実務経験と専門知識を活かして まちづくりにチャレンジしたい

実務経験と専門知識を活かして
まちづくりにチャレンジしたい
郷家
雅人さん(宮城大学大学院
事業構想学研究科)
大型店での経験と大学院で習得した専門知識を活かし、大
型店にない人と人との出会いが生まれるような商店街やま
ちづくりに係る仕事に従事したいと考えています。
街元気プロジェクトに参加して
1 e-ラーニングで得られた知識によってまちづくりの現状は漠然と把握していた
が、現地実習に参加することによって商店街に何が求められているのか、街元
気リーダーの存在意義などを肌で感じ、学ぶことができた。
2 青森市の現地実習に参加して、加藤リーダーの強い行動力とリーダーシップに感
銘した。自分もまちづくりに挑戦したいとの意欲が高まった。
3 特に有意義だったのは、現地実習(青森市<平成19年度>)、コーチング・ファシリ
テーションスクーリング(仙台市<平成19年度>)
横森教授に師事する機会を
得たことが発端
利益が大きかったこともあり顧客を奪
――街元気プロジェクトに参加した
いましたが、その時は本質的な理由は
きっかけや動機は何ですか?
郷家さん:宮城大学大学院事業構想
学研究科で横森豊雄先生に指導を仰
いでいたのですが、先生の薦めもあり
街元気プロジェクトに参加することに
なりました。もともと県内の大型店で
仕事をしながら4年自分の将来の進む
べき道を思案する時期がありました。
家業の医者になる道、もうひとつは流
通の現場を体験してきたことを活かし、
経済学をきっちりと勉強してまちづくり
に携わっていく道のどちらに進もうかと
悩んでいたわけです。
ただ、その当時から商店街の衰退ぶ
郷家 雅人さん Gouke Masato
宮城県塩釜市在住。大学院で学びな
がら商店街の情報発信やイベント開催
の活動に取組む。街元気プロジェクトへ
の参加歴は、青森市現地実習(平成19
年度)、会津若松市現地研修(同)、コー
チング・ファシリテーションスクーリング
(同)。
われたのだろうと、ばく然と想像はして
掴みきれてはいませんでした。
同時に第2の疑問として、いざ商店
街で買い物をしようとしても、店舗もな
ければ、買いたいモノもないという現実
に気づき、そうした違和感をいだくのは、
一体どうしてなのだろうと思ったことが
ありました。
そうしたなかで一昨年、街元気プロ
ジェクトの委員をしている横森先生を
知りました。周知のように『流通の構造
変動と課題』『英国の中心市街地活性
化』『商業まちづくり』などの著書があ
る、流通とまちづくりに関する専門家で
郷家さんは、街元気プロジェクトの横森
豊雄先生を知り、横森先生が教授を勤
めていた宮城大学大学院に進んだと
言う
す。
りは肌で感じ取っていました。なぜ衰退
したのだろうかと思ったことが第1の疑
問です。実際、勤務している大型店の
1
将来の街元気リーダーをめざして
●仙台市荒町商店街とは
郷家さんら学生たちがミニFM局を実験的に開設して賑わい
づくりに挑んだのが、JR仙台駅から1キロほど離れた昔ながらの
風情を残す荒町商店街。江戸時代創業の造り酒屋や麹味噌
屋が今でも活動を続けている。商店街の中心部で、星空の下
で開かれる野外コンサートは地域の小学生と宮城教育大学の
コラボレーションを楽しめるイベントとして、市民に親しまれてい
る。
[ 仙台市 DATA ]
人
口
人口密度
高齢化比率
事業所数
※
就 1次産業
業
2次産業
構
造 3次産業
平成17年度
増減(H12と比較)
1,025,098 人
16,968
1272.7 人/km2
27.4
15.7%
2.4
46,959 所
△1769
1.1%
△0.1
15.3%
△2.4
81.6%
2.4
仙台市
※「事業所数」のみ平成18年度の数値(比較は平成13年度)
