1 ハチに関する基礎知識

都市のス ズメバチ
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ハチに関する基礎知識
巣を作らず,メスが地中にもぐってコガネムシの仲間の
幼虫に直接卵を産み付ける寄生バチである.
ハチとはハチ目に属する昆虫からアリを除いたものの
もう一方の,花の蜜や花粉を幼虫の餌として利用する
総称で,世界で12万種以上が知られており,日本から
昆虫の中では甲
ハチを花バチと呼んでいる.花バチには,ミツバチやマ
虫に次いで大きなグループであるが,その大部分を他
ルハナバチなど集団生活をするハチ(社会性の花バ
の昆虫に寄生するヒメバチやコバチなどの寄生バチが
チ)と,単独で巣作りをするハチ(単独性の花バチ)の2
占めている.
つのグループがある.
は4,200種以上が記録されている.
ハチ目は広腰亜目と細腰亜目に大別される.広腰亜
単独性の花バチは,主に土中に営巣するが,枯れ枝
目に属するキバチやハバチの仲間は,胸部と腹部が連
や竹筒などに営巣する種もある.巣に幼虫の餌として花
続した「ずんどう型」をしており,幼虫はいわゆる「イモム
粉団子を準備し,そこに卵を産みつけ,孵化した幼虫は
シ」で,植物を食べて育つ.
この餌を食べて育ち成虫になる.
細腰亜目に属するハチの成虫は,胸部と腹部の間が
クマバチやオオハキリバチなど成虫が大型の種は,
くびれており,有錐類(ヤドリバチ類)と有剣類に分けら
人に恐怖心を与え時々相談が寄せられるが,いずれの
れる.有錐類は大部分が寄生蜂バチで,昆虫やクモな
種も人を攻撃することはなく,成虫を手で握らない限り
どの卵や幼虫,蛹,成虫に卵を産み付ける.
刺される心配はない.
有剣類の幼虫は,ほとんどが成虫によって作られた
(1) スズメバチとアシナガバチ
巣の中で成長する.このうち,幼虫の餌として各種の昆
虫やクモなどを狩るハチの仲間を狩りバチと呼んでい
集団生活をするハチは,①メスに繁殖をする個体(女
る.狩りバチにはスズメバチやアシナガバチのように集
王バチ)と繁殖をしない個体(働きバチ)の区別がある,
団生活をするハチ(社会性の狩りバチ)と,単独で巣作
②世代の重なりがある,③協同で子育てをするという共
りをするハチ(単独性の狩りバチ)の2つのグループがあ
通性がみられる.そのため,人間の社会になぞらえて,
る.
社会性のハチ類(social wasps,social bees)と呼ばれ,
ハチ目の中では最も進化したグループである.
ドロバチやアナバチ,ベッコウバチの仲間は,幼虫の
餌に昆虫やクモなどを狩るが,いずれも単独生活をして
スズメバチとアシナガバチは,いずれもスズメバチ科
いる.毒針で刺して麻酔した獲物を巣に持ち帰り,育房
に属するハチの総称で,我が国にはスズメバチ亜科3属
内に閉じこめて,卵を生み付けてふたをする.卵からか
16種,アシナガバチ亜科3属11種が生息している.
いずれも1頭の越冬女王バチにより巣が創設され,最
えった幼虫は,用意された餌を食べて成長し,成虫にな
盛期には巣内に多数の働きバチがみられる.生活史は
ると穴を開けて外へ出てくる.
1年限りで,営巣開始時期はアシナガバチの方が早く,
ドロバチの仲間は,泥(粘土)を使って人家の壁や木
4月上旬には巣作りを開始する.8月下旬には新女王バ
の枝,竹筒などに営巣する.
チが誕生し,9月には営巣活動を終える.
アナバチの仲間は,建物の外壁,建物の隙間,竹
スズメバチはこれより1ヶ月程遅く,4月下旬から5月上
筒,草木の茎,土中などに,様々な材料を使って巣を作
旬に営巣を開始する.活動期間もアシナガバチより長め
り,幼虫の餌に各種の昆虫やクモを狩る.
で,オオスズメバチやキイロスズメバチは11月末,時に
ベッコウバチの仲間はクモを狩って幼虫の餌にして
は12月まで活動する.
