半導体 - 格付投資情報センター

業種別格付方法
公表日:2015 年 6 月 23 日
半導体
この格付方法は、半導体デバイス(以下、半導体)を、主力事業として製造・販売する企業の格付評
価に適用する。半導体は広義には電子部品に含まれるが、市場の規模・ボラティリティー、競争環境、
投資規模などの違いを考慮して、別に格付方法を設けている。日米欧や韓国の垂直統合型メーカーに加
え、台湾のファウンドリー(半導体製造受託会社)などが主要プレーヤーで、市場は全世界に広がる。
I.事業リスクの評価
1.産業リスクの見方
半導体は、記憶や演算といった目的によって製品が細分化されるが、エレクトロニクス製品に搭載さ
れていることが多く、総じて需要や市況の変動性が非常に大きい。技術革新のペースが速く、回路の微
細化や高密度化などが進むほか、新しいタイプの半導体に既存製品が置き換わる場合もある。規模の経
済性と経験曲線効果が相まって単位当たりのコストが低減していく。調達する側はそれを見越しており、
製品価格には絶えず下押し圧力がかかる。多額の研究開発費を投じて技術開発で先行しながら、需給ト
レンドの先行きを見据えて思い切った設備投資や外部生産委託を活用し、効率的な生産体制を構築し、
高い市場地位を獲得することが収益力を高めるために欠かせない。ただ、技術開発のハードルの高まり
が、研究開発の増大や製造装置の価格上昇を招いており、設備投資や開発投資の資金負担は増している。
十分な投資余力がない企業は、研究開発費や設備投資の抑制をせざるを得ない局面で競争力を失いやす
い。典型的な装置産業で固定費負担が重いことが参入障壁を高めている面はあるものの、市況低迷や競
争力低下で、収支は短期間で顕著に悪化するため、ダウンサイド時には事業継続に窮する企業が現れや
すい。こうした状況から、半導体の産業リスクは大きいと判断している。
産業リスクは具体的に以下のような視点で評価している。
(1)市場規模、市場成長性、市場のボラティリティー
半導体市場は 2010 年以降、おおむね 3000 億米ドル規模で推移している。半導体はデジタル機器を
中心に多様な製品に組み込まれており、市場規模は比較的大きい。市場の用途別構成比をみると、コン
ピューター(大型コンピューター、パソコンなど)及び周辺機器向けや、スマートフォンを含む通信機
器向けのウエートが高い。民生機器(AV 機器、白物家電)のウエートは低下傾向にあり、自動車の構
成比は徐々に高まっている。
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中長期的な市場成長率は比較的高い。用途がこれまでのエレクトロニクス分野中心から、自動車、環
境エネルギー、医療へと広がりを見せているうえ、新興国の経済成長も半導体の需要増につながる。
市場のボラティリティーは大きい。シェア上昇のために各社が生産能力を増強すると、需要の縮小時
に需要と供給のバランスが崩れ、短期間のうちに市況が激しく変動する。また半導体が多く使われる産
業用コンピューターや民生用デジタル機器の需要は、法人の設備投資や個人消費の動向に左右されるた
め、経済環境の影響を受けやすい。これまでの不況期の市場縮小が、半導体メーカーの淘汰を促すほど
の影響があったことは軽視できない。
(2)業界構造(競争状況)
半導体市場は、性能及び価格の両面で各社間の競争が激しい。先端分野の開発・設計や、単位コスト
低減に向けた能力増強、歩留まり(良品率)向上などで各社がしのぎを削る。ただし、一口に半導体と
言っても、製品の種類により競争環境や投資負担の規模に違いがあり、リスクの大きさも異なる。主要
な半導体製品をリスクの大きい順に並べると、1)メモリー、2)ロジック、3)ディスクリートとなる。
一部のアナログ半導体や LED のように、市場規模や投資負担といった事業特性が一般的な電子部品に
近い場合、電子部品の格付方法を参照することもある。
以下、製品別に特性を見ていく。
1)メモリー
メモリーはデータやプログラムを記録する役割を担う。代表的な製品に、高速処理性能に優れるが、
電源を切ると記憶が消える(揮発性)DRAM と、不揮発性のため電源を切っても記憶を保持できるフ
ラッシュメモリーがある。メモリーは汎用性が高く、コスト競争力が重要な差別化要素となる。ただ、
コストダウンには回路の微細化と大量生産が求められ、そのために設備投資額が膨らむ。好況期には各
社が能力増強に走りやすく、業界全体の生産能力が大幅に増えてから景気が停滞すると、需給ギャップ
が拡大して市況が大きく悪化する。
2)ロジック
ロジックは数値演算などデータの加工・処理を担う半導体である。搭載される最終製品は、パソコン、
携帯電話端末、ゲーム機、産業用機器、自動車など幅広く、用途や顧客に応じて仕様が異なる。具体的
な製品には、コンピューターの頭脳にあたる CPU(中央演算処理装置)を組み込んだ MPU(超小型中
央演算処理装置)、MCU(マイクロコントロールユニット=マイコン)、DSP(デジタル信号処理装置)
などがある。用途により求められる機能が異なるため、汎用的なメモリーに比べると単純な価格競争に
陥りにくい。
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3)ディスクリート
