久保 光志 - 日本大学文理学部

平成27年度 日本大学文理学部付置研究所
研
究
課
題
研究目的
および
報
研究概要
告
研 究
の
の
結 果
概
要
研 究
の
考 察
・
反 省
所員個人研究費
研究実績報告書
所属・資格
哲学科・教授
申請者氏名
久保
古代哲学と藝術における感情
感情がどのように捉えられてきたか、またそれがどのように欲望と関係するのかを、西洋の古
代を出発点に歴史的に検討するとともに、またそれが、詩学や藝術理論とどのように関連し
ているかの問題を考察する。古代では、アリストテレスのように感情を肯定的に捉える見解
もあったが、プラトン、ストア派、そしてまた、それを受けたキリスト教神学においては、感
情は欲望と密接に関係づけられ、否定的に評価された、しかし、感情的な効果を否定できな
い藝術理論は、このような感情的効果を、倫理的な観点からの価値評価との関係でどのように
位置づけたのであろうか。その基本的な構図と歴史的な変化を明らかにすることが課題であ
る。
感情論の歴史的研究は以前から進めてきた研究であるが、これまでの蓄積を受けつぎ、アリ
ストテレス、プラトンを中心に、とくに欲望に関して、美学的、倫理学的な観点からさらに
探求を進めた。ただ、その過程のなかで、これを根本的に理解するためには、たんなる感情
論の枠内で捉えるのではなく、それを支えるより大きな世界観のもとで捉えることがな必要
であると考えるに至った。そこで、ギリシアにおける調和あるコスモスとしての宇宙観、そ
して、このマクロコスモスと人間とその他の存在におけるミクロコスモスとの対応の思想史
的研究に多くの努力を費やした。ミクロコスモスとしての人間は、古代の彫刻が体現してい
るように身体において、各部かプロポーションの関係にあると同時に、その心も、宇宙の秩
序の法則に貫かれてあるべきものであり、心の感情もこの秩序に対応する形で規制されるべ
きものと見なされる。このようにして、マクロコスモスの美は人間の倫理的な美とも呼応す
るのであった。
古代における美学や倫理学を考察する場合、その基礎に調和としてのコスモスの観念が根底
にあることが明確になったことはきわめて有益であり、学問的成果として評価できると考え
られるが、感情論を出発点としながら、研究の範囲を拡大したため、まだまだ、調査すべき
課題が多く残ってしまった。また、今後もこの課題に取り組んでいくとともに、この成果を
もとに、近代の問題について考察したいと考えている。すなわち、閉じたコスモスとしての
宇宙が近代において無限に開かれた宇宙へと転換したとき、その宇宙の法則に基礎づけられ
ていた人間世界も、その構造を大きく変え、人間の欲望もそれを規制していたものから解放さ
れることになるであろう。なお、研究成果の一部は、来年度の文理学部『紀要』に論文とし
て発表したいと考えている。
※この欄は,本報告書提出時点で判明している事項についてご記入ください。
研究発表
学会名
発表テーマ
年月日/場所
研究成果物
テーマ
誌名
巻・号
発行年月日
発行所・者
光志
なし