宅配ピザ店を全国に五四三出店。店舗数日本一のピザチェーン﹁ピザーラ﹂誕生までのプロローグは決して華やかではなかった。フォーシーズ︵東京都港区︶の淺野秀則社長が宅配ピザを手掛けるまでには一〇もの事業を興した経緯を持つ。常に逆境から這い上がり、日本一を勝ち取った〝諦めない男〟の軌跡を辿る。そこで淺野氏は、家にある金目の物を片っ端から処分して資金を集め、日曜日が休みの雀荘で麻雀大会を企てた。学生などに一枚五〇〇円の大会チケットを売って、稼ぐ算段をした。あの手この手の集金アイデアを駆使して、なんとか旅行資金を貯めた淺野氏は、高校三年生になるとハワイへと旅立った。このとき淺野氏は初めて、ピザのうまさを知った。大学進学後も海外熱が冷めない淺野氏は、海外文化交流会という学生組織に入り、慶応、早稲田大や学習院大などの学生に声をかけて、インフィニティというイベントサークルを立ち上げる。淺野氏はイベントの一つとして海外ツアーを企画し、旅行代理店と業務提携してツアーを企画・運営する学生ビジネスを始めた。ツアー客の学生を一〇人集めると一人がタダになる集客方法を考案し、大量のツアー学生を集めることに成功した。こうした学生は将来、旅行代理店に就職しても不思議ではないが、事業家の血が流れる淺野氏は、旅行代理業の経営を見極めていた。調べてみると、旅行ビジネスの粗利はたった一一％しかないことが分かり、儲からないと判断して旅行業から離れる決意をする。結局、淺野氏はベンチャー企業に就職することになるが、わずか三カ月で退社。一〇万二〇〇〇円の給料にも不満があったが、何よりも﹁たいしてやりたくない仕事に拘束されるのがイヤだった﹂のだ。やっぱり独立しよう。淺野氏は学生時代に立ち上げたインフィニティ活動のたまり場を作ることを思いつく。たまたま目白と高田馬場の間に父親がかつて所有していた二〇坪の店があって、問い合わせると空いていたので︿月額一〇万円の賃料﹀で借りることにした。ハワイ風のインフィニティ・クラブハウスを開店して、店舗経営に乗り出していく。父が倒れ、母は余命三カ月自分も大やけどでどん底にところが、淺野氏の運命はここ PROFILE 東京都立大学付属高校卒業。国学院大学中退。1976年、株式会社亀岡大郎取材班入社。 1982年、株式会社日本コミュニティー設立。取材分野は、技術開発、マーケティング、人材開発、中国ビジネスなど広範囲。有名週刊ビジネス誌や、総合誌を舞台に活躍中。著書に『なぜ、伊右衛門は売れたのか。』『選ばれる企業の条件』（両、すばる舎）、『サニーサイドアップの仕事術』（日経BP社）、『日産、最強の販売店改革』（日経ビジネス人文庫）他がある。公式ブログ http://pub.ne.jp/Mineworks/ から暗転し始める。開店一〇日目、調理中の油に火が引火。懸命に消化した淺野氏は、大やけどを負ってしまったのである。雀荘経営で生活を支えた母は、包帯ぐるぐる巻きで病院のベッドに横たわる我が子を見て、淺野氏が回復したときのために、︿中国茶のビジネス﹀を思いつく。ＴＶ番組でピンク・レディが奨めていたからだ。大流行すると確信した母は、矢も盾もたまらず事務所を開設。二カ月後には中国福建省に飛んで、大量の烏龍茶を買い付けた。ところが数カ月後、母が買い付けた商品が届いた頃には、中国茶ブームはすっかり衰えてしまい、二万箱を超す在庫の山だけが積み上がる。大儲けの魂胆は、ものの見事に大失敗した。