N-16 エネルギー自給のまち葛巻町を 訪れて 弓削 耕 発行日 2009/07/13 梅雨空の「いわて沼宮内」駅を降りたのは、SCE・Net エネルギー研究会の 7 名と NPO ブルーアース仲間の 6 名だけで驚きました。 「いわて沼宮内」駅は東北新幹線の盛岡駅の隣 駅で、新幹線では最も乗降客の少ない駅だそうです。そのためか一寸したトラブルに対す る駅員の対応も非常に熱心で親切でした。 久し振りにハンドルを握るメンバーの運転するレンタカーで、車の少ない高原の道を気 持ちよく走ること約 40 分、葛巻町のくずまき高原牧場「プラトー」に到着しました。草原 に囲まれた牧場の中にある、宿泊もできる集会所兼食堂です。町役場の日向さんの出迎え を受け、カルビ丼などの昼食を取った後、葛巻町と新エネルギーによる町づくりについて 説明を受けました。 葛巻町は北緯 40 度に位置し、400m 以上の高地にある、80%以上を森林でおおわれた横 浜市ほどの広い地に町民 7700 人が暮らしています。産業は酪農と林業で、それに新エネル ギー産業が加わっています。酪農、山葡萄のワイン、新エネなどによる地域活性化に成功 し、年間 50 万人の訪問者があり、町は健全経営です。地域資源の活用に取組み始めたのは 90 年代からであり、当時の町の為政者の先見の明と町を上げての努力が今日の成果に結び ついたものと思います。しかし、現在のかたちを作るまでには財政支援獲得、町民の意識 向上などかなりの苦労があったようです。町ぐるみで導入がしやすいように、各種の補助 金を出しています。太陽光発電設備(3 万円/kW)、太陽熱利用設備(3-5 万円)、ハイブリ ッドカー(5 万円)、ペレットストーブ(設置費の 1/2、又は 10 万円)、小水力・風力発電 (10 万円)、エコキュート(3 万円)などで、導入促進に役立っています。 風、太陽光の「天」、家畜糞尿、森林、水の「地」、豊かな風土の「人」の3つの恵み(天 地人の恵み)を生かして、風力発電、太陽光発電、バイオマス熱利用などに取組み、町で 使用する以上の電力を作っています。「エネルギー自給のまちづくり」として NEDO の新 エネ百選にも選ばれています。 風力発電は袖山高原に 400kW×3 基(NEG MICON/エコパワー、事業費 3.4 億円)、上 外川高原に 1750kW×12 基(ヴェスタス社/グリーンパワーくずまき、事業費 47 億円)で 年間合計 5600 万 kWh 程度の発電をしています。 太陽光発電は中学校での 50kW 設備(4600 万円)、老人保護設備での 20kW 設備(2800 万円)をはじめ、街灯や住宅で使い、小水力や風力とのハイブリッドなどでも利用されて います。設置には政府補助の他に町や県からも補助があり、家庭用で 30 万円以上の補助が つきます。 バイオマスタウン構想としては、家畜糞尿や生ゴミを発酵させメタンガスを得て、電力 1 や温水に利用し、残りを液肥や堆肥に使います。林業からの間伐材や木材はペレット化し ペレットストーブで熱利用しています。 町民ぐるみで省エネビジョンの実現を進めており、年 1%を目標に削減を進め、現在のエ ネルギー自給率は 78%ですが、さらに 100%達成の目標に進んでいます。 地域資源を活かすために、エネルギーの地産地消を推進し、風力発電はまだ 80~100 基 の設置の可能性があり、現在、2000kW×25 基設置の応募をしています。 説明の後、実地見学に入りました。まず、NEDO と月島機械㈱による「木質バイオマス ガス化発電」の実証試験設備を見ました(事業費 2.3 億円)。原料チップ 3t/日をガス化炉 でガス化し、ガスエンジンで発電し(120kW)、熱を 266kW 回収する設備で、副生成物と して木炭灰が得られます。現在はテストを終わり、休転中です。動かすには 3 日の運転に 76 万円かかるそうです。パイロットプラントとしてはかなり立派な設備ですが、生産設備 として稼動させるのは難しいようです。見学用には格好の設備となっていますが、国の大 事なお金を使った設備なので、何とか活用して欲しいと思いました。 町では主材が 10000m3/年、間材などが 8,500m3/年伐採されています。間材はペレットに され、ボイラーで熱利用されます。 木質バイオマスガス化発電設備 バイオガスプラント 次に放牧場の真中にあるバイオガスプラントを見学しました(事業費 2.2 億円)。原料は 家畜糞尿(13t/日)と生ゴミ(200kg/日)で、固液分離して固形分は堆肥化し、液分はメタ ン発酵槽(330m3)で 37℃、30 日程度発酵させ、100m3 のガスホルダーに貯蔵し(熱量 5500kcal/m3)、電力(37kW)や熱に利用します。発酵槽からの液分は液肥として牧場に撒 いたり、浄化して放流します。放牧牛は消化液が散布されている草地を好むとのことです。 糞尿は夏場の放牧中は自然処理し、冬場には集めて発酵させるそうです。装置内は独特の 臭いがします。設備は発酵槽もガスホルダーも牧場に調和した規模になっています。地産 池消の良いエネルギーの活用法です。 そこから 40 分ほど山あいの道、トンネルを抜けて、高度 1100m の上外川高原にある「グ リーンパワーくずまき風力発電所」に着きました。1750kW の風車が 12 基建てられていま す。ブレードの長さは 33m、ハブ高さは 60m で、ブレードの最高到達点は 93m になりま す。2003 年から営業運転を開始し年間 5400 万 kWh の発電(葛巻町消費量の約 2 倍)をし 2 ています。丁度クレーン車が入って工事中の風車もありましたが、見学地から遠くの風車 は元気よく稼動していました。周辺を通る鳥類の通り道を開けるため、風車間の間隔を広 げ、1 基の出力を上げ、設置数を 26 基から 12 基に減らしたそうです。幸い天候にも恵ま れたので、そよ風を受けながら、広々と続く山頂に並んだ風車群をみるのは爽快でした。 日本では風車設置の適地は少ないといわれますが、ここにはまだ設置できる能力があるの を実感しました。町には、このほかに袖山高原に 400kW×3 基の「エコワールドくずまき 風力発電所」があります。 見学者一同 グリーンパワーくずまき風力発電所 帰りは元来た山道を戻り、ご案内いただいた日向さんや NPO メンバーと別れ、落ち着い た町中を抜けて駅に帰りました。人間より牛の方が多い町で、人影も車も少なく、都会の 喧騒からすると心が洗われるようで、久し振りに鶯の鳴き声も聞きました。 葛巻町も広いので、短時間で太陽光発電など、全ての設備を見ることは出来ませんでし たが、適切な説明、案内で新エネルギー百選に選ばれた、バイオマスタウン、エコミュー ジアム、ウインドファームの概要を実地で理解することができました。 町で仕入れた、山葡萄をさくら酵母などで発酵させたサクラワインを飲むのを楽しみに、 次の目的地、野辺地に向いました。 (本文をまとめるに当り、持田・高砂・松井・松村・溝口・山岸各氏の協力を得ました) 3
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