理工Ⅳ 実力完成 講義編 物理化学 無料試聴・無料体験用 0 001112 100589 KL10058 目 次 第1章 気 体・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 第2章 化学熱力学・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 第3章 自由エネルギーと化学平衡・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20 第4章 溶 液・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 27 第5章 相平衡・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34 第1章 第1節 気 体 理想気体 理想気体についての様々な法則は,すでに高校の化学で学んでいることであるだろうから,ここで は詳細な説明は省略して,知識の確認にとどめる。 高校で学んだ以下の法則は,断り無く使う。 ボイルの法則:PV = 一定 シャルルの法則:V / T = 一定 ボイル・シャルルの法則:PV / T = 一定 理想気体の状態方程式:PV = nRT ドルトンの分圧の法則:P = P1+ P2 注意が必要なのは,圧力の単位の変換である。 1 bar = 105 Pa = 105 N/m 2 1 atm = 1.01325 bar 数値計算の問題では,注意をしておこう。 第2節 実在気体 理想気体では以下の事を考慮していなかった。 ①分子は有限の大きさの体積をもつ ②分子間に引力が働く 実在気体においては,これらのことを考慮しなくてはならない。ただし,(1) 圧力がとても低い状 態,(2) 温度がとても高い状態,においては①と②の影響は無視できるので,理想気体に近づくと考 えられる。 それ以外の実在気体の場合は,理想気体の状態方程式からのズレが生じてくる。そのため,1 mol の 気体について Z= PV RT という圧縮因子というものを考える。圧力を変化させたとき,圧縮因子の理想気体からのずれを考え るのであるが,わかりやすく図示して考えるのが普通である。 -1- [例題 1] 図は,横軸に圧力,縦軸に圧縮因子をとったグラフであり,Z = 1 は理想気体を表してい る。残りの 2 つ①と②は,それぞれ H2 と CO2 であるが,どちらが CO2 のグラフかを答え よ。 Z ① 1.0 ② 100 [解答 200 300 P [atm] 1] 二酸化炭素の場合は,圧縮しようとすると,分子間力が働いて,自ら収縮しようとする。したがっ て,かけた圧力以上に体積が小さくなるので,圧縮因子は 1 より小さくなる。45 atm において液化が 始まり,すべてが液体になってしまうと,圧力を上げても体積はそれほど小さくならないので,圧縮 因子は,圧力と共に増加していく。 正 解 ② 理想気体からのズレを考慮したのが,実在気体の状態方程式である。その中で有名なものが,ファ ンデルワールスの状態方程式である。 2 P + a n (V − nb ) = nRT V ……(1.1) ここで,a と b は気体の種類によって決まる定数である。最初の項は,圧力の項に分子間の引力の 補正をしたもので,次の項は, 体積の項に気体分子自身の体積を考慮した補正項を入れたものである。 -2- [例題 ファンデルワールス状態方程式は,PV=nRT に従わない実在気体を扱う方程式である。 2] 2 n 圧力 P は,分子間力のため, a × だけ小さく,また,体積 V は,分子自身の体積の V 2 n ため,nb だけ小さくなる。よって,P は P + a に,V は V-nb と書ける。a,b は補正 V 項,n は mol 数を示す。 N2 分子は,a=14,b=0.04 である。温度 27℃のとき,1mol の N2 分子が 1l の箱の中に 入っている。このときのファンデルワールス気体の圧力を求めよ。 [解答 2] ファンデルワールス状態方程式は(1.1)より, 2 n P + a (V − nb) = nRT V 2 ∴ P= nRT n − a V − nb V ∴ P= 1× 0.082 × 300 1 − 14 × = 11.625 [atm] 1 − 1 × 0.04 1 2 正 [例題 解 11.625[atm] ファンデルワールス状態方程式の中で体積による補正項の値は,気体 1mol が占める体 3] 積に相当する。