おり,ほとんどが土中に営巣するが,ヒメベッコウの仲間
スズメバチとアシナガバチは巣の形状や営巣規模が
は人家などに泥を使って壷を作り巣にする.
単独性の狩りバチは,成虫や巣を刺激しても人を攻
大きく異なっている.スズメバチの巣は巣盤が何段にも
撃してくることはなく,手で握ったりしない限り決して刺さ
重なっており,外皮に覆われているのが特徴である.営
れる心配はないが,人目につきやすい場所に巣ができ
巣場所は土の中や樹洞,天井裏などの閉鎖空間から,
たり,成虫が多数飛び回って相談が寄せられることがあ
軒下や樹枝など開放空間まで多岐にわたり,種により異
る.
なっている.
また,これらの狩りバチ以外にもツチバチの仲間が植
営巣規模は最も小さなヒメスズメバチでも育房数が20
裁や庭などを飛び回ることがあるが,ツチバチの仲間は
0~400房程度になり,キイロスズメバチのような大型の
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都市のス ズメバチ
巣を作る種では10,000房を超えることもある.
よくできている.
アシナガバチの巣は一枚の巣盤からなり,外皮が作
スズメバチの巣はいわゆる”パルプの巣”で,比較的
られることはなく育房が露出している.営巣場所は樹枝
もろいが,水をよくはじき風雨から巣の内部を守ってい
や葉の裏,軒下などの開放空間に作られることが多く,
る.
時には戸袋や壁間などの閉鎖空間にも営巣する.育房
巣には1カ所の巣穴(出入り口)がある.巣穴はいつも
数は100房以下のことが多く,最も営巣規模が大きいフ
同じ大きさではなく,活動が活発な日中は大きく,夜間
タモンアシナガバチでも1,000房程度である.
は小さくなる.巣穴からは常に見張りのハチが外をうか
スズメバチとアシナガバチは成虫の形からも見分けら
がって警戒している.
れる.スズメバチは腹部の付け根が直角になっており,
巣盤は上から下へと順番に増えていく.できた順に1
いわゆる砲弾型をしている.アシナガバチではこの部分
層,2層と数える.コガタスズメバチでは,営巣の末期に
がなだらかになっており,スズメバチよりも全体にほっそ
は3層から4層の巣が大多数を占めるが,希には5層の
りしている.また腹部の黄色と黒の縞模様もスズメバチ
巣も見られる.
では明瞭であるが,アシナガバチではハッキリしない種
コガタスズメバチの巣では,巣盤は中央にある太い1
が多い.また,アシナガバチは飛ぶ時に,名前の由来
本の柱で支えられる.キイロスズメバチ,モンスズメバ
である長い後脚をダラリと下げているのですぐわかる.
チ,オオスズメバチなど大型の巣を作る種では,時には
巣盤が10層以上にもなり,大変重くなるため何本もの細
(2) スズメバチの巣のしくみ
い支柱で巣盤を支えている.
スズメバチの巣は何段にもなった巣盤とボール状の
働きバチは新しい外皮を巣の外側に張り付け,内側
外皮があることが特徴である.巣は樹皮をかじり取ったも
を削り取って巣盤の材料にするため,巣は丸いままで次
のをだ液と混ぜて作る.働きバチが羽化すると,あちこ
第に大きくなっていく.巣盤には6角形をした育房が,直
ちで巣材を集めてくるため,材料の違いから外皮の表
線的に整然と並んでいる.
面には特徴のある貝殻状の模様ができる.巣の形や外
コガタスズメバチの場合,オスバチや新女王バチの
皮の模様は種によってそれぞれ特徴があり,ハチの種
子育ては後から作られた3層目や4層目の巣盤で行わ
を判別するのに役立つ.
れる.この頃には働きバチの子育てに利用された1層目
コガタスズメバチとキイロスズメバチの巣は,外皮に覆
や2層目の巣盤は使われなくなり,育房の入り口は巣材
われたボール状で,巣が大きくなるに従って縦に長くな
で塞がれる.