悪いときには悪いことが重なる Business Chance 2009.4 4 5 Business Chance 2009.4 起業しては失敗し、起業しては躓いて、這い上がりながら一一度目の正直で宅配ピザチェーンの︽ピザーラ︾を成功に導いた淺野秀則社長の起業人生は、突然やってきた。淺野氏が高校二年生のときである。紙器メーカー経営者の後継者として嘱望されていた淺野氏は、三代目社長になることが人生の既定路線と認識していたが、高校二年のときに社長の父が脳梗塞で倒れ、母は経営権を手放さざるを得ない状況となった。両国に開店した母の雀荘で、高校生の淺野氏は手伝いを始めた。この頃、淺野氏の夢は海外に行くことだった。だが、海外旅行をするには相応の資金が必要である。家には、もう資金的な余裕がないことは理解できた。淺野秀則（あさのひでのり）数々の挫折を経験し、映画「Ｅ．Ｔ．」のデリバリーシーンを観て宅配ピザチェーン「ピザーラ」をスタートさせる。現在は「KUA'AINA」「TO THE HERBS」「ぎんざ有季銚」など、さまざまな外食事業を手掛ける。'03年4月六本木ヒルズに「ラトリエドゥジョエル・ロブション」をオープン。'09年2月末現在のフォーシーズグループ総店舗数は700。淺野秀則もう淺野家は最悪の状態でした﹂自宅を担保に入れて勝負した中国茶ビジネスも大コケしてしまい、四〇〇〇万円の借金だけが残った。だが、淺野氏は転んでもタダでは起きない。代表取締役社長諦めなかった者たち新連載もので、淺野氏が大やけどで寝たきりになったとき、体調を崩した母が検査を受けると、乳がんが発見されて︿余命三カ月﹀を宣告されてしまう。﹁自分が大やけどで母が末期がん、父は脳梗塞で倒れていますので、 “11度目の正直” で築いた日本一の宅配ピザチェーン峰如之介大やけどで朦朧とする意識のな万円で売り払って開店資金を作かでも﹁何とかしなきゃダメだ﹂り、カフェをラーメン店に改装した。と自分を叱咤し、インフィニティ・ラーメン修業二日の店主は、朝カフェの店を思い出して﹁ラーメ一〇時から夜中の三時、四時までン店をやろう﹂と決意する。ラーがむしゃらに働いた。すると﹁こメンのラの字も知らない淺野氏このラーメンはうまい﹂という評は、友人を頼ってラーメンチェー判が立ち始め、一杯四〇〇円のランを紹介してもらい、頼み込んでーメンが一日一七〇杯ほど出て、二日間のラーメン修業を受けさせ日商六万円∼七万円を売り上げるてもらう。麺の仕入れ方法からス人気店になった。ープの作り方までの一通りを教わ繁盛するラーメン店を見た人がった淺野氏は、家に一台だけ残っ﹁自分も経営したい﹂と申し出て、ていたワーゲン・ゴルフを一一〇大泉学園にＦＣ店まで開店した。ところがここでも、淺野氏は人生を切り替える。﹁ラーメン店がうまくいってふと考えたとき、︿俺はいったい何をやっているんだ﹀と思い始めたんです。︿俺は、会社の社長になりたくて独立したんじゃなかったのか。何でラーメン店の親父になっているんだ﹀と考えて、店を副店長に譲ることにしました﹂淺野氏は、店を引き継ぐ副店長と︿毎月家賃として三〇万円＋ロイヤルティーを支払う契約﹀を交わして、店を離れた。多いか、少ないかの判断は別にして、毎月何もしなくても約四〇万円からの収入が手に入る生活になった。このころ母は健康食品の販売をフォーシーズ百折不撓手懸けていたが、容態は悪くなるばかりだった。店を手放して身体の空いた淺野氏は、﹁最後の親孝行のつもり﹂で母の健康食品販売を手伝うことにして母子で健康食品を全国販売し、宝石店を経営していた弟と談判して、︿宝石の行商﹀もやり始める。