペは、運動者の運 動技能の学習と遂行に貢献している。また、運動・スポーツの指導に際しても効果的な教示法として頻 繁に活用され、効果を得ている。 そうした効果をもつオノマトペ表現の特長は、通常の言葉では表現しにくい微妙なイメージや感覚印 象を端的に言い表すことができる点にあるといえよう。それが、運動者にとっての行動調整に役立ち、 指導者から運動者への意思の伝達に貢献していると考えられる。 スポーツ・オノマトペには、プラス面として、複雑・微妙で表現しにくい意味内容やイメージを簡潔 に表現できる、わかりやすい、指導者の意図がイメージさせやすいなどがある半面、マイナス面として、 あいまいで正確な表現に欠ける、正確な意図が伝わりづらいなどがあげられる〔藤野・吉川(2001)、外 山・吉川・成田(2002)〕。 ところで、オノマトペは運動・スポーツ領域でアスリートや指導者によって日常的に使われているが、 それに関する本格的な心理学的検討はほとんど見られない。そこで、本シンポジウムでは、運動・スポ ーツ技能の獲得・発揮法として、またスポーツ指導における効果的な教示法としてスポーツ・オノマト ペが持つ可能性について検討したい。 オノマトペを体育・スポーツ指導で活用する方法について 藤野良孝 (早稲田大学大学院) 運動・スポーツ領域で使われているすノマトペの使用実態と使用者の使用意識に関する調査研究から 得られたデータに基づき、スポーツ・オノマトペの全体像を紹介する。そして、それを踏まえて、オノ マトペを体育・スポーツ指導で活用する方法について検討したい。さらに、スポーツ・オノマトペの現 状と今後のあり方についてだけでなく、今後の研究の展望についても言及したい。話題提供の骨子は以 下の通りである。 1.スポーツ・オノマトペについて 1.1 スポーツ・オノマトペとは何か 1.2 オノマトペの使用実態と使用意識 1.3 オノマトペの現状 2.オノマトペをスポーツ指導で活用する方法 2.1 オノマトペ表現の可能性 2.2 説明文を形容する方法 2.3 動きをイメージさせ、音にする方法 2.4 オノマトペ表現の共通理解 3.今後に向けてのスポーツ・オノマトペの課題 オノマトペは指導場面でどのように用いられているか −指導者に対する調査から− 外山さゆり (東海大学大学院) バレーボール指導者を対象とする調査を行い、指導者のスポーツ・オノマトペに関する使用実態と使 用意識の資料を得、現在分析を進めている。それによれば指導の際にオノマトペを使っている指導者は 90%にのぼり、その 80%が意識しないで使っている。オノマトペを使うことによって、 1)選手と指導者とのコミュニケーションがよくなる 2)選手にとって指導内容が理解しやすくなる 3)選手の動きがよくなる 4)熱心に活動するようになる 5)スポーヅ活動に興味関心を持つようになる といった効果があることを指導者は認めている。 スポーツ・オノマトペが指導者から選手へのコミュニケーション言語としてどのように使われている のか、また指導者がオノマトペ表現の使用に関してどのような考えや態度をもっているのかについて紹 介したい。 擬態語の主観的評定と生理的測定の経験からスポーツ・オノマトペの可能性を考える 竹中晃二 (早稲田大学) EMG フィードバック訓練が筋活動の訓練に有効であることを確かめる研究において、筋の自己制御 テクニックが獲得されるにつれ、また筋の気づきが高まるにつれ、被験者の内省報告として、多くの異 なる種類の擬態語が報告されるようになった。このことから、擬態語が筋の気づきと関連すると考え、 1)擬態語の筋力発揮に関連する主観的評定に関する調査研究及び 2)擬態語によって指示された筋力発 揮時の物理的、生理的測定に関する実験的研究を行った経験がある。その結果として、我々が目常生活 において使用している筋力発揮に関する擬態語には、それぞれ筋力の程度が対応しており、それが多く の人に共通に理解されていること、またそこには性差が見られることが確かめられた。 上述の経験を踏まえて、体育科教育やスポーツのコーチングの分野でスポーツ・オノマトペを用いる ことについて検討を加えるとともに提言を行いたい。 文 献 1)藤野・吉川(2001) スポーツ・オノマトペ −スポーツ領域で使用されているオノマトペの実態とそ の使用意識−、日本スポーツ心理学会第 28 回大会研究発表抄録集. 2)外山・吉川(2002) 指導者のスポーツ・オノマトペに関する使用意識と使用実態 −バレーボール指 導者に対する調査から−、日本スポーツ心理学会第 29 回大会研究発表抄録集. 3)藤野・吉川(2002) 聴覚提示によるスポーツ・オノマトペのイメージと韻律的特徴の関係、日本スポ ーツ心理学会第 29 回大会研究発表抄録集. 4)竹中・小島・宮田・新井・八木(1987) 報科学研究第 2 号、11〜22. 筋力発揮に伴う擬態語の使用に関する研究、関西学院大学情
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