政府系機関等の格付の考え方

格付方法
政府系機関等の格付の考え方
2016 年 10 月 19 日
1.政府系機関の特徴
政府は政策目的を実現するために法人を設立し、公共性の高い事業を行うことがある。この格付方法はこうした
政府系機関等を対象とする。政府系機関は、高速道路やダムの建設のように事業規模が大きく期間が長期にわたる
など民間では実施が困難なプロジェクトや中小企業への低利融資など、採算性やリスクの面で民間では実施が困難
だが政策的に必要性の高い事業を実施するために設立されることが多い。
R&I は国内外を問わず、原則として設立根拠法があり、政府や地方自治体が出資し、公共性の高い事業を行っ
ている法人を政府系機関と定義している。ただ、政府と政府系機関の関係は、国によって異なるため、政治制度や
法律体系、経済の発展段階など固有の事情を反映して評価する。
地方政府などが設立した法人についてもこの格付方法を適用する。日本の場合、住宅供給公社など地方 3 公社
や公立大学法人、地方共同法人などが対象となる。
2.政府系機関の発行体格付において重視するポイント
「政府が必要な支援を行う可能性」と「スタンドアローンの信用力」を評価
政府系機関はキャッシュフローが確保できるよう政府が措置を講じているうえ、いざという時には政府が支援す
る可能性が高い。それゆえ、R&I は政府系機関の格付にあたっては、「政府が必要な支援を行う可能性」に「ス
タンドアローンの信用力」を加味して評価している。
「政府が必要な支援を行う可能性」は「支援意思」と「支援能力」を反映
「政府が必要な支援を行う可能性」は、政府の「支援意思」と「支援能力」を反映している。政府の支援意思は
政策上の重要性に左右されるため、当該政府系機関が行う事業の政策的な位置付けを評価することが必要である。
R&I は、「事業の実施によって便益を受ける者の多さや広がり」「投資額や採算性の点で他の実施主体で実施
できるか」「政府内などでの当該事業の存廃議論の有無」――などの観点で政策上の位置付けの高さを定性的に評
価している。
政策的な位置付けが高く、その政府系機関を支援しようとする政府の意思が強くても、支援する能力が低ければ、
十分な支援はできない。政府系機関の格付にあたっては政府の支援能力を考慮する必要がある。政府の支援能力は
原則としてソブリンの信用力を反映している。
国が制度設計を行い、財政措置などさまざまな形で支援を行っていることも多く、政府系機関の格付は原則とし
てソブリンの信用力に制約される。また、政府との一体性が極めて高く、ソブリンと同格としている政府系金融機
関の格付はソブリンの格付に連動する。それ以外の政府系機関については、政府の支援能力が変化した場合、それ
ぞれの政府系機関の信用力に与える影響を個別に評価する。
「政策上の位置付け」が変化する事例
政策的な位置付けは変化するものであり、それに応じて政府の支援意思も変化する。政府系機関の行っている事
業の政策的な位置付けが低下するケースとして、以下のような場合を想定している。(1)当該政府系機関の設立
当初の目的が達成される(2)社会・経済の状況が変化することで政策上の優先順位が変動する(3)政権が変わ
り、従来の政策が否定される――などだ。
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設立当初の目的が達成されれば、その法人が存在する必要性は薄れる。従来は投資額や事業リスクが大きい等の
理由で政府系機関しか手掛けなかった分野に民間事業者が参入してくることも考えられる。
スタンドアローンの信用力を評価する際のポイント
政府系機関の場合でも、スタンドアローンの信用力の評価では、まず事業内容や事業基盤、収支や財務内容を分
析する。事業基盤の評価では、受益者の範囲や他法人との競合、政府からの交付金や補助金に依存しているのか、
料金収入など自主的な収入によって事業を運営しているのかといった資金スキームなどをみる。収支・財務面では、
料金収入など自主的な収入を持つ事業系の政府機関については損益やキャッシュフローと負債(借入金+債券)の
バランスに注意を払う。
もっとも政府系機関は民間企業とは異なり、政策目的の達成が第一義であり、必ずしも多くの利益を出すことが
求められているわけではない。また、政府系金融機関が手掛ける事業は、リスクに見合ったリターンの確保が難し
