スポーツ活動が成人女性の足趾形態に及ぼす影響について 山崎純男

スポーツ活動が成人女性の足趾形態に及ぼす影響について
○山崎純男(長崎女子短期大学) 西澤 昭(長崎大学)
Ⅰ
目的
成人女性(17歳∼20歳)の運動群と非運動群を比較し,スポーツ活動
が足趾形態の変化に及ぼす影響を明らかにしようとした.なお,参考と
して比較するために女児(1歳∼7歳)の足趾形態も測定した.
Ⅱ
方法
表1
成人女性 運動群 バスケ
122
女児
299
1歳 児
8
58
2歳 児
27
陸上
2
3歳 児
34
被検者内訳
柔道 バレー
非運動
1
1
60
4歳 児 5歳 児 6歳 児 7歳 児
49
73
65
43
1.被検者は成人女性122名及び女児299名である.その内訳を表1に示
した.
2.測定器具は自作のピドスコープを使用した(図1).
3.撮影はオリンパスデジタルカメラ c-760 Ultra Zoomを用いた.
4.画像解析はイノテック社製のpixes2000_proを用いた.
5.項目は,身長・体重・足長・足幅・踵幅の絶対値と.土踏まず,母趾
表2
身長比較及び左足比較
絶対値身長比較
身長 平 均 値
(㎝) 標準偏差
絶対値左足比較
足長 平 均 値
(㎜) 標準偏差
足幅 平 均 値
(㎜) 標準偏差
踵幅 平 均 値
(㎜) 標準偏差
比率左足比較
足幅/足長 平 均 値
(%)
標準偏差
踵幅/足長 平 均 値
(%)
標準偏差
踵幅/足幅 平 均 値
(%)
標準偏差
土踏まず 平 均 値
面積(%) 標準偏差
部位別左足比較
母趾角 平 均 値
(度) 標準偏差
踵外反 平 均 値
(度) 標準偏差
運動群
非運動
162.4 ** 157.3
6.72
5.35
運動群
非運動
199.0 ** 192.2
8.71
8.38
82.8 **
77.3
5.00
4.42
47.2 **
45.5
3.12
2.81
運動群
非運動
41.6 **
40.3
2.03
2.04
23.8
23.7
1.34
1.46
57.2 **
58.9
3.66
3.35
29.9
29.5
4.53
4.27
運動群
非運動
12.0
11.1
4.39
6.04
6.9 **
8.7
2.67
2.28
**p<0.01
表3
表4
図1
ピドスコープ
図2 足底面1(足幅・母趾角・足長)
5.踵骨外反角
成人の運動群と非運動群間で
は 左 右 と もに 非 運 動 群 の値 が有
意に大きく(表2,表3),スポーツ活
動は踵骨反角の減少,即ち踵骨
左
%
35
30
25
20
15
10
5
0
図3 足底面2(土踏まず面積)
図4 踵骨外反角角,踵骨外反
角,足幅/足長,踵幅/足長,踵幅/足幅の10項目とした.
1)足長は踵点から第2中足骨遠位端までの長さとした.(図2下青線)
2)踵幅と踵幅は脛側中足点接地部分を基点に内側線(図2下)を引き,
内側線への垂線のうち,前方の最も広い部分の外側接地点までの線分
aを足幅とし,踵部分の最も広い外側接地点までの線分bを踵幅とした.
3)土踏まず面積比は,土踏まず部分(図3下青色部分)と土踏まず+接地
部分(図3下紫色部分)の面積比で表した.
4)母趾角は内側線と母趾線のなす角とした(図2上G)
5)踵骨外反角はアキレス腱の走行方向と踵骨の傾きのなす角(図4)とした.
Ⅲ 結果と考察
1.絶対値比較
絶対値で運動群と非運動群を比較するのは,体格が異なるのことか
ら意味がないので,以下では相対値を求め,運動群と非運動群を比較
した.
2.足長,足幅,踵幅の関係
足幅/足長の値は,左右ともに運動群の方が有意に大きかった.(表
2,表3)しかし,踵幅/足長の値は,左右ともに運動群と非運動群の間に
有意差はなかった.また,踵幅/足幅の値についても運動群の方が左右
ともに有意に大きく,スポーツ活動は足幅の増大に強い影響を与え,踵
幅の増大には影響が少ないものと思われる.
