NO.49 NEWS 日本マンション学会 NEWS LETTER 2007 年(平成 19 年)12 月 25 日 №49 発 行 日本マンション学会 事 務 局 〒151-0073 東京都渋谷区笹塚 2-18-3 エルカクエイ笹塚ビル 6 階 目 LETTER 次 パリの集合住宅 ………………………… 1 分譲マンションの現実を踏まえた 管理組合団体の役割 …………………… 2 野毛山住宅の建替えに伴う建物調査 … 3 マンショントピックス ……………………… 3 2008 年度東京大会開催予告 …………… 4 催し物案内 ……………………………… 4 民事法研究会内 Tel.03-5351-1524 Fax.03-5351-1572 編 集 藤木良明 印 刷 文唱堂印刷株式会社 事務局通信 …………………………… 4 パ リ の 集 合 住 宅 パリの集合住宅といえば、まずアパルトマンが思い浮かぶ。朝パン屋でバゲットを買い、コーヒーを飲む。 屋根裏部屋から眺めるとりとめない下町風景。そんな情景は画家 モジニアリと恋人ジャンヌを描いた「モンパ ルナスの灯」をはじめ、多くの映画で私たちに馴染み深い。しかし歴史都市パリでも、戦後まもなくは古い建 物を取り壊し、高層ビルを建てる市街地再開発がおこなわれた。代表的なのはイタリー地区で、この開発手法 に対してさまざまな議論が起こった。そこで、1962 年に歴史的な建物と周辺環境を保存する「マルロー法」が 制定され、これ以降は旧市街地の全面的な再開発は行われていない。開発は新市街地を原則としており、例え ば、シャンゼリゼ通り東へ向けてまっすぐの延長線上にあるラ・デファンスには超高層ビルが林立し、ここに 造られた新凱旋門とシャンゼリゼ通り西端の旧凱旋門は、パリの現在と過去の象徴になっている。 市街地開発のほか、1970 年代以降、パリ郊外のニュータウン開発も積極的におこなわれてきた。下欄左の写 真は、パリ中心部から 20 分の郊外団地マルヌ・ラ・パレにあるピカソ・アリーナ。中・低所得者向け公営住宅 でプレハブ工法が採用されているが、バラ窓やフライング・バットレスを思わせるデザインが採用されている。 歴史的建造物の多いフランスでは、建物保全に対する制度も積極的なおこなわれている。パリ市街では一定 期間での修繕が義務付けられており、街を歩くと写真中央のようなネットを架けた工事中の建物にときどき出 くわす。外壁修繕だけではなく、エレベーターを取り付けたり、鉛の給水管の交換などがされたりしている。 興味深いのは、区分所有建物の場合、一般に階数、建物の向きにより居住者の費用負担が異なる。そのほか、 戦後にできた分譲集合住宅で維持保全が十分にできなくなったものに対する行政介入の制度もある模様である。 これらには管理会社が重要な役割を担っている。フランスでは管理者をサンデックと呼んでいるが、管理会社 がサンデックになることが多く、区分所有者は委員会を構成しその監督、監査にあたる。以上のほかにもパリ が抱えている問題は、わが国と比較して類似と先端性があっていろいろと面白い。(藤木)。 バラ窓を思わせるピカソ・アリーナ ネットを架けた工事中の建物 日本マンション学会 2007 年 12 月 25 日 街角の不動産屋 1 NO.49 NEWS LETTER 分譲マンションの現実を踏まえた管理組合団体の役割 有 馬 百 江(NPO 法人 集合住宅管理組合センター) 区分所有者の管理意識の低下とともに高齢化の現実 「普通のオバサン」が、生活者の視点で相談を受 を踏まえれば、この問題は避けて通れないという感 けて 23 年たちました。 はあります。 私たちの「集住センター」の設立当初、全国の分譲 そのためには、国レベルの委員会だけではなく、 マンションの供給戸数は 150 万戸ほどでしたが、今 私たちも加入している全国マンション管理組合連合 や 500 万戸を越え、 都市型居住として定着した中で、 会が中心となって、専門家集団(弁護士、一級建築士、 マンションに関する相談も時代的な変遷があるよう マンション管理士、司法書士、公認会計士等)を組織 に思います。 し、区分所有者の視点に立った「今後のマンション管 近年、NPO 団体が急速に増加し、マンション管理 理のあり方」を模索していく必要があると思います。 