日高と十勝のサクラソウめぐり日記

日高と十勝のサクラソウめぐり日記
苫小牧市 小 山 留 美
はじめに
ます。五十嵐さん曰く「例年より成長が遅
2010 年 5 月に本会会員の五十嵐博さん
い」ということでした。
に同行させていただき、日高と十勝地方の
5 月 15、16 日には日高だけでなく十勝
サクラソウ科の花めぐりをしました。
まで足をのばすことになりました。
サクラソウの仲間の花たちが平地から
15 日は前の週にはまだ咲いていなかっ
岩場にまで生育し、それぞれに違いがある
たサクラソウの開花を確認。かわいらしい
ことに面白さを感じることができました。
ピンク色の花が待っていました。さらに同
日、国道 235 号の沙流川の橋脇の岩場に
日高・十勝のサクラソウの仲間を探して
生えるソラチコザクラも見ることができ
最初に連れていっていただいたのは 5
ました。ヘラ型の葉を岩肌に広げ、岩の隙
月 9 日。日高の門別町の日勝観光センター
間にしっかりと根をおろしています。少し
(ドライブイン)横のカシワ林でした。
日陰の湿ったところが好きらしく、かわい
そこには花芽が伸びていない、フリルの
いのにしたたかに咲いていました。
縁のかわいらしい葉だけが生えていまし
た。日差しは暖かかったのですが風は冷た
く、葉は寒さを耐えるように縮こまってい
ソラチコザクラ.沙流川の崖にて 2010.05.15.
ソラチコザクラ.沙流川の崖の様子 2010.05.15.
サクラソウの葉.静内にて 2010.05.09.
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さらに東に進み、三石町の蓬莱山でカム
イコザクラを確認。ヒダカイワザクラの変
種で毛深いのが特徴だそうです。葉っぱの
形は手のひら型で、同じような崖に生えて
いるのにソラチコザクラとはこんなに違う
のかと、ひとしきり感心しました。
三石ダムにも行きました。そこでは上流
の崖でソラチコザクラが咲いていました。
かなり雪解けの水がしみ出ていて、林道に
林道にできた水たまりにエゾサンショウウオの卵塊な
どが産み落とされていた.三石ダムにて 2010.05.15.
もたくさんの水たまりをつくっていまし
た。
そこでエゾサンショウウオとエゾアカガ
エルのものと思われる卵塊をいくつも見つ
けました。
少し下った沢には、オオサクラソウが咲
いていました。今まで見てきた崖にへばり
つく形の花とは違って、荒く砕けた岩石や
砂地の平坦な場所から、ぐんと茎が伸びて
いて背丈は 20 ∼ 30㎝ありました。葉や花
の形がヒダカイワザクラと似ているので背
が大きくなかったら、間違えてしまいそう
です。
そこから、えりも町の庶野の水源かん養
保安林に少し寄ると、ヒダカイワザクラが
カムイコザクラ.三石町の蓬莱山にて 2010.05.15.
咲いていました。このころになると私のに
ソラチコザクラ.沙流川の崖の様子 2010.05.15.
オオサクラソウ.三石ダムのより下流の沢で 2010.05.15.
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北方山草 28 (2011)
ぶい眼にも違いがわかるようになってきま
所に生育しているんだな」ということでし
した。
た。サクラソウはカシワ林の下に、ソラチ
翌日 5 月 16 日には歴舟川の上流へ向か
コザクラやヒダカイワザクラ、カムイコザ
いました。そこの崖ではソラチコザクラが
クラは日陰の湿った崖に可憐なピンクの花
開花していました。
を咲かせています。
ヌビナイ川上流にも行きました(この川
この時はそんなに意識していませんでし
は下流で歴舟川に合流します)
。そこには
たが、後から調べてみるとサクラソウ科に
まだ雪が残っており、ソラチコザクラの多
はピンクの花だけではなくてオカトラノオ
くは葉のみの状態でした。ちなみにヌビナ
などの白系や、ヤナギトラノオやクサレダ
イ川はカヌー客に人気らしく、この日も 2
マなどの黄色系の花もあることに気が付き
人が川を下って行くのが見えました。
ました。
また、国道 234 号から少し外れて芽室
岳から発生して沙流川に合流するパンケ
ヌーシ川の林道にも入りました。ここでは
ヒダカイワザクラとソラチコザクラの両方
を見ることができました。
自分だけでは普段行かないようなところ
まで足を延ばしていった道中は、植物探し
の探検そのもの。ソラチコザクラやヒダカ
イワザクラが生えていそうな「いい崖」を
探し回ったり、他の花たちを教えてもらう
たびにわくわくしてしまいました。時期は
春真っ盛り。春の花の妖精たちにもたくさ
ん会えて得した気分になりました。
なお、後日、白老方面もサクラソウの仲
間の確認に訪れたのですが、6 月を過ぎて
いたのと、「いい崖」があるところには林
サクラソウ科のオカトラノオ.苫小牧市錦大沼公
園にて 2008.07.26.
道がゲートで閉ざされていたりしてなかな
か到達できない場所だったため、確認する
ことはできませんでした。
葉の毛深さ、形、花の色、花弁の裂け方、
茎の毛の様子…。同じ科に分類されていて
それぞれの違いが持つ面白さ
も見ているといろいろと違うのでびっくり
あちこち連れていっていただいて気が付
です。それぞれに個性があって、それを尊
いたのは「科が同じでも随分いろいろな場
重しようとすると、ひとくくりするのは難
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しく感じました。
「北海道の野草」という一つのことで年代
の違う方々と一緒に過ごせる時間が持てた
違うことの楽しさをこれからも
ことに、幸せを感じています。そして、こ
2010 年 12 月の北方山草会忘年会のと
れからも会員のみなさんと楽しんでいきた
き、出席者の数人に「どうして植物に興味
いと思いました。
を持ったのですか」という質問をさせてい
ただきました。そこで返ってきた答えはそ
最後に
れこそ十人十色でした。お酒が入っていた
5 月のサクラソウ観察にとどまらず、あ
ので全部を明確には思い出せないのですが
ちこちへ連れていっていただいた五十嵐さ
「生け花を習っていたから」「小さなころか
んには最大の感謝を伝えたいです。
ら山や川へ行って遊んでいたから」
「山登
無知な人間を連れ歩くのは大変だったか
りが好きで、そこに生えている草花の美し
と思いますが、本当にありがとうございま
さに魅了されたから」などなど、出会いは
した。また、道中ずっと運転してくださっ
人それぞれ。それが、野の花たちがさまざ
てありがとうございました。
まな条件の中で色とりどりに、
時に派手に、
時に控えめに咲いているのと重なって、と
参考資料
ても面白いと感じました。
梅沢 俊.2007.新北海道の花.p.40,114-
北方山草会に入会させていただいて、い
115,239-242.北海道大学出版会,札幌.
ろいろな方がいろいろな趣味を持つ中で、
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