三位一体改革の評価と方向性

【視点・論点Ⅱ】
三位一体改革の評価と方向性
1.はじめに
小泉内閣の三位一体改革が少しずつ動き出し始めている。平成16年度の三位一体改革では、義務教育
費国庫負担金共済分等の所得譲与税化など全体で1兆円規模の見直しが行われている。しかし、こうした
三位一体改革も数字が先行し、実質的な制度改革が伴わず、地方自治体にとっては地方交付税の大幅削減
だけが大きく影響する結果となっている。以下では、三位一体改革の目指すべき方向性とは何かについて
概括する。
2.三位一体改革の評価
(1)改革の本質
平成16年度の1兆円改革については、すでに述べたように、制度改革が伴わない中で交付税額の削減
が先行する結果となり、三位一体改革としては評価困難な実態となっている。三位一体改革で目指すべき
制度改革の方向性とは何か。それは、地方自治体の自律性確保にむけて公平性に配慮しつつ、「裁量権を
最大化すること」である。
(2)裁量権の最大化
裁量権の最大化とは、地方自治体が自らの地域の資源を最大限引き出していくために自らの判断で行動
できる領域を最大化することであり、権限・財源を含めた各資源が中央に集中する現状を改め、地方に積
極的に移譲していくことである。
こうした方向性を踏まえて三位一体改革を見た場合、地方自治体の裁量権を財源面からもっとも拡大さ
せる選択肢は、税源移譲である。ただし、経済の東京一極集中により税源が偏在する中での移譲は、公平
性を害する結果となる。税源偏在の中での税源移譲は、最終的には裁量権の大きな制約要因となる。しか
し、逆に公平性を偏重し過ぎると、歳出分に応じた国の負担(国庫負担金等)が不可避となり、地方自治
体の裁量権が大きく制約される結果となる。
裁量権拡大の視点から税財源に関する見直しの項目を評価するため、裁量権のレベルを整理すると図表
1の通りである。移転した税財源に関して、実質的に支出の目的・使途が限定され裁量権が実態上ないと
判断される「レベル0」からはじまり、支出における目的は限定されているものの使途は自由にできる「レ
ベル1」、支出における目的・使途共に自由にできる「レベル2」
、支出面だけでなく減税等収入面の措置
にも活用を許す「レベル3」である。
(図表1)裁量権のレベル
レベル0
目的・使途共に限定
レベル1
目的限定で使途が自由
レベル2
目的・使途共に自由
レベル3
移譲財源による歳入政策(減税等)も自由
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このレベル評価を用い、税財源移譲形態別に裁量権を評価すると図表2の通りである。補助金や地方債
の交付税措置では裁量権のレベルは低く、公平性も中程度と考えることができる。
(図表2)税財源移譲形態別の評価
補助金措置
裁量権 :レベル0中心
公平性配慮
:中
地方債交付税措置
同
:レベル0〜レベル1
同
:中
地方交付税措置
同
:レベル1〜レベル2
同
:大
税源移譲
同
:レベル2〜レベル3
同
:小
(注)「公平性配慮」は、相対比較。
以上の評価を踏まえると、まず補助金や地方債の交付税措置を見直し、税源移譲の前段としての地方交
付税化に努力することが、裁量権、公平性の観点から必要となる。もちろん、その際には、地方交付税の
交付基準を人口や面積などに簡素化することが大前提となる。これにより、地方自治体の実質的な裁量権
の拡大を図り、同時に本レポート【視点・論点Ⅰ】「北海道道州制特区第1回申請の概要」で示した機能
等の統合や意思決定の移譲等を実現することで、地域経済の内部循環の厚みを拡大させ、最終的な税源移
譲の範囲を拡大させることが可能となる。
なお、補助金の交付税化等においては、裁量権が高い形で地方自治体に税財源の移譲が行われたかが重
要な評価基準となる。金額がいかに大きくとも、また、交付税化、税源移譲いずれの形態であっても、裁
量権の拡大に結びつかない内容であれば評価できないからである。平成16年度予算の三位一体改革につ
いて個別評価を行うと図表4の通りとなる。
(図表3)三位一体改革の流れ
流れ
・補助金からの脱却
・地方交付税措置
・経済の自律性確保と税源移譲
(図表4)平成16年度予算の三位一体改革の個別評価
措 置
①所得譲与税
②税源移譲予定交付金
③まちづくり交付金
④地方交付税
評 価
次の課題
人口変数による交付税化
税源移譲
−−−
交付税化
補助金実態に変化なし
交付税化
総額削減・制度改革なし
制度改革
裁量権を高める
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3.三位一体改革の方向性
三位一体改革の基本的方向性は、地方自治体の裁量権を実質的に高めていくことである。その点から三
位一体改革の第2ステップの具体像を描くと、
第1に、目的限定・使途自由の「レベル1」の第二地方交付税制度を地方譲与税型で設け、全国の地方
自治体において経常的かつある程度機械的に発生する領域を対象として実施すること、
第2に、地域的に税源と歳出が比較的一致している項目については、基幹税を特定目的税あるいは一定
分目的限定方式によって税源移譲すること、
第3に、プロジェクト・ファイナンス型を中心に、事後評価等による財源移転方式をインフラ分野等で
導入すること、
などがあげられる。こうしたステップを積み上げ、地方経済の自律性を高めながら、最終的には税源移
譲を柱として、地方自治体にとって裁量権の高い地方交付税制度を確立することが必要となる。
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