る.外皮の模様はいずれも貝殻状であるが,キイロスズ
育房の壁面には女王バチにより1個の卵が産み付け
メバチの方が一般的に淡い色彩をしている.巣の側面
られる.卵からかえった幼虫は頭を下にしてぶら下がっ
に開いた丸い小さな穴が出入り口となる.
ている.幼虫は途中4回脱皮して5令幼虫となり,十分に
モンスズメバチの典型的な巣は釣り鐘状で,底の部
成長すると,口から糸を吐いて育房に白いふたをしてさ
分が抜けている.側面には出入り口用の穴は無く,ハチ
なぎになる.コガタスズメバチでは,産卵から成虫になる
は大きく開いた底面から出入りする.外皮の模様もきれ
までの期間は約1ヶ月(32日)である.内訳は卵が5日間,
いな貝殻状にはならない.
幼虫が12日前後,蛹が15日前後であるが,営巣初期に
オオスズメバチの巣も同じように底の部分が抜けてお
は一般に長く,働きバチの数が増えると短くなる傾向が
り,外皮は薄くて貝殻状にはならない.この2種のスズメ
ある.最も短いキイロスズメバチで約4週間,最も長いオ
バチは閉鎖空間に営巣するため,空間の広さや形状に
オスズメバチでは約5.5週間を要する.
よっては,非常に変わった形の巣を作ることがある.
糞はさなぎになる直前に1回だけまとめてするため,
ヒメスズメバチの巣は,薄い外皮が釣り鐘状または電
巣盤を割ると育房の奥に黒い糞の固まりが見られる.成
灯の傘のような形をしており,下端は開放していて巣盤
虫が羽化した後の育房にはまた次の卵が産まれ,再び
が見える.
子育てに利用される.
巣盤を覆っている丸い外皮は何枚もの層からなり,間
に空気室と呼ばれるすき間がある.これには外気との断
熱効果があり,巣の内部の温度を一定にするのに都合
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都市のス ズメバチ
る.内訳はスズメバチ属 Vespa 23種,クロスズメバチ属
(3) スズメバチの体のしくみ
Vespula 22種,ホオナガスズメバチ属 Dolichovespula
スズメバチの成虫の体は,他の昆虫と同じように頭
19種,ヤミスズメバチ属 Provespa
部,胸部,腹部の3つの部分に分かれている.頭部には
3種となっている.
2本の触角があり,ここで匂いを感じている他,6角形の
スズメバチはローラシア大陸(後にユーラシア大陸と
育房を作る際に形や大きさを測るための定規の役割も
北アメリカ大陸に分かれる)で誕生したと考えられてい
果たしている.触角には,オスには13,メスには12の節
る.そのため,南米大陸,アフリカ大陸南部およびオー
があり,形も違っているので,オス・メスを見分けるのに
ストラリア・ニュージーランドには生息していなかったが,
役立つ.
現在では人為的に導入されたり,何らかの理由で侵入
頭部の左右には,多数の小さな個眼が束状に集まっ
した個体が各地に定着し分布を拡げている.
た 複眼,複眼のまん中に3つの単眼がある.物の形や
スズメバチの分布の中心は中国南部(22種が生息)
動きを見るのは複眼の役目で,単眼は明暗を区別して
からヒマラヤ東部(17種が生息)にかけてで,いずれも大
複眼の働きを助けている.
型のスズメバチ属が多数を占めている.
胸部には4枚の羽と6本の足がついている.ハチの羽
ユーラシア大陸北部にはモンスズメバチVespa crabr
は,前翅と後翅がかぎでつながっていて,一緒に動くの
o がヨーロッパまで広範囲に生息している.本種は森林
で2枚のように見える.腹部はオスが7節,メスが6節から
害虫駆除の目的でアメリカに導入され,北西部を中心
できている.メスの腹部の先端は尖っており,産卵管が
に生息している.また,オリエントスズメバチVespa orien
変化した毒針がついていて,これで人を刺すことがあ
talisがインドから地中海沿岸地方にかけて分布し,唯一
る.オスには毒針がないので,腹部の先端はメスのよう
アフリカ大陸に生息する種となっている.
に尖っていない.
ヨーロッパやアメリカなどの都市部で多発し問題とな
スズメバチの成虫は胸部と腹部の間がくびれている
っているのは,これより小型のクロスズメバチとホオナガ
が,これは相手に毒針を刺す時に,体を”くの字”に曲
スズメバチ属の仲間である.これらの種は黄色と黒の縞
げて刺しやすくするためである.
