会津木綿の「かわいい」ピアス

女子の暮らしの研究所
代表 日塔 マキ(にっとう・まき)氏
会津木綿によるものづくり、南相馬市を訪れるツアー、本音を語るFM
ラジオ……。「女子の暮らしの研究所」はこうした活動を通じて、福島
に住む若い女の子たちの声を届けようとしている。「かわいい」を
キーワードに、若い女性たちが進める多彩なプロジェクト。その裏側
打ち合わせ中の「女子の暮らしの研究所」の研究員たち。それぞれがやりたいこと、興味
のあることを持ち寄り、さまざまな企画をプロジェクト化していく
にある思いとは?
会津木綿の「かわいい」ピアス
震災は、福島県(以下、福島)の人々に重くのしかかっている。子育て中の母親たちが、
被災地からほかの地域に移り住む中、日塔マキさんも不安に苛まれていた。「このまま福
島で暮らしていてよいのだろうか」。
日塔さんは仕事に一区切りついた2011年12月、千葉県(以下、千葉)に移り住む。その当
時、不安を抱えている若い女の子たちが福島について話すのは、タブーに近いものがあっ
た。「だいじょうぶだよ!」「まだ気にしてるの?」。そういう雰囲気が福島にあった。日塔さんは
再び福島に戻るまでの10か月間、「女の子が本音で話ができる場づくりをしよう」と、ピーチ
ハートという任意団体を立ち上げ、千葉と福島を往復しながらガールズカフェを開き、本音を
語るための場づくりや若い女の子のための保養ツアーも催した。
首都圏に身を置くと、福島の情報はネガティブな話題が多かった。日塔さんは「福島のい
ろんな人の思いや暮らしの中の声を丁寧に伝えていきたい」と思い、2012年の夏に「女子の
暮らしの研究所」を立ち上げる。言葉だけでなく、もの(商品)に思いを乗せて発信するとさら
に伝わりやすいのではないかと考えたのだ。
ものづくりのきっかけは、相双(そうそう)地域(浜通りいわき市以北)から避難している
人々の声を聞くために会津地方を訪れたこと。伝統工芸「会津木綿」を用いた仮設住宅の女
性たちによる手仕事ブランド「IIE(イー)」の代表・谷津拓郎さんと出会い、日塔さんは会津木
綿の魅力にとりつかれた。「存在は知っていたのですが、現地で見たらめちゃくちゃかわい
かったんです!」。「柄や色を活かせば若い女の子が好むものがつくれるんじゃないか?」。日
塔さんは研究員たちと一緒に、会津木綿を樹脂ではさんだピアスをつくった。これが
「FUKUSHIMA PIECE プロジェクト」の第一弾「ふくいろピアス」だ。
「ほら、光が差し込むとキラキラするでしょ? 会津木綿の素朴さも魅力ですが、ギャルっぽ
い子でも使いたいと思うような、ポップで魅力的なものをつくりたかったんです」と柔らかく微
ふんわりとした女の子らしい語り口の日塔さん。彼女を中心とする問題
意識をもった若い女性たちは、柔らかなアプローチで社会に思いを発信
している(上)。表面を樹脂でコーティングした「ふくいろピアス」。会津木
綿の素朴な質感を活かしつつ、若い女の子が好む「かわいい」ピアスに
仕上げた。イヤリング、ヘアゴム、ピンバッチ、ブレスレットも発売予定
(下)
笑む。
ふくいろピアスには〈8つのいろ〉がある。たとえば「たいようのいろ」は、外で気軽に遊べなくなってしまったけれど、それでも太陽の光は心を晴れや
かにしてくれる。震災以降、空気や水、食べものなどがいかに大切かを知った。全国の人たちにも大切にして欲しいし、ふくいろピアスを身に着けるとき
に少しだけ福島に思いをはせてもらえたら――そういう願いを込めた商品だ。
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ミニスカートで被災地ツアー
女子の暮らしの研究所の活動は、ものづくりだけではない。沿岸部を訪れて現地の人の
話を聞くツアー「Re:Trip~ふくしまの『これから』を考える旅」(以下、Re:Trip)も実施してい
る。
日塔さんは福島の現状について人前で話す機会が増えたものの、郡山市出身なので沿
岸部、とくに相双地域のことを知らなかった。物見遊山のようで気が引けたものの、とにかく
行ってみなければわからない。知人をたどって南相馬市の小高(おだか)地区を訪れたこと
からRe:Tripは始まったのだが、順風満帆だったわけではない。