出典:国勢調査/事業所・企業統計調査
これは疑問を解決するひとつの方
経験があり、自分のなかでは、流通あ
法となると思い、横森先生が教授を勤
るいは店づくりに関して、ある程度のイ
めている宮城大学大学院に入学した
メージができあがっていたので、e-ラー
のです。縁だなあと思いました。こうし
ニングに取組み、知識として学ぶ内容
て、まちづくりの道に進むべきだと決意
自体はスムーズに受け入れることがで
したわけです。
きました。そして、ショッピングセンター
その結果、街元気プロジェクトに出
など大型店は、“人とモノ”が交わる場
会い、e-ラーニングに触れることから始
所であることに対して、商店街は“人と
め、青森市(平成19年度)と会津若松
人”が出会う場所として、差別化を図
市(同)街元気プロジェクトの現地実
っていく必要があると、すぐに感じまし
習・研修に参加させていただきました。
た。
ですから、商店街の実態を本格的に勉
それはまた、商店街が衰退したのは、
強し初めてからそれほど長い期間が経
人と人との出会いがうまく機能してい
っているわけではありませんし、実際の
ないからではないか、では、その原因は
まちづくりに関しては初心者と言えま
どこにあるのだろうか、という疑問を持
す。
ったことも意味します。それを解決する
ためにはe-ラーニングだけでは物足り
青森市での研修により自分
の考えの正しさを確認
――街元気プロジェクトに参加して、
参考になったことは何ですか?
郷家さん:大型店での現場という社会
2
なさを感じたため、実際に地元の商店
街の状況をよく観察するようになりま
した。
その結果、やはり、人と人との出会い
がうまく機能していない状況が判って
郷家さんら宮城大生がミニFM局を開設
し、情報発信によるPRを行った荒町商店
街
きたのです。その原因は、商店街と顧
も聞きました。大型店での棚卸しとも
客の両方にあるとは思いましたが、流
つながりますが、これは絶対に必要な
通の現場経験からいえば、商店街の
ことでしょう。そういう意味で加藤氏の
個々の店のほうに、欠点が目立ったこ
話は、私にとって身にしみると同時に、
とは事実です。
自分が経験から得た考え方が、決して
たとえば、商品を置く棚の陳列を十
年一日のように変えない店が多く、顧
間違ってはいなかったのだと再確認で
きた貴重な機会でした。
客に“見せる”部分がきわめて弱いと
青森市の商店街のように実行でき
思いました。これは流通の基本ができ
る場合と、そうでない場合の違いは、や
ていないことを意味します。置かれる棚
はり、加藤氏のようなリーダーがいるか、
の高さや場所によって、商品の売上高
いないかということだと感じています。
は大きく影響を受けます。大型店では、
まちづくりを進めるために、長年の商売
1カ月間で棚の様子がすべて変わるの
を続けてきた商店主に対してやり方の
はなかば常識ですし、場合によっては、
2週間、1週間単位で細かく変えていく
場合すらあります。
大型店で食品やベビー・衛生用品
管轄部門を担当していた時には、1週
街元気リーダー加藤博さんの強烈なリー
ダーシップを感じることとなった青森市で
の現地実習(平成19年度)
変更を迫る部分があることは確かで、
そこをうまくマネジメントできるリーダ
ーがいてこそ、人と人との出会いが生
まれ、うまく機能していくことにつなが
っていくのだと感じました。
間単位で棚替えをして在庫の量や回
転日数を把握して売れ筋の商品を見
きわめ、効率的な仕入れをしていくこ
となどを、実務のなかで学んでいきまし
た。そうやって季節感を先取りし、声こ
そかけませんが顧客にアピールしていく
ことで、売上高は大きく伸びていきま
FM局のパーソナリティの経
験を活かした商店街の情報
発信
――まちづくりではどのような活動
をされていますか?
