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ワイナリーは北上するか

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鼎 談
ワイナリーは北 上するか
~気 候 変 動 観 測 の産 業 への展 開 ~
北海道池田町長
フリーキャスター(気象予報士)
(財) 北海道環境財団 理事長
勝井 勝丸
菅井 貴子
辻井 達一
鼎 談
「ワイナリーは北上するか~気候変動観測の産業への展開~」
北海道池田町長
フリーキャスター(気象予報士)
(財) 北海道環境財団 理事長
勝井 勝丸
菅井 貴子
辻井 達一
辻井:
「ワイナリーは北上するか~気候変動観測の産業への展開~」というテーマでや
りたいということで本日はお二人、池田町長の勝井さんとフリーキャスターの菅井さ
んをお呼びしました。
つまり、池田町は北海道でも有数のワイナリー、ワインを作っている所ですし、菅
井さんはお天気キャスターとして気象の問題を日頃取り扱っている。そして、菅井さ
んもワインがお好きと伺っていますので、ここで気象とワインの関係というようなことで
お話していただこうと思っています。
最初に勝井さんから、いわゆる気候変動とワインづくりに関連した話題のご紹介をお願いします。
勝井:
私は山梨大学の工学部発酵生産学科で微生物・発酵を学びまして、そんな縁で
池田町に就職しました。池田町長は今年で3期目 11 年になります。今日は、ワイン
の宣伝にどうですかという話もあったものですから、図々しく出て参りました。話だけ
ではと思いまして、職員に急いで作ってもらったパワーポイントを用いて説明させて
いただきます。
池田町のワインづくりは、ワイン城を昭和 49 年に開設して、ブドウづくりは昭和 35、
36 年からですから、もう半世紀になります。池田町は十勝地方にありますが、十勝は
大陸性の気候で寒暖の差が激しく、-25 度くらいから去年は異常な暑さで 35、36
度まで上がったという、年の気温変動が激しい地域です。
池田町にはブドウがたくさん栽培されていると思われるのですが、実は 45ha しかありません。30 年程
前から余市町や仁木町で契約栽培をしていまして、そちらに私どもの苗木を購入していただいて、でき
たブドウを全て買い取り、十勝ワインの原料にしています。池田町の農作物は十勝全体と同じように小
麦、ビート及び豆類が主体になります。
池田町でワインがどうして始まったのかですが、大地震と冷害が続き、それを何とか脱却したいという
ことで、参議院議員も務められた丸谷さんが町長の時の 1960 年くらいから素人ならではということで始
めたという歴史になります。
これは余市町、甲州の勝沼町と比較した月平均
気温の様子ですが、池田町は寒冷地で年間平均
気温が6度くらいなので、果樹生産地に向いていな
い日本で一番厳しい土地柄と思います。花が咲い
てから収穫するまで約 80 日間、そういう短期間に収
穫しなくてはならないという地域です。これは日照
時間ですけれども、池田と余市と勝沼にこれだけの
差があるということで、池田は北見と同様に日照時
間が長い地域です。これは降水量ですが、これも3
つの地方の変化を表したものですが、池田はどちら
-10-
かというと少ないということが言えます。ちなみに、ブドウの場合はあまり雨・水が要りません。
池田町のワインづくりは山ブドウから始まりました。
そして、それだけではということでヨーロッパから寒
冷地向きのブドウ、10 月の霜が降りる前に完熟する
ブドウをヨーロッパから求めまして、北海道でもだい
ぶ赤ワイン用で増えてきましたが、ツバイゲルトレー
ベを導入しました。このブドウはオーストリアのウィー
ンの近くでハンガリーのケークフランコシュとサンロ
ーランを掛け合わせたもので、これから赤ワイン用の
黒ブドウとしてどんどん広まってくるだろうと期待して
います。白はハンガリーのザラジュンジェ、モリオマスカット、バッカスといったドイツ系の品種がメインで
す。そして、私どもの清見というフレンチハイブリッドの耐寒性のあるブドウと山ブドウを交配して作られ