3.土踏まず面積比
土踏まず面積比は,左右ともに運動群と非運動群の間にまったく有
意差は見られなかった(表2,表3).また,土踏まず面積比は,女児の各
年齢層間に有意差は見られないものの(図5),加齢とともに漸次増大す
る.このことから,土踏まずの形成は加齢の影響は受けるがスポーツ活
動による影響は少ないものと推測される.
4.母趾角
成人の運動群と非運動群間には有意な差は見られなかった(表2,表
3).1歳から7歳までの間は各年齢階層間に有意差は見られないもの
の,グラフは規則的な右上がり傾向にある(図6).また,7歳児と成人間
で左右ともに成人の値が有意に大きかった(表4).このことから,母趾角
の変化は成人になるまで加齢による影響を受け続けるものの,スポーツ
活動によって受ける影響は少ないものと推測される.
1
2
図5
3
4
5
6
7
右
右
母趾角成人幼児比較t検定
左 右
度
12
10
8
6
4
2
0
非 運
左
運動群
非運動
54.7 *
51.5
5.81
8.89
運動群
非運動
193.0
191.7
15.07
7.95
81.3 **
76.4
4.50
4.11
46.1 *
45.0
3.22
2.90
運動群
非運動
42.3 **
39.9
3.55
1.87
24.1
23.5
2.79
1.51
56.8 **
59.0
4.05
3.61
30.1
30.1
4.00
3.70
運動群
非運動
11.5
10.6
3.92
6.03
6.2 **
8.3
2.35
2.45
*p<0.05
母趾角比較
成人女性
7歳女児
左足 平 均 値
11.5 **
7.5
標準偏差
5.26
4.81
右足 平 均 値
11.0 **
7.5
標準偏差
5.07
5.14
**p<0.01
1
土踏まず面積比加齢変化
%
70
体重比較及び右足比較
絶対値体重比較
体重 平 均 値
標準偏差
絶対値右足比較
足長 平 均 値
(㎜)
標準偏差
足幅 平 均 値
(㎜)
標準偏差
踵幅 平 均 値
(㎜)
標準偏差
比率右足比較
足幅/足長 平 均 値
(%)
標準偏差
踵幅/足長 平 均 値
(%)
標準偏差
踵幅/足幅 平 均 値
(%)
標準偏差
土踏まず 平 均 値
面積(%) 標準偏差
部位別右足比較
母趾角 平 均 値
(度)
標準偏差
踵外反 平 均 値
(度)
標準偏差
**p<0.01
2
図6
3
4
5
6
7
非 運
母趾角加齢変化
左
度
10
右
9
65
8
60
7
55
6
5
50
1
2
3
4
5
6
7
非 運
4
1
2
3
4
5
6
7
非 運
図7 踵幅/足幅 加齢変化
図8 踵骨外反角加齢変化
が直立に近くなることに強い影響を与えているということが推測できる.
参考として比較するために測定した1歳児から7歳児までの踵骨外反角
変化のグラフ(図8)は,踵幅/足幅・母趾角・土踏まず面積比のグラフが
加齢とともに漸次減少や漸次増加の傾向を示すのに比べて変化が不規
則で,踵骨外反角の変化は加齢による影響は少なく,スポーツ活動によ
って大きな影響を受けるものと思われる.
Ⅳ
まとめ
運動群は非運動群に比べて体位体格が優位だろうということは容易
に推測され,それは絶対値比較のほとんどの測定値で有意差があるこ
とでも証明明できる(表2,表3).しかし,測定値を比率や面積比や角度
で比較すると意外な結果が出た.
特に,母趾角・踵幅/足幅・土踏まず面積比についてはスポーツ活動
による影響が出現しやすい部位ではないかと推測したが,母趾角と土
踏まず面積比にはスポ−ツ活動による影響はまったく見られなかった.
一方,スポーツ活動による影響は出現しないだろうと思われた踵骨外
反角については左右ともに運動群の値が有意に小さく,また,足幅/足
長と足幅/足長の比較から,スポーツ活動は踵幅の増大ではなく足幅の
増大に大きく関与していることがわかった.これは,スポーツ活動により
踵骨外反角が小さくなる,即ち直立に近くなるので踵骨の接地部の幅も
必然的に大きくはならず,足幅と踵幅の比率の差を一層際立たせたの
ではないかと思われる.
絶対値比較の右足の足長についてはなぜ有意差が見られなかった
のか,このことについては研究を継続する中で明らかにしていきたい.