模様を持つことからイエロージャケット(yellowjackets)と
顔を正面から見たとき,中央の鼻のように見える部分
も呼ばれ,分布の中心はスズメバチ属に比べて北方に
を頭楯といい,ハチの種を見分けるのに役立つ.頭楯
偏っている.
このうち,セイヨウクロスズメバチ Vespula germanicaと
の下には丈夫な大顎があり,餌を狩ったり巣材を囓り取
キオビクロスズバチVespula vulgarisの2種が,人家やそ
ったりする他,戦いの際には武器の役目もする.
スズメバチの舌は短く,やすりのようにザラザラしてい
の近くに営巣することや,幼虫の餌を人間の食物に依
て,樹液などを舐め取るのに適しているが,蜜腺が奥の
存する割合が高いことから,刺傷被害が多発し問題とな
方にある花からはうまく蜜を吸えない.
っている.
脚の先には一対の鋭い爪がある.その真ん中には吸
また,オーストラリアやニュージーランドではこの2種
盤の役目をする褥盤があり,つるつるの窓ガラスにもピ
が,原産地のヨーロッパとは異なり,多数の女王バチか
タリと吸い付いて止まることができる.
らなる多年生の巣を作る.大きな巣では巣盤数180段,
成虫数300万頭~400万頭という信じられないくらいの巨
(4) 世界のスズメバチ
大な巣を作り問題となっている.
スズメバチはスズメバチ上科スズメバチ科スズメバチ
その他,東南アジア(タイ,ベトナム,マレーシア,イン
亜科に属するハチの総称で,アシナガバチ亜科も同じ
ドネシアなど)には,夜行性のヤミスズメバチ属3種が生
スズメバチ科に属する.
息しており,前記の3属とは異なり,ミツバチのように分蜂
スズメバチという名前の由来については諸説がある
で巣を創設することが知られている.
が,雀蜂=スズメ程の大きなハチという意味だと言われ
ている.以前はスズメバチ=オオスズメバチの意味で使
(5) 日本のスズメバチ
われていた.中国語では胡蜂,大黄蜂,英語では Hor
日本には3属16種のスズメバチが生息しているが,分
net,Yellow jackets,ラテン語では Vespa と呼ばれる.
布地域は種により大きく異なっている.
スズメバチの仲間は世界中に4属67種が生息してい
生息種数が最も多い北海道や本州の山岳地帯では
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都市のス ズメバチ
14種が確認されており,南下するに従って減少する傾
ら,天井裏,床下,樹洞などの閉鎖的な場所までさま
向にある.最も少ない沖縄本島では2種が生息するのみ
ざまである.巣は大きなものでは直径50cmを越え,巣
である.
盤数は5~10層,育房数は5,000~10,000房位にな
大型のスズメバチ属は,分布の北限種となるチャイロ
り,日本産のスズメバチでは最大規模である.
スズメバチやキイロスズメバチの他,熱帯の種であるヒメ
活動期間は5種の中で最も長く,4月中旬には営巣
スズメバチやツマグロスズメバチが生息するなど,南北
を開始し,11月一杯,時には12月まで活動する.働き
に長い日本列島の気候を反映して多様な種が生息して
バチは6月より羽化し,活動の最盛期には1,000頭を
いる.
越える.オスバチ,新女王バチは9月~11月に羽化
名古屋市内にはスズメバチ属6種と,クロスズメバチ属
する.
2種の合計8種が生息している.
① オオスズメバチ
本種は,働きバチの羽化後営巣空間が狭くなると,
Vespa mandarinia
7月~8月により広い場所を求めて引っ越しをする習
体長は女王バチ40~45mm,働きバチ27~40mm,
性がある.
オスバチ35~40mmで,スズメバチの中で最大の種で
働きバチは全ての幼虫が羽化するまで(引っ越し
ある.
後1ヶ月ほど)は新巣と旧巣の間を行き来して子育て
営巣場所は地中や樹洞など屋外の閉鎖的な場所
を行う.