た清舞、山幸も農水省に種苗登録も終わりまして製品化しています。
池田町では、清見という品種のブドウをセイべル系のブドウから枝変わりというか、クローン選抜という
のが正しいのかもしれませんが、そのようなことでつくり出しました。これは、その清見と山ブドウを交配
して新品種の苗木を作っているところで、このように
花が咲く前に雄蕊を1つ1つ取って、そこに前の年
に取った山ブドウの花粉を付けているところです。そ
うやって 30 年以上になりますけれども、交配を重ね
た約2万種類の中から清舞、山幸の2種類を選抜し
ています。
これが清舞で、どちらかというと清見の性質が強
いブドウです。これが山幸で、山ブドウの野性味の
強い力を持っているブドウで、池田町ではこれらの
ブドウを十勝ワインの芯にしていきたいと考えていま
す。
これは池田町の 30 年間の
気象データですが、昨年の
2010 年は北海道、十勝でも
農作物に大変な影響がありま
した。これはちょっと異常のよ
うな気がします。
-11-
ブドウ栽培は6月の花が咲く
時期と実が結んで黒くなる8月、
9月のあたりの天候が一番重要
です。これらの時期の気温は、
年変動はありますが、温度の高
い年が少し多くなってきている
傾向がありまして、全体としては
温暖化の傾向にあるのかなと
感じています。
今まで少し暑い天気の年に
はグレートビンテージというよい
ワインができました。去年の農
作物はあまり良くありませんでし
たが、ブドウは良くてグレートビンテージの年になるのではないかと期待をしているところです。
これは清見種のブリックス(糖度)とトータルアシッド
(有機酸の総量)の経年変化です。池田のブドウは酸味
が高いのでヨーロッパのワインと比較すると酸味が強い
と感じるだろうと思いますが、グレートビンテージの年は
酸が低く糖が高いという年です。
これも山幸を表したものです。2004 年もよい年でした
が、去年も池田町としてはよい年でありました。これは清
舞種ですが、この種も同様の傾向です。
このように、過去 30 年間で温暖化によりワイン、ブドウが変わってきているということは言い難い面も
ありますが、全体的な傾向としては開花時期が早まったり、遅霜の時期が早くなってきているので、芽
の枯渇といった被害が無くなったり、早霜も最近はブドウが完熟してから降りるので、池田町はブドウ栽
培に限定すれば、よい状況になってきているのかなと感じているところです。
辻井:
大変興味あるデータ、例えばビンテージとか、グレートビンテージ。1990 年、1994 年、1999 年、2000
年、2004 年、そして去年の 2010 年がよい年だったということでデータを出していただきました。また、そ
のことについては、後でお話しを展開していただこうと思います。
続いて、菅井さんには十勝あるいは帯広の気候・気象がどのように推移してきたのかということも準備
していただきましたので、お話をお願いします。
-12-
菅井:
私からは、気象が過去からどのように変化してきたのかというところを中心にお話
を進めていきたいと思います。
今回、対談のお話をいただいた時に辻井会長から「菅井さんはワインのお話は
大丈夫ですか」と聞いていただいたのですが、大丈夫などころか大好きですとお話
をさせていただきました。私も池田町産のワインの大ファンでして、これまで池田町
のワインツアーに、私は3回も参加させていただきました。ツアー後の試飲のワイン
がまた一層美味しいものだなと感じました。先程、2010 年がグレートビンテージと伺
ったのですが、これが飲めるのが2年後、3年後ということで、また伺うのがとても楽しみだなと思いまし
た。
お天気の面からも池田町は道内1番というものがあります。勝井町長が先程お話しいただいたように、
北見と同様に日照時間が長いです。北海道では 200 カ所以上で日照時間を観測していますが、池田
町は 2041.6 時間ありましてトップです。続いて、浦幌町、帯広市なのですが、道内で1番晴れる所、お
日様の恵みを受けられる所なのですね。昨年の夏は記録的な猛暑というお話もありましたが、この8月
