第3回 MRによる営業アプローチの変革

医薬品営業マーケティングモデルの
変革
ベイン・アンド・カンパニー パートナー 矢吹
第3回
博隆
MRによる営業アプローチの変革
前号では医師への高頻度のコール、ディテールを中心とした伝統的な医薬品の営業マーケティング
モデルの限界、シェア・オブ・ボイス(SoV)モデルからの脱却の必要性について述べたが、
「インパ
クトの小さい大量のディテールを大幅に削減する」だけでは収益性は改善できても売上向上にはつな
がらない。新たなモデルではMRとeチャネルを有機的に組み合わせたマルチチャネルアプローチがカ
ギとなるが、本号ではまずMRによるアプローチの変革について述べていきたい。
①の医師に対してはMRの頻回訪
は「How(=どう情報を伝えるか)」
問、ディテールが有効であるのに対
を有効に行うという点で重要である
し、②、③、④の医師に対しては月
が、同様に「What(=何を伝えるか)」
前号で「内科開業医の降圧剤処
1~2回の最低限必要な頻度を超え
についてもプロファイリングが重要
方、ブランド変更のドライバー」の
るコールやディテールは有効性が低
である。各ドクターの「処方パター
分析結果として示した通り、医師の
いばかりか、むしろマイナスになり
ン」、「薬剤選択理由」についてのプ
処方ドライバーは個々の医師毎に大
かねない。重要なことは、個々の
ロファイリングが重要なことはいう
きく異なる。①MRとの関係、訪問
ターゲット医師の処方ドライバーを
までもないが、患者単位の症例情報
頻度、ディテールの内容といった伝
正しく理解(プロファイリング)し、
に基づいた「臨床ニーズ」、医師で
統的なMRのアプローチが有効な医
それに応じた正しいアプローチを行
あると同時に病院経営者、研究者等
師が現在でも少なからず存在する一
うことである。さらに各ドクターが
としての「臨床以外のニーズ」につ
方、 ②P2P(Peer-to-Peer、 個 人 的
MR、P2P等どの「チャネル」から
いても正しく把握する必要がある。
につながりのある他の医師からの影
のコミュニケーションを求めている
ところが実際にはMRが医師のプ
響)が有効な医師、③インターネッ
のか、どれが有効なのか、だけでは
ロファイリングが出来ていないまま
ト経由の情報が処方ドライバーとな
なく、P2Pであればどの様なPeer医
にディテールを繰り返しているケー
る医師、④講演会等MR以外のリア
師からの影響を受けるのかといった
スが多い。図1に約100人の医師に
ルチャネルでのエビデンスが処方変
より具体的な「ソース」までを把握
ある疾患(疾患X)に関する最も重
更の決め手となる医師、等もそれぞ
する必要がある。
要な薬剤選択理由をヒアリングした
れかなりの割合で存在する。
上記の「チャネル」や「ソース」
後、各医師の担当MRに「当該医師
「話す」
(ディテール)から
「聞く」
(プロファイリング)へ
矢吹 博隆(やぶき ひろたか)
ベイン・アンド・カンパニー・ジャパン パートナー
18年にわたり、全社戦略、研究開発戦略、営業・マーケティング戦略などを中心に、日本国内および外資系製薬企業、医療機器メーカー等のヘル
スケア分野でコンサルティング経験を有す。
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Monthly ミクス2012年12月号
の疾患Xについての最も重要な薬剤
大幅な向上、医師のニーズに合致し
師に影響力を持ち、かつその医師の
選択理由は何であると考えるか?」
た情報伝達、自社品処方の増大が可
ニーズや悩みに応える最適な情報
をヒアリングし、医師とMRの回答
能なはずである。MRの役割として
(自身の患者に当該製品を投与した
を付き合わせた結果を示す。この
「話すこと」(ディテーリング)から
結果の症例等)を伝達できるPeer
ケ ー ス で はMRは 担 当 医 師 の プ ロ
「聞くこと」(プロファイリング)へ
を特定し、そのPeerとの座談会を
ファイルのうち最も基本的な情報であ
のシフトが必要、という訳である。
企画実行するといった役割である。
全国規模の講演会やウェブ講演会等
る「薬剤選択理由」についてほとんど
理解できていないことがわかる。
「ディテーラー」から「オーガ
ナイザー、ナビゲーター」へ
各医師の正確なプロファイリング
を行うためには、医師本人とのコ
のインターネット上のイベントであ
れば本社がオーガナイズすることが
可能であるが、座談会等のローカル、
ミュニケーションだけではなく、同
正確なプロファイリングの次に
マイクロなものについては個々の
僚医師、コメディカル等のヒアリン
は、その結果に応じた「What」を
MRがオーガナイズ力を高め、企画、
グ等多くの時間や活動が必要だが、
最適な「How」で提供していく必
実行していくしかない。
インパクトの小さい(=医師のニー
要がある。そのためには、「オーガ
「ナビゲーター」は最適なチャネ
ズに合っていない)ディテーリング
