映画ミッション1986

三億円事件を起こすのです。
初恋
予告編で宮崎あおいが「この物語を、実話だと思っています」って書
いてて、ばかだろ(笑)って思ったんですけど、ストーリーに全く無理がな
くて、女子高生が実行犯なんてあり得なそうな話もすんなり受け入れら
2006年、日本、114分
れる。全体的にも女の人は特にみすずに感情移入しやすい作りになって
監督:塙幸成
ます。Bでのみすずと岸の出会いなんかお互い一発で恋する感じが、もう
ね、きゅんきゅんしちゃうよね!
それで、この映画で鍵は「必要とされない」こと「必要とされる」こ
との対比です。母親から捨てられて、親戚の家で孤独に暮らすみすずが、
ジャズ喫茶にたまる若者たちと仲良くなって、岸に「お前が必要なんだ」
と言われるに至る。これがまるまる、序盤の暗くて退屈な感じと、その
初恋はコーヒーの染み
あとのきらきらした感じとの区切り。
ところで、原作者の名前が「みすず」で、これは痛い!ほんと痛いん
だけどいいんだよ、なぜか。その痛さが創作に於いて大事なのだとなん
薄暗いジャズ喫茶、コーヒーと煙草の空間。新宿駅前のぎらぎらした
となく思います。
怪しい雰囲気、左翼運動の張り紙、幾何学模様のミニスカート。黒くて
ひとつ難をあげれば、みすずと岸のまわりの人たちのことがよくわか
でかいセドリック。60年代のあの空気。まさに「時代が何かを求めてい
らない。みすずと岸以外の人の描写が少なくて、映像も暗いので誰が誰
た」時期。堪んねえええええ!!!「初恋」に詰め込まれた夢の空間は
だか混乱する。なんでみすずの母親は兄だけ連れて出て行ったのか。多
90年代生まれのわたしには絶対に手が届かない!悔しい!!
く語ることが必要ではないのはわかるし、周りについてよくわからない
音信不通だった兄から手渡されたマッチに書かれている店、ジャズ喫
物語はわりと好きんだけど、Bのみんな一人一人を愛せない感じがちょっ
茶Bへと立ち寄った高校生のみすず(宮崎あおい)。店内には兄を含め6
と残念。セカイ系に通じるものがあるのかもしれないですね。まあ男の
人の若者がいた。冷たく突き放す岸(小出恵介)にみすずは言い放つ。
人はみすずに恋をして、女の人は岸に恋をすればいいんです。
「大人になんかなりたくない」。そして1968年12月10日…。
ウィキペディアからもってきたんですけど「…。」なんて引っ張ること
じゃないと思うんで言っちゃうと、そして1968年12月10日、みすずは
激動の 60 年代を生きた人もみすずくらいのティーンエイジャーも岸
くらいの 20 代の若者もそれ以外の人も、それぞれの視点で、きゅーんっ
とした気持ちになれると思います。
(さちか)
うとする科学者もいるが、彼の実験は、彼が仏様を信じていなかったた
ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団
めメタクソに失敗してしまううえに、脈絡もなく怪獣まで呼び寄せてし
まう。
さらには、ヒーローである「ハヌマーン」がタイに降り立ってからは
1974年、日本・タイ
原題:Hanuman pob Jed
Yodmanud
じめにやることは、人々を困らせる日照りを解決することでも怪獣を倒
すことでもなく仏像泥棒を働いた不忠な輩を誅殺することなのだ。
そしてそのシーンは非常に残虐極まりない。
普通の人間である仏像泥棒に、ヒーローであるはずの「ハヌマーン」
は4 0 m 級 に 巨 大 化 して襲いかかるのだ!しかも仏像泥棒を追いかけ
るときに「逃 げ ら れ る と 思 っ て い る の か ? 」「お 前 を 殺 し て や る ! 」
「仏 様 を 大 切 に し ろ ! 大 切 に し な い や つ は 死 ぬ べ き な ん だ ! 」とま
で叫びだすからたまらない。もはや悪役である。
そして、本作を象徴するのがヒーローと怪獣との格闘シーンだ。
ウルトラ6兄弟とハヌマーンが勢ぞろいし、一匹の怪獣を囲んでタコ
今回紹介するのはタイで製作されたそのヒーロー「ハヌマーン」が大
活躍する映画「ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団」だ。
ズバリ言っておこう。この映画、ウルトラ6兄弟と銘打っておきなが
ら実際にウルトラ6兄弟が登場するのは1時間半の上映時間のうち2 0
分にも満たない。他はずっと「ハヌマーン」が活躍しているのだ。ウル
トラ兄弟の活躍を楽しみにしていたちびっ子達涙目である。
さて、内容を見ていこう。この映画には仏教国であるタイのお国柄が
非常によく見てとれる。
例えば日照りにより飢饉に陥った状況を打破するために人々がとる行
動は雨乞いの踊りを踊り、仏様に祈ることなのだ。祈れば神の使いで
あるハヌマーンが助けてくれるというわけだ。中には人工雨を降らせよ
殴りにする動画を見たことがある人もいるのではないだろうか。それが
本作品の映像である。もはやどちらが悪なのか分からないくらいの恐ろ
しいリ ン チ っぷり。ここも暴 力 映 画 に 定 評 が あ る タイらしい部分だ。
ヒーローものとしてはアウトだが。
日本の特撮にタイのお国柄である仏教とバイオレンスを盛り込んだ怪
作。ネタもの好きなら見て損はないだろう。
(カルダ)
だ!ここにおいて重要なのはその見せ方である。
マッハ!!!!!