の平均気温は 22.3 度、道内観測史1番という高温でした。1977 年から観測していますので 40 年間で
一番暑かった8月ということになります。それと8月、9月の降水量、収穫時期にあたりますでしょうか。今
年は平年の半分の雨であったということで、勝井町長のおっしゃるとおりワイン栽培にとって今年は天
候に恵まれた年だったのかなと思いました。
私は生まれも育ちも横浜でして、本州では国産ワインというと山梨や甲府を想像される方が多いです。
その甲府ですが、今年も記録的な暑さになりまして、35 度以上の猛暑日は 24 日もありました。ほぼ1ヵ
月間、35 度以上だったんですね。また、25 度を最低気温が下回らない日というのが 13 日ありまして、さ
らに梅雨による雨で今年は平年の 120%の雨が降りました。伺った話ですと、甲府のブドウ畑は暑くて
栽培が難しくなってきたので、標高の高い所に畑を移す。そんな対策が既に取られていると伺いまし
た。
それでは、十勝の過去の気温がどのように変わってきているのかと言いますと、池田町のデータを用
意したかったのですが、池田町の観測は 40 年なので、気候変動を考える時に必要な 100 年以上のデ
ータがある帯広市のデータを持ってきました。北海道でも帯広は気温の上昇率が高くて、100 年当たり
1.7 度上がっています。全道平均が 0.9 度、全国平均は 1.06 度なので、全道・全国より急ピッチで上が
っているというのが帯広、十勝の気候変動なのだと思いました。そこで、少し詳しく見ていくと、最高気
温はあまり変わらないように見えました。ただし、猛暑の年はとことん暑く、冷夏の年はとことん寒いので、
変動が大きくなってきたように思いました。このようなことから、農業関係の皆さんは高温対策をしなくて
はいけない一方で、冷害対策もしないといけないのだなと思いました。ちなみに、夏日(25 度以上)、真
夏日(30 度以上)の日数は、過去からすると 1950 年くらいに夏日が多かった時期はあるのですが、増え
ているとも減っているとも申し上げられませんでした。そして、最低気温ですが、最低気温はとても急ピ
ッチで上がっていて、平均気温を押し上げているのは最低気温であると私は読み取りました。
それと、十勝地方のアメダスですね。観測点はいっぱいあって、池田町にもアメダスはあります。平均
しますと 1990 年を境に上がっていました。ちなみに、ここ6年間ずっと平年よりも高かったです。雨量の
ことも調べたのですが、雨も増えているところと減っているところがありますが、若干最近は減っているの
かなと思いました。池田町は年間 861 ミリ降るのですが、帯広が 920 ミリですので、帯広よりも雨が少な
-13-
い所になるのかなと思います。年間降水量が 1000 ミリ以下というのは全国的にも珍しく雨が少ない地域
になります。
先程、基調講演でも話題になりましたが、生物気象観測。これは桜の開花日なのですが、桜の開花
が早まっています。帯広のエゾヤマザクラは 50 年でだいたい1週間くらい早まっていました。全国平均
が4日ですので、帯広は全国より桜の開花、春の訪れが早まっている地域と思いました。逆に遅れてい
るのは紅葉でして、紅葉も 50 年間で1週間遅くなっていました。桜は1週間早く咲いて、紅葉は1週間
遅くなっていましたので、生物、植物の物差しで見ても、冬の期間が短くなっていることが分かりました。
今後、IPCC の第4次報告に基づくと、北海道の気候変動は全国の中でも急ピッチで上がる可能性
があるということを示唆しています。勝井町長がおっしゃったとおり、池田町にとってはよい面もあります
とお話いただきました。そして、私も農業関係の方からいろいろとお話を伺いまして、北海道は温暖化
して歓迎とおっしゃるのですが、一人の気象予報士として心配に思うのが、やっぱり異常気象・気象災
害です。気温は一様に上がるわけではなく、高温の時や低温の時、地域によってもムラができます。こ
のムラができますと、かき回さなきゃと働く人がいるのですが、これが低気圧です。低気圧が空気をかき
回すために一所懸命に働いてくれますので、人間や農作物にとってはこれまで降ったことのない大雨
