NJP メンバーの宝物 ―メンバーが大切にしている秘蔵の品、それにまつわる思い出を紹介するコーナー Vol.20 親友からもらったキーホルダー ー 岸田晶子(第 1 ヴァイオリン) 演奏家にとって楽器が宝物なのは言うまでもありませんが、特に私にとっては、 「自分の歩く道」を 切り開いてくれた大切な存在です。フランスに留学したのも、すばらしい音楽 を知ったのも、新日本 フィルに入ることもできたのも、すべて楽器のおかげ。そしてこのキーホルダーをくれた親友と出会 えたのも、楽器をやっていたおかげなのです。 当時流行っていたミスタービーンのテディベアのキーホルダーで、藝大で知り合った作曲科の親友 が、 「目があなたに似ているから」と誕生日にプレゼントしてくれたものです。ずっと楽器ケースにつ けて持ち歩いていたので、鼻がつぶれてきてしまったのですが。留学も一緒でしたし、旅にも必ず連 れて行っています。 親友とは藝大のダンス部で出会いました。ダンス部は心から遊べる場で、それまで勤勉だった私が、 寄り道をしてしまったのがその頃です。 ヴァイオリンは小学校4年で始めました。それまでピアノを習っていたのですが、テレビでオーケ ストラを見て、 「ヴァイオリンをやりたい」と言って、さっそく楽器を買ってもらいました。レッスン を始めて3ヶ月で流山フィルのジュニア・オーケストラに入り、オーケストラで弾く楽しさも体験し ました。とにかくヴァイオリンを弾くのが大好きで、上達するのが楽しくて、夢中で練習を続けて い た感じです。大学を出た後フランスに留学し、ヴェルサイユの音楽院で ブルシュロフスキー先生のも とで勉強したのですが、その間友人の紹介でピカルディ地方の小さな街でヴァイオリンを教える機会 がありました。私が帰国するときに、そのなかの生徒の一人が、お別れのメッセージと一緒にプレゼ ントしてくれたのがこのミニチュア楽器です。 ある指揮者が「音楽は人生だ」と語っている記事を読んで「なるほど」と共感したことがあります。 また、いろいろな作曲家の作品を演奏することによって、いくつもの人生を追体験しているような喜 びを味わえるのも、演奏の醍醐味だと思います。オーケストラに入ることは長年の夢でしたが、その 夢がかなったいま、あらためて楽器を弾くことに夢を感じて、とても幸せです。新日本フィルの仲間 と一緒に、その夢を少しでも伝えていけたらいいなと思っています。 (2009 年 6 月号)
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