He 分子の補正項は 0.0237[dm3mol-1]であったとすると,He 分子の 1 分 子の直径は何Åか。 [解答 3] 1 分子の直径を D とすると,1 分子の体積は 3 v= πD3 4 D π = 3 2 6 となり,アボガドロ数を NA とすると,1[mol]の体積は V = πD 3 6 ⋅ N A [m3/mol] となる。これから, -3- D3 = ∴ 6 V ×6 = × 0.0237 × 10−3[m3 ] = 7.52 × 10− 29 [m3 ] πN A πN A D = 4.22 × 10-10[m] = 4.22[Å] 正 解 4.22[Å] 圧縮因子が,どのように P や V に依存するかを数式的に考えるために,圧縮因子を P または V のべ き乗で展開することを,ビリアル展開という。一般的に書くと PV = 1 + αP + β P 2 ⋅ ⋅ ⋅ RT 1 1 = 1+α ' + β ' 2 ⋅⋅⋅ V V Z= ……(1.2) という形にかける。通常は,n = 1 として考える。 [例題 4] ファンデルワールス状態方程式である(1.1)式をビリアル展開して,(1.2)式の α ' と β ' に該 当する式を求めよ。 [解答 4] (1.1)で n = 1 として,展開すると PV − Pb + a ab − = RT V V2 PV b a 1 ab 1 P− = 1+ + RT RT RT V RT V 2 b RT a a 1 ab 1 − + =1+ − RT V − b V 2 RT V RT V 2 a 1 = 1 + b(V − b )−1 − RT V a 1 1 = 1 + b − + b2 2 + ⋅ ⋅ ⋅ RT V V となる。 正 -4- 解 α '= b − a , β ' = b2 RT 第3節 気体分子運動論 前節までは,「気体」という大きなひとかたまりのものを考えてきた。本節では,「気体」をその構 成粒子である分子の観点から考えてみる。とりあえず,難しい量子力学の話には立ち入らず,古典力 学(ニュートン力学)の範囲で考える。 まず最初に,気体の圧力を分子の観点から考えてみる。 一辺の長さが L の立方体に閉じ込められた気体を考える。気体分子の質量を m,衝突前の分子の x 方向の速さを ux とすると,壁にぶつかった事による運動量変化は, ∆ Px=mux-(-mux) = 2mux z L である。 単位時間あたりに壁にぶつかる回数は u 1 = λ 2L u x 2L n= u 分子が壁に及ぼす力積は y L uλ mu x2 = 2L L f = 2mux × L x これを N 個の分子について考えると, N F= ∑ i ∴ P= F 2 L muix2 Nmu x2 = L L = Nmu x2 3 L = Nmu x2 V 1 ここで, u x2 = u 2y = u z2 = u 2 であるから, 3 P= Nmu 2 3V ……(1.3) という式が導ける。これは,気体の圧力や体積というマクロな量と,気体分子の速度,分子数,質量 などのミクロな量を結びつける重要な式である。 次に,1[mol]の気体について考えると,PV=RT なので,アボガドロ数を NA とすると RT = ∴ 1 NAm u 2 3 u2 = 3RT 3RT = N Am M ……(1.4) -5- となる。ここで, u 2 は根平均二乗速度と呼ばれている。これから,分子 1 個の並進運動エネルギー の平均値は 1 3R 3 mu 2 = T = k BT 2 2N A 2 E= ……(1.5) ここで,kB をボルツマン定数といい,1.38 × 10-23[J/K] である。分子 1 mol について考えると,分 子の並進運動エネルギーは 3 3 k BT × N A = RT 2 2 E= ……(1.6) となる。 [例題 気体分子の速度はその分子の分子量,温度による関数として表される。温度 7℃のとき 5] の N2 の気体分子速度が 500[m/s]としたとき,温度 127℃のときの O2 の気体分子速度は いくらか。