や吹いたことのない風を招くことになります。これが気象予報士として温暖化を切り口にしたら心配なと
ころです。
実際にアメダス地点で1時間降水量 30 ミリ以上の日数を調べてみました。帯広、十勝地方では1年
間にだいたい 10 回。広尾町や大樹町あたりは 10 回から 20 回くらいあります。池田町を調べて 30 ミリ
以上の強い雨の記録 10 位まで並べました。その 10 位中8番目までが 2000 年代に入ってからというこ
とが分かりました。つまり、池田町では 2000 年に入ってから強い雨の頻度が増えたということになります。
気象災害は、本当に太刀打ちできないところがあります。
あとは1つ、ここが注目だと思いますが、今年から平年値が変わります。昨年までの平年値は 1971 年
から 2000 年を使っていましたが、今年の5月から 1981 年から 2010 年を使った新しい平年値を採用し
ます。このため、やや平年並みと言っても、今までとは違うということになります。平年値は 10 年おきに
見直しがありますが、例えば、札幌の1月の最低気温について、1970 年は-10.2 度が平年でしたので
-10 度になるのは当たり前でした。ただ、今は-7.7 度が平年なので-10 度を下回ったら、ああ平年よ
りも3度も低いという表現になります。今年もまた平年値が変わりますので、何と言えばよいのでしょうか、
気候変動が埋もれてしまう可能性があります。
北海道は、とにかく寒暖の差が大きくて、夏は沖縄よりも暑くなりますが、冬はアラスカ並みに寒いと
いうのが池田町や十勝の気候と思いますが、北海道は面で捉えてもすごく気候が多様と思いました。
まず、この気温差ですね。一番低いのが上士幌町で、池田町は5度7分、札幌は8度6分でした。10
度越えているのは唯一松前町ですが、この気温差は東北・九州間に相当しますので、北海道の気候
は本州の気候を凝縮したことになるのだなと思いました。お米も獲れます、ブドウも獲れます、ワインも
作れます。果実も獲れますし、海を変えれば毛蟹だって1年中獲れるのが北海道だと思います。そして、
山です。日高山脈、大雪山系、高い山も気候を形成します。最後に海ですね。性質の違う3つの海に
囲まれていることが北海道の気候を多様にしていると思いました。
ワインの適地は、池田町はもちろんですが、北海道の他の地域もこの先の気候変動によって可能に
なるかもしれません。適地の部分が広がると、池田町の技術がもっと他の地域でも活用していただける
のではないかと感じました。
-14-
辻井:
最後に海の話題もありました。そうなると魚はどうなるのかということになりますけれども、魚について
は後で専門家の発表があるので、ここでは専らワインの話に集中したいと思います。
そこで先程、勝井さんから現在までの池田町のワインの歴史やブドウの品種がどのように作られてき
たかというお話を伺ったのですが、先程のデータを見ますと、過去 30 年間に何度か気温の高い年があ
って、その時にいわゆるビンテージやグレートビンテージを上手に作っているようだということになります。
ブドウ、あるいはワイン、ワイナリーにとっては気温が高いということはよいことで、これからまた気温が高
くなる、いわゆる温暖化が進行すると、こういうチャンスが増えてくると考えてよろしいですか。
勝井:
そうだと思います。
辻井:
池田町は、先程のデータや今の菅井さんの話にもあったように、基本としてはあまり気温の高い所で
はない。ことに甲府に比べると遥かに低いということになるのですが、気温が上がってくるということは、
全道のワイン業界、ワイン畑が池田町だけでなくて、もっと寒い地方、北や東に展開していく可能性が
あるのではないかと思いますが、いかがでしょう。
勝井:
私も十分そういう可能性はあると思います。
道内のワインメーカーは、家族経営されているような小さなシャトーが結構増えて 12 社、13 社くらい
になりまして、道内のブドウづくりがだいぶ増えてきました。辻井理事長がおっしゃったように、寒い地域
でブドウができる可能性が増えてきたということになります。道南は昔からリンゴと果樹が盛んでしたが、
