1 はじめに 2 わずか2時間の授業で読書感想文の質が大きく変わる

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はじめに
「読書感想文を書かせるから,子どもは本が嫌いになるのだ。」という声をよく耳にす
る。
確かに夏休みの宿題としての読書感想文は,子どもにとっては大きな悩みの種である。
それは私たち教師が「読書感想文の書き方」をきちんと教えていないことに一つの原因
がある。
ある作品に出会うことによって人生観が変わったり,夢や勇気をもらったり,悩みや苦
しみを乗り越えることができたりする。それが読書の本当の面白さ・楽しさといえよう。
本発表では,作品と自己との関係を見つめさせ,自己の成長を実感させる読書感想文の
書き方について,国語科教育の立場からの提案をする。
なお,以下の内容は,第13回日本教育技術学会(於 早稲田大学 平成11年11月
13日)において発表したものを一部修正・加筆したものである。
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わずか2 時間の授業で読 書感想文の質 が大きく変わる
「読書感想文指導の秘訣」という特集が『教室ツーウェイ』誌(明治図書)で組まれた
のは1992年7月号であった。そのメインとなっているのが「山田式読書感想文指導」
である。
山田加代子氏(当時 新潟市立東曽野木小学校)が開発した指導法は抜群である。内閣
総理大臣賞・文部大臣賞受賞に導いた実績ある実践である。これは『市毛式生活作文&山
田式感想文の技術』大森修編著(明治図書)の中で詳しく紹介されている。
ここで私が紹介する指導は,「寺崎型分析批評」による文学作品の読み方指導を作文指
導に応用したものである。(私の国語の授業では「文学作品の読み方」を系統的に学習さ
せている。別資料「アンパンマンで文学作品の読み方を教える」参照のこと。)
今回紹介する「読書感想文の書き方」指導には,次のような特長がある。
◎ わずか2時間の授業で読書感想文の質が大きく変わる。しかも,全体的に
レベルアップする。
◎ 生徒の書いた作品に一切赤ペンを入れずにコンクールに応募できる。
◎ 昨年までの9年間,県内コンクールにすべて入賞している。ちなみに,そ
のうち7回が金賞,全国コンクール入賞2回であった。
指導の基本的な考え方は,山田氏のものと同じである。正直言って,作文指導としては
「山田式読書感想文指導」の方がずっと優れている。
ここで提案する指導法は「事前指導」である。悪く言えば,一方的な講義形式の授業で
ある。
それでも,生徒たちは目を輝かせて私の話を聞いてくれる。そして,わずか2時間の授
業で,学年全体の読書感想文の質が大きくレベルアップする。
読書感想文は夏休みの宿題になることが多い。
にもかかわらず,読書感想文の書き方をきちんと指導している国語教師はほとんどいな
い。かつては私もその一人であった。
中学生はそのような教師の無責任さに敏感である。私の指導法は国語教師としての罪悪
感から生まれたものである。
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読書感想 文の書き方を教 える授業
読書感想文コンクール入選作品には共通点がある。
そのことにようやく気づいたのは,今から11年前の秋(1991年)だった。
「せめて夏休み直前の授業で読書感想文の書き方をきちんと教えておきたい」という思
いから,私は読書感想文コンクール入選作品に片っ端から目を通した。
次の作品は読書感想文の書き方の原則(私が実践している「寺崎型分析批評」による文
学作品の授業との関連性)に気づかせてくれたものである。(別紙資料参照)
1991年 富山県「文庫による読書感想文コンクール」高校の部 金賞作品
「一房の葡萄」を読んで
山本佐智子さん(上市高校2年)
山本さんの作品は入選作品の典型的なパターンで書かれている。
以下,読書感想文の書き方を教える授業の実際を示す。
第1時
今 回の 学習 は「 絶対 に入 選す る読 書感想 文の 書き 方」 です 。読 書感 想文 を書 くた め
の必 殺技 を教 えて あげ ます 。こ の技 は私が 研究 に研 究を 重ね た結 果あ みだ した もの で
すか ら, 他の 人に は内 緒に して おい てくだ さい 。
導入はこのくらい大げさにやった方がいい。
た だし ,そ の秘 密を 学習 する のは 次の時 間で す。
今 日は 『一 房の 葡萄 』( 有島 武郎 )と いう短 い文 学作 品を 読ん で, 簡単 な感 想文 を書
きま す。
次 の時 間に は, この 作品 を読 んで 県で最 優秀 賞を とっ た読 書感 想文 を紹 介し ます 。
自 分が 書い た感 想文 と比 べな がら ,読書 感想 文の 書き 方を 学習 しま しょ う。
『一房の葡萄』(有島武郎)は文庫本で8ページ程度の短編作品である。
たまには教科書教材以外の作品を教師が読み聞かせするのもいい。
比較的わかりやすいストーリー展開であるため,普段は教科書準拠の朗読CDを聞か
せると居眠りをしてしまうような生徒でも,結構集中して教師の朗読に耳を傾けてくれ
るだろう。(本文を印刷したプリントを配布)
感想を書かせる前に,次のようなアドバイスをする。
文 学作 品を 読む 時に 最初 に目 をつ けるこ とは 何で すか ?