ただし, 2 =1.4, 3 =1.7, 5 =2.2 とする。 [解答 5] ただ「気体分子速度」といったときは,根平均 2 乗速度を示す。 (1.4)式より 3RT M u2 = ∴ uN 2 2 = uO 2 2 ∴ uO 2 2 = 3 × R × 280 28 = 3 × R × 400 32 10 400 × 32 = 10 × 32 400 = 8 10 = 4 5 5 2.2 uN 2 2 = × 500 = 550 [m/s] 2 2 正 -6- 解 550[m/s] (1.6)式から,1 mol の気体分子の並進運動エネルギーは E = 3 RT である。これは,x,y,z の 3 方向 2 に自由に運動できる気体分子を考えた場合であるから,x,y,z の 3 方向それぞれのエネルギーに分 けた場合は,3 方向に性質の違いが無ければ Ex = E y = Ez = 1 RT 2 ……(1.7) と考えて良いだろう。すると,1mol の気体分子が,1 自由度あたり持つエネルギーは いうことが分かる。これは,後で気体の比熱を考える際にも重要な事となってくる。 -7- 1 RT であると 2 第2章 第1節 化学熱力学 熱力学第一法則 熱力学を学ぶ際に,最初に熱力学第一法則を勉強する。これは,エネルギー保存則の熱力学バージ ョンと言えばイメージが湧きやすいだろう。熱力学第一法則は,次の式で表される。 Qin = ∆U + Wout ……(2.1) ここで,Qin は気体に加えられた熱量,∆U は内部エネルギー変化,Wout は気体が外にした仕事を 表している。ここで,内部エネルギーとは,一般的に, U = ncvT ……(2.2) と書ける。つまり,温度のみに依存する状態量である。cv を定積モル比熱という。単原子分子理想気 体では次のような形をとる。 U= 3 nRT 2 ……(2.3) ただし,n は物質量,R は気体定数(= 8.31[J/mol・K]),T は絶対温度である。 次に,仕事は次の積分で表される。 Wout = ∫ p dV ……(2.4) この式は一般に成立する。 以上より,エネルギー保存を(熱量をのぞいては)T, p, V の 3 つの量で表せたことになる。また第 1章で学んだように,理想気体の場合には,これらの量の間には,状態方程式という関係式がある。 pV = nRT これでエネルギー保存則を観測できる量で表すことができることになる。結局,熱力学の基本は, この 4 つの式をいかに変形していくのか,ということにある。もう一度これをまとめておこう。 Qin = ∆U + Wout ① 熱力学第一法則(常に成立) ② 内部エネルギー(単原子分子理想気体のみ) ③ 仕事(常に成立) Wout = ④ 気体の状態方程式(理想気体) pV = nRT ∫ p dV - 8 - U= 3 nRT 2 なお,実際にはこうした式は変分の形式で使われることが多い。②と④を変分形式に書き直すと次 のようになる。 3 nR∆T 2 ② ∆U = ④ ∆Wout = ∆ ( pV ) = p∆V + ∆p V = nR∆T 微小変化について考える問題では,必要となるので覚えておこう。 ここで,論点となってくるのが,内部エネルギーの問題である。(1.6)式と(2.3)式を見比べてみると, モル数をそろえて考えれば,全く同じであることが分かる。これから,内部エネルギーとは,気体分 子のエネルギーの合計であるということが分かる。 さらに,(2.2)式と(2.3)式を見比べると,単原子分子理想気体の場合は,定積モル比熱が cv = 3 R 2 ……(2.5) である。単原子分子は,x,y,z の 3 方向に運動できる,つまり自由度が 3 であるから,1 自由度あた りの定積モル比熱は 1 R である。すると,単原子分子以外の気体でも,自由度を数え上げれば,その 2 定積モル比熱を求めることが出来る。その際には,並進の自由度だけでなく,回転,振動の自由度も 考える必要がある。回転については,1 自由度あたりの定積モル比熱は 1 R である。振動の自由度に 2 関しては,量子力学の計算により,振動による比熱 cv, m は cv, m hν = k BT 2 hν 2 k BT e R hν − 1 − e k B T − ……(2.6) で表されて,振動数 ν により値が異なり,低温では 0 に近づき,高温では R に近づく。 