ブドウで町興しというところも含めながら、ブドウを作ってワインも作っていますので、ブドウの種類もたく
さんあります。池田町は非常に寒冷地、年平均気温が 5.5 度ということで、十勝ワインを始める時に農水
省とかにお願いに行ったらしいのですが、平均気温が6度以下の所は果樹・園芸ができないということ
で補助金も交付金も何もなかったそうです。それで、ワインを売って飲んでいただいて、その利益でブ
ドウの導入や新品種の交配をしてきました。
ブドウづくりで一番簡単なのは、フランスやドイツなどのワイン用のブドウを導入して栽培するのが、
一番使いやすくて作りやすいわけです。寒冷地向きのブドウとして、ツバイゲルトレーベも増えています
し、バッカス、ケルナーなどのドイツ系の品種がどこでも増えてきています。北海道ワインさんは浦臼で
かなり広い面積で作り出していますし、私どもと同様に自治体経営ですが富良野さんも同じように新品
種を開発しています。雪が多いということがありますが、遅霜で芽が枯渇してしまうというようなことのない
地域でもありますので、そのようなところでのワイン用のブドウ栽培もこれから十分可能性が増えてくるだ
ろうと期待をしているというところです。
辻井:
今の勝井さんのお話で富良野という地名が出てきました。私の記憶ではブドウをやろうと始めたのが
池田町なのですが、その次に始めたのが富良野という感じです。富良野は盆地ですから、冬は気温が
下がるし、夏は気温が上がりやすい地形条件だと思うのですが、菅井さん、そのあたりはいかがでしょう
か。
-15-
菅井:
はい。おっしゃる通りです。
富良野は旭川よりもおそらく気温が高いと思いました。特にこの夏は道内で1番気温が高い場所が
富良野だったという日がたくさん記憶に残っています。夏場は晴天率も高いですし、上川の南の方にあ
っても霧は届かない所です。
それと、東壁というのは結構天気が悪くなるんです。札幌もリラ冷えだったり、道南とか釧路・根室・オ
ホーツク側は東から風が吹くと冷たい風になりますので、お天気が悪いのですけれども、富良野は大雪
の山がブロックしてくれますので、夏も気温が高く、天気もよくなると思いました。
辻井:
富良野は地形条件で気温を上がったり、霧の発生が少なくなる。それでは、次は上川がそうなるかと
いうと、そこまでは何とも言えないかもしれない。しかし、今の北海道のワイン畑の1番北は北海道ワイン
の浦臼になるではないかと思うのですが、気候的な意味でもワイン畑がもっと北や東へ展開する可能
性があると考えてよいですかね。
菅井:
ワイン栽培の専門的な部分の勉強がまだまだ足りないのですが、可能性はあると思います。
北海道は先程もお話しさせていただいたのですが、町によって特長が出ます。気候変動によってこ
れらの特長が変わったりすると思いますので、ブドウの可能性が生まれたり、逆に無くなる地域もあるか
もしれないのですが、地域によっての可能性は広がる可能性があると思いました。
勝井:
池田町が町営でブドウ・ワインづくりをしているということで、町興しのためにブドウからワインということ
を目指している町は道内にいくつかあります。ご相談があった時は十勝ワインの原料となるブドウ苗木
をご購入いただきながらということになりますが、上川の剣淵町では 20 年くらい前から作られていまして、
これは今も継続しています。また、最近ではオホーツクのある地域から苗木を分けてほしいと相談があり
ました。それから、弟子屈町でもブドウを作るから収穫できたらワインを作ってほしいということで試験的
に栽培が始まっています。
辻井:
先程のお話で、勝沼の7月から9月の気温が非常に高くなっているというデータを見せていただきま
したが、勝井さんは山梨のご出身ということで、勝沼と言えば、やはり日本を代表するワインの産地でブ
ドウも量から言ったら断然多いと思うのですが。
勝井:
ブドウは山梨、長野、山形といった所で多く作られていますが、山梨の甲州盆地というのは食べるブ
ドウが多いですね。最近、甲州種も山梨の皆さんの努力でEUのワイン用のブドウとして認められたよう
で、ワイン用のブドウのことをヴィティス・ヴィニフェラと言いますが、山梨では温暖な所で栽培可能だと