であるが,稀には人家の床下や天井裏などにも営巣
そのため,この時期に引っ越し先の巣を駆除する
する.
と,元の巣から飛来した働きバチによって,何度も巣
外皮は薄く底が抜けている.巣盤数は4~10層,育
が再建されることがあるので注意が必要である.
房数は3,000~6,000房になる.
幼虫の餌としてハエ,アブ,その他の昆虫類やクモ
越冬を終えた女王バチは5月上旬頃から営巣を開
などを狩る何でも屋である.
始する.働きバチは7月から羽化し,9月~10月には1
攻撃性,威嚇性ともに強く,巣に近づいただけで刺
00~500頭程度になる.オスバチは9月~11月に,新
傷被害にあうことがあるので注意が必要である.
女王バチは少し遅れて10月~11月に羽化する.
③ コガタスズメバチ
幼虫の餌はコガネムシやカミキリムシ,大型のガの
Vespa analis
体長は女王バチ25~30mm,働きバチ22~28mm
幼虫などであるが,秋口には集団で他のスズメバチ
で,5種のなかでは中位の大きさである.
やミツバチの巣を襲い,幼虫や蛹を巣に持ち帰る.
市街地では最も普通に見られる種である.営巣場
本種は先に羽化したオスバチが,巣の入り口付近
所は樹の枝や家屋の軒下などの開放的な場所であ
で待機し,中から出てくる新女王バチと交尾する習性
る.
がある.そのため,新女王バチの羽化時期になると,
巣は外皮に覆われたボール状をしているが,女王
午前中に多数のオスバチが巣の入り口付近を飛び回
バチが単独で巣作りをしている時期にはトックリを逆さ
り驚かされることがある.こうした集団飛行は,駆除後
にしたような形をしている.これは本種と宮古島以南
の巣の周辺でも見られる.
に生息するツマグロスズメバチのみの特徴で,巣内の
攻撃性,威嚇性ともに強く,地中や樹洞に営巣した
保温や外敵の侵入防止のためだと考えられている.
場合,近くを通行する際の振動が巣に伝わり,そのた
最盛期には巣の大きさもタテ30cm×ヨコ25cm位にな
めハチが興奮して攻撃してくることがある.また,樹液
り,巣盤数は2~5層,育房数は1,000房位になる.
によく飛来するが,本種は餌場に対する縄張り意識
越冬を終えた女王バチは5月中旬頃に単独で営巣
が強く,餌場においても威嚇や攻撃がみられるので
を開始する.働きバチの羽化は6月中旬で,活動が最
注意が必要である.
も活発となる9月~10月には100頭を越える.オスバチ
② キイロスズメバチ
Vespa simillima
と新女王バチは9月~11月に羽化する.
体長は女王バチ25~28mm,働きバチ17~24mm
幼虫の餌としてハエ,アブ,小型の甲虫類やハチ
で,5種の中では最も小型である.コガタスズメバチと
などあらゆる昆虫を狩る.
共に,都市環境によく適応した種である.
攻撃性,威嚇性は5種の中では弱い方であるが,
営巣場所は軒下や木の枝などの開放的な場所か
巣を刺激すると激しく攻撃するため,庭木の剪定作
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都市のス ズメバチ
業中などにしばしば刺傷被害が発生している.
④ モンスズメバチ
る.
Vespa crabro
体長がオオスズメバチに次いで大きなことや,威嚇
体長は女王バチ28~30mm,働きバチ,オスバチと
性が強く体の周囲にまとわりつくように飛び回るので
も21~28mmである.北方系のスズメバチで北海道な
恐怖感を与えるが,攻撃性は最も弱く,毒性もあまり
どには多いが,一般に都市部では減少傾向にある.
強くない.
営巣場所は樹洞,天井裏,壁間,戸袋などの閉鎖
高層ビルの屋上や高層階を,本種のオスバチが多
的な場所であるが,稀に軒下などにも営巣する.また
数飛び回り,住民に恐怖感を与える事例が各地で発
鳥の巣箱に営巣する例もある.営巣場所が狭くなると
生している.発生時期は8月下旬~9月下旬にかけて
キイロスズメバチと同じように途中で引っ越しする習性
で,時間は午前9時半頃~10時半頃の間である.飛
がある.