以上から,一般の分子について,並進,回転,振動の自由度をそれぞれ d,e,f とすると, cv = 1 1 R×d + R×e+ 2 2 f ∑c v, m ……(2.7) m =1 で表される。 - 9 - [例題 二原子分子理想気体(例えば,N2 や O2)の気体があったとする。その気体の定積モル 1] 比熱はいくらか。また,三原子分子理想気体について,直線型(CO2)と非直線型(H2O) のそれぞれの場合について定積モル比熱はいくらか。ただし,振動による比熱は cv, m する。 [解答 1] 二原子分子の場合は,並進の自由度は 3,回転の自由度は 2,振動の自由度は 1 であるから, 1 1 5 R × 3 + R × 2 + cv, m = R + cv, m 2 2 2 cv = 三原子分子理想気体については,直線型の場合は,並進の自由度は 3,回転の自由度は 2,振動の自 由度は 4 なので 1 1 R×3+ R× 2 + 2 2 cv = 4 ∑ m =1 cv, m = 5 R+ 2 4 ∑c v, m m =1 三原子分子理想気体については,非直線型の場合は,並進の自由度は 3,回転の自由度は 3,振動の 自由度は 3 なので 1 1 R×3+ R×3+ 2 2 cv = 3 ∑ 3 cv, m = 3R + m =1 ∑c v, m m =1 となる。 正 第2節 解 上記参照 気体の準静的状態変化 前節で学んだ 4 式をもとに,理想気体の状態変化について考察していこう。なお,ここでの状態変 化とは,各点でつりあいを保ったままじわじわと変化していく状況を考えている。このような変化を 準静的な変化である,という。ここでの目標は,仕事量 W,もしくはモル比熱(1 モルの気体の温度 を 1[K]上昇させるのに必要な熱量)を求めることである。 1 定積変化 体積 V が一定ということである。これを式に直すと ∆V = 0 となる。これを前節の 4 つの式に代入し てみよう。 3 nR∆T 2 ② ∆U = ③ Wout = 0 ④ V∆ p = nR∆T - 10 - となる。これをエネルギー保存則に代入することにより,熱量を求めることができる。 Qin = ∆U = ① 3 nR∆T 2 ここで,∆T = 1,n = 1 とすると,定積モル比熱 cv となる。つまり,単原子分子理想気体の定積モル 比熱は次のようになる。 3 R 2 cv = 2 定圧変化 圧力 p が一定ということである。これを式に直すと, ∆p = 0 となる。これを前節の 4 つの式に代入 してみよう。 p∆V = nR∆T ④ ③ Wout = p∆V = nR∆T ② ∆U = 3 nR∆T 2 よって,エネルギー保存則に代入して,熱量は次のようになる。 ① Qin = ∆U + W = 3 5 nR∆T + nR∆T = nR∆T 2 2 これより,単原子分子理想気体の定圧モル比熱は次のようになる。 cp = 5 R 2 なお,この結果から定圧モル比熱と定積モル比熱の間に次の関係式があることがわかる。 cp−cv = R ……(2.8) これは一般に成立し,Mayer の法則とよばれる。 3 等温変化 等温変化では,モル比熱という量は考えられない。そこで,圧力が P1 から P2,それに対応して体 積が V1 から V2 に変化した時の仕事量と熱量を求めよう。まず仕事について, Wout = ∫ V2 p dV = V1 ∫ V2 V1 V nRT dV = nRT log 2 = nRT∆(log V ) V V1 となる。内部エネルギーが変化しないことから,外から加えた熱量も全く同じであることがすぐにわ かる。 - 11 - 4 断熱変化 断熱変化の場合には Q = 0 となる。この場合にも前節の 4 式を用いて一般的な関係式を導き出すこ とができる。しかし,これはやや難しいため,ここでは結果のみを示しておくことにする。断熱変化 の場合には次の関係式が成り立つ。 pV γ = Const ……(2.9) 外に行う仕事は,これを用いれば直ちに計算することができる。γは比熱比とよばれ次の式で表さ れる。 γ = [例題 cp ……(2.10) cv 2] 断熱材でできたピストンに気体が入っており,ストッパーにより気体の圧力および体積 がそれぞれ p 1,V1 に保たれていた。