平成27年度 日本大学文理学部付置研究所 研 究 課 題 研究目的 および 報 研究概要 告 研 究 の の 結 果 概 要 研 究 の 考 察 ・ 反 省 所員個人研究費 研究実績報告書 所属・資格 哲学科・教授 申請者氏名 小林 宗教共同体と人口移動 申請者はこれまでグローバル化にともなう宗教変容につき、その理論的基礎研究をすすめ てきた。この申請になる研究ではその延長としてとりわけ人口移動の側面に焦点をあて、巡 礼・観光を含むグローバルな人口移動が宗教共同体にあたえるインパクトの問題を研究した。 従来の宗教集団論は、人口の定住を前提として組み立てられ考察されてきた。それは、世 俗の集団論についても指摘し得るところであろう。しかし、今日情報技術の進展をともなう グローバルな人口移動の恒常化する中、ある宗教の信者が離散しつつしかも集団的アイデン ティティを維持しているかのようにみられる現象も観察される。 この申請になる研究においては、巡礼および観光現象を中心とし、人口移動が宗教共同体 に与えるインパクトにつき、理論的な先行諸研究のレビューにより問題点をあらいだすこと に努めた。 価値は本来共同体的なものであり、宗教的価値もその例外ではない。したがって、宗教的 価値を体現する儀礼や崇拝対象物も、宗教共同体(集団)が解体されてゆけばその価値を喪 失してゆくものと考えられる。他方で、今日グローバル化の進展の中で、祭りなどの宗教儀 礼や、崇拝対象としての宗教財が広く観光財として宗教共同体の外部からも消費されるよう になってきている。 グローバル化を越境的な市場の拡大という側面でとらえるならば、このような宗教財の観 光財化は当然の現象でもある。もっとも、宗教財を崇拝の対象としてではなく楽しみの対象 として消費するにしても、そこには宗教財としての認知が広く共有され、拡散された宗教的 価値への認知が存在すると理解することもできよう。そのような意味では、宗教財をめぐる 観光の拡大は、拡散された宗教的価値を消費する巡礼とも理解できる。 解明すべき問題はこのような拡散され普遍化された宗教的価値なるものの普遍性の根拠を 問い、その上で現代の観光・巡礼現象を考察することであろうと思われる。この研究におい てはそのような問題の所在を確認した。 グローバルな市場の拡大の中で、ローカルな宗教財はしばしば「世界遺産」といった新た な称号をも得、普遍的価値を認定されているが、宗教財の観光財化はその宗教財を有する地 域住民にある種の違和感を引き起こしている面もある。 拡散された普遍的宗教的価値への認知を認めるにしても、ローカルな宗教財はだれのもの であるのか。ローカルな宗教共同体(集団)はほとんど解体されたにしても、なお宗教財を ローカルな価値を有し、みずからのアイデンティティとかかわりをもつものと認識する住民 は多い。 今後は、このようなグローバルに市場化される世界の中において、ローカルな宗教財の(法 的な意味ではなく文化的な意味での)所有権の所在の問題を考えなければならないであろう。 ※この欄は,本報告書提出時点で判明している事項についてご記入ください。 研究発表 学会名 発表テーマ 年月日/場所 研究成果物 テーマ 誌名 巻・号 発行年月日 発行所・者 紀由 なし
© Copyright 2024 Paperzz