来したオスバチは,建物に沿って活発に飛び回り,時
巣は鐘状で底が抜けており,巣盤数は4~12層,
々屋上へ飛来する.これは本種の交尾行動に伴うも
育房数は4,000房程度になる.本種は巣への出入り
ので,飛び回っている個体は全てオスバチのため,
口付近に立派な目張りをする習性があり,同じような
刺傷被害が発生する心配はない.
場所に営巣するキイロスズメバチやヒメスズメバチなど
⑥ チャイロスズメバチ
Vespa dybowskii
と区別できる.また天井裏に営巣した場合,巣の下に
体長は女王バチ30mm,働きバチ17~24mmで,ス
餌の残骸や死骸などを捨てるため,天井にシミができ
ズメバチ属6種のなかではやや小型の部類に属す
て発見されることがしばしばある.以前駆除したことの
る.頭胸部が赤褐色の他は,体全体が黒褐色をして
ある場所に再度営巣する傾向が見られる.
おり,他種との識別は容易である.
女王バチは5月中旬には営巣を開始する.働きバ
従来の分布地域は長野県の伊那谷以北と考えら
チは6月から羽化し,9月~10月には400頭程度にな
れてきたが,名古屋市での生息が確実であることや,
る.オスバチ,新女王バチとも9月~10月に羽化す
2001年には三重県と大阪府でも初めて営巣が確認さ
る.
れた.また,鳥取県や京都府,滋賀県でも成虫が採
幼虫の餌として主に各種のセミを狩る他,バッタや
集されるなど,近畿以北に生息していると考えられる
トンボなども狩る.攻撃性,威嚇性はともに強く注意が
が,確認例は少なく極めて稀な種である.
必要である.働きバチは日没後も数時間活動するた
本種はキイロスズメバチやモンスズメバチの巣に女
め,灯火に集まったり,室内に侵入してくることがあ
王が単独で入り込み,相手の女王バチを殺して巣を
る.
乗っ取ることで知られている.最初は,乗っ取った巣
⑤ ヒメスズメバチ
Vespa ducalis
の働きバチが子育てをするが,チャイロスズメバチ自
体長は女王バチ,オスバチ,働きバチとも24~37m
身も働きバチを産むため,しだいにチャイロスズメバ
mで大きさの差はあまりない.本種のみ腹端が黒色な
チと入れ替わる.このような性質を持ったスズメバチを
ので,他の4種(腹端は黄色)とは容易に区別ができ
社会寄生性のスズメバチと呼んでいる.
る.
巣盤数は4~6層,育房数は600~3,500房位にな
営巣場所は屋根裏や物置の中,土中などの閉鎖
る.
的な場所である.巣は釣り鐘状または電灯の傘のよう
本種の働きバチの羽化は7月以降で,それまでは
な形をしており,下端は開放していて巣盤が見えてい
寄主の働きバチに養育される.活動が最も活発となる
る.巣盤数は3~4層,育房数は200~400房で,スズ
9月~10月には100~300頭になる.オスバチと新女
メバチの中では最も小型の巣を作る.
王バチは9月~10月に羽化する.
幼虫の餌としてアシナガバチの幼虫と蛹の体液の
幼虫の餌として主にキリギリス類を狩る.攻撃性,
みを利用する.そのためアシナガバチの発生消長に
威嚇性ともに強く,巣に近づくと,地上付近を群をな
合わせた生活をしており,営巣期間は約5ヶ月と最も
して飛び回る独特の威嚇行動をとる.
短い.女王バチは5月中旬頃から営巣を開始する.
⑦ クロスズメバチ
Vespula flaviceps
働きバチは7月より羽化し,8月~10月には50頭を越
体長は女王バチ15mm,働きバチ10~12mm,オス
える.オスバチと新女王バチは8月~9月に羽化す
バチ12~14mm位と小型である.身体は黒色で白い
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都市のス ズメバチ
斑紋があり,北海道,本州,四国,九州,佐渡島,奄
チ属5種のうち,クロスズメバチとシダクロスズメバチの2
美大島に分布し,平地から低山地にかけて普通に見
種について検索できる.
られる.