次にストッパーをはずしたところ,この気体は圧力 p2,体積 V2 まで断熱膨張した。このとき,ピストンが外にした仕事はいくらか。 [解答 2] 断熱膨張のときの仕事の計算で,過去にも出題例がある(この問題文も過去問を踏襲している)。② の式に代入して丁寧に計算すればよい。ただし,選択肢に合う形にするためには少々技巧を必要とす ることもあるだろう。 Wout = ∫ V2 V1 p dV = C ∫ V2 V1 V −γ dV = C p V − p1V1 (V 1−γ − V11−γ ) = 2 2 1−γ 2 1− γ なお,内部エネルギーが,ncvT で表されることを知っていれば,断熱変化の場合には,内部エネル ギーの差が,外にした仕事となるため, Wout = cv ( p2V2 − p1V1 ) R となる。Mayer の公式を使えば,上の答えと一致する。 正 - 12 - 解 p2V2 − p1V1 1− γ [例題 3] 図のように,左右に滑らかに動くことのできるピストンを備えた密閉円筒容器がある。 容器内は,ピストンによって左右にしきられ,それぞれの部分に同種の理想気体が 1[mol] ずつ入っている。はじめ,左側の気体の温度と体積は T1,V1,右側の気体の温度と体積は T2,2V1 であったが,左側の気体のみをヒーターで加熱したところ,ピストンが準静的に 移動し,右側の気体の体積が V1 になった。このとき左側の気体の温度はどれか。 ただし,容器の壁面とピストンは断熱材でできているものとする。また,比熱比をγ と する。 T2,2V1 T1,V1 ヒーター ピストン [解答 3] ピストンが静止するので,両側の部屋の圧力は等しい。まず,右側の部屋について,断熱変化をす るので,加熱前の圧力を p1,加熱後の圧力を p2 とすると, p1(2V1)γ = p2(V1)γ また,左側の部屋についての状態方程式より,加熱後の温度を T とすると, p1V1 = RT1 p2 (2V1) = RT 以上を解いて, T = 2γ +1T1 正 [例題 解 2γ +1T1 ア ,○ イ ,○ ウ の膨張において,気体が行った仕事はそれぞ 4] 一定温度 T の条件下で行われる○ れいくらか。 ただし,気体は理想気体とし,n は気体の物質量,R は気体定数である。 圧力 P1,体積 V1 の気体が入った容器と真空の容器との間の仕切りをはずしたとこ ア ○ ろ,気体が圧力 P2,体積 V2 に膨張した。 外界から常に一定の圧力 P1 がかかっている状態で,気体の体積が V1 から V2 に膨張 イ ○ した。 圧力 P1,体積 V1 の状態から,気体の圧力と外圧が常に等しい状態を保ったままで ウ ○ 圧力 P2,体積 V2 に膨張した。 - 13 - [解答 4] ア ○ 自由膨張であるから,した仕事は 0 である。 イ ○ W = P1(V2-V1) ウ ○ W= ∫ V2 PdV = V1 ∫ V2 V1 V nRT dV = nRT ⋅ ln 2 V V1 正 第3節 解 上記参照 エンタルピー 前節で学んだ定圧変化において,熱力学第一法則から ∆Qin = ∆U + P∆V であるから, ∆U + P∆V をひとまとめにして,つまり,系のエネルギーの変化と系の体積変化による エネルギー変化をまとめて扱うと楽そうである。ここで, H = U + PV ……(2.11) という量を定義して,エンタルピーと呼ぶことにする。 すると,定積変化,定圧変化において, ∆Qin = ∆U (定積変化) ……(2.12) ∆Qin = ∆H (定圧変化) ……(2.13) となるので,内部エネルギーは定積変化と関連付け,エンタルピーは定圧変化と関連付けて扱うと便 利である。 これを利用して,反応物(reactant)から生成物(product)が生成する反応を考える。この時の,内 部エネルギーの変化とエンタルピー変化を考えると,熱の出入りと対応させるために,(2.12)と(2.13) を考慮して ∆Qin = ∆U = U prod − U react (定積変化) ……(2.14) ∆Qin = ∆H = H prod − H react (定圧変化) ……(2.15) と書ける。