いうことで病気に強いヴィティス・ラブルスカという生食用の米国種が多いです。
北海道でもキャンベルスアーリーやデラウェアなどの生食用が多いのですが、山梨も元々はデラウェ
アなどのブドウが極めて普通です。
辻井:
特に勉強したわけではないのですが、ちょっと前に山梨のブドウ園は江戸時代からやっていたという
本を読みました。また、ブドウづくりを江戸時代からやっていたという伝統があるので、それが現在の山
-16-
梨のワインに繋がっているというのをちょっと聞いたことがあります。
このようなことから言いますと、山梨のブドウづくりは日本で1番古いと言ってもよいのではないかと思
うのですが、いかがでしょうか。
勝井:
山梨が1番古い所になると思います。
辻井:
北海道は菅井さんの気象データから言っても、ワイナリーが広がっていく可能性はあるし、北上する
可能性があるのかもしれないが、勝沼、山梨はどうなるのでしょう。
勝井:
ブドウの種類を変えているようです。
また、山梨の方ですと収穫時期がデラウェアで早くて8月の初めくらいから始まって、甲州種でも9月、
ベリーAがちょっと遅いくらいなのですが、それが早まってきます。植物の糖は炭酸ガスの同化作用(光
合成)で有機酸が糖に変わっていくという仕組みで上がってくるのですが、糖が上がると酸が落ちてくる
ので、そのバランスが難しくなるようです。甲州種でも少し時期を早めて収穫するような努力をされてい
るようです。
辻井:
私が北海道気候変動ネットワークを広い範囲の専門家の方と一緒にやらなければならないと考えた
1つの原因は、15 年くらい前にイギリスへ行った時に南部にブドウ畑ができていた。その前に行った時
はなかったですし、イギリスはあまりワインづくりをしていなかった所ですので、なぜブドウ畑ができたの
かを聞いたら、フランスの業者が植えているということでした。要するに気温が上がっていてフランス南
部のワイン用ブドウが獲れなくなるかもしれないので、次はイギリス南部だという判断で植えている。そし
て、ブドウ畑を作るには 10 年くらい要するので今から植えているということでした。
本日、ワインをテーマにしたのは、このイギリスの例が頭にあるからでして、産業の種類、農作物の種
類によっては相当先を見て対策を考えないと間に合わなくなるということを考えるのも北海道気候変動
観測ネットワークの役割の1つであると考えています。
今、勝井さんから伺ったように、ブドウ栽培においてはブドウの種類を変える、あるいは気温が上がっ
たならその気温に適した収穫をするということで対策がよく分かりました。一方で池田町ではまたグレー
トビンテージが期待できるかもしれないということでしたが、菅井さんが示した IPCC データのように気温
が急ピッチで上がっていくとなると、さらに次の対策も考えていかなければならないのですが、その辺は
いかがでしょうか。
勝井:
北海道は道東もそうでしょうけれども、ブドウ栽培が広がる可能性が高くなるだろうと思います。そして、
寒冷地に適した品種改良も進むと考えていまして、池田町でも改良していますが、ドイツなどでも改良
が進んでいますので、よいワインに仕上がるブドウを作れる可能性が高くなってくるのではないかと思い
ます。
先程、山梨のお話がありましたが、山梨も気温が高くなってきたので、少し標高の高い所でブドウを
作ったりしています。これはヨーロッパでも同じでして、ドイツはワイン生産地としては比較的寒い所なの
ですが、ドイツでも緯度の高い所にブドウの栽培場を移していると聞いていますし、辻井理事長がおっ
しゃったイギリスでも元々サイダー(リンゴのワイン)用のリンゴの栽培しかできない所でブドウ栽培が始
まっているとも聞いています。また、ボルドーやアルザスでも気温が高いので収穫する時期が 15 日くら
-17-
い早くなっていると聞いています。
ちなみに、その 15 日早くなるということは、緯度が2度から3度くらいの差に匹敵するのだそうです。
辻井:
山登りの場合でも北海道ではよく本州の人が遭難する。夏の山で標高 1500 メートルというのを、うっ
