生活習慣病予防と牛乳の役割 日本は世界で一番の長寿国になりました。しかしながら、生活習慣病にかかる人はむしろ増 えていて、65 歳以上では6 割以上の人が通院を必要とする疾病をかかえています。そして最近 の研究では、生活習慣病はやはり食生活が少なからず関係しているといわれています。そこで、 食品の中でも注目されているのがエネルギー量の割には栄養素密度が高い牛乳です。牛乳を上 手に摂取することで、どのように生活習慣病を予防し、改善していくのか、具体的にまとめてみ ました。 *生活習慣病とは 不適切な食生活や運動不足、過度の飲酒や喫煙、ストレスなど、生活習慣が深く関わって発症する 病気で、高血圧や高脂血症、糖尿病、骨粗しょう症などを生活習慣病と呼ぶ。 図表10 日本人の主な死因による死亡率(人口10万人対)の年次推移 250 がん 200 140 心疾患(高血圧を除く) 100 脳血管疾患 老 衰 腎不全 50 0 糖尿病 高血圧性疾患 1975 1980 1985 1990 1995 1998 1999 2000 2001 2002 資料:厚生労働省「人口動態統計」 ―18― 生活習慣病予防と牛乳の役割 図表11 性別にみた通院患者率上位5傷疾病の年次推移 (%) 80 (%) 80 男 70 60 性 2001年 1998年 1995年 64.9 56.4 54.3 70 50 40 40 30 32.7 31.7 31.5 28.8 20.0 16.4 性 2001年 1998年 1995年 52.1 47.1 46.8 40.7 39.8 38.7 37.2 36.2 34.2 33.2 30 24.9 20 女 71.5 71.2 60 50 34.2 35.1 32.6 78.2 20 18.5 10 10 0 0 第1位 高血圧症 第2位 ムシ歯 第3位 腰痛症 第4位 糖尿症 0 0 第5位 高脂血症 第1位 高血圧症 第2位 ムシ歯 第3位 腰痛症 第4位 糖尿症 0 第5位 高脂血症 資料:厚生労働省「国民生活基準調査」 ●高血圧と牛乳 高血圧は日本人に最も多い生活習慣病で、その原因は遺伝因子が強いといわれていますが、 現代では肥満も大きな原因です。そのため食事を含めた生活習慣が大きく影響するといわれて います。 高血圧を改善する食生活のポイントは二つあり、ひとつは塩分、もうひとつは体重のコント ロールです。塩分については、日本人は10g/日以下(欧米では6 g/日以下を推奨)が適量と されていますが、これはしょうゆやみそベースの和食が、脂肪の摂取量や体重のコントロール に役立つからです。さらに、牛乳を和食などに使えば効果的で、牛乳をだし代わりに使うことで しょうゆやみそを控えてもこくやうまみが出て、もの足りなさを感じさせません。その上、具に 野菜をたっぷり使えば、牛乳のカリウムに野菜からのそれが加わり、ナトリウムの排泄効果が 高まります。 また、牛乳に含まれるカルシウムは、直接血圧のコントロールに役立つので、その補給源とし ても欠かせない食品です。 ●高脂血症と牛乳 高脂血症には、コレステロール値が高い、中性脂肪が多いなどの症状があり、年齢に関係なく 10 代の若者でも、コレステロール値が高いことが明らかになっています。日本人にこれほど高 脂血症が増えたのは、食事の外食化や中食化に伴う栄養のアンバランス、肥満の増加などが原 因とされています。コレステロールの上昇は油脂、中性脂肪はアルコールや甘いものの過剰摂 取が問題とされていますが、特に高脂血症が弱年齢化しているのも、糖分の多い清涼飲料やア ルコール飲料のとりすぎが原因で、清涼飲料を牛乳に変えるだけでも高脂血症予防の効果が期 待できます。また、料理にも積極的に牛乳を取り入れることをおすすめします。例えば、クリー ム煮やグラタン、ミルクスープなど牛乳を使えば、低脂肪低塩分でコクのある味が味わえます し、甘いものがほしいときにも、ミルクプリンやブラマンジェなど牛乳を使えば、砂糖控えめで おいしいデザートが楽しめます。 ―19― 生活習慣病予防と牛乳の役割 ●糖尿病と牛乳 糖尿病は、いまや国民病とも言われています。2002 年の厚生労働省の調査では 1,620万人もの 予備軍がいると報告されました。糖尿病は直接の死因にはなりませんが、網膜症や神経障害、腎 症、動脈硬化の促進など、様々な合併症が起きてきます。 糖尿病の予防と改善には、血糖値の急激な上昇を防ぎ、低エネルギーで吸収速度の遅い食事 をすることが大きなポイントですが、その中で最近注目されているのが、血糖値の変化を示す 指標、グリセミック・インデックス(GI)です。脂肪や食物繊維を多く含んでいる食品が一般的に 低 GI食品ですが、難点は脂肪が多い食品は高エネルギーということです。