士制度も創設されて、自治体の相談窓口が開設され そこに参加していただく専門家は、「マンション管理 たり、セミナーの開催なども活発になってきたりし の主体は管理組合にある」の立場に立てるかどうか ています。しかも、インターネットが普及し、マン が大きなポイントになります。 ションに関する情報入手も簡単になりました。その 私たちが容認し得る基本的な立場は次のとおりで、 ため、よほど大きなメリットがなければ、年会費を この考え方にも賛同していただく必要があります。 払って管理組合団体に加入するという住民意識は ①管理会社が管理者になることは利益相反行為にな 年々ドライになってきています。このような状況の るので認めることはできない。②マンション分譲時 下で、 「集住センター」では、管理費や長期修繕計画 に購入者に対して信託法を導入する場合、「信託に同 の見直しの中から、適正価格について助言を行い、 意する」旨の書面を提出させることは、当事者の主体 将来にわたって管理費や修繕積立金が資金ショート 的判断を阻害するので、一切の例外なしに認められ しないようになど具体的なメリットを提供すること ない。③信託できるのはマンションの敷地と建物(付 が会員加入の増加や継続につながっています。 属施設を含む)の共用部分のみとし、専有部分は対象 また、管理組合団体の役割は、専門家の派遣やコ としない (専有部分を信託の対象にすると、すでに ンサルティングの業務だけではなく、事業を通して 設定されている抵当権と両立しない)。④分譲開始か 管理組合、組合員が自立をして、自分たちのマンシ ら 3 年が経過し、建物・設備の初期の不具合に関す ョンをよりよくしていくためのサポートや、法的な る補修が完了したことを分譲会社、管理組合の双方 整備にも力をそそいでいくなど多岐にわたります。 が認めることを信託への同意手続き開始の条件とす そのために私たちは「自分たちで考え、決める」をス る、などです。 ローガンに日々活動を展開しています。 さらに管理方式検討委員会で検討すべき事項とし 最近では、築 30 年、40 年を経過した管理組合から て、管理会社以外の第三者に管理者を任せる場合、 の相談も多くなっています。特筆すべきこととして、 ①チェック機能システムを作る(業務監査、会計監査 「建物、設備の修繕時期を迎えているが修繕積立金が システムをどう作るか)、②選択の自由度をどう広げ 足りない。どうすれば良いか?」「建物の経過年数と るか、③資格者の活用、責任体制などがあげられます。 ともに組合員の高齢化で理事のなり手がいなく困っ これらの内容を含めて議論をし、将来、安心、安全 た。理事会をサポートして欲しい」など……。しかし、 で快適なマンション暮らしができるように志のある 理事のなり手がいないというのは、経年マンション 専門家と一緒に制度をつくっていきたいものです。 だけではなく、今や新築のタワーマンションにも見 受けられる傾向です。 このような背景を意識してか、今年 2 月 に「管理組合の理事会を廃止し、その機能 を管理者に代行させ、区分所有者は総会で のみ意思決定をする。その管理者として管 理会社が業務の大半を請け負える制度の 法制化を国が検討する方針」というマスコ ミ報道がありました。以後、この「新管理 者方式」の議論が活発に行われるようにな り、国土交通省は「新たな管理方式検討委 員会」を設置して具体的な検討をスタート させています。分譲マンションは区分所有 者の私有財産であり、その財産を他人様の 意思にゆだねようとする検討なわけです から、簡単に答えは出ないと思いますが、 建物、設備を再生した都心の K マンション(築 42 年、28 戸、4 階建て) 日本マンション学会 2007 年 12 月 25 日 2 NO.49 NEWS LETTER 野毛山住宅の建替えに伴う建物調査 マンション再生研究委員会 日本住宅公団がもっとも初期に分譲した団地の一 つである「野毛山住宅」の建替え工事が現在進行中 である。建替え後は 120 戸の 2DK が、1DK∼4DK 142 戸になる。