『自治体のリーダーとは何だろう』 人材マネジメント部会 幹事 佐野哲郎 (新潟市 総務部 行政経営課長) 人材マネジメント部会に参加された皆さん、1年間ありがとうございました。 皆さんは、研究会の場において、またそれぞれの自治体組織の中で、自らの組織をより よき姿に変えるため、脳みそに汗をかきながら仲間とダイアログを繰り返し、一歩前に踏 み出す活動にトライされてこられました。 この試行錯誤のプロセスが、地域で働く皆さんの今後の人生にとって貴重な財産になっ たであろうと確信しています。 私自身も皆さんから多くの気づきと勇気をいただき、とても感謝しています。 改めて振り返ると、この1年間は昨年3月に発生した東日本大震災を契機として、日本 全体でリーダーシップのあり方が問われ続けた年でした。 人材マネジメント部会においても、リーダーシップとは何か、次代を担うリーダーを生 み出すために自治体組織をどう変えていけばよいのかというテーマを軸に、自治体の人材 マネジメントについてダイアログを重ねてきました。 「国のかたち」「自治のあり方」が大きく変わろうとする時代において、自治体の組織・ 人材マネジメントもまた変革を迫られています。こうした時代認識に立って、これからの 自治体のリーダーのあり方を考えていくことが必要です。 「あなたがリーダーと思える人は誰か、そしてその理由は?」と問われた時、人それぞ れ思い浮かべる名前や理由は違うかもしれません。自らの組織の中で考えた場合はどうで しょうか。地位や役職だけで語ることができるでしょうか。 あれは確か私が採用されて3年目ぐらいの頃だったと思います。当時の幹部職員に不遜 にもこんな質問をしたことがあります。 「部長や課長というのは我々にとってはリーダーであり、 “偉い”存在だと思いますけど、 その源泉はどこから来るのでしょうか?」 大学の先輩でもあり、くだけた雰囲気の場でもあったので、若さに任せて素朴な疑問と して尋ねたつもりでした。今考えると、確かに質問の仕方も悪かったと反省していますが、 ご本人からは少し困ったような顔をされ、隣の席にいた課長からは「そんなことは訊くも のではない」と随分叱られた覚えがあります。 でも、この問いかけはいまだに自分自身の中で続いています。ここ数年は、自らはどう あればよいのか、どうありたいのかという問いに置き換わった形で。 「そもそもリーダーシップとは何か。リーダーとはどういう存在か」という問いは、部 会でも意識して皆さんに投げかけ続けました。組織の一員として働く人にとって、一般論 で語ることはできたとしても、いざその指を自分自身に向け、自らの言葉で語ろうとする と、実はかなり難易度の高いテーマなのです。 (だから、ダイアログなんですね!) 組織の本来の目的に照らして、自らの組織の中でのあり方をどう考え、どう行動に結び 付けられるか。そして、既存の組織の論理にどうしたら変化を与えることができるのか。 さらに、個人を超えて組織全体をみたときに、リーダーを生み出す組織にどうしたらでき るのか。まずは、自分自身の問題として受け止めることができるかが出発点となります。 出馬部会長の言を借りれば、リーダーシップとは『周りの人に対する影響力、それもよ い影響を与えること』 そうであるなら、それは人と人との関係性の中で創られていくものではないでしょうか。 つまり、リーダーシップにはリーダーの立場にある人だけではなく、リーダーと思いを共 有しリーダーを支える周囲の人々(フォロワー)の役割が極めて重要で、良きフォロワー がいてはじめて成り立つということです。 そこでのリーダーの働きかけの源は、本質的には組織内で与えられた「役職」や「権限」 だけではなく、まさに人と人との信頼関係そのものです だからこそ、リーダーには、共感するフォロワーを生み増やし、お互いの絆を強くする ため、志やビジョン、それらを語る言葉や行動が重要であり、リーダーとフォロワー、そ してフォロワー同士の対話をベースにしたコミュニケーションが必要となります。 真のリーダーシップとは、自発的についてくる人が増えていくもの、そしてリーダー とフォロワーが相互の関係性の中で共に成長していることを実感でき、みんなが生き生 きと仕事ができる環境のベースとなるものです。 リーダーを生み出す組織のあり方について少し考えてみたいと思います。 とかく世間では、リーダーシップが個人の生来の素養として語られることがあります。 果たしてリーダーシップとは先天的なものなのでしょうか。 人間にはそれぞれ持ち味というものがあり、人それぞれ、能力や雰囲気も異なります。 しかし、人と人との関係性の中でリーダーシップが創られるとすれば、 「経験」という要素 が極めて大きなウエートを占めていると言えます。 「立場が人を育てる」という言葉があります。