「『ここで商売するつもりなのか!』って最初はすごく怒られました」と苦笑いする日塔さん。
小高地区は「避難指示解除準備区域」に指定されている。故郷に戻れない住民の心境は複
雑だ。「地元の人が日中しか立ち入ることができない場所に観光バスで乗りつけるのは私も
心が苦しいし、無理だと思ったこともあります。けれど、県外の人に福島の現状を知っても
らって、みんなで考えていくことが必要じゃないですか? そうお願いしました」。
「女子の暮らしの研究所」は、地元の人、JTBとで協議会を立ち上げ、視察希望者の受け
入れを始めた。福島駅からバスに乗って飯舘村を経由して小高地区に入り、地元の人が案
内する。小高地区までの車中でガイドを務めるのは研究員たちだが、なんとミニスカートの制
服を着て案内している。
「相双地域を訪れる皆さんはすごく緊張して来られます。そこで私たちがミニスカートで『お
はようございまーす』とか『ヤッホー』と言いながら登場すると、緊張がほぐれるのです。とくに
不便な生活が続く相双地域の人たちの声を聞き、福島の今後をみんな
で考えていく「Re:Trip」。研究員たちは黙ってしまいがちな雰囲気を和ら
げる存在となる
男性陣には『鼻の下を伸ばしてでもいいので来てくださいね♡』とお伝えしています」と日塔さんは笑う。
まさに女子力。深刻な問題だが、若い女性にしかできないことで雰囲気を和らげ、「みんなで肩ひじ張らずに考えたい」(日塔さん)という目的に近付
こうとしている。受け入れ側の小高地区の人たちもさぞ驚いたことだろう。「はい。最初は『なんだお前ら?』と言われました。でも今は『水色のねーちゃ
ん』と呼んでくださるようになりましたよ」と日塔さんはいたずらっぽく笑った。
「福島の女の子の声を聞いてください」
「女子の暮らしの研究所」には、18歳から27歳まで27人の研究員がいる。県内だけでなく
東京や新潟に住む女性も名を連ねる。日塔さんは、この研究所の活動を通じて若い彼女た
ちの意識が変わっていくさまを見ていて楽しいと言う。「震災前まで私も合コンばかりしてい
たふつうの女の子でした(笑)。社会問題を考えるタイプではなかったのですが、年下の研究
員たちもどんどん変わっているんですよ」。
変化の一端はラジオ番組にも表れている。毎週火曜日、郡山コミュニティ放送「KOCOラ
ジ79.1MHz」で40分番組「LABOLABO♡ラジオ」を放送中だが、研究員が恋バナ(恋愛話)を
する一方、「選挙」「福祉」「法律」などをテーマとした話もする。テーマは研究員たちが「この
問題、みんなで考えたいね」「リスナーがどう思っているか知りたくない?」と話し合いながら
決める。恋バナと社会問題。一見両極端のようだが、実はそれこそが福島で暮らす若い女
「LABOLABO♡ラジオ」の収録シーン。若い女の子ならではの恋愛話も
あるが、社会問題も語る。テーマは研究員たちが自ら考える
性のバランス感覚なのだろう。
研究員の活動も広がり続けている。ふくいろピアスに続く「FUKUSHIMA PIECE プロジェクト」の第二弾として「omoinomi(おもいのみ)」が発売された。
漆塗りを用いたブローチとヘアゴムで、担当するのは会津で漆職人として働いている2人の研究員。2人とも20代半ばなので、自分で企画して商品をつく
るのは初めての体験。「すごくドキドキしているみたいです」という日塔さんだが、「女子の暮らしの研究所」の名前を使って、それぞれの研究員に「自分
のやりたいこと」をやってほしいとの思いがある。
2014年には独自にオンラインショップを立ち上げた。扱うのは「女子の暮らしの研究所」の商品だけではない。「福島のかわいいものを紹介して販売し
たい」と日塔さんは言う。
震災後の福島での暮らしに真剣に向き合い、女の子の感覚で情報を発信する「女子の暮らしの研究所」。日塔さんをはじめとする若い女性たちは、
ステレオタイプではなく、自分たちの柔らかなやり方を貫いている。最後に、日塔さんから全国へのメッセージをもらった。
「かわいいことを通して世界を変えられたらいいな、と思っています。「女子の暮らしの研究所」の活動を通して、福島の女の子たちの声をぜひ聞いて
ください♡」。
2014年2月取材
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