ターゲット・ マーケティング GMSやSMな ど の 量 ■図表2 ブランドA(日雑カテゴリー)の購買サイクル 販店の2億件におよぶ 1人当り購買個数 1人当り購買回数 平均購買サイクル 全体顧客 3.5個 2.9回 57日 クーポン利用顧客 3.5個 3.4回 37日 実 際 の 購 買デ ータか ら、消費者の購買行動 の“真実”の一端をご紹介してきたこの連載も、今回でいっ たんピリオドということになる。消費者にもっとも近いコン タクトポイントとしての店頭で、消費者との間にWIN-WIN の関係を効果的に築いていくために、もっとも効果の高い (未来の)施策を求めて……。ますますそうした考え方と方 法論が重要性を帯びていくのが、いまターゲット・マーケ ティングの立ち位置なのである。 カタリナ マーケティング ジャパン 代表取締役社長 若林 学 ※調査期間中(32 週)ブランド A2 回以上購買者 ※購買サイクル= (期間中のブランド A 最終購買日 - 初回購買日)÷(購買回数 -1) プロフィール 外資系コンサルティング会社日本 代表として数多くの企業に対して 多岐に渡る変革プロジェクトを指 揮。その間、経済産業省審議 委 員など公職の場でも活躍。2006 年1月にカタリナマーケティング ジャパン入社と同時に現職。 ■図表3 ブランドA(日雑カテゴリー)の購買回数比率 0% 20% ※若林学氏のもう一つの連載 「店頭のほんとう 」弊社WEBサイトにて好評公開中! URL:http://www.diamond-friedman.co.jp/rensai/wbm0812/ 購買サイクル短縮化への視点 購買頻度に着目すると、 もう一つの施策の方向性が 見えてくる 前号では、購買回数(来店頻度)に着 目して、客単価との関連を探ってみた。 店頭で客単価アップを図ろうという場 合、通常、1回当りの購買金額を上げる施 策を打つが、購買者(ショッパー)に照準 を当てれば、1人当りの購買回数を上げ る施策も考えられる。 その購買回数と客単価は、購買者の セグメントによって異なることをカタリナ ネットワークのなかで、FSPカードを導入 し、実績のある店舗のデータを使って可 視化してみた。それが前号である。 では、購買回数を上げるには、具体的 にどうすればいいのか。前号では、購 買回数イコール来店頻度としたが、実際 には、来店したときに毎回同じ商品を買 うとは限らない。逆に、量販店(GMS、 SM)での購買時のバスケット(買物カ ゴ)の中身は、毎回異なることだろう。 そこで、ある特定の商品(カテゴリー、 ブランド)をトリガーに、その商品を購買 しているサイクル(何日ごとに買っている か)を活用して、購買回数がどう変化す るのかを見てみよう。 図表1は、米穀カテゴリー購買者(顧 客)のセグメント別の購買動向である。 ■図表1 米穀カテゴリーの顧客動向 顧客数構成比 購買金額構成比 1人当り 年購買回数 平均 購買サイクル 上位顧客 30% 69% 12.4回 29.4回 中位顧客 30% 22% 4.7回 77.2回 下位顧客 40% 9% 1.6回 221.4回 全 体 100% 100% 5.8回 62.9回 ※月1回以上来店している顧客のみ対象 ※購買サイクル= (期間中の最終購買日 - 初回購買日)÷(購買回数 -1) ©カタリナ マーケティング ジャパン資料 禁無断転載 カタリナネットワークのFSP実績店舗の データから、月1回以上来店している顧 客で、かつ、米穀の購買経験者を抽出 し、1人当たりの年間購買金額の高い順 に3割を上位顧客、次の3割を中位顧客、 残りの4割を下位顧客とした。 その結果、3割の上位顧客が、購買金額 全体に占める割合は約7割となった。そ の1人当たりの年間購買回数は、平均して 12.4回。ほぼ1カ月に1回のペースで買って いることがわかる。これを日数 (何日ごと) にして表したのが、購買サイクルである。 購買回数が、ある期間中に買った時 点をプロットしていく“点”であるとすれ ば、購買サイクルは、ある期間中の最初 に買った時点から次に買った時点までの “線”の長さを意識するものである。する と、購買行動は“点”のように切れている のではなく、 “線”としてつながっている ものと捉えやすい。 図表1で、上位顧客の購買サイクルは、 平均して29.4日だが、中位顧客で77.2日、 下位顧客では221.4日となる。