そ うで すね 。「 題名 」で すね 。
な ぜ『 一房 の葡 萄』 とい う題 名な んでし ょう か? 何 か意 味が あり そう です 。
主 役が こだ わり 続け てい るモ ノと いうこ とで すね 。
「 題名 」に 隠さ れた 謎に 関連 して 感想を 書く とい いで すよ 。
このように「寺崎型分析批評」による文学作品の読み方を意識的に使うように促す。
技術というものは繰り返し使うことによって習熟するからである。
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罫線の入った感想用紙を配布し,感想文を書かせる。感想を書くことが苦手な生徒には
次のように言う。
と にか く人 間が 読め る字 でた くさ ん書き なさ い。 内容 はど うで もい いか ら, プリ ント
いっ ぱい に書 きな さい 。チ ャイ ムが 鳴った ら白 紙で も集 めま す。
集 め た 感 想 プ リ ント は 一 通 り 目 を 通 し て おき , 次 時 に 生 徒 に 返 す。
第2時
2時間目の授業がメインである。
今 日は 約束 どお り「 絶対 に入 選す る読書 感想 文の 書き 方」 を教 えま す。
(と 言い なが ら, 板書 には 「入 選す る」の 後に 小さ く「 かも ?」 をつ けて 書く と面 白
い 。「 先生 ,そ の『 かも ?』 は何 ?」 という こと にな る 。)
ここで前時に書かせた感想文を配布し,友達同士で互いの感想文の読み合いをさせる。
時 間を 3分 間あ げま すか ら, 友達 同士で 交換 し合 って 互い の感 想文 を読 み合 いし な
さい 。席 を立 って もい いで すよ 。ど うぞ。
時間があれば,教師側から指名し何人かの生徒に感想発表させてもいい。
次に,山本さんの読書感想文(別紙資料の下の解説部分は折り曲げて見えないように
しておく)を配布し,教師が読み聞かせをする。
自 分が 書い た感 想文 と比 べて どう ですか ?
読 書感 想文 の書 き方 の秘 密に つい て気づ いた こと はあ りま せん か?
何人かの生徒に発表させる。初めに自分の体験が書かれていること,あらすじがまと
めて書かれていること,題名に隠された意味を書いていることなどに気づくだろう。中
には,作品と関連した自分の体験が書かれていることを指摘する生徒もいる。
ここで,山本さんの作品の構成を明らかにしながら,「読書感想文の書き方」のポイ
ントを説明していく。
ポ イン ト1
読書 感想 文は 「感想 文」 では ない 。「 生活 体験 作文 (読 書体 験作 文 )」で ある 。
・ ・・ ・・ まず は意 識の 転換 が絶 対に 必要
感想文だと思うから,あらすじを書きたくなるのである。
あ らす じと 感想 だけ で原 稿用 紙5 枚も書 こう とす るか ら嫌 にな るん です 。
感 想文 なん て言 葉は 捨て なさ い。 生活体 験作 文を 書く ので す。 まず は意 識を 変え な
いと ダメ です 。
ポ イン ト2
書 き出 しは 「自 分の 体験 」を 書く 。( 目安は 原稿 用紙 1枚 )
どんな体験でもよいのではない 。「自分が読んだ作品と関連した体験」を見つけるので
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ある。これまでの自分の生活(人生)を振り返って,似たような体験をしたことがないか
を考えるのである。
山本さんの作品の場合は次のようになっている。(生徒に問いかけながら説明する)
=
「自 分の 体験 」… …花 の美 しさ に心 を奪わ れ, 隣の 家の 花を 盗ん でし まう 。
「一 房の 葡萄 」… …ジ ムの 持っ てい る絵の 具の 美し さに 心を 奪わ れ, 盗ん でし まう 。
こういう説明をすると,次のような質問をする生徒が出てくる。
先 生 ,『十 五少 年漂 流記 』を 読ん で感 動した んで すが ,僕 は漂 流し たこ とが あり ま
せん 。
当たり前である。本当に漂流したことがあるんだったら,一冊の本が書けるだろう。
全く 同じ 体験 を書 きな さいと は言 って いま せん 。似 たよ うな 体験 を探 すの です 。
例 えば ,小 さい ころ に迷 子に なっ てしま った こと ,キ ャン プに 行っ て自 分で 食事 を
初め て作 った こと など ,何 でも いい んです 。
ここで,書き出しはいきなり描写から入ることについても簡単に触れておく。「その日
は朝から雨が降っていた」「目の前には青い空が広がっていた」などの例を提示するとよ
い。
「この本を読んで一番感動したことは……」という書き出しは絶対ダメであることを強
調しておく。
ポ イン ト3
あ らす じは まと めて 書き ,自 分な りの解 釈を プラ スす る。 (目安 は原 稿用紙 1枚 半)
あらすじを初めから最後までだらだらと書かないことがポイントである。まとめて1か
所に書いてしまうのである。
この部分に自分なりの解釈がどれだけプラスできるかも腕の見せ所である。「分析批評」
で鍛えられている生徒ならば,かなり深い解釈をプラスできるだろう。
ポ イン ト4
「 題名 」に こだ わる 。