かり本州並みの気温条件と誤解して軽装で登ってしまって、ひどい目に合うという話をよく聞きます。緯
度が高ければそのようなことがあるのだということを、農作物でも考えておいて、その条件を逆に上手く
利用するということなのでしょうね。
これから先の北海道のワインについて、もっと広く展開するだろうというのは、現在の状況が変わらな
ければ、ということで考えてよろしいですか。
勝井:
そうだと思います。池田町では十勝ワインという名称を使っていますので、十勝の他の市町村の丘陵
地などにワイン用のブドウを植えて十勝のワインとして展開したいと考えています。北海道でもワインづ
くりが増えていますけれども、ブドウの産地が増えていくことで、フランスなどのワインではなくて自分達
で作ったワインを地産地消で飲んでいこうということに、十勝全体の中でも働きかけをしていきたいと考
えています。そして、このような「オラがワイン」ということが、北海道でも増えていくとよいと思います。
辻井:
先程、イギリスのブドウ畑の例を申し上げたのですが、その時にもう1つイギリス人が言った話なので
すけれども、イギリスの若者がウィスキー離れをしているそうです。ビールは前から飲んでいたけれども、
ワインを飲み始めているらしいのですが、これはそういう意味もあるのではないかと言っていました。
菅井さん、いかがでしょう。あなたも随分ワインがお好きなようなので。
菅井:
先日、町民ワインをいただく機会がありまして、本当に町長のおっしゃる通り地産地消で飲んで応援
と言いながらも応援の気持ちで一杯多く飲んでしまうというところはあるのですが、ツアーに伺った時に、
中学生が苗を植えて、二十歳になったら収穫したワインをいただけるという取り組みをやっていらっしゃ
るそうですね。
勝井:
ドリカムの吉田美和さんが池田出身なものですから、中村正人さんにも随分応援していただいていま
す。この間は、中学3年生に山幸の苗木を植えていただきました。
今、菅井さんがお話しいただいたのは中学生の皆さんに1日労働ということでブドウの摘みとり作業を
毎年やっていただいて、その時に摘みとったブドウで作ったワインを成人式の時にそれぞれ1人ずつプ
レゼントするという取り組みでして、これは 20 年くらい続けています。
菅井:
私の町のワインで、しかも二十歳になった時に自分で摘みとったブドウのワインをいただけるというの
がすごく羨ましかったです。私は横浜出身で、横浜にはワインは作っている農家さんがあるのかもしれ
ないのですが、ワインの町というには、ほど遠いところがありまして、私の故郷のワインはなかったのです
が、池田町にはワインがある。故郷にワインがあるというのはすごく羨ましいと思いました。
勝井:
説明を加えますと、成人式の時に乾杯するワインは、成人になる方が生まれた年に仕込んだワイン
です。20 年前のワイン、今年は 1981 年のビンテージのセイオロサムというワインでした。
-18-
辻井:
それは、なかなかよい習慣ではないでしょうか。もっと流行らせてもよいのではないでしょうかね。
いろいろとお話を承りましたけれども、もうそろそろ、時間がなくなってきました。この際、宣伝でも結
構ですので、今のようなお話をもう少しいかがでしょう。
勝井:
道産ワイン懇談会というのがありまして、私はその会長もしています。池田町の十勝ワインだけという
ことだけではなくて、道内で挑戦をしているメーカーさんも小さなところが多いのですが、応援したいと
考えています。ワインづくりには、やはりワイン用ブドウを使うということが原則です。先程、山梨の甲州
種がワイン用のブドウとしてEUで認められたというお話をしましたけれども、それが認められる前はワイ
ン用のブドウに入っていませんでした。ワイン用のブドウづくりは、北海道が国内1位で、その量は 4000
トンくらいの数字です。そして、それぞれのメーカーの醸造技術もだいぶ上がってきています。このよう
なところで宣伝してよいのか分かりませんが、明日の6時半からロイトン札幌で道産ワイン懇談会「北を
拓く道産ワインの夕べ」が開催されます。ロイトン札幌の美味しい料理もありますし、ナチュラルチーズも