その本来の意味は、役職にあることで自 然と人が成長するということでは決してありません。 「役割を与えられることにより能動的 に気持ちを切り変え、一歩前に足を踏み出して修羅場に対峙し、 『一皮むける体験』を積み 重ねること、そして場面場面で、フォロワーや仲間と対話し内省的に自分自身と向き合う 経験こそが、人を一人前のリーダーとして育てる」という意味だと考えています。 リーダーは一朝一夕には生まれないのです。 『変革は常に一人から始まる。一人ひとりは微力かもしれないけれど無力ではない』 これは部会でご講演いただいた、テラルネッサンス・鬼丸昌也さんの言葉です。私は、 この言葉を、一人ひとりの背中を後押しする力強いメッセージであると同時に、自治体組 織へのメッセージであるとも受け止めています。 組織として、自立した個人、そしてリーダーとなる人を生み出すために、職員が勇気を もって、組織の壁や論理を超えて一歩前に足を踏み出す場をいかに提供できるか、さらに、 そういう人を評価する、脛に傷を負うことを許容する組織風土をいかに創り出せるかが鍵 を握っています。一人ひとりに無力感を感じさせないこと、組織のシステムや仕組みも、 そうしたものでなければなりません。 自治体では、民意を代表する首長がトップリーダーであることは言うまでもありません が、トップがいかに優れたリーダーであっても、それだけでは組織は機能しません。組織 が大きくなればなるほど、組織の中に、自ら考えて行動できる、良きリーダー、良きフォ ロワーが必要になります。そういう人間を組織の中にどれだけ生み出せるかで、将来の組 織の総合力が左右されます。 東日本大震災を経験された相馬市の立谷市長のご講演では、非常時のトップリーダーと しての覚悟と決断の凄さに身震いしました。その行動力にも感銘を受けました。この時、 市長の講演をお聴きしながら感じたことがもう一つあります。それは「市長の行動を支え たのは、相馬市職員一人ひとりの自立した思いと行動ではなかったか」ということです。 当日参加された相馬市の職員の方々のまなざしや表情をみて、それは確信に変わりました。 自治のあり方が制度論も含めて根本から議論されている変革の時代。選挙という洗礼を 受け、住民から選ばれた自治体のリーダーには、強力なトップダウン型のリーダーが多く なっています。今日の時代背景を考えれば当然のことだと思います。 しかし、このことは、従来の価値観や仕事のやり方で経験を重ねてきた自治体職員が、 否応なく発想の転換を迫られるということも意味しています。指示されたことを鵜呑みに して忠実にこなしていくだけではなく、自治体職員一人ひとりが、地域のこと、住民のこ と、 「今は声なき将来世代」のことを真剣に考え、対話を繰り返し、トップリーダーと思い や方向感を共有すること、さらに、行政のプロとして、道筋を誤らないよう根拠を明確に した選択肢を地域の人々に示していくことが求められています。 真の信頼関係、組織の中でのリーダーシップも、こうした緊張関係を乗り越えた中から 生まれてくるものです。 私自身この1年、新潟市という新天地での仕事、とりわけ市長と知事が共同で提唱した 「新潟州構想」に今までとは違う立場で関わることを通して、多くのことを学び、考え、 そして経験しました。 今まさに強く感じていることは、これからの自治は、「自治体間の政策協調」と「住民と の協働」がキーワードになるだろうということです。自治体組織のリーダーには、自らの 所属や自治体組織の中だけでなく、組織の壁を超え、他の自治体や住民と協働して明日の 社会を築いていける「パブリックリーダー」となることが求められています。 今後の自治体職員のリーダー像は、そうしたものに変わっていくだろうと感じています。 マネ友の皆さん、自治体組織の一員としては、この間、様々な葛藤があったと思います。 組織を変えること、組織の中でリーダーたらんとすることは、それほど生易しいものでは ありませんから。 でも、その葛藤こそがリーダーとなるための第一歩なのだと思います。 最終回のダイアログで、自らの言葉で語る皆さんの成長された姿を拝見し、改めてそう 実感するとともに、同じ志をもつ仲間としてとても心強く感じました。 地域をよくするために、これからも勇気をもって楽しみながら前に進みましょう。小さ な変化を創り出し、それを繋げていくことが明日には大きな道となることを信じましょう。 そこには必ず共感してくれる上司や仲間、後から続く後輩たち、そして地域の人々がい るはずです。 今年度の部会の活動は終了しましたが、ここからがまた新たなスタートです。一歩一歩、 歩みを止めることなく、共に成長していきましょう。 未来の地域を創るため、生き生きと働ける組織を創るために。
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