ディスクリートとは、トランジスタ、ダイオード、コンデンサーなど単一の機能を担う個別半導体・
単機能半導体の総称である。技術的には成熟しており、アジアメーカーも参入している。大規模な設備
投資は必要なく、中古装置も出回っており、固定費負担は相対的に軽い。
モーターや照明の電力制御に用いられるパワー半導体も主にディスクリートに含まれる。各種素材を
扱う技術力や経験の蓄積なども求められる製品で、日本メーカーが優位にある。
(3)顧客の継続性・安定性
メモリーは、採用される最大の要素が価格であり、顧客の継続性・安定性は半導体製品の中では最も
低い。ロジックの場合、取引の安定性は顧客が属する業界により異なる。コンシューマー用デジタル機
器向けは、最終製品のライフサイクルが短く、顧客の製品競争力や販売動向にも取引が左右される。自
動車用途は、新車開発段階から設計・デザインに参画していくほか、自動車メーカーからの認証も厳し
く、顧客の継続性・安定性は相対的に高い。ディスクリートは製品により様々。ローエンド品では代替
が効くものも多いだろう。
(4)設備・在庫投資サイクル
典型的な装置産業であり、ディスクリートを除けば大規模な設備投資が必要となる。継続的な微細化
対応も欠かせず、業界トップクラスの企業は、年間 1 兆円を超える設備投資をする。回路の微細化やウ
エハーの大口径化に伴い技術難易度が上昇し、製造設備が高額になっていることも、ライン当たりの投
資額が増大する傾向に拍車をかけている。
半導体の需要及び市況は約 4 年周期を描いてきた。最近は周期が以前に比べて不規則になっているが、
市場の変動がなくなったわけではない。技術革新が激しく設備の陳腐化リスクが大きいため、短期間に
設備の償却を終えることが望ましい。景気後退期には市況悪化や在庫増加を受けて、棚卸資産の評価損
を計上するリスクもある。
(5)保護・規制、公共性
自動車、情報機器など幅広い産業で必要とされ、軍需向けとしても重要性が高い。このため開発に対
する補助金や、事業継続のための政府援助が受けられる場合もある。しかし、産業全体や個別企業が必
ず救済されるとはいえず、保護・規制、公共性を強く評価に織り込んでいない。
(6)コスト構造
典型的な設備投資型ビジネスであり、費用に占める減価償却費のウエートが高いコスト構造になって
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いる。多額の研究開発費も必要で、世界的な大手は年間で 1 兆円超の資金を投じている。ロジックでは
研究開発費が設備投資額を上回る場合も多い。固定費の負担が重く、コスト構造は柔軟性に欠ける。
業界では製品寿命の短いロジックを中心に水平分業化の流れがあり、ファウンドリーへの生産委託が
進んでいる。多額の設備投資が必要な先端製品の製造をファウンドリーに委託して、投資回収リスクを
低減するとともにコスト構造の柔軟性を確保する動きが強まっている。後工程のみを手掛ける OSAT
(Outsourced Assembly and Test)の活用も盛んだ。開発・設計だけを行うファブレスメーカーは、開
発競争は激しいが設備投資をさほど必要としない。
2.個別企業リスクの見方
産業リスクが対象企業の属する業界の標準的なリスクを示すのに対し、以下のような個別企業リスク
により各社の事業リスクは相違する。
(1)市場シェア
市場シェアは技術開発力やコスト優位性など、総合的な競争力を示す重要な指標だ。半導体は固定費
負担が重いため、販売ボリュームが大きければ、1 製品当たりの固定費を軽くできる。また、半導体の
用途の広がりに伴い、高シェアの企業には最先端の情報が集まりやすく、次世代技術の開発にも好影響
を及ぼそう。長期にわたる高シェアは、技術優位や良好な取引関係を保持している証左といえ、一時的
なシェアの変動だけで評価を見直すことはない。
(2)生産体制・効率性
メモリーでコスト競争力を高めるには、規模の経済性を追求して高水準の生産能力を確保することが
王道となる。システム LSI のようなロジックは、業界内の水平分業が主流となっており、ファウンドリ
ーに生産を委託すれば自らが設備投資をしなくてもシェアを高めることは可能だ。ディスクリートなど
はメモリーほど規模のメリットが働くわけではない。パワー半導体などで高い歩留りと安定した品質を
確保するには、過去からのノウハウの蓄積が欠かせない。いずれにせよ、競合他社にコスト競争力で劣
後しない生産体制を構築することは、再投資をする原資を確保するためにも重要となる。
(3)品種構成・特性
半導体メーカーにはメモリー専業やロジック専業もあれば、メモリーやロジック、ディスクリートな
どを総合的に手掛ける企業もある。製品によって市場のトレンドなどが異なるため、複数の製品にまた
がれば一定の分散効果を生み出せる。ただ、複数手掛けていても、高シェア製品がなければ高い評価は
できない。取り扱う主要製品の品種構成や特性、各製品の競争力などに応じて事業リスクの大小を把握
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する。
(4)技術開発力
半導体に関する技術開発は、回路の高密度化などで処理速度の向上、記録容量の増大、低消費電力化