どの顧客 層も来店頻度は月1回以上なので、中位 や下位の顧客は来店していながら、米穀 売場には立ち寄らずに、または素通りし ていることになる。家庭内にストックが あるために購買しないのかもしれない が、ストックが切れているのに店頭で想 起できなかったり、別の理由で購買を見 クーポン 利用顧客 40% 60% 2回 59 全体顧客 最終回 ©カタリナ マーケティング ジャパン資料 禁無断転載 44 80% 3回 21 25 100% 4回 9 13 8 5回 6回∼ 5 6 10 3回以上 送ったりしているかもしれない。施策の しかけかた次第では、購買サイクルを早 めることもできそうに思われよう。 購買サイクルから、離反して いく顧客をどうするか ところで、衝撃的なことに、こうして顧 客の購買行動を “線”として追跡していく と、あるとき、その “線”がプツリと切れて しまうことがある。 たとえば、図表1の購買者にも、期間当 初の9カ月間に米穀を3回以上コンスタン トに買っていたのに、その後の3カ月間は 全く買わなくなってしまう顧客が34%と、 決して少なくない割合でいた。 それでも、図表1の事例は、米穀カテ ゴリーなので、他の食品や日用雑貨(日 雑)カテゴリーから比べれば、離反して いく顧客の割合(離反率)としては低い と言える。 これまで、コンスタントに消費していた ものを突然に止めてしまうのは、時にあ ることながら、お米を食べるのを突然、 全くやめてしまうとはなかなか考えにく い。一般的に、離反顧客は、代替品に相 当するものを見つけたか、購買ルートを 変更したか。米穀カテゴリーの場合は、 代替品というより、別ルートで入手するよ うになった可能性のほうが高いだろう。 離反していく顧客は、習慣化していた 購買行動を途中で止めてしまう人であ る。通常、習慣化したことをそのまま継 続するほうが、顧客もラクだし、店舗とし ても望ましい。 つまり、こうした離反顧客をつなぎとめ るのに、購買サイクルを意識して、そろそ ろ買い時というころに何か有効な施策を 打てれば、離反率を低くできよう。さら に、購買サイクルが長過ぎるようでは、習 慣化していると言い難いので、購買行動 を習慣化してもらうために、購買サイクル を短くする施策であることも必要だ。 実際に、購買サイクルがあまり短くはな い商品カテゴリーで、購買サイクルの短 縮化を狙って、販促プログラムを活用し た事例を見てみよう。 クーポンで購買サイクルを 短縮する 図表2は、日雑カテゴリーに属するブラン ドA の購買サイクルである。販促プログ ラムをしかけた32週中に2回以上ブラン ドAを買った顧客を抽出した。 ここで活用している販促プログラムは、 カタリナマーケティングの「レジ・クーポ ン_」で、ブランドAを買った人に、レジで 次回の購買時に使える(期間設定)割引 クーポンを発券したものである。 購買者 (顧客)全体の購買サイクルは、平 均して57日であったが、クーポン利用顧 客は37日になった。約2ケ月に1回の頻 度で購買されるなか、クーポン利用者の 購買頻度は1ケ月に1回弱。販促プログ ラムを活用することで、購買サイクルを 短縮できたことが分かる。 購買サイクルが短縮したことで、購買 回数はどう変化したのか。図表2の購買 者は、全員が期間中に2回以上ブランド Aを買っている。この期間中2回以上と いう中身をもう少し詳細にすると、図表3 のようになる。 顧客全体では、2回買った人が約6割 を占めて、3回以上買った人は約4割で あった。一方、クーポン利用顧客では、 2回買った人は4割台に留まり、3回以上 買った人が過半数を占めた。 また、3回、4回、……と購買回数が増え るにしたがって、その回数を買った人の 割合も低くはなっていくが、顧客全体と クーポン利用者の比率差は、各回数とも 3 〜 4ポイントで一定している。つまり、 クーポン利用によって、ある回数に集中 したわけではない。単純に、これまで の購買サイクルをクーポン利用者がそれ ぞれに少しずつ早めた結果のように見え る。このことから、購買サイクルを短くす ることで、購買回数も増やすことができ ることもわかるのである。
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