その点、牛乳は脂肪が それほど多くなく、GI値も 27 と非常に低いので、糖尿病などエネルギーをコントロールしたい 人には最適の食品です。 さらに、牛乳に食物繊維を加えることで吸収がゆっくりとなり、GI値もぐんと低くなります。 ●骨粗しょう症と牛乳 女性の要介護の原因は、脳血管疾患に次いで骨折、転倒ですが、その理由として女性は閉経後、 骨粗鬆症が急増するためと考えられます。骨粗鬆症は、骨の主成分であるカルシウムの不足が 最大の原因ですから、生理的に不足する分カルシウムをしっかりと補給することが必要になっ てきます。成人女性の必要な摂取量は、1日 800mg以上が理想とされていますが、カルシウムは もともと吸収されにくい栄養素です。特に吸収率が低下する中高年になれば、吸収しやすい食 品を選ぶことが大切です。牛乳は 100g中に 110mgものカルシウムを含んでいる上に、カルシウ ムの吸収を促す乳糖を含みます。また、牛乳のたんぱく質が分解される過程で生じるガゼイン ホスホペプチドもカルシウムの吸収を助けます。また、骨の形成に必要とされるたんぱく質や リンなどもバランスよく含まれています。 また、ビタミンD やKを含む食品と一緒に摂るとカルシウムの吸収をさらに促進します。ビタ ミン Dは鮭やひらめなどの魚介類に豊富です。魚介類を使ってグラタンやクリーム煮にすると、 カルシウムとビタミン D が一緒に取れて効果的です。ビタミン Kは、納豆や青菜に多く含まれて います。これらの食材を使って牛乳をだし代わりにみそ汁や卵焼きを作れば、コクのある味わ いを楽しむこともできます。 逆に取り過ぎに注意したいのが、リンです。リンはカルシウムに対して体内に過剰にあると、 カルシウムの排泄を促してしまいます。リンは、肉や魚、牛乳など動物性食品には必ず含まれて います。牛乳はカルシウムとリンがほぼ理想的な比率で含まれていますが、肉はカルシウムが わずかしか含まれていませんので、肉食に偏るとリンの過剰摂取になる可能性があります。ま た、清涼飲料や練り製品にも食品添加物としてリンが多用されていますので、これらの過剰摂 取にも注意しましょう。 ―20― 生活習慣病予防と牛乳の役割 ●動脈硬化と牛乳 動脈硬化とは、動脈壁が硬く、内腔が狭くなって、血液が十分に流れない状態です。動脈硬化 を防ぐには、高血圧や高脂血症、糖尿病を予防、改善することが一番ですが、カルシウムを十分 に摂取することも、その予防を促します。また、カルシウムは動脈硬化の促進因子、高血圧の予 防にも貢献するので、カルシウムを多く含む牛乳の摂取は、動脈硬化の二重三重のガードにな ります。 さらに、血流をよくする成分を摂ればより効果的です。抗酸化作用のあるβカロテンやビタ ミンC,Eを含む緑黄色野菜、血小板の凝集を妨げる大豆、EPSやDHAの豊富な青背魚など を牛乳と一緒に摂り、低エネルギーの調理を心がけましょう。 ●がんと牛乳 現在の日本人の死因の最多はがんで、私たちの身の回りには発がん物質とされるものがたく さんあります。しかし、発がん物質の攻撃を受けた細胞がすべてがん化するわけではなく、人体 に備わっている防御機能が活発に働いていればがん化を食い止めることができます。その防御 機能の強弱を左右するのが生活習慣で、中でも食生活が大きく影響します。 がん化した細胞を破壊するのはナチュラルキラー細胞(NK細胞)と呼ばれる白血球で、NK 細胞の活性を高めるのがサイトカインという免疫関連物質です。牛乳に含まれるたんぱく質の カゼインには、免疫系を活性化する働きがあり、サイトカインの産出を促す効果もあるので、が ん予防の効果が大いに期待できます。また、かぼちゃやブロッコリー、トマトなど抗酸化ビタミ ンや抗酸化物質、あるいは食物繊維を一緒に摂ることで、いっそう免疫力をつけ、がんを防ぐこ とができます。 ●肝臓病と牛乳 肝臓は、栄養成分を受け取る、エネルギーを生みだす、体に必要な形に再合成して送り出す、 体内で不要になった成分を排泄する、さらに有害物質の解毒作用など、まさに肝心かなめの臓 器です。数多くの肝臓病のうち、食事などの生活習慣と関連性が高いのがアルコール性肝障害 と脂肪肝あるいは非アルコール性脂肪肝炎です。これらの症状を緩和するには、アルコールや 炭水化物、特に糖質過多の清涼飲料や菓子類を控え、エネルギーや脂質の過剰摂取を改め、その 上で良質のたんぱく質、ビタミン類が不足しないようにすることが大切です。これらの栄養素 を過不足なく摂取し、バランスのよい食事に一役買うのが牛乳で、栄養素密度が高く、良質のた んぱく質や脂質の代謝に必要なビタミンB群が効率よく摂れるので、ぜひ習慣化して飲用する ことをおすすめします。 ―21―
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