十勝などから来ます。当然、ワインも自慢のワインばかり出していますし、評価いただけると思いますの
で、都合がつかれる方はぜひ出席していただきたいと思います。ワイン用のブドウづくりと醸造技術も上
がり、尚且つボルドーとかブルゴーニュのブドウとは違った北海道ならではのブドウ、ドイツ系のブドウも
あったりしますし、カルベネ・ソービニヨン、メルロー、シャルドネなどに比べてどうだと言われるとちょっと
困るのですが、北海道の独自の品種のワインを作るようになりましたので、北海道のワインをぜひ応援
していただきたいと思います。応援をいただくというのはお店でお買い求めいただきまして、昔、ある会
社が金曜日にワインという宣伝をしておりましたが、ぜひ 1週間に1度は北海道のワインをお飲みいた
だきたいなと思います。
ビールの話をすると恐縮ですが、ビールは原料が大麦でほとんど輸入です。オホーツクでビール麦
を作っている例はありますが、モルトにしてもほとんどが輸入です。私は池田町長なので、職員に「ワイ
ンを作ってもらった給料でビール飲むとは何事だ」と言っています。町長、それは乱暴じゃないかという
ことで忠告を受けますが、単純に考えるとワインだと思うのですよね。役場の職員から町長の横ではビ
ール飲むなという話が出たりしています。私の先輩である丸谷前町長は今 91 歳なのですが、今でもパ
ーティーになると乾杯というのは字で表す通り、杯を乾すものだということで、100cc から 130cc くらいを
乾杯で一気に飲み乾します。私もそのようにやっていますけれども、その後も飲むものですからいつも
飲みすぎてしまいます。一昨日も昨日も飲みました。後援会の皆様からは、飲みすぎるなということで注
意を受けているのですけれども。
皆様、十勝ワイン、道産ワインの応援とご愛顧を賜りますよう、この場でお願いしたいと思います。
どうぞよろしくお願いします。
辻井:
それでは、菅井さんどうぞ。私のワインと気象でどうでしょうか。
菅井:
私は本州から来るまで、北海道でワイン、ブドウが作れるということは知りませんでした。6年前に来て
知りまして、とにかく北海道でワイン、ブドウに対してたくさん取材をさせていただきました。日本海側で
雪の多い所はブドウ畑が斜めに植えてあります。雪をかぶらせて雪の布団をかけることによって、冬害
を受けないという雪を活かした知恵というのがワインづくり、ブドウづくりに活かされています。池田町の
ほか、富良野でも最近アイスワインもつくり始めました。マイナス8度以下が 24 時間続いたらアイスワイ
ンづくり。甘味が凝縮されるデザートワインで、すごく女性にも人気があると思うのですけれども、これが
-19-
作られるは北海道だけですよね。池田町さんにも随分取材でいろいろ栽培品種等を勉強させていただ
きまして、気候を活かしたブドウ、地域に活かしたブドウづくり、ワインづくりを行っているのだとすごく感
激いたしました。
私ができることって3つあると思っています。1つは1杯でも多く飲むこと。2つ目はまだ本州の方は私
と同じように北海道のワインが美味しいことをご存知ないので、北海道のワインは美味しいんだよとたく
さん送りまして、地元に帰るたびにスーパーの国産ワインのコーナーに行って北海道のワインないので
すかとあえて聞いて帰ってくるというような宣伝をすること。そして、3つ目は天気予報を当てることだなと
思いました。
夏のブドウづくりの時に天気予報はずしてしまっては、農家の方に大変ご迷惑をかけます。精度のい
い天気予報をブドウづくりに活かしていただければと思いまして、私は3つの面からご協力をさせいただ
きたいと思いました。
辻井:
今日は皆さんに、最初に産業と気候変動を結び付けて考えなくてはいけないのではないか、そして、
北海道気候変動観測ネットワークの目指すところもやはり北海道の場合には農業や水産、そういった
産業との関わりにおいて役に立つネットワークでありたいという思いで開催させていただきました。
1時間ほどでしたが、いろいろなお話を伺わせていただいて、どうもありがとうございました。
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