戸数の増量は少ないが、延べ床面積は約 2.5 倍になり、 「マンション建替え円滑化法」による 建替組合方式で事業が施行されている。 平成 16 年 10 月に有志の建替え委員会が発足して 以来、わずか 14 ヶ月で建替え決議が成立し、さらに 8 ヶ月で建替組合の認可にこぎつけているが、ここに は幾つかの理由がある。容積率にゆとりがあったこ と、事業協力者の女性担当者が高齢者に対して細か な心配りで仮住戸の紹介や身の回りの世話をしたこ となどのほか、建物の老朽化が著しかったことが大 きな要因であった。入居以来、本格的な建物修繕ら しいことはほとんどしておらず、いたるところに鉄 筋の露出や窓枠の破損、インフラの老朽化が見られ、 さしずめ、建物を 50 年放置するとどのように経年劣 化するかの見本のような状態であった。 このことに注目した NPO 法人 日本住宅管理組合 協議会(日住協)は、今後のマンション修繕のあり方や 長寿命化などの参考に供することを目的に、建物の 解体に先立って、先ごろ現況調査を実施した。調査 は日本マンション学会の「マンション再生研究委員 会」のメンバーが中心になっておこない、その報告 書は日住協から来春に刊行される予定であるが、日 住協の許可を得て「マンション再生研究委員会」は 東京大会の分科会で、この調査報告をテーマに取り 上げる予定である。 解体直前の野毛山住宅 マンショントピックス 各方面から注目されていた「千里桃山台第二住宅」の建替訴訟の第一審判決が 10 月 30 日に大阪地 裁であった。原告は建替え共同事業者で、管理組合は原告補助参加人となっている。被告は管理組合 の建替え決議に反対する区分所有者 4 名と一人の同居人で、原告が建替え決議後も団地内に居住を続 ける被告らに所有権移転登記などを求めていたものである。争点は 11 項目にわたり複雑であるが、大 きくは当該団地が区分所有法 70 条の所定要件を満たすか、否か、ならびに同条の違憲性、国際人権規 約違反性の有無についての二点に集約される。 前者に関し、被告は当該団地の管理規約が昭和 58 年改正法以前に制定されたもので、団地規約を抜 本的に改正しておらず、現行法 68 条 1 項において必要とされる団地内の各棟を団地管理組合の管理と する規約について、各棟の決議を経ていないから法 70 条の所定要件を満たさないとした。これに対し て、裁判所は長年の管理経緯、ならびに 58 年改正前法 36 条の団地への準用規定などにより被告の主 張を排した。後者の現行法 70 条の違憲、国際人権規約違反は被告がもっとも力点をおいたところであ るが、現行法 70 条を「団地にある区分所有建物の効用を増進し、わが国に数多く存在する団地全体の 活性化を図るという社会経済政策」として是認し、 「このような目的は正当性を有し、公共の福祉に合 致する」として違憲性、ならびに社会権規約に基づく居住の権利を排した。これは旧法時代に今回の 事件と同じ千里ニュータウンで生じた建替えをめぐり最高裁上告まで至った事件の高裁判決で、「大 多数の区分所有者の判断は、それが不合理といえない限りは、これを尊重せざるを得ない」として建 替え非参加者の主張を退けた判断の延長線上にあるもので、国が進める社会経済政策を合理的目的と したものといえる。 被告側はただちに控訴したが、 控訴審では区分所有法 70 条をめぐって、 市場経済の状況下での立法、 行政、司法の三権分立が根底のところで争点になることが予想される。(藤木) 日本マンション学会 2007 年 12 月 25 日 3 NO.49 NEWS LETTER 2008 年度日本マンション学会東京大会 開催予告 2008 年度(平成 20 年)大会は、東京都八王子市の創価大学で開催されます。近くには、わが国最大規模の多摩 ニュータウンがあり、初期のものから最新のものまでさしずめ団地型マンションの歴史を総覧するような見学 会も企画されています。東京大会へぜひお越しください。詳細は次号でお知らせいたします。 ■ 大会概要 日 程:2008 年 4 月 19 日(土)∼20 日(日) 大会関連行事として、4 月 18 日(金)に市民公開シ ンポジウム(参加無料)を開催します。 