テーマはムエタイというタイの格闘技を使って悪を倒す、というものだ。
しかし彼がムエタイを使うのはタイマン勝負の時だけ。
その他大勢を倒す時はテコンドー、カポエイラ、エクストリームマーシ
2003年、タイ
原題:「ONG-BAK」
ャルアーツなどの、とにかく派手で豪快な技を駆使している。
そのくせ先に書いたようにタイマンではしっかりとムエタイの動きをす
るものだから、見ている側としては「ムエタイすげぇ…」という風に引
き込まれてしまうのである。
これに対してムエタイにこだわりすぎて大コケした映画がある。
「ロケットマン!」(2006)がそれで、ムエタイの特徴である膝蹴りや
肘打ちばかり使い、前半の見せ場である多くの敵をバッタバッタと倒す
梅雨時にオススメな映画!
シーンでそれをやってしまったために非常に地味な仕上がりで、マッ
ハ!とは逆に「ムエタイ地味…」という感想になってしまうはずだ。
頭を使わず、富山のキツイ湿気を吹き飛ばすスカッとした爽快感が得ら
さらに特にスゴイシーンではスロー再生、DVDのチャプターメニュー
れるムエタイアクションムービー。ストーリーはいたって単純。盗まれ
ではアクションシーンだけ選んで再生できる仕様もある徹底ぶり。
た村の大事な仏像の首を取り返しにいくというもの。
とにかく「トニー・ジャーを使ってムエタイを魅せる!」という点でこ
肝はなんといってもアクションで、スタントマン、ワイヤーワーク、C
れに勝る映画はほかにない!!本編108分という手軽感もあるし、いまい
G、早回しを一切使わないといううたい文句で大成功した映画である。
ちやる気がでない時やスッキリしない時にもってこいだ!
これを成功させたのは主演を務めたトニー・ジャーの驚異的な身体能力
そんなトニー・ジャーが監督・主演・原案・武術指導を務めた「マッハ!
である。彼は最初スタントマンを目指していて、プロモーション映像を
弐」(2008)が今日本で公開中。
送ったところ「単なるスタントで終わらせるにはもったいなさすぎる」
☆ 同時にチェック「トム・ヤム・クン!」
(2005)見どころ:4分間強
ということでいきなり主演に大抜擢されたわけである。
の階段を駆け上がりながらの長回しアクションシーン。トニー・ジャー
余談だがこの映画において彼のセリフはA4の紙にして2ページ以下で
vsいろんな格闘技。 ☆類似品に注意「七人のマッハ!!!!!!!」
あり、もっといえば「∼はどこだ!?」というのがほとんど。
(2004)見どころ:マッハ!関係ない。人数に頼って結局中途半端。
頭がかるいのでよく動くその身で語るのに言葉はいらないというわけ
(みつを)
俳優に素人プロもない、
くのぼうな雰囲気が役にぴったりきているのだ。
あるのは良い俳優とダメな俳優の違いだけだ
さらにこの映画、ヒロインのピアニスト役もアンナ・ゴウラリという演
∼ヴェルナー・ヘルツォーク∼
技経験ゼロのプロのピアニストを起用している。ヘルツォーク監督がア
ンナに宛てた手紙には「貴方がピアニストとして持っている聴衆を惹き
つける魅力は、貴方が俳優として映画で発揮することと同じものです。
貴方を女優にするのは私のプロとしての仕事であり、私はそれができる
ので、貴方はできる。私は貴方にノーという答えを望んでいない。」と書
いてあったという。とはいえ、彼女は素人らしく終始ぎこちない。しか
し!物語が進んでアンナがピアノを演奏するシーンになると「んっ!?」
とびっくりするぐらい豹変する。
ピアノ弾かせたらびっくり!なシーンは名作「シャイン」という映画に
もある。精神に異常をきたした天才ピアニスト(実在した人)がふらり
と立寄ったカフェで「熊蜂の飛行」をいきなり弾きだすというシーン。こ
れも魅力的でかっこいい。
ドイツの鬼才監督ヴェルナー・ヘルツォークの言葉で、映画「神に選ば
話を戻して、このアンナの演奏シーンによって、空虚な現実の姿とそこ
れし無敵の男」(2001)で素人俳優を用いた際に言われたものである。
に隠された本当の実力とのコントラストをはっきりさせて、彼女は夢を
ということで今回は「プロ以上に魅力的な素人俳優の世界!」をテー
追うべきなのに変な場所で足を取られてしまっているという事実をうま
マに映画を紹介しようと思います。
く描写している。素人を起用する意義を感じた。
「神に選ばれし無敵の男」と題名は地味だが、主演の怪力男ジシェ役は