山本さんの作品の場合は「葡萄 」,別資料の藤田さんの作品の場合は「蛍」をキーワー
ドにして作品の解釈をしていることがわかるだろう。
これはどちらも「寺崎型分析批評」でいうところの「主役がこだわり続けているモノ」
に関連している。自分なりの作品解釈をプラスするときに,テーマと関連したモノ(目に
見える具体物)を一つ決めるのである。
ポ イン ト5
「 作品 」と 「自 分の 体験 」と の関 連性を 書く 。( 目安 は原 稿用 紙1 枚)
自 分自 身の 心が 作品 と出 会う こと によっ てプ ラス の方 向に 転換 した こと (つ まり ,
自分 の心 が成 長し た, 大人 に一 歩近 づいた こと )を 書く 。
読書感想文に求められていることは,「ある作品との出会いが人の生き方にどのように
プラスに働いているか」なのである。極論を言えば,「この作品と出会ってよかった」と
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いう内容が書かれていない読書感想文は評価されないのである。
山 本さ んの 場合 ……
作 品『 一房 の葡萄 』と 出会 うこ とに よっ て, 親が 自分 に対 し
て厳 しく 接し ていた こと の真 意を 初め て知 る。
童 話に 対す る見方 や考 え方 が変 わっ た。
藤 田さ んの 場合 …… 命 があ るこ との意 味や 大切 さを 忘れ ては なら ない こと を再 認
識 した 。
「寺崎型分析批評」の授業では,作品の謎を解くキーワードを見つける学習の中で,主
役の心の転換(転換点)を検討する。これと同じである。
優れた読書感想文は一つの文学作品と言える。つまり,入選する作品というのは,主役
である書き手の心が大きく転換しているものが多いということになる。
ここで大切なのは,読書体験が自分自身の人間形成に大きく影響するのだということを
実感させることである。読書感想文を書こうとする行為が自分の「心の成長探し」にいつ
の間にか転換していくのである。これが今回の指導のねらいの一つである。
ポ イン ト6
基 本的 な構 成は 「は じめ ・な か・ おわり 」の 3部 構成 とす る。
はじめ
体
験
+
なか
作
品
おわり
=
成
長
(心の転換)
こ れ を 基 本 形 に して 読 書 感 想 文
を 書 い て い け ば よ い。
ポ イン ト7
自 分が 本当 に感 動し た作 品を 選ぶ 。
当たり前のことであるが強調しておきたい。本当に感動しなければ,自分の心がプラス
の方向に転換する(成長する)はずがない。
だから,1冊の本を読んでピンとこなかったら,違う本をさらに読むしかないことを教
えるのである。
「作品と関連した自分の体験」が見つからない時も同じである。本当に感動した作品な
らば,自分の心に触れる何かがあるものである。
以上のことを説明した後,昨年度の入賞作品を紹介するとよい。
最後に,別資料の構想プリント(色付西洋紙に両面印刷したもの。この間にはさんで作
品を提出させている。)を配布し,簡単に書き方を説明する。
先のポイント1∼7に対応した形になっているが,作品の解釈を深める手助けとなるよ
うに次の項目をプラスしている。
⑶ 特に 印象 に残 った 部分 (セリ フや 表現な ど)を 抜き 出し て,一言 コメ ント を書 こう !
藤田さんの作品で,「節子」が蛍の墓を作っている場面が引用されている。この構想プ
リントを効果的に活用している一例である。
さらに付記しておきたいポイントがある。
作 品は 必ず 「ペ ン書 き清 書」 で提 出させ る。
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これは理屈抜きである。作品のレベルがアップする。ペン書きによる清書は無意識のう
ちに推敲しながら書くことを促すのである。これはぜひお勧めしたいポイントである。
また,コンクールに応募する作品を選出したら,私は次のような指導をするだけである。
大 変す ばら しい 作品で した 。コ ンク ール に応 募し ます ので ,一 応推 敲し てく ださい 。
ど うせ なら 賞を ねら いま しょ う。 漢字の 間違 いは 絶対 にチ ェッ クし まし ょう 。な る
べく 漢字 を使 うよ うに しな さい 。
読 みや すい よう に段 落を 多め にと るよう にし たほ うが いい です よ。
生徒の作品には一切赤ペンは入れないことにしている。(意外と教師の手が入った作品
が多いのも事実である)
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最後に念のために
このような読書感想文の指導はコンクールの入賞を狙うためのノウハウを教えることを
目的にしているのではないことを付け加えておく。
学年の生徒全員が書く読書感想文の質が大きく変わるのである。読むのが面白くなるの
である。(これまでは「あらすじ」ばかりを読まされていたのだから……)
さらに,読書感想文から読書体験作文へと意識を転換させることで,自己の成長をこれ
まで以上に実感する読書が可能となる。そして,読書の本当の面白さ・楽しさを実感でき
るようになるのである。
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