NHK総合テレビ 毎週水曜日・午後8時から放送中 http://www.nhk.or.jp/gatten/ 1300万人の新国民病! 隠れ腎臓病恐怖の連鎖 2008年11月12日放送 今回の番組について 「カルシウムを摂って骨に良い生活をしていたはずなのに、骨がスカスカの状態」「鉄分をとっていた のに、貧血」になってしまう不思議な現象があります。その原因はどちらも「腎臓」。腎臓の機能が落 ちると、骨や血液にまで悪影響が出てしまうのです。 いま、自覚症状がないうちに腎臓の機能が落ちている人が沢山見つかっています。それが「隠れ腎臓 病」。さらには腎臓だけでなく、脳卒中や心筋梗塞(こうそく)などを引き起こし、突然死する危険性 が高くなることがわかってきました。 今回のガッテンは、隠れ腎臓病の最新情報、早期発見・早期治療の方法をお伝えします。 オープニングクイズ 問題:人工透析に使われる人工フィルターの中には、何本の細かいフィルターが入っているか? 答え:1万本 ※本物の腎臓にも、フィルターに相当する「糸球体」(しきゅうたい)があります。 問題:4時間の人工透析で、何リットルの血液が人工フィルターを通るか? 答え:50リットル ※人間の体にある血液の総量は約5リットルなので、すべての血液が10回ろ過される計算になりま す。一方、本物の腎臓には1日1500リットルの血液が流れ込むので、300回も循環する計算になる。 問題:腎臓が出すホルモン「レニン」の働きは何? 答え:全身の血管を締め付け血圧をあげ、腎臓に集まる血液を増やしてより多くろ過できるように する。しかし、その結果、高血圧を招いてしまう。 「まさか!腎臓が血液を…」 最近の研究によると、自覚症状が全くない段階の軽度の腎臓機能低下で、脳卒中・心筋梗塞のリスクが 大幅に上昇する悪循環があることがわかってきました。そのメカニズムは、「腎臓機能が低下→高血 圧→動脈硬化→突然死の危険」というものです。 さらに、今回、これに貧血と骨スカスカの2つが加わる。一体どういうことなのか? 会社員のAさん(61歳)は健康自慢。40歳になった頃、Aさんは突然医師から「貧血」の宣告を受けまし た。全く自覚症状がないものの、念のため、貧血対策のために鉄分を多くとる食生活を続けました。し かし、徐々に体がだるくなり、集中力が続かないなど、貧血の症状が重くなってきました。 そこで再び医師の診察を受けると、「腎臓病が進んでいる」と診断されました。鉄分をとっても治らな い貧血、その原因は、なんと「隠れ腎臓病」だったのです。腎臓が貧血と一体どう関係するのでしょう か? 腎臓病から来る貧血患者が急増中 現在、隠れ腎臓病が原因の貧血患者が急増しています。推定では300万人を超えると言われます。この秋 に日本透析医学会は腎性貧血の新しい治療方針を発表し、重要視されつつあります。 そもそも貧血とは? 健康な人と貧血の人の血液は、見た目は変わりませんが、遠心分離器で分析すると含まれる赤い部分の 量が違います。貧血とは「血液中に赤血球が少ない状態」を言います。貧血で一番多い原因は、赤血球 の材料が不足する「鉄欠乏性貧血」です。 一般的な貧血のイメージの「かよわい女の子がふらっと倒れる状態」は、正確には「脳に血流が行かな い状態」です。医学的には急性起立性低血圧や脳貧血と呼ばれ、本来の「貧血」とは異なるものです。 「貧血の真犯人をあぶり出せ」 Aさんは、赤血球の材料「鉄分」を摂っていたのに、なぜ赤血球が減ってしまったのでしょうか。実は、 腎臓がその容疑者を作り出していました。 そこで「貧血体験」大実験! ガッテンスタッフは、室内の酸素濃度を下げることで「貧血に似た状態」 を体験できる施設を訪れ、貧血の時に、血液中に起こる変化を調べました。 