この映画には彼ら素人二人に加えこちらも主演であるティム・ロスの存
World's Strongest Man という世界怪力選手権の元チャンピオンのヨウ
在を忘れてはいけない。彼は逆にプロの俳優であり、かなりの演技力の
コ・アホラ(ほんとにアホっぽいけど力は強い)なのである。World's
持ち主として知られているが、彼ら素人俳優の起用はこのティム・ロス
Strongest Man は毎年 BS2 でその模様が放送されているので興味のあ
とのコントラストをも強める結果になり、ティム・ロスの演じる千里眼
る方は是非見てほしい。
をもつ男ハヌッセンの異常さがより際立っている。意外と計算されてい
それで優勝するような人が映画で主演をはってしまうだけでも驚きなの
るんだなぁと関心。
に、彼の演技がまたいいんだこれが!確かにうまくない、けどそんなで
もっとこの映画については話さなきゃいけないことがたくさんあるんだ
けど、今回はプロの俳優、素人の俳優というテーマなのでこの辺にして
「神に選ばれし無敵の男」(2001)
おく。あとはみなさんがこの映画を見ていろいろと感じとってもらえた
1932 年ポーランド。ユダヤ人一家の長男ジシェは、華奢であるが頭の良
らと思います。是非見ご覧ください!!
い弟と暮らしていた。町に来た見世物小屋で怪力を買われ、ベルリンの
つづいて「キリング・フィールド」(1984)という映画を紹介したいと
ショーにスカウトされる。劇場主のハヌッセンは千里眼という演目で
思います。ピューリッツァ賞を受賞したS・シャンバーグのノンフィク
人々の注目を集め、ヒトラー政権のオカルト大臣(!!)の座を狙っていた。
ションが原作のカンボジアの内戦についての映画。アカデミー賞助演男
「キリング・フィールド」(1984)
優賞を受賞したのだが、なんとこの受賞者のハイン・S・ニョールはカン
70 年代、クメール・ルージュによる内乱渦巻くカンボジアを舞台に、ア
ボジアの医師で実際にこの内戦で4年間も強制労働させられたという経
メリカ人記者と現地人助手の絆を描く。プノンペンでの混乱ぶりを描写
験を持っている素人俳優なのである!
した前半部と、強制労働に従事させられている助手が脱走し戦禍の大地
彼の演じたのはプランというアメリカからのカンボジア取材記者の助手
をさまよう後半。
役。物語が進んでいくとプランは強制労働をさせられ過酷な状況の中で
「ミッション」(1986)
も脱獄を試みていくのだが、そこにはプロの俳優以上にリアルな表情が
キリスト教の神父ガブリエルは滝の上の土地に住むインディオ達に布教
ある。それは経験者にしか表現できないことであり「俳優に素人プロも
しようとする。しかしポルトガル政府がその地の征服を企て、大量の政
ない、あるのは良い俳優とダメな俳優の違いだけだ。」という言葉がぴっ
府軍を送り込んだ事から神父側との壮絶な戦いが始まる。様々な利害が
たり当てはまる。国籍を超えた真の友情の物語、これもいい映画なので
交錯する中、自らの行いも植民地支配の一端を担っていることに気付き
ぜひ見ていただきたい!また、この映画の監督ローランド・ジョフィの
ながら布教という形で信念を貫こうとするガブリエル神父の姿が大きな
カンヌ映画祭グランプリ受賞作「ミッション」(1986)という作品もお
感動を呼ぶ。
すすめ。
「ワンダフルライフ」(1999)
邦画では「ワンダフルライフ」(1999)を紹介しておく。今では俳優と
舞台は天国の入口。そこでは亡くなった人が天国へ辿り着くまでの7日
して有名な ARATA が初めて映画に出た作品である。スタジオパークに出
間に人生で最も大切な思い出をひとつだけ選び、撮影し、それをスクリ
演した際、この頃はモデルとして活躍していたので演技経験はほとんど
ーンで観て成仏するということが行われていた。主人公はそこのスタッ
なかったと言っていました。主人公でありながら存在の虚ろな演技は、
フで仲間達と一緒に亡くなった方へのインタビューや撮影を行っている。
周りの人物のストーリーを眺める空っぽの中心、台風の目のような存在
そこに新たに 22 人の男女がやってきて早速仕事に取り掛かるのだが…
だ。これは経験のない演技を手探りでやるからこそ表現できたのかもし
れない。この「ワンダフルライフ」最近 BS2 で放送されているのでぜひ。
(会長)