照度の上限について Q 半導体工場の産業医から相談を受けたのですが、作業場の照度に上限はあるのでしょうか。 安衛法等では、下限についての基準がありますが、上限については記述がありません。JIS の照 度基準等をみても良く分かりません。太陽光はかなり照度が高いですので、明るすぎることにつ いては大丈夫ではないかと素人的に思うのですが、専門家のご意見を教えて下さい。 ① 眼科的に、明るすぎる照明で目に悪影響を及ぼす可能性はあるのでしょうか。 ② もしあるのであれば、どの程度の照度で、どの程度の曝露時間に作業管理をすればいいのでしょうか。 A 解る範囲でお答えします。 ① 太陽光は 10,000[lx]、 1,000,000cd(輝度)で、網膜障害を 引き起こす輝度は 100,000,000cd で す。通常の作業環境で太陽光以上 ないと考えられますので、10,000[lx]以下の環境下で の関係についての調査2)では照度が高い方が目 の調節時間が短くなり眼精疲労が少なかったとい うことからも、十分な照度を保つことは作業能率向 上・眼精疲労対策の面で重要であるといえます。 ただし、これは照明の量的問題に限ったことであり、 眼精疲労対策では質的問題も重要になってきま は問題ないと思われます。ただし、通常の事務作業 (私の机の照度は 350~400[lx]<ブラインドを閉めて 蛍光灯のみ>)であり、常識的に考えて 5,000[lx]を超 える屋内環境は異常な明るさです。 ② 1)照明の要件について 照明要件の中で重要とされる照度・グレアの制限・ す。これについては、作業面での明暗の対比を少 なくする対策、つまり、作業面での全般照明と局 部照明の差を少なくするような調整が重要である と思われます。(前述の均斉度の基準からは、全 般照明を局部照明の1/10 以上にすることが奨 光色・演色性につきましては、照明学会・技術規格 JIES-008(1999)・屋内照明基準 1)において、作業の種 類ごとに推奨値が示されています。目視検査のような 精密な検査における照明基準は、推奨照度:2,000 [lx](局部照明で得てもよい)、不快グレア:D2(十分 ではないがよく防止されている)、光色:中・涼(光色の められます)このように照度においては、量的問題 (照度)と質的問題(均斉度)の両者を考慮に入れ ることが重要であるといえます。 b 不快グレア:現在、a) 全般照明からのグレア、b) VDT 画面への映りこみに基づくグレア、に対して 印象が中間~涼しい)、演色性:2(60≦平均演色評 価数 Ra<80)となっております。それぞれの要件につ きもう少し詳しく述べます。 の防止基準が定められています。 全般照明から 照度:超精密な視作業においては、作業面推奨 査のグレア防止区分は D2(十分ではないがよく防 照度(照度範囲を代表する値)は 2,000[lx]、照度 止されている)となっております。不快グレアを防 範囲 1,500~3,000[lx]で、特に高齢者や視覚機 止するための最も簡便な方法は輝度の高い照明 能が低下した人の視覚的要求を考慮する場合に 器具を用いないことですが、照明器具の輝度制 は、照度範囲の上限値にできるだけ近い値をとる 限値を定めた G 分類は不快グレア防止区分と対 こととされています。また、全般照明の照度の均斉 応しており、実際の照明器具を選択する際の目安 度は、対象区域における同一作業面において、 になるかと思います。ちなみに D2 と対応する照明 原則として最小/最大を1/10 以上とすることとさ 器具の G 分類は G1a となり、この輝度特性は れています。2~5,000[lx]の範囲で行われた照度 A-A’及び B-B’断面において鉛直角 65°、75°、 と作業能率の関係についての調査 2) では照度が 85°の輝度がそれぞれ 7,200 以下、4,600 以下、 高くなるほど作業能率が向上しており、また 10~ 4,600 以下(単位:[cd/m2])を満たすものとされ 1,000[lx]の範囲で行われた照度と目の調節時間 ています。 a のグレア防止基準では、不快グレアの防止すべき 程度が D1~5 の 5 段階で示されており、精密な検 21 光色:光源の光色の印象を相関色温度[光の強 HID ランプ、電球)、配光の広い低輝度光源(例: 弱によって異なる光の色を、温度によって表した 反射笠、ルーバ、プリズムパネルを有する蛍光ラ もので、K(ケルビン)という単位が使用されていま ンプ)、発光面積が大きく低輝度で均一な輝度の す。晴天の太陽光(5,500K)を基準とし、それよりも 光源(例:拡散パネルを有する蛍光ランプ)などを 高くなると青っぽい光、低くなると赤っぽい光となり 用い、検査対象物の裏側から光源を通過させる。 