三年間、健康食品と宝石の販売行脚をしてそれなりに儲かったが、母の容態はいよいよ悪化して、販売に出ることもできなくなった。母の元で最後を看取りたいと願った淺野氏は健康食品と宝石の販売行脚を辞めて、次なる商売としてビデオレンタルに目をつけて、レンタルビデオ店・フォーシーズを目白に開店する。ところが、淺野氏はレンタルビデオ店もすぐに過当競争に巻き込まれ、価格の下落と客足の減少は間違いないと直感した。じゃあ、俺は何をやればいいのか。 ●設立年 ●資本金 ●社員数の正面競争を避けて、オンリーワンの道を選択した経営戦略を意味している。さらに三の参入障壁がないと、大資本のライバルが参入したときに勝ち目がなくなってしまう。宅配ピザの参入障壁は、宅配ドライバーの交通事故だった。数多くの原付きバイクでスピーディーに配達するためにドライバーの事故は少なくなく、社会的信用に神経を注ぐ大企業には、なかなか参入することが難しかったのである。そこで、ピザーラは新規出店を中止していた二年間に人材育成を徹底させ、とくにドライバー研修には万全の指導体制で臨み、参入障壁を自ら乗り越える努力に傾注したのだった。一九九一年、すかいらーくの創業者一族である横川氏とゴルフをする機会があったとき、淺野氏は聞いてみた。﹁すかいらーくがグンっと成長したのは、いつだったのですか﹂すると横川氏は、こう応えた。﹁それはオイルショックのときだ。景気の悪いときが一番の出店チャンスなんだよ。淺野張れば儲かるのだから、まだ日本に馴染みのない宅配ピザを、誰よりも先駆ければ儲かるに違いない。高校生のときにハワイで食べたピザが脳裏をかすめた。淺野氏が宅配ピザの研究を始めると、ちょうどドミノピザが自宅の近くに一号店をオープンするという。すぐさま淺野氏はドミノピザに電話をかけて、﹁宅配ピザ店を開業したい﹂と申し出ると﹁弊社は直営店しか出店しない﹂とにべもなく断られた。しょうがないので自分でピザの作り方を研究したが、どうしても美味しいピザ生地が作れない。ここからの発想と行動が、いかにも淺野氏らしい。フランス大使館に電話して、大使館にパンを納入している業者名を聞き出して、旧軽井沢で人気の淺野屋であることを突き止めた。よし、ここだッ。淺野氏は、東京の四谷に本店を構えていた浅野屋を訪問し、いきなり社長に懇請した。﹁日本一のピザ店を作りたいので、ピザ生地を卸してもらえませんか﹂二時間、二人は押し黙ったまま君も、もし体力があるなら今がでていくときだね﹂景気が悪いと経済がデフレ基調になって物価は下がり、不動産価格も下落する。人材は余剰になり、人件費も下降する。つまり、不景気は出店のイニシャルコストを下げるので、損益分岐点を低くして店を儲けやすくしてくれるのだ。出店を控えたピザーラの利益が六〇〇〇万円になったとき、副社長の妻は﹁このお金でテレビＣＭをやりましょう。税金払うくらいなら、そのほうが絶対いい﹂と進言した。こうして一九九二年、ピザーラは初のテレビＣＭを放送し、横川氏に進言されたように新規出店を再開して、一気にピザーラブームを巻き起こしていく。テレビＣＭは、二つの効果をもたらした。一つは生活者の認知度をＵＰさせて宅配ピザの注文を急増させる効果、二つは人気爆発のピザーラ店のＦＣ加盟店希望者を急増させる効果である。だが淺野氏はこのとき、もう一つの︿成功する仕組み﹀を断行する。ＦＣ加盟希望者を徹底的に選別したのである。一〇〇人の希望者が殺到しても、慎重に適性を見対峙し続けたが、最後は淺野屋の社長が根負けして﹁分かりました﹂とピザ生地を卸してくれることになった。これで、ピザ作りの最高級素材は手に入った。