高度4000メートルと同じ状態では、血中の酸素濃度は8割に低下しました。ここで100回足し算を繰り返 す計算に挑戦すると、4人中3人が、正常時に比べて回答時間が長くなるなど、活動能力が低下していま した。 血液をさらに詳しく調べると、被験者のうち2人で、「エリスロポエチン」というホルモンの濃度が上昇 していました。実は、このホルモンこそが、腎臓が貧血を引きおこすメカニズムに深く関わっているの です。 「腎臓は赤血球を作る指令を出す!」 骨の中心の骨髄は血液の工場で、ここでは常に赤血球が作られています。貧血が起こって体の酸素が足 りなくなると、なんと腎臓からエリスロポエチンが出て骨髄にやってきて、赤血球を作らせる指令を出 します。すると、工場は普段よりも働き、どんどん赤血球が作られて貧血が治ります。腎臓は、血液を 作る指令まで出していたのです。 エリスロポエチンとは? エリスロポエチンとは、腎臓から出されるホルモンの1つです。骨髄に働きかけて、赤血球を作らせる指 令を出します。腎臓機能が悪化すると、エリスロポエチンの産生量が減り、「腎性貧血」になります。 貧血と腎臓悪化の悪循環 体の中の酸素濃度を特殊な方法で測ると、健康な状態でも腎臓は常に低酸素状態でした。腎臓は酸素の 取り込み能力が非常に低い臓器であるだけでなく、酸素が足りないまま、常に多くの仕事をしなければ ならない臓器なのです。 しかも、全身が貧血になると、腎臓はさらに低酸素状態になってしまう、という悪循環が発生します。 つまり、「腎臓悪化→エリスロポエチンが出ない→貧血→腎臓悪化…」という悪循環が起きてしまうの です。 腎臓が原因の貧血はどう治す? 鉄分をとっても貧血が治らない場合は、腎臓悪化が原因の貧血「腎性貧血」の可能性もあります。医師 と相談して、腎臓を検査することをおすすめします。ホルモン治療などがあるので、専門医に相談して みてください。 「カッセー(活性)カッセー(活性)腎臓は骨の応援団」 重い腎臓病を患うBさん(49歳)の骨は、10年前、予想もしなかった異変に見舞われました。骨の材料で あるカルシウムは十分に摂っていたのに、突然、医師から「骨がスカスカ」という診断を受けたので す。 実は食事で摂ったカルシウムを体内に吸収するのは「ビタミンD」の役目です。しかし、腎臓によって 「活性型ビタミンD」というホルモンに変身させる必要があります。腎臓は骨を作るという大きな働きも しているのです。 隠れ腎臓病で「血管に骨ができる」 隠れ腎臓病が原因で「血管に骨ができる」ことがあり、これを「血管の石灰化」と言います。そのメカ ニズムは次のようなものです。 そもそも、カルシウムは常に血液中に一定量が必要です。腎臓の働きが落ちてカルシウムを吸収する量 が足りなくなると、骨が溶け出て、血液中のカルシウム濃度を維持しようとします。この溶け出たカル シウムが複雑な仕組みを経て、血管に沈着してしまうのです。 ※厳密に言えば、リンの代謝や副甲状腺ホルモンも関係しています。 腎臓と骨の悪循環 最近の研究では、隠れ腎臓病の軽い段階から、血管の石灰化が始まっていることが分かってきました。 血管の石灰化は、腎臓の中の毛細血管にダメージを与えます。このことが「腎臓悪化→活性型ビタミ ンDが出ない→骨がスカスカに→血管が石灰化する→腎臓悪化」という悪循環を引き起こすのです。 隠れ腎臓病が原因になって、「高血圧→動脈硬化」の悪循環に加え、「貧血・骨スカスカ」の悪循環も 合わさって、さらに大きな悪循環を形成し、その結果、「突然死」の危険性が増加してしまうのです。 「これが肝腎!早期発見の切り札」 どうしたら早期発見・早期治療ができるのでしょうか。