お地蔵様の赤い帽子〜利他行の教え

曹洞宗大本山總持寺・ニコニコ法話
平成27年9月
「お地蔵様の赤い帽子〜利他行の教え〜」
たに りゅうじ
北海道第3宗務所第1教区 天総寺副住職 谷 龍嗣
利他行という教えがあります。これは、
「私が相手の為に、精一杯出来る事をする」とい
う教えです。この教えを姿で表しているのが、皆様ご存じのお地蔵様です。
お地蔵様は右手に錫杖という杖を持っておられます。これは悩み苦しんでいる方々のと
ころにいつでも行って、寄り添い、救ってあげたい。という願いが込められています。
昨年の秋のある朝の事でした。私が住むお寺の本堂の玄関を開けると近所の七十五歳
になる女性の檀信徒さんが、お寺の門の横にある六地蔵さんの前で何かをやっている。
「おはようございます。朝早くからご苦労様です。お掃除ですか」と声をかけますと、
その方は『これから雪降って、寒くなるからねぇ。お地蔵さんが寒いとかわいそうだから』
と言いながら赤い帽子と赤い前掛けを取り換えていました。
「毎年ありがとうございます。私も手伝いますね。」と帽子を1つ手に取ると…。その帽
子には、1、2、3、4、5、6と番号が書いていました。
「あれ、これは何の数字ですか?」
と聞くと
『お地蔵さんは、それぞれの頭の大きさが違うからね。』と言って一つ一つその
数字の書いた帽子を丁寧にかぶせておられました。
毎日、私の側にいるお地蔵さんが、同じ大きさで、同じ姿としか見られなかったその心
に気づかされました。
相手の立場にたって、その方に寄り添えば、必ず見えてくるものがある。それは、相手を
思いやる、やさしい心です。その女性は帰り際に私にこう言いました。
「帽子が新しくなると、お地蔵さんも、お参り来る皆もうれしいでしょう。そうすれば、私
もうれしいの。」と言います。
いま、自分が相手の為に出来る事を精一杯、
「見返りを求めず」に行う。そこに、相手の
幸せが、自然と自分の幸せにもなる仏様の姿を見たようでした。
利他の行いは、相手だけではなく、自分にも幸せを届けくれる仏様の行いなのです。