会 場:創価大学(東京都八王子市丹木町 1-236) キャンパスは、新宿から JR 中央線、あるいは京 王線で約 40 分の八王子駅から、バスで約 20 分の ところにあります。 ■ プログラム概要(予定) 【東京大会】 4 月 19 日(土) 9:30∼12:00 分科会 13:00∼13:50 総 会 14:00∼17:30 メインシンポジウム「マンションにおける リスクマネージメント」 18:30∼20:30 懇親会 4 月 20 日(日) 9:30∼12:00 分科会 一般部門研究発表 12:40∼17:00 見学会 1.都市住宅技術研究所(八王子)体験見学 2.多摩ニュータウン縦断見学 【大会関連行事】 4 月 18 日(金) 13:30∼16:40 市民公開シンポジウム 「多摩ニュウタウンの現状と将来」 (仮題) 会 場:永山ベルブホール マンション学掲載論文募集 会員の皆様から「マンション学」に掲載する論文の応募を受け付けております。 次号は大会特集号で、 応募締め切りは 1 月 31 日 (当 日消印有効)です。応募にあたっては、マンション学巻末に記載された「マンション学」掲載論文執筆要領を参照してください。な お、大会特集号に掲載された論文は、大会会場での口頭発表が義務付けられています。 催し物案内 ■ 日本マンション学会東京支部は、草創期からマンションに関わってこられたお三方をお招きして「マンション 50 年をふりかえ る座談会」を開催します。 会 場:学士会館(開催室は当日、1 階の掲示板でご確認ください。 ) 日 時:2008 年 2 月 16 日(土)午後 2 時から スピーカー: 蒲 池 紀 生 (元「住宅新報」編集長) 丸 山 英 気 (中央大学法科大学院) 米 倉 喜 一 郎 (マンション管理研究所 元(社)高層住宅管理業協会専務理事) ■ 京都市は日本マンション学会などの後援で、市内のマンションにお住まいの方,購入を検討されている方を対象に京都市マンシ ョンフォーラム「マンションコミュニティの上手な作り方」を開催します。 講 演: 「より良いマンションコミュニティ」 田 村 哲 夫(NPO集合住宅改善センター) 「中古マンションが流通するために」 西 村 孝 平(不動産コンサルタント) 「マンション内コミュニティの形成」 谷 恒 夫 (藤和宝ヶ池ホームズ) 「近隣とのコミュニティの形成」 加 茂 みどり(ローレルコート室町) 会 場:立命館大学朱雀キャンパス大講義室(京都市中京区西ノ京朱雀町1(JR二条駅南) ) 日 時:2008 年 3 月 1 日(土)午後 2 時∼午後 5 時 参加申込:Tel.075-722-3510 Fax. 075-722-3650 E-mail [email protected] (定員 400 名 申込は先着順 完全予約制) ■ 愛知産業大学は日本マンション学会などの後援で、第 5 回 ASU マンションフォーラム「再生・リノベーション・リモデリング ……海外事例からマンションを考える」を開催します。 講 演: 「韓国のリモデリング」 楊 光 洙 (長崎県立大学) 「英国・米国のマンション事情」 齊 藤 広 子(明海大学) 「海外諸国の団地再生」 村 上 心 (椙山女学園大学) 会 場:愛知産業大学工業高等学校 橘ホール (名古屋地下鉄東別院下車 徒歩 5 分) 日 時:2008 年 2 月 17 日 (日曜日) pm 1:30∼pm4:30 申込・問合先:愛知産業大学「ASU マンションフォーラム」係 (定員 250 名 参加無料) 〒444-0005 岡崎市岡町原山 12-5 Tel.0564-48-4511 Fax. 0564-48-5113 E-mail [email protected] URL http://asu-group.net/univ/ 事務局通信 ■ 会員の動向(平成 19 年 9 月 11 日∼12 月 10 日) 【入会会員】 「正会員」 村尾武男、岡本寛、伊藤信夫、横倉啓子、秋吉勉、鶴巻暁、金子英之、大星正嗣、藤木政和、甲斐寛孝 【退会会員】 「正会員」 大下克信、三本龍生 日本マンション学会 2007 年 12 月 25 日 4
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