JOMF NEWS LETTER No.245 (2014.6) イタリアでの子育て 第4回 : 離乳食、子育て概念、水事情、治安対策 海外出産・育児コンサルタント Care the World 代表 ノーラ・コーリ 【 離乳食にもお国柄 】 離乳食の開始はだいたい生後 5 か月からとほとんどの小児科医は指導しています。最初の 離乳食は果物という小児科医が多いようです。次にイタリアらしく、パスタに使われるセモリナの粉 を野菜スープに入れたり、お米の粉(Crema di Riso)をミルクで溶いたりして与えています。離乳段 階が進むにつれさらにイタリアらしくエキストラバージンのオリーブオイルを足したりしています。オリ ーブオイルには便秘を予防したり、腸をきれいにする働きがあるそうです。赤ちゃん専用のオリーブ オイルも販売されているほどです。また、味付けにはパルミジャニーノのチーズをふりかけたりもし ています。このチーズは消化がよく、カルシウムや良質なたんぱく質も含んでいるそうです。 最初の本格的なパスタは Sabbiolina という離乳用の小さくて丸いパスタです。これを野菜ス ープの中で煮込んで与えています。日本ではタンパク質というと白身魚からスタートしますが、イタリ アではけっこう早い時期から肉類を与えています。肉類には子羊、うさぎ、ターキーも与えています。 粉末の子羊やうさぎもあり、これを野菜を煮込んだピューレに加えています。8 か月に入るとリコッタ、 ロビオーラなどの生のチーズを週に4,5回与えます。そして、塩の代わりに香りづけにハーブ類を 使うこともあります。 この離乳期においても水分は母乳、粉ミルク、水、カモミールティーがメインです。 【 子育ての様子 】 < ほめる子育て > 日本でも我が子をほめよう、という動きが出ていますが、まだまだ日本では自分の子どもを 他人の前でほめることをあまりよいとはしません。しかし、イタリア人は自分の子どもでもほめちぎる ほど「Bello (かわいい、きれいだ)」、「世界一かわいい!」、「頭がいい子だ!」、「Bravo !! (すごい ぞ!)」というようにありとあらゆるほめことばを投げかけて育てています。これらのほめことばがな んとも自然に話しかけられています。おそらくこのような励ましは子どもたちの自分への自信を育て ることでしょう。 < 母親が絶対 > イタリアの子どもたちの中でも特に都会を離れた地域の子どもたちはよく母親を手伝い、家 事を積極的にしています。母親に対しても彼女を敬い、母親の指示にはほとんど逆らえないように 見られました。それはほとんどの場合、母親の絶対的な存在からくるようです。そしてそれを支えて JOMF NEWS LETTER No.245 (2014.6) いるのは父親の存在ともいえるでしょう。夫は妻をたて、彼女を大切にし、家事も子育てにも協力的 です。そして子どもたちはそのような父親の母親に対する姿勢を見て育つので、母親を大切にする のでしょう。 < 食文化の大切さ > イタリア人の食文化を語らずしてイタリアを語ることはできません。子どもたちは小さいうちか らその文化に触れています。食べるものにしても、基本的には大人と同じものを食べます。離乳期 の赤ちゃんといえども同じ食卓につき、家族団らんの時間を共に過ごします。 大人は赤ちゃんにも、「おお、よく食べてるね。おいしいかい?」というように話しかけ、みんな の会話の輪に交えようとします。そのため、子どもは少なくともメインディッシュが終わるまではみん なといっしょに席についていなくてはならないようです。孤食ということばはイタリアには存在しない ほど、努めて家族揃って、あるいは仲間を見つけて食事をします。 < 家族第一主義 > イタリア人は家族をとても大切にします。家族のためなら会社を遅刻することも、早退するこ とも、休むこともれっきとした理由となります。そのため、女性は子どものことを思って、産後の休暇 を終えるとそのまま家庭に入る人も最近ではけっこういますが、それでも特に都会では仕事に復帰 する人もいるようです。イタリアも日本同様、家庭と仕事の両立はたいへんです。たとえば育児休暇 などは設けられてはいるものの、実際には仕事に戻ると以前とは違うポジションにあてがわれたり、 パートの仕事は限られていたり、勤務時間はフレキシブルでなかったり、保育施設も充実していな かったり、高かったりと、イタリアも子育てをしながらの就労はむずかしいようです。 【 デザインを重視した育児製品 】 ミラノはファッションの街です。赤ちゃんや子どもも例外で はありません。短い期間しか着ないようなベビー服でもデザイン のしゃれたものを着せています。ベビーカーのデザインや色も 機能性と共にすぐれています。さらに驚くのは赤ちゃんに靴をは かせていることでしょう。どんなに小さな赤ちゃんでも、外出する ときには靴を履かせます。もちろん防寒や安全の目的もあるで しょうが、それよりも靴は洋服とのセットという感覚でしょう。小さ な子どもですらおでかけにはデザインの凝った革靴を履いてい ました。 Photo by Nora Kohri 【 ベビーフレンドリーで外出も楽しい 】 たとえばミラノにはトラムという路面電車、メトロという地 子どもたちもファッションセンスに 優れている 下鉄、バスもくまなく走っています。