ここで,定積変化で ∆U > 0 (定圧変化で ∆H > 0 )の反応は吸熱反応といい,定積変化で ∆U < 0 (定圧変化で ∆H < 0 )の反応は発熱反応という。 - 14 - [例題 ある物質は, c p (l ) = 10.0 , c p ( g ) = 20 + 5] T となっている。また,沸点は 400 K で,気 100 化熱は 0.1 kJ/mol である。この物質 1 mol を定圧下で 300 K から 500 K まで上昇させたとき, エンタルピー変化はいくらか。 [解答 5] (2.15)より,エンタルピー変化は加えた熱量に等しいので ∆H = ∫ 400 C P (l ) dT + 100 + 300 500 ∫C P ( g ) dT 400 500 T2 400 = [10T ] 300 + 100 + 20T + 200 400 = 10(400 − 300) + 100 + 20(500 − 400) + 1 (500 2 − 400 2 ) = 3550[J] 200 = 3.55[kJ] となる。 正 解 3.55[kJ/mol] 実験は,定圧過程で行われることが多いので,定圧過程を考えることが多い。この過程では,dQ=dH であるから,反応熱はエンタルピーの変化に等しい。これを,この反応の反応エンタルピーという。 標準状態(1[atm],25[℃])でのそれを標準反応エンタルピー( ∆H o )という。 以上から,化学反応に伴う反応エンタルピーが測定できるように思える。しかし,化学反応の多く は,直接的に熱量測定を行うのには適していないので,熱量測定から反応エンタルピーを求めるのは 難しい。そこで,反応エンタルピーは,ヘスの法則による間接的方法により求められてきた。ヘスの 法則とは, 「反応熱は出発物質と最終生成物質のみにより,反応の経路によらない」という法則である。 例えば,二酸化炭素の例で考えると,右 C + O2 図のようなエネルギーの図が書ける。化学 反応式で書くと CO + ∆H = 394 kJ C + O2 → CO2 C + O2 →CO + CO + 1 O2 2 1 O2 → CO2 2 1 O2 2 111[kJ] 394[kJ] 283[kJ] ∆H = 111 kJ CO2 ∆H = 283 kJ となり,どれか 1 つの反応エンタルピーが分かっていなくても,他の 2 つの反応の反応エンタルピー - 15 - が分かっていれば,間接的に求めることが出来る。 標準状態(1 atm,298 K)で,化合物を単体から生成するときのエンタルピー変化を標準生成エン タルピーといい, ∆H fo で表す。これについても,ヘスの法則を使って,他の化学反応から,標準生成 エンタルピーを求めることが出来る。 [例題 6] 以下の反応式 2H2(g) + CO(g) → CH3OH(l) ∆H o =-128 kJ から,メタノール(CH3OH(l))の標準生成エンタルピーを求めよ。ただし,CO(g)の標準 生成エンタルピーを-110 kJ として計算せよ。 [解答 6] (2.15)式から o o ∆H o = ∆H(生成物) − ∆H(反応物) f f ∴ o − 128 = ∆H( − {0 + (−111)} f CH 3OH) ∴ o ∆H( = −239 kJ f CH 3OH) 正 第4節 解 -239 kJ エントロピー ある反応が,何もしないでも勝手に起こる場合,その反応を自発的という。例えば,ヘリウムガス が入った袋に穴を開けると,ヘリウムガスはまわりに飛んでいってしまう。この過程は自発過程であ る。このような自発過程は,一度起こってしまうと,元に戻すことは出来ない。これを,不可逆過程 という。これに対して,元に戻すことの出来る過程を可逆過程という。 ここで,エントロピーという物理量を導入する。これにより,反応が可逆過程か不可逆過程かどう か(反応が自発的かどうか)という問題を扱えることになる。 まずは,エントロピー変化を次のように定義する。 ∆S = ∆Qin T ……(2.16) - 16 - 温度が変化する場合には,(2.16)式を積分することにより得られる。 [例題 ある物質の定圧モル比熱は,固体で c p ( s) = 2T ,液体で c p (l ) = 200 ,気体で c p ( g ) = 7] 3T + T2 となっている。