以上のように、検査照明においては、光源の照明 特性、取付位置についても考慮する必要があります。 3) 作業時間等について 現時点で目視検査の作業時間に関する基準はな いようです。 ただし、VDT 作業に関しては適切な作業時間につ c ます。]により分類した光色分類によると、精密な 検査で推奨されている光色の印象:中間・涼しい では、相関色温度はそれぞれ 3,300~5,300[K]、 5,300[K]以上とされています。ちなみに推奨され る光色の根拠は、科学的というよりは、経験的なも ののようです。 いての研究が多数なされており、その中から参考にな ると思われる文献を紹介致します。Balci ら4)は、120 分 の VDT 単純入力作業を行なうのに、①60 分の連続作 業後に 10 分の休憩、②30 分の連続作業後に 5 分の 休憩、③15 分毎に短い休憩を入れるという、3 パター ンのタイムスケジュールを設定し比較しています。結 演色性:光源によって室内の対象物の色がどれ d 位自然に見えるかは、演色性で表されます。演色 性の程度は、JIS Z 8726(光源の演色性評価方 法)に規定される平均演色評価数(Ra)によって表 されます。Ra の低い照明光の下では、色の識別 果は、眼精疲労の訴えが少なかったのは②と③の群 で、筋骨格系症状の訴えが少なかったのは③の群、 最も能率が良かったのは③の群と、休憩時間を頻回 に入れる方が、能率・眼精疲労の面から見て優れて いるということでした。 また企業によっては 1 日の目視検査(検ビン作業) が困難になるばかりでなく、人の顔や肌の色が不 自然、不健康に見えることが多く、部屋の目的に 応じてできるだけ Ra の高い照明光を使用すること が望ましいとされています。精密な検査では、60 ≦Ra<80 が推奨されています。ちなみに、わが国 のオフィスでよく利用されている白色蛍光灯の平 の作業時間を 4 時間、連続作業時間を 15 分とし、頻 回に休憩時間を設定するといった方法がとられている ところもあるようです。 また、眼精疲労を考える上で、視器そのものの問題 (屈折異常等)で発症している場合も多くあります。特 に遠視や乱視は、いかなる近距離作業でも屈折矯正 均評価数は 63、昼色蛍光灯は 77 となっています 3) 。 以上、照明要件の中で重要とされる照度・グレアの 制限・光色・演色性につき、照明学会・屋内照明基準 の推奨値を中心に述べました。 2) 検査照明の手法について 検査照明の手法としては、局部照明の手法の応用 によるものが一般的ですが、検査対象物の光学特性 を明確にした上で、それぞれの光学特性に応じた適 切な光源の種類とその取付位置(検査員の視線およ び検査対象物と光源の幾何学的な位置関係)を決定 を行っていないと、眼精疲労を必ず生じます(遠視の 場合、遠見視ですでに毛様体筋を収縮させ調節機能 を使用して明視しています。従って、近業に際しては、 さらに調節を酷使する事になり眼精疲労を発症しま す)。近視と乱視は、5m 視力値が低下しているので発 見しやすいのですが、絶対遠視(遠視の度数が自身 する必要があります。照明学会:工場照明2)に検査対 象物の光学的特性別にみた検査照明手法の一覧が 記載されており、その中で御質問の作業内容に該当 する部分につき述べます。平面的な検査対象物で、 フィルムのように半透明材料の場合、次の2つの手法 が推奨されています。 の調節力よりひどい遠視)以外の遠視は裸眼での 5m 視力検査では、値が 1.0(小数視力値)以上となり、通 常の健診で行っている裸眼視力検査では発見が不 可能です。作業環境の改善をしても症状の改善が見 られない時には、一度屈折矯正が、適正であるかを調 査してみることも有用であると思われます。 指向性の強い光源(例:狭角形の反射板を有する 参考文献 1) 屋内照明基準・照明学会・技術規格 JIES-008(1999) 2) 照明学会:工場照明(2001) 3) 高橋誠:照明、現代労働衛生ハンドブック、 pp334-351、労働科学研究所(1988) a HID ランプ、電球、蛍光ランプ)を用い、検査対象 物に対して斜め側方から照射する。 b 配光の広い高輝度光源(例:拡散反射笠を有する 22 4) Rana Balci et al., The effect of work-rest schedules and type of task on the discomfort and performance of VDT users. Ergonomics, 2003: 46(5): 455-465 23
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