ゲーム機復活?NO.1(PS4発売)

商業経済部会
「ゲーム機復活?」
No.1
【社長の悩み】
2012 年 2 月、株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメント(以下、SCEと記
す)の社長兼CEOのアンドリュー・ハウスは、新型家庭用据え置き型ゲーム機である「プ
レイステーション(PS)4」を販売するか否か、頭を悩ませていた。これまで「PS4」
の研究開発に対し膨大な費用が投じられている(「PS4」の研究開発費は公表されていな
いが、「PS3」の研究開発費は 10 億ドルともいわれている)。だが、発売してから更な
る深手を負う前に手を引くのも大事な経営判断の一つである。その決断をアンドリューは
迫られていた。
【PS4】
「PS4」は、インターネットを通じてソフトなどを共有するクラウド技術をシリーズ
として初めて活用。自分が遊んだゲームの映像を交流サイト「フェイスブック」に投稿し
たり、他人とゲームに関する情報や感想を交換することも可能だ。ゲーム映像はネット上
で生中継することもできる。
また処理能力を高めた半導体を採用。細密な画面の表示が可能になった。携帯型ゲーム
機「PS
Vita」のほか、スマートフォン(以下、スマホと記す)やタブレット端末
からも操作や視聴ができる。
SCEの関係者は「場所を選ばず、どんな機器でもゲームを通した交流や映像が楽しめ
る。これまでのゲーム機の常識を覆す」とヒットに自信を示す。
ネットワーク機能を強化することで、従来のPSファンだけでなく、新たなユーザーを
取り込みたい考えだ。
ただ、「PS4」は「PS3」用のディスク(円盤)ソフトが使えない。「PS3」に使
われていた超高性能半導体「セル」を搭載せず価格を抑えるためだが、「Wii」のソフトが
そのまま使える「Wii
U」に比べ、当面遊べるソフトが少ない点が不利に働く可能性があ
る。
【SCEのPSシリーズ】
SCEのPSシリーズの累計販売台数は、2006 年発売の「PS3」が世界で 7,800
万台。1億 5,500 万台を突破した「PS2」を大幅に下回った。初代「PS」は 1 億 240
万台である。また、「PS2」は「PS」とゲームソフトの互換性があり、「PS3」の初
期モデルは「PS2」と互換性がある。
携帯型の「PS
機
種
PS
Vita」も勢いを欠き、ゲーム事業の好転につながっていない。
発売時期
価
格
ゲーム機以外の特徴
1994 年 12 月
39,800 円
PS2
2000 年
39,800 円
DVDドライブ採用
PS3
2006 年 11 月
60GBモデル
59,980 円
ブルーレイディスクドラ
20GBモデル
49,980 円
イブ採用
3月
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【据え置き型ゲーム機の現状】
据え置き型ゲーム機は近年、無料や安価なゲームが楽しめるスマホや携帯型ゲーム機に
押されている。ゲーム誌を発行するエンターブレインによると、据え置き型はピーク時の
2007 年に国内販売台数が 590 万台に達したが、2012 年は半分以下の 250 万台に縮
小。任天堂も 2012 年末に発売した据え置き型の「Wii
U」が苦戦している。2013 年
3月までの販売目標を当初の 550 万台から 400 万台に引き下げた。
【据え置き型ゲーム機の今後】
PS4には「交流機能を持つ点は同じでもスマホより格段に迫力や臨場感があるゲーム
を楽しめる」(ゲーム出 版大手エンターブレインの浜村弘一社長)との評価もある。「Wii
U」に続き米マイクロソフトが 2013 年内にも新型の据え置き型ゲーム機を発売する見通
し。浜村氏は「新型ゲーム機が出そろえば、市場が再び活性化する可能性はある。PS4
の成功には、手ごろな価格設定とゲームソフトの充実が不可欠だ」とみている。
【ゲーム市場】
プレイステーションなどの家庭用ゲームの 2012 年の市場規模(ソフトを含む)は、エ
ンターブレインによると、前年比 1.1%減の 4,491 億円。2011 年に値下げした任天堂
の携帯型ゲーム機「ニンテンドー3DS」が軌道に乗り、人気ソフトも登場したことなど
から減少幅は縮小したが、5年連続で前年割れとなった。
これに対し成長を続けているのがスマホなどで遊ぶソーシャルゲーム市場。矢野経済研
究所によると、2013 年度の国内市場規模は前年度比 10%増の 4,256 億円になると予測
され、家庭用ゲームに迫る勢いだ。グリーなどの 交流サイト大手の課金収入増などにより、
今後も安定した市場拡大が見込めると期待も高い。
調査会社シード・プランニングによると、スマホ購入後に家庭用ゲーム機の利用をやめ
たり、利用時間を減らしたりする消費者は 44%にのぼる。いつでもどこでも遊べるスマ
ホの交流ゲームの台頭で消費者のニーズも変わった。
「 ゲーム機用ソフトは何十時間かけて
遊ぶように開発してきたが、交流ゲームは7分で一区切りできないと飽きられる」
(バンダ
イナムコゲームスの鵜之沢伸副社長)という。
ゲームソフト開発会社も最近は交流ゲームの開発に注力している。
「 以前はゲーム機新製
品に合わせて対応ソフトに開発資源を集中させてきたが、今は余裕がない」
( 開発会社幹部)
との声も聞かれる。また、株式会社カプコンは、
「カプコンのブランドは全部、スマホやタ
ブレットでも遊べるようにしたい」と話していた。
一方、ゲーム業界全体では、市場拡大への期待も高まっている。2013 年1月、中国国
内で輸入・製造・販売が禁止されている家庭用ゲーム機市場が、開放されるとの 見通しが
中国の地元紙で報じられた。中国の市場開放となれば、SCEや任天堂など日本のゲーム
メーカーにとっても商機となる可能性が高い。
【ソニーグループ】
ソニーグループにとってゲーム事業は、スマホなどの「モバイル」とデジタルカメラな
どの「デジタルイメージング」と並ぶ電機事業の3本柱の一つ。スマホもテレビも同じグ
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ループに抱える強みを生かし、ネットにつないだゲーム機を家庭内のデジタル家電を連携
する中核機器に位置づけ、グループ全体の相乗効果 を追求する狙いがある。
【続・社長の悩み】
1980 年以降から始 まった 家庭用据え置き 型ゲーム機の熾烈なシ ェア争いは淘汰が進
み、現在国内メーカーで販売しているのはSCEと任天堂の 2 社だけとなった。スマホと
いう新たなライバルが登場し、今後のゲーム機市場の見通しがつかぬまま、新機種の販売
か否かが迫られている。アンドリュー・ハウスの苦悩は終わることがない。
○日本経済新聞・朝日新聞・毎日新聞・中日新聞 2013 年2月 22 日(金)朝刊より作成
○2012 年度第 3 四半期連結業績概要(2012 年 12 月 31 日に終了した 3 ヵ月間)
http://www.sony.co.jp/SonyInfo/IR/financial/fr/12q3_sonypre.pd f
○インターネット記事より
http://gamecolumn.blog17.fc2.com/blog-entry-13176.html
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