といった性能を高めるとともに、生産効率化・歩留まり改善を通じてコスト競争力を引き上げることに
もなる。画期的な技術のブレークスルーによって、新しいタイプの半導体が生み出され、既存の半導体
の需要を奪うことがある。中長期的な技術ロードマップを見据えて、特定の領域に偏らず、研究開発を
していくことが重要だ。
II.財務リスクの評価
財務リスクの分析では、財務データといった定量要因に加えて、財務運営方針や流動性リスクなども
評価している。半導体業界では、事業特性から以下のような財務指標を重視している。
(1)収益力
EBITDA(利子・税金支払い前、償却前利益)マージン、EBITDA/総資産平均、
ROA(総資産事業利益率)
半導体は高水準の設備投資や研究開発費(R&D)を必要とし、製造設備の減価償却費がコストに占め
る割合が大きい。EBITDA が再投資能力も表すという観点からも、EBITDA を売上高で除した EBITDA
マージンを収益力評価として重視している。なお、収益変動が激しい産業であり、収益フローの評価に
は好況期と不況期をならしたベースで判断している。
(2)規模・投資余力
EBITDA、自己資本
事業を安定して継続するには必要な投資を賄える規模・投資余力が必要だ。この評価に当たり
EBITDA を重視している。設備投資の規模は、手掛ける製品や生産体制により異なるが、EBITDA が
継続して必要な投資規模を下回る場合には、競争力の維持が難しくなる懸念が強まる。
市況の悪化時には赤字が膨らんで自己資本を大きく毀損することもある。固定資産に計上される製造
設備の減損を迫られるケースも少なくない。損失を吸収するための自己資本の厚みも重視している。
(3)債務償還年数
純有利子負債 EBITDA 倍率、純有利子負債営業キャッシュフロー倍率
債務負担に対し十分なキャッシュフローを生み出せないと、継続的な投資の実施が難しくなり競争力
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に響く。このため EBITDA やキャッシュフローに対して何年分の純有利子負債を抱えているかのチェ
ックが欠かせない。好不況の波があることを踏まえ、ロジックやディスクリートの場合、BBB ゾーン
の評価をするには、市況が良好な期間内に債務を償還できることが必要だ。メモリー専業メーカーは、
事業リスクがより大きいため実質無借金(純有利子負債がマイナス)を BBB ゾーンの目安としている。
(4)財務構成
ネット D/E レシオ(純有利子負債の自己資本に対する倍率)、自己資本比率
継続的に大規模な設備投資を実施できる投資余力があるか、また事業環境が悪化して様々なリスクが
顕在化した時のバッファーがどの程度あるかを見る観点から、自己資本と純有利子負債、あるいは自己
資本と総資産とのバランスも重要な評価要素だ。
(5)流動性リスク
工場やラインの新設時の投資額が大きく、製品価格や需要といった投資回収の前提は変動しやすい。
そのため、リファイナンスのリスクに留意する必要がある。現金及び現金同等物や換金可能な金融資産
の水準のほか、金融機関との取引関係や調達手段の多様性・安定性もみる。
III.半導体業界の格付
発行体格付
個別企業リスク
市場シェア
生産体制・効率性
品種構成・特性
技術開発力
財務リスク
重要度
◎
◎
指標
収益力
◎
○
規模・投資余力
EBITDAマージン
EBITDA/総資産平均
ROA
EBITDA
重要度
◎
◎
○
自己資本
◎
◎
債務償還年数
純有利子負債EBITDA倍率
純有利子負債営業CF倍率
◎
○
財務構成
ネットD/Eレシオ
◎
自己資本比率
◎
産業リスク 大きい
注) 重要度は、◎極めて重視 ○重視 △比較的重視
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*これまで公表した同種の格付方法は、本稿に代替されます。
R&I が格付対象の評価に用いる格付付与方針及び格付方法(以下「格付付与方針等」と総称します)は、R&I が独自の分析、研究等に基づいて作成し
た R&I の意見にすぎず、R&I は、格付付与方針等の正確性、適時性、網羅性、完全性、商品性、及び特定目的への適合性その他一切の事項について、明
示・黙示を問わず、何ら表明又は保証をするものではありません。また、R&I は、格付付与方針等の開示によって、いずれかの者の投資判断や財務等に
関する助言を行い、又は投資の是非等の推奨をするものではありません。R&I は、格付付与方針等の内容、使用等に関して使用者その他の第三者に発生
する損害等につき、請求原因の如何や R&I の帰責性を問わず、何ら責任を負いません。格付付与方針等に関する一切の権利・利益(特許権、著作権そ
の他の知的財産権及びノウハウを含みます)は、R&I に帰属します。R&I の事前の書面による許諾無く、格付付与方針等の全部又は一部を自己使用の目
的を超えて使用(複製、改変、送信、頒布、譲渡、貸与、翻訳及び翻案等を含みます)し、又は使用する目的で保管することは禁止されています。
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