ナイザー」や「ナビゲーター」とし
ル、影響ソースに医師を誘導してい
を削減した時間の一部をプロファイ
てのMRの役割が重要になってくる
く役割である。講演会、座談会等の
リングに費やすことにより、また
(図2)
。
「オーガナイザー」とは、
リアルのイベントについては、多忙
iPad等の新たなツールを活用するこ
例えばP2Pが処方変更のドライバー
な医師に自社の全てのイベントに参
とにより、プロファイリング精度の
となっている医師であれば、その医
加してもらうことは難しい。一方医
MR 無回答
各医師の担当 MR
への質問:
「あなたの担当する医
師にとって、疾患 Xに
関する最も重 要な薬
剤選択理由は何であ
ると考えますか?」
その他
D 効果
MR の
認識
MR 無回答
MR
無回答
MR 無回答
MR 無回答
図1 医師の実際の処方薬選択理由とMR の認識のズレの例
MRが担当医師の
処方薬選択理由に
ついて回答出来ず
その他
その他
C 副作用
D 効果
B の改善
C 副作用
その他
B の改善
A 作用
A 作用
医師の回答と
MR の認識にズレ
A 作用
A 作用
例:
医師は「A 作用」と回
答したが、担 当 MRは
「Bの改善」と回答(=
認識のズレ)
B の改善
医師の回答:
注 : データはディスガイズしてあります
A 作用
B の改善
C 副作用
D
効果 その他
C 副作用
D 効果 その他
医師の回答と
MR の認識が一致
100 人の医師への質問:
「あなたにとって、疾患 Xに関する最も重要な薬剤選択理由は何ですか?」
Monthly ミクス2012年12月号
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図2 “オーガナイザー・ナビゲーター”としての新たなMR の役割
伝統的なMR のアプローチ
新たなアプローチ
処方変更
オピニオンリーダー
処方変更
医師
医師
P2Pネットワーク
MR
講演会
MR
E-チャネル
“ディテーラー”としての MR
“オーガナイザー・ナビゲーター”としての MR
ー 頻繁なコール・ディテール
による処方のドライブ
ー 各医師のドライバーとなる機会(交流の場、講演会等)
をオーガナイズ、医師をナビゲート
師にとっても処方に影響を与える様
MRに求められる領域専門性、ター
Effectiveness)、MR研修についても
なコンテンツ、演者のイベントは限
ゲット医師の領域、製品間のオー
変革が必要である。プロファイリン
られている。ドクターごとのプロ
バーラップを考慮して最適な営業体
グ、オーガニゼーション、ナビゲー
ファイリングの結果に応じて最適な
制(ジェネラルvs.専任MR、ジェネ
ションのスキルと共に、それらを効
イベントに如何に各医師をナビゲー
ラルMRの専門性サポート)を構築、
果的に行うために必要な医師との関
トしていくのかが、処方獲得という
再編成していく必要がある。 係 構 築を、接 待 等の旧来的なやり
結果を大きく左右する。また、イン
第二に、MRのマネジメント・プ
方に頼らずに行うためのスキルのト
ターネット上のコンテンツやイベン
ロセス評価については、ディテール
レーニングが重要となる。またSFE
トについても、視聴率、処方への影
数による評価からプロファイリン
のアプローチのうちセグメンテー
響の大きさはMRのナビゲート次第
グ、オーガニゼーション、ナビゲー
ション、ターゲティングについては、
で大きく変わってくる。
ションの成果へシフトすべきであ
各医師の処方量や影響度といった従
る。現状の営業アプローチが過度な
来の指標だけでなく、MRのディテー
コール、ディテール頻度となってい
ルに対するニーズやインパクトも考
る重要な一因としては、プロセス指
慮に入れて行うべきである。頻回ディ
以上述べてきたMRのアプローチ
標として最も測定しやすいコール数
テールが処方をドライブしない医師
や役割の変化と共に、本社サイドで
やディテール数が偏重され過ぎてし
セグメントに対して一定量以上の高
も多くの変革が必要となってくる。
まっているということがあるためで
頻度ディテールを行っても、インパ
第一に、営業体制については、プロ
ある。プロファイリングについては
クトは期待できない。
ファイリング、オーガニゼーショ
その精度、オーガニゼーション/ナ
最後に最も重要なポイントとして
ン、ナビゲーションの効果を高めよ
ビゲーションについてはその結果に
は、MRの活動とeチャネル等を有
うとすれば、同一ドクターに対して
対するターゲット医師の評価を測
機的に組み合わせたマルチチャネル
は複数のMRが担当するよりも同一
定、活用することが可能である。
アプローチがカギとなるが、これに
本社サイドの必要な変革
のMRが担当した方が有効である。
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第
三
に、SFE(Sales Force
ついては次号で述べていきたい。