いなど、民間金融機関では困難な分野が中心になっている。このため、政策執行機関としての性格が強い政府系機
関については、主要な事業や組織の改廃につながるような収支・財務上の問題及び管理上の問題の有無とその程度
を重視して評価している。
一定の事業基盤を持ち、政府の支援に大きく依存することなく、収益を確保でき、事業遂行に支障がない財務基
盤を備えた政府系機関等については、政策上の重要性を反映させつつ、事業法人等の評価方法も適用して格付する
ことがある。
完全民営化された場合は「事業法人等の信用格付の基本的な考え方」を適用
設立根拠法の廃止、過半以上の政府株式の放出、株式上場の実施という形で完全民営化したと判断できる政府系
機関については、「事業法人等の信用格付の基本的な考え方」をもとに評価し、格付はそれぞれの法人の状況に応
じて判断する。例えば、重要なインフラを管理する政府系機関は、公共性の高さから完全民営化したとしても一定
程度の政府関与は残ると考えられ、その点は引き続き、格付に反映することになる。
政府系機関の場合、完全民営化が決定されても移行期間が設けられ、その間は国が一定程度関与することが多い。
資金調達や財務基盤の確保に関する措置が取られることもある。移行期間中は、完全民営化後の姿を見据えつつ、
移行期間中の信用力に影響を与える要素を慎重に考慮し、可能な限り早い段階で格付に織り込んでいく。
3.地方 3 公社、公立大学法人、地方共同法人の格付
地方政府、地方公共団体も出資して法人を設立することがある。例えば、日本の場合、都道府県など多くの地方
公共団体は住宅供給公社、道路公社、土地開発公社という地方 3 公社や公立大学法人などを持つ。これらの公社
等の格付にあたっては、「地方公共団体が必要な支援を行う可能性」と「スタンドアローンの信用力」を評価して
いる。「地方公共団体が必要な支援を行う可能性」は地方公共団体の支援能力と意思に規定される。
地方共同法人は、「特殊法人等整理合理化計画」に基づき、「地方公共団体の共通の利益となる事業等、その性
格上地方公共団体が主体的に担うべき事業であって、国の政策実施機関に実施させるまでの必要性が認められない
ものの実施主体」として、民商法又は特別法によって設立される法人のことを言う。政府系機関のうち地方公共団
体などの共同の利益となる事業を運営し、かつ国が事業の主体となる必要性の低い特殊法人の後継法人として設立
される場合が多い。
地方共同法人の格付も「地方公共団体が必要な支援を行う可能性」と「スタンドアローンの信用力」を評価する。
多くの地方公共団体が関与している場合、地方公共団体の総意として支援する意思があるのか、支援能力の高い地
方公共団体の関与の仕方なども重要な要素になる。
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4.政府系機関の長期個別債務の評価
長期個別債務の格付は事業会社などと同様、発行体格付をベースに債券契約などの内容を踏まえて評価する。政
府系機関は、その機関だけに適用される特殊な制度や契約などに基づいて債券を発行する場合がある。こうしたケ
ースにおいては、その制度や契約などの内容を考慮して、長期個別債務格付を付与する。
5.政府系機関の短期格付
短期格付は、短期の金融債務が約定通りに履行される確実性についての R&I の意見である。短期格付は、コマ
ーシャルペーパーなどの短期プログラムや短期金融債務の支払能力などに付与され、その考え方は格付方法「短期
格付の考え方」に準拠する。
*これまで公表した同種の格付方法は、本稿に代替されます。
R&I が格付対象の評価に用いる格付付与方針及び格付方法(以下「格付付与方針等」と総称します)は、R&I が独自の分析、研究等に基づいて作成した R&I の意見にすぎず、
R&I は、格付付与方針等の正確性、適時性、網羅性、完全性、商品性、及び特定目的への適合性その他一切の事項について、明示・黙示を問わず、何ら表明又は保証をするもので
はありません。また、R&I は、格付付与方針等の開示によって、いずれかの者の投資判断や財務等に関する助言を行い、又は投資の是非等の推奨をするものではありません。R&I
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