あとはどんなピザを作るか、である。料理研究家をしている叔母が、アドバイスをくれた。﹁うちでパンを作るときは、マヨネーズやツナを入れたパンの人気が高い。そんな味も研究してみたら﹂ドミノピザは香辛料を利かせたアメリカンテイストだったので、淺野氏は﹁自分のピザは味を差別化して、女性や子供がよろこんで食べる味にしよう﹂と考える。当時、ドミノピザに刺激されて、︿カリフォルニア﹀、︿シカゴ﹀、︿ステーション﹀といった宅配ピザ店が一斉に開業したが、それらのピザは皆ドミノピザの味をマネした味極めて四∼五人ほどしかＦＣ加盟を許可しなかった。なぜか。希望者を片っ端からＦＣオーナーにすれば、莫大な加盟店料を手にすることができたが、やがてその大部分は商売に失敗して脱退に追い込まれるに違いない。すると、いつしか﹁ピザーラの加盟店は儲からない﹂と噂が立ち、ＦＣ経営の土台が揺らいでしまう。このときピザーラの加盟店になれなかったＦＣ店希望者は他の宅配ピザチェーンに流れ、やがて市場から消えていった。一九九二年にテレビＣＭで飛躍したピザーラの快進撃は翌九三年に三〇〇店を達成し、二〇〇三年には五〇〇店の大台を超えて市場を制覇した。淺野氏は将来の夢を、こう語る。﹁フォーシーズは、多様な食を取り扱うデリバリーの総合商社になりたい。ピザあり、洋食あり、中華あり、和食ありと、お客様の嗜好をすべて網羅するデリバリーのリーディングカンパニーになりたいのです﹂かつて最悪の人生を経験した淺野氏は、夢だった︿淺野家の再興﹀の悲願を成就するため、全力で疾走し続けている。付けばかりだった。一九八七年四月、ピザーラ一号店が、東京目白に開店。体当たりで始めた宅配ピザは、徐々にではあるが売り上げを伸ばし、三年ほどで三〇店を構えるチェーンに成長した。ところが淺野氏は、ビジネスに急ブレーキをかける。﹁ちょうどバブル経済の真っ盛りだったので、いくら求人しても人が採れなくなったんです。これは何かがおかしい！と感じて、私は出店を一切ストップする決断をした﹂既存店の売り上げは順調に伸びていたが、九〇年と九一年は新規出店をやめて、利益の内部留保と人材の育成に努めた。このとき淺野氏は将来のＦＣ店経営を見据えた、成功する仕組み作りを熟考していた。淺野氏が考えた︿成功する仕組み﹀は、次の三点に集約される。一・多様な嗜好がある嗜好品を商うこと二・味の差別化を実現すること三・大企業が参入できない障壁があり、自社が乗り越えること一の嗜好品志向は、ラーメン店の成功体験から学んだ。二の味の差別化はドミノピザと Business Chance 2009.4 6 7 Business Chance 2009.4 映画﹁Ｅ．Ｔ．﹂を見てついに天職を見つけた ●会社名 ●本社所在地株式会社フォーシーズ東京都港区南青山5-12-4 全菓連ビル5階 1980年4月1日 1億円 980名 ●業態・店舗数ピザーラ543（直営、FC含む）（一部抜粋） TO THE HERBS …………………… クア・アイナ ………………………… ピザーラエクスプレス ……………… 柿家鮨（宅配） ……………………… 大かまど飯寅 ………………………… ジョエル・ロブション ……………… ラターブルドゥジョエル・ロブション …… 33 15 15 26 8 １１来る日も来る日も商売のタネを探し続けたとき、淺野氏はふと見た映画﹁Ｅ．Ｔ．﹂で、︿宅配ピザのシーン﹀に出会う。これだッ！、と淺野氏は直感した。ラーメン店でも素人が本気で頑調な時に石橋を叩き況下で大勝負に打ってでた