す。それを日常的に実行しているのが
郷家さん:宮城大生が仙台市の商店
大型店であり、実行できていないのが
街支援事業として地元の荒町商店街
商店街だと感じました。
に開局したミニFM局のなかで、商店街
しかし、青森市での現地実習に参加
の情報を発信・PRする番組にパーソナ
したことにより、商店街に対する一方
リティとして参加したことがあります。
的な認識を改めることになりました。青
放送局名「あらラジっ!!」は地元のFM局
森市の新町商店街は人と人とが上手
「ラジオ3」を中継したインターネットラ
に交わっている商店街だと感じられた
ジオとして生放送により商店街の歴史
からです。これは、街元気リーダーの加
や販売される商品の紹介のほか、商
藤博氏の指導が行き届いているからで
店主などにもゲスト出演していただき
しょうが、あちこちの個々の商店で、商
ました。地域の聴取者からそれなりの
品の見せ方に、顧客への特徴的なアピ
反響を得ることができました。実は、
ール性を感じました。
「ラジオ3」では数年前から番組を持ち、
また、加藤氏は、商店ごとの損益に
ついて、商店主向けの講習会をしたと
郷家さんがパーソナリティとして出演す
るFM局「ラジオ3」のスタジオ。隔週で
音楽番組を担当している
パーソナリティを務めてきた経験があ
るために技術的にほとんど問題はなく、
3
将来の街元気リーダーをめざして
こういう手法を社会実験的にまちづく
点をどのように解決していくかが、今後
りに活用することは、いつでも実施可
の課題だと考えています。
能であるとの感触を得ました。
まちづくりに直接かかわり、
商店街を活性化したい
――今後まちづくりにどのように関
―― 街元気プロジェクトの今後に
対する要望はありますか?
わっていきたいと考えていますか?
郷家さん:ひと通り街元気プロジェク
郷家さん:私自身が商店街や商店街
トの内容を学び終えた段階で、何かし
の1店舗でもプロデュースできればとい
らの資格を取得できるような形に発展
う思いはあります。しかし実際には私が
していってほしいと思います。その資格
まだ30歳にもならない年齢であること
を持っていれば、まちづくりの仕事に
もあって障壁が大きいだろうと考えて
就けるくらいの信用と権威が欲しいで
います。ただ、もし実行できれば、1カ月
す。
くらいでそれほどコストもかけずに、モ
このように考えるのは、これから将来
デルとなる商店をすっかり変えて、売
を考える立場として、たとえば、e-ラー
上高を向上させる自信だけはありま
ニングから座学や現地研修を含めて、
す。
一種の資格コースのような形が設けら
手法として考えられることは、たとえ
もっと具体的にいえば、資格自体に
ぎる場合が多いです。手書きでよいで
等級を設けることです。タウンマネージ
すから、商品名と価格を大きく示すだ
ャーになるためには、街元気プロジェク
けでも、顧客へのアピール度が違います。
トの資格コースへの参加を必須とし、
たとえ限られた立地でもそれを活かし
単位制度を設け、取得数に応じて等
つつ、少しずつ売上高を伸ばしていけば
級が上がっていくような制度をつくって
よいと思います。
みるというアイデアです。
将来的なことに関して言えば、いず
そうした制度があれば、まちづくりを
れは直接的にまちづくりに携わることが
志す人の参加者も増えるでしょうし、
できたらという希望は持っています。た
資格がある者にとっては、年齢が若く
とえば、商店街の振興組合や協議会な
ても、全国各地の商店街で年長者と
どの仕事内容には興味を持っています
話す時の助けになると思います。こうし
ので、どこのまちでもそれらの団体に所
た制度に対する潜在的なニーズは大
属して、まちづくりに専念できればとい
きいのではないでしょうか。今後、考慮
う思いです。ただ、地元の人がまず優先
されることを望んでいます。
身は外部の人間になりますので、その
造り酒屋や麹味噌屋が今でもまちなかで
製造販売している荒町商店街
れたらすばらしいと思います。
ば値段表です。個店の値段表は小さす
されるのが現実ですし、その場合、私自
4
まちづくりに携わることがで
きる資格制度が欲しい
荒町商店街にゆかりのある複数のイラスト
レーターが描いている荒町の商店街イラ
ストマップ