融解熱は 4 kJ/mol,気化熱は 10 kJ/mol である。融点 200 K,沸点 100 400 K のとき,この物質 2 mol を定圧化で 100 K から 500 K まで上昇させるときのエント ロピー変化 ∆S を求めよ。 [解答 7] ∆S = n = ∫ 200 C 100 P (s) T 200 2 × [2] 100 dT + n 4 × 103 +n 200 ∫ 400 C P (l ) 200 T dT + n 10 × 103 +n 400 ∫ 500 C 400 P (g) T 1 T2 10000 4000 + 2× + 2 × [ 200 ln T ] 400 + 2 × 3T + × 200 + 2 × 2 100 400 200 dT 500 400 1 100 = 2 × 2 × 100 + 2 × 20 + 2 × 200 × ln 2 + 2 × + 2 × 3 × 100 + × 900 = 2270 2 4 = 2.27[kJ/K] 正 解 2.27[kJ/K] ここで,エントロピーという物理量が出てきたが,これは一体何を意味する物理量なのだろうか。 難しいことはおいといて,エントロピーとは,簡単に言えば「乱雑さの指標」と考えると分かりやす い。つまり,乱雑であるほどエントロピーは大きく,整っているほどエントロピーは小さいというこ とである。すると,エントロピーは,その状態がどれだけ乱雑かを表す指標であるから,エントロピ ーは状態量であるといえる。 では,エントロピーという物理量は,一体何の役に立つのだろうか。それを理解するスタートとな るのが,次の記述で与えられる。 「不可逆過程(自発的に起こる過程)においては,その系のエントロピーは増加する」 すると,注目する系のある変化における ∆S を考えると,これが自発的に起こる過程では必ず増加す る。 ここで,もう一つエントロピーに関する例題を考えてみよう。 - 17 - [例題 n mol の理想気体が,体積 V1 の容器 A に入っている。体積 V2 の真空状態の容器 B と 8] は栓 C でつながれている。今,この栓 C を外して,容器 A の気体が容器 A と B の全体に 広がったとき,エントロピーの変化はいくらか。ただし,容器 A と B は断熱材でできてい るものとする。 B A C [解答 8] ∆S = ∫ dQin = T ∫ dWout = T V1 +V2 ∫ V1 V +V P dV = nR ln 1 2 T V1 正 解 nR ln V1 + V2 V1 この結果は,体積 V1 の容器 A に閉じ込めた気体があり,そのまわりを覆うようにある体積 V2 の 真空の容器 B がある場合,当然,容器 A に穴を開けた場合は,容器 B の内部へ気体が膨張すること を考えることで,重要な事を知らせてくれる。この場合,膨張は自発的に起こることは自明である。 すると,この膨張によるエントロピー変化は ∆S = nR ln V1 + V2 > 0 であるから,エントロピーの性質 V1 について次のような事がいえる。 「 ∆S > 0 ならば,その反応は自発的に進み, ∆S = 0 ならば,その系は平衡状態にあり,どのよ うな自発的変化も起こらない。 」 この結論は,以下の章での議論においても,重要であるから,しっかりと覚えておこう。 さて, 「例題 8」について,疑問がある人もいると思う。それは, 「(2.16)から,断熱変化なら ∆S = 0 じゃないの?」という疑問点である。この問いに対する答えは, 「エントロピーは状態量だから,可逆 的に変化させた場合と同じになる。」である。 この疑問に対するもう一つの答えは,(2.16)式は,可逆過程に対して定義されたものである為である。 不可逆過程に対しては, - 18 - ∆S > ∆Qin T ……(2.17) という関係にある。この式を,クラウジウスの不等式という。 (実際には,証明があるのだが,あまり 試験に出ないので省略する。) - 19 - 著作権者 株式会社東京リーガルマインド (C) 2010 TOKYO LEGAL MIND K.K., Printed in Japan 無断複製・無断転載等を禁じます。 KL10058
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