早期治療に成功した患者さんの体験を聞いてみ ましょう。 元腎臓病患者のCさん56歳は、10年前に糖尿病が進行して、腎臓機能が50%まで落ちてしまいました。自 覚症状のない「隠れ腎臓病」だったのです。 しかし、現在は、腎臓機能が75%まで回復しました。実践しているのは食事療法ですが、Cさんは計算ど ころか、計量カップもスプーンも使いません。腎臓病が軽い段階で発見できたので、さほど苦痛でない 程度の食事制限で済んでいるのです。早期発見できた理由は「尿タンパク検査」でした。 腎臓のろ過量は透析ぎりぎりまで保たれる 腎臓のろ過量は、人工透析が必要になる直前までほとんど減りません。しかし、実際にろ過を担ってい る糸球体の数は、「隠れ腎臓病」の間に減少してしまっています。残った糸球体がそれまでの数倍も働 くことで、みかけのろ過量が保たれるのです。 しかし、糸球体の残量が2~3割を切ると、ろ過量が維持できず、急激にろ過量が減少して、腎臓病が明 らかになってきます。隠れ腎臓病があると、糸球体の数は10~20年かけて徐々に減っていきます。 腎臓機能低下のきっかけは、糖尿病・高血圧・メタボ 腎臓の毛細血管フィルターの内壁には小さな穴が開いていて、ここから老廃物がろ過されています。血 中に過剰な糖分や脂肪分が増えたり、塩分を摂取することで血圧が上がると、この穴が壊れて、ろ過が できなくなります。そのため、糖尿病・高血圧は、腎臓機能低下のきっかけとなります。 つまり、メタボリックシンドロームを防ぐ食事が、腎臓機能低下を防ぐ食事と言えるのです。 ※そのほか、タバコやストレスなども腎臓に悪影響があります。隠れ腎臓病の原因は、多くが生活習慣 に由来します。 高血圧がある場合、腎臓病を疑う 高血圧になる原因はさまざまです。隠れ腎臓病では糸球体の減少を補うために、腎臓がレニンを出し血 圧をあげるため、高血圧になります。慢性的な血圧上昇の原因が、実は腎臓機能の低下だったという ケースは大変多いのです。 隠れ腎臓病に気づくための検査 尿タンパク検査 尿に含まれるタンパクを見ることによって、腎臓の健康度合いを知ることができます。体にとって大切 なタンパクが尿に漏れてしまうのは、腎臓の機能が低下していることが原因と考えられます。 尿タンパクの検査キットは、薬局などで1000円程度で販売されています。ただし、運動の影響などで陽 性が出ることもあります。月1回の検査で3ヶ月続けて陽性の場合、または、1回の陽性でも2+や3+など 重度のタンパク尿が出た場合は、医師に相談することをおすすめします。 血清クレアチニン検査 腎臓機能を知るためにさらに有効な検査が「血清クレアチニン検査」です。血清クレアチニンとは、体 内の老廃物で、腎臓のろ過機能を示す指標です。 血清クレアチニンの数値と、性別、年齢で、自分の腎臓ろ過機能レベルを推定できます。特に注意が必 要な検査値は、年齢にもよりますが、60歳の場合、男性で1.2以上、女性で0.9以上の場合(慢性腎臓病ス テージ3)とされています。 自治体や企業の健康診断などでは、血清クレアチニンを検査するところと、していないところがありま す。検査していない場合でも、相談の上、料金を負担すれば検査してもらえることもあります。健康診 断の実施機関に相談してみてください。 腎臓病はかなり悪化しないと自覚症状が現れません。早めの検査と対策を心がけてください。番組から のお願いです。 Copyright NHK (Japan Broadcasting Corporation) All rights reserved. 許可なく転載することを禁じます。
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