平成26年度 日本大学文理学部個人研究費 研究実績報告書 所属・資格 史学科・助手 A 申請者氏名 林 亮 研 究 課 題 中世フランス貴族の権力構造に関する研究 研究目的 および 報 研究概要 告 研 究 の の 概 結 果 要 研 究 の 考 察 ・ 反 省 研究発表 学会名 発表テーマ 年月日/場所 研究成果物 テーマ 誌名 巻・号 発行年月日 発行所・者 印 中世盛期フランス、特に王領地における在俗貴族層が、相互に構築した権力「ネットワーク」 の様相を明らかにするものである。この「ネットワーク」とは封建的主従関係、婚姻による 婚族・親族関係、王宮における官職による職務関係、その他様々な結びつきを想定している。 さらにこのネットワークがフランス王カペー家とどのような関係を構築していたかに注目す る。これにより「封建王政」を確立するカペー家王権が、権力的基盤となる王領地において どのような権力構造を作り上げていたのかを理解することが可能となるのである。 当該研究においては、E. Bournazel や J. W. Baldwin といった先行研究に対して批判的に一 次史料を再検討し、また彼らのように封建関係や婚姻関係について検討することのみならず、 官職とその授与者である王家との関わりなどにも注目して分析を行うことで、新たな独自研 究を進展させることができるものと考えている。 ガルランド家やル・ブテイエ・ド・サンリス家、その他様々な王領地の貴族家門の調査の結 果、典型的な父系制的親族関係による家門の形成に伴う特徴的な慣行が見られた。そして特 に国王官僚としての官職獲得といった事例も多くみられ、そのことから王権との関わりが、 古くからの自由地や城などを持たない新興の一族にとって、家門の確立に重要な意味をもっ たことも分かる。 また、例えばガルランド家は王領地の小貴族、平騎士層と各種権利関係や縁戚関係を巡らし て影響力を維持しているのみならず、モンモランシー家やボーモン伯家といった有力城主家 系とも婚姻関係を持っており、王領地における貴族層の縁戚関係の網の目を深く広く張り巡 らせていた状況が分かる。このように、彼ら新興家門と古参の有力家門との間の婚姻関係が 複雑に絡み合う状況も確認された。こうした要因が重なって、王領地における貴族層の再構 築が進んでいったことが判明した。 ヨーロッパ全般で進行する父系制的親族関係に基づく家門形成傾向と同様に、王領地におい ても、在地有力者層の家門の形成の進展と再構築が見られる。王領地で特徴的なのは、その 安定的維持、継承のために王権との親密性、従順性が見られる点で、これは特に王からの授 与物や権限に大きく依存する新興家門においてより顕著である。こうした傾向を最も強く表 しているのが、国王役人としての職務を源とする地位の確立であり、これは王権の拡大にお いては王宮および国王役人層の重要性は維持されていたと見ることができる。 今回の調査では、様々な制約により個別事例としての貴族家門の調査が十分とは言えないの で、より多くの事例調査を積み重ねる必要がある。 ※この欄は,本報告書提出時点で判明している事項についてご記入ください。
© Copyright 2024 Paperzz