しかし、まだエレベーター やエスカレーターがすべての駅に完備されているわけではありません。そのため、これらの交通機 関を利用する場合は、ベビーカーでの移動よりは抱っこひもを利用した方が安全で楽だと判断しま JOMF NEWS LETTER No.245 (2014.6) した。近辺へはベビーカーを利用すると思いますが、イタリアの道路は段差もあり、石畳が多いため、 がたがたの路面に耐えられる車輪の大きなベビーカーをお勧めします。 タクシーは赤ちゃんがいる場合は便利ですが、都市部でも簡単には拾えません。 専用駐車 場、駅前、広場、観光名所ではタクシーが待機しているのが見られますが、たいていは電話での呼 び出しです。自家用車での移動もできますが、都市部の道はたいへん狭く、駐車も困難で、イタリア 人の運転マナーは決してよいとは言えませんので、細心の注意と運転の技術が問われるでしょう。 このように外出の際のインフラに関してはそれほどベビーフレンドリーではありません。それ でもイタリアの街に子どもたちがあふれているのを見かけるのはイタリア人の子どもへの寛容な受 け入れ姿勢ではないかと感じました。子どもら しさいっぱいの元気な子どもに対しても温かく 見守り、子ども連れですと見知らぬ人でも「ま あ、なんてかわいいの!」というように気軽に 話しかけてきます。特にアジア系の子どもたち の顔はイタリア人からみるととてもかわいく映 るようです。 Photo by Nora Kohri 石畳やタイルを用いた路面に耐える大きな車輪のベビーカーがイタリアでは活躍する (ベニスのブラノ島で) 【 水事情 】 ローマやミラノを歩いていて気が付くことの一つに噴水やら水飲み場がいたるところにあり、 そこからは水が絶え間なくふんだんに湧いていることです。この国はなんと水が豊富なのだろうかと 感じました。確かに水はふんだんにあるのですが、飲み水となると多くのイタリア人は水道水から直 接飲むことはあまりしていません。 水道水は飲めないのかと聞いたところ、飲めないことはないし、そのまま飲んでもおいしいと いうことです。列車やホテルでの水飲み場では、Acquapotabile と書かれてあれば安心して飲め るそうです。しかし、硬水であることが問題のようです。その石灰質は日本の水の 5 倍と言われてい ます。そのため、お湯を繰り返し沸かした後はやかんの内側に白い粉がつきますし、アイロンには 専用の水を使わないとスチームの穴が石灰で詰まってしまいますし、洗濯機には石灰が詰まるのを 防ぐ粉末を入れなくては洗濯機がすぐに壊れてしまったりするほどです。お茶の色も直接水道水を 使った時とミネラルウォーターを沸かして入れた時とでは違うとのことです。 そのためイタリア人も、駐在している日本人もほとんどの人がスーパーでミネラルウォーター を購入するか、水道水を煮沸しています。ミネラルウォーターもアルプスの水を使用したものが人気 があるようです。幸い、ミネラルウォーターはそれほどの値段ではないので助かるとのことでした。 飲料水を配達する業者もあり、週に1,2回直接自宅の方に配達してくれます。ろ過器も現地で購入 できます。ただし、煮沸した水やろ過した水は消毒作用の塩素も取り除くので、細菌が増えやすい ため、早めに使い切らなくてはなりません。 JOMF NEWS LETTER No.245 (2014.6) ちなみに水道の水圧は日本の3~4倍も高く、一般家庭への水は貯水槽を経ることもなく直 接供給されています。そのため、夏の暑い時期でも水垢が発生する心配がありません。石畳の下を 流れていく水道水はいつもひんやりと冷たいようです。 【 治安対策 】 残念なことにイタリアの治安は決してよいとは言えません。世界を旅慣れている著者ですら、 ミラノでジプシーに襲われました。そのため、子ども連れであっても油断はできないということです。 いや、むしろ子どもがいると子どもに気を取られますので、かえって注意が必要でしょう。バッグから お財布を盗まれたり、バッグをひったくられたり、ちょっと目を離したすきに置いておいたものが盗ま れたり、タクシーでぼられたり、とそのような体験のひとつやふたつ、滞在期間中は経験するかもし れません。 家に関しても鍵の数が半端ではありません。マンションの入り口では外から入ってくるときの 最初のゲートにロック、マンションのビルに入るドアに二つのロック、さらにメインドアにロックが最低 3つはかかっているのが一般的です。 治安の悪い原因としていくつかあげられますが、まずはイタリアの経済が思わしくないこと、 ジプシーの存在、アルバニア人などの難民の存在などが犯罪の増加につながっているようです。そ のためにも被害に遭わないように自分と子どもを守るしかありません。以下の安全対策を心がけま しょう。 ジプシーや不審者が近づいて来たらその場を離れる バッグはなるべく胸の位置くらいの場所に上げる バッグは車道側には持たない 自分も子どももあまりブランド品で身を固めない 子どもにもあまり現金を持たせない このように日本とは異なる気配りが必要でしょう。 これで 4 回のシリーズに渡ってイタリアでの出産と子育てをご紹介して参りましたが、今回で終了と なります。次回の国はベトナムを計画しておりますので、どうぞお楽しみに。
© Copyright 2024 Paperzz