発生ガス分析の応用展開 - 東レリサーチセンター

温度点でデータを取得することができることから、発
生ガスの温度依存性を把握することができる。また、
発生ガス分析の応用展開
容器内の雰囲気は、空気、不活性ガスなど目的に応じ
て変えることができるという特徴も有する。
材料物性研究部
小川賢吾
はじめに
1.
材料から発生したガスは、周辺部材の汚染や腐食、
ボイド等の発生による不具合、臭気など、様々なトラ
ブルの原因となる場合がある。そのようなトラブルの
原因解明のためには、発生ガスの組成や量を把握する
図 1 装置の概要
ことはもちろん、その温度や雰囲気など使用環境によ
る影響も考慮することが重要である。そのため、弊社
では、様々な条件で実施できるガス分析手法の開発に
2.2
トルエンの熱分解挙動解析
取り組んできた。例えば、ガスの捕集法としては、従
溶 液 が 沸 点 以 上 の高 温 下 に晒 さ れ た 時 の 熱 分解 挙
来からあるアクティブ捕集法、密閉空間内の気体を捕
動を解析することで、例えば密閉空間に封入された溶
集することができるパッシブ捕集法のほか、高温・高
液がそのまま焼却処分された際に危険な成分が発生し
湿下などの様々な条件でガス捕集して分析できるシス
ないか確認したり、加熱による臭気成分の分解、低減
テムの構築を行ってきた。また、加熱時の発生ガスの
が可能になるか確認したりすることができる。ここで
温度依存性や材料の熱分解挙動を調べるため、
は、有害性のあるベンゼン
TPD-MS 1) 法 の よ う な オ ン ラ イ ン 測 定 も 開 発 し た 。
使用されているトルエンについて、密閉された空気中
TPD-MS 法は、様々な加熱条件の制御が可能な加熱炉
での熱分解挙動を調べた。加熱温度は室温~ 1000℃
と質量分析計を直結し、加熱時に試料から発生したガ
(昇温速度 10℃/min)とし、100℃毎に発生ガスを採
スを質量分析計に連続的に導入する手法である。この
取して分析した。トルエンの熱分解に伴う各種成分の
手法により、加熱時の発生ガスの種類やその量を把握
発生挙動を図 2 に示す。
2) に代わる汎用溶媒として
できるほか、これらの温度依存性に関する情報も得る
ことができる。本稿では、TPD-MS 法を応用して、揮
発 性 試 料の 高 温域 で の熱 分解 挙 動 を解 析 した 事 例 、
UV 照射時の発生ガスをリアルタイムで分析した事例
について紹介する。
揮発性試料の熱分解挙動解析
2.
2.1
システムの概要
加熱時の材料の熱分解挙動を調べるためには、
TPD-MS 法のようなオンライン測定が有用であるが、
液体のような揮発性の高い試料の分析は難しい。同手
法はキャリヤーガスを流通させながら、加熱、測定す
るため、目的温度に到達するまでに試料が揮発してし
まうためである。また、ガス状試料に至っては全く測
図 2 トルエンの熱分解に伴う各種成分の発生挙動
定できない。このような試料の熱分解挙動を調べるに
は 、 密 閉系 で 加熱 す るこ とが で き るヘ ッ ドス ペ ー ス
図 2 に検出されているピークは、質量分析計に導入
(HS)法が有効であるが、従来の HS 法では 300℃程
されたガス成分が有するフラグメントイオンを表して
度までしか加熱できなかった。そこで、TPD-MS 装置
おり、 m/z 122,106,91,44 はそれぞれ、安息香酸、ベ
を改良し、密閉できる加熱チャンバーを作製し、
ンズアルデヒド、トルエン、二酸化炭素に帰属される。
1000℃まで加熱できるシステムを考案した。装置概要
横軸は加熱温度である。試料であるトルエンそのもの
を図 1 に示す。密閉容器ごと加熱し、容器上部の気体
(赤色ピーク)は、400℃付近から徐々に減少し、600℃
の一部を採取して、直接質量分析計で測定する仕様と
以上で急激に減少する。トルエンの減少に伴い、500℃
なっている。リアルタイム測定はできないが、任意の
付近からトルエンの酸化物であるベンズアルデヒド、
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The TRC Journal 2016 年 1 月号
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600℃以上ではベンズアルデヒドの酸化物である安息
照射直後から見られており、UV 照射による反応を反
香酸が検出されている。また、700℃以上では各種成
映していることが示唆される。このように、本 UV 照
分の酸化分解物と推察される二酸化炭素発生量が顕著
射オンライン分析を用いれば、ガス発生挙動の把握だ
に増大することもわかる。このように、同手法を用い
けでなく、反応経路の推定にも活用できると期待され
れば、溶液試料の熱分解に伴う発生成分と発生量の加
る。
熱温度による推移を明確にすることができる。
UV 照射オンライン分析
3.