スズメバチは種により営巣場所が異なっており,また
営巣場所は閉鎖的な場所で,大部分が土中であ
巣の形や模様も異なっている.巣の場所と形から種を見
るが,稀に屋根裏や樹洞にも営巣する.営巣規模は
分ける方法が一番簡単であるが,巣に出入りするハチ
大きく,巣盤数は8~12層,育房数は8,000~12,000
の様子がわかればさらに正確になる.成虫が手元にあ
房になる.
る場合は成虫の形から種を見分けることができる.
活動開始は早く,越冬した女王バチは3月下旬に
① 巣の場所と形から見分ける
は活動を開始する.活動期間は極めて長く12月頃ま
スズメバチの営巣場所は種によって異なっている.
で続くことがある.働きバチは6月から羽化し,オスバ
コガタスズメバチのように開放空間に営巣する種や,
チ,新女王バチとも10月~12月に羽化する.
ヒメスズメバチ,モンスズメバチ,オオスズメバチのよう
幼虫の餌として主にハエやアブなどの小型の昆虫
に閉鎖空間に営巣する種,キイロスズメバチのよう
やクモなどを狩る.攻撃性,威嚇性は強くない.
に,開放空間,閉鎖空間のいずれにも営巣する種が
シダクロスズメバチとともに”へぼ”,”地蜂”などと呼
ある.また建物,樹洞,地中など種によって営巣する
ばれ,幼虫や蛹を珍味として食用にする習慣が,各
場所も異なっている.
地に残っている.
⑧ シダクロスズメバチ
巣の形も種により違いが見られ,これらを総合的に
Vespula shidai
判断するこ
体長は女王バチ15~19mm,働きバチ10~11mm,
とにより,正確にスズメバチの種を特定することができ
オスバチ12mm~14mm位の小型のハチである.身体
る.
は黒色で白い斑紋があり,クロスズメバチとよく似てい
② 成虫で見分ける
るが,頭盾中央の黒帯が下縁まで達しているのと,複
成虫の大きさや色彩から種を見分けることができ
眼内側の白色部がえぐれている点で区別できる.
る.多くのスズメバチは黄色と黒の縞模様をしている
北海道,本州,四国,九州,奄美大島に分布する
が,クロスズメバチとシダクロスズメバチは白と黒の縞
が,北海道以外では山地寄りに多く分布している.
模様をしている.大きさも働きバチで10~11mmと小型
営巣場所は閉鎖的な場所で,大部分が土中であ
なので識別は容易である.両者は頭楯の模様で区別
るが,希に屋根裏や樹洞にも営巣する.
することができる.
活動開始は早く,越冬した女王バチは3月下旬に
チャイロスズメバチは頭胸部が赤褐色の他は,体
は活動を開始する.活動期間は極めて長く12月頃ま
全体が黒褐色をしており,他種との識別は容易であ
で続くことがある.働きバチは6月から羽化し,オスバ
る.働きバチの大きさも17~24mmと,スズメバチ属6
チ,新女王バチとも10月~12月に羽化する.営巣規
種のなかではやや小型である.
模はクロスズメバチよりも大きくなることが多く,巣盤数
他の5種は黄色と黒の縞模様をしているが,ヒメスズ
は8~12層,育房数は8,000~12,000房になる.
メバチのみが腹端の色が黒色なので識別ができる.
幼虫の餌として主にハエやアブなどの小型の昆虫
残りの4種はさらに単眼の間の色が黄色か黒かによ
やクモなどを狩る.攻撃性,威嚇性は強くない.
って2種づつに分けられる.単眼付近が黄色いのは
クロスズメバチとともに”へぼ”,”地蜂”などと呼ば
オオスズメバチとコガタスズメバチであるが,この両者
れ,幼虫や蛹を珍味として食用にする習慣が各地に
は頭楯下の突起の形で識別が可能である.
残っている.
単眼付近が黒いキイロスズメバチとモンスズメバチ
は,中胸背板にある小楯板の色が黄色か茶褐色かで
(6) スズメバチ8種の見分け方
識別する.
本州の西南暖地(関東地方以西の各地)に生息する
8種のスズメバチを,巣が作られた場所と成虫の形から
見分ける方法である.
本州に生息するスズメバチ属6種全てと,クロスズメバ
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