レジスト材料の UV 照射時に発生するガスは、レン
ズを曇らせるなどの問題につながる可能性がある。そ
のため、各レジストメーカーは UV 照射過程で発生す
るガスのデータを把握することが求められる。これま
では、UV 照射しながら発生ガスを一旦捕集した後に、
GC 法等のガス成分に応じた方法で分析を行ってきた
3) 。しかし、UV
硬化時に発生する成分の挙動を連続的
に明確にするには、ガス捕集/分析を何度も繰り返す
必要があるが、それでも十分な情報が得られなかった
図4
ことから、in situ でオンライン分析したいという要望
UV 照射時発生ガス
があった。そこで、TPD-MS 装置を改良し、UV を照
射しながら発生ガス分析ができるチャンバーを作製し、 4.
まとめ
質量分析計と直接接続することで UV 照射時の発生ガ
本稿では、発生ガス分析の応用として 2 つの手法に
スのリアルタイム測定を可能とした。
ついて紹介した。これらは、HS 法や UV 照射などの
3.1
ガスを発生させる手法と TPD-MS 法というオンライ
システムの概要
UV 照射時の発生ガスを分析するシステムの概要を
ン分析のコラボレーションとして確立したものである。
図 3 に示す。チャンバーの上から UV を照射し、その
ガスを発生させる手法と検出する手法は数多く存在し、
際に発生するガスを He キャリヤーにより質量分析計
組み合わせも多く考えられるが、目的や成分によって
に導入する仕組みになっている。UV 波長は 365 nm、
上手く選択してシステムを構築する必要がある。今後
254 nm の 2 種類を選択することができ、チャンバー
も世の中の発生ガス分析のニーズをいち早くつかみ、
を加熱ステージ上に乗せることで約 200℃までの加熱
分析の適用範囲を大きく拡げられるよう創意工夫して
も並行して実施可能である。
手法開発を推進したい。
参考文献
5.
1)
美野卓大, The TRC News , 116, 31 (2013)
2)
(財)化学物質評価研究機構, CERI 有害性評価書
(2008)
図3
3.2
3)
システムの概要
関口淳 他, 微量ガスの高感度分析方法(2012)
UV 硬化樹脂の硬化時の発生ガス
市販の UV 硬化樹脂に 254 nm の UV を照射し、硬
氏名
小川
賢吾(おがわ
けんご)
化時の発生ガスの分析を行った。発生ガスの発生速度
材料物性研究部第 1 研究室
曲線を図 4 に示す。本測定では、測定開始 5 分後(黒
役職:研究員
色鎖線)から UV を照射した。図 4 から、UV 照射直
趣味:気心知れた仲間と酒を酌み交わすこと
後より反応性希釈剤( m/z 55:脂環式成分と推定)の
発生速度は急激に減少した、脂肪族ケトン( m/z 43)、
脂肪族アルコール( m/z 45)、および脂肪族アルデヒ
ド( m/z 29)は UV 照射直後から発生しはじめ、発生
速度は極大を示した後、減衰した。この挙動は、UV
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