イタリアでの出産

JOMF NEWS LETTER
No.243 (2014.4)
イタリアでの出産
第2回
出産準備、出産、入院中、産後
海外出産・育児コンサルタント
Care the World 代表
ノーラ・コーリ
【
出産準備教室
】
イタリアでも出産準備教室が開かれていました。それは病院主催のものから育児製
品を取り扱うお店が主催のものまでありました。有料のものもあれば、地方の病院や育児
製品を扱うお店主催の無料のものもありました。出産準備教室においてもイタリアの特徴
が表れていました。
まず、病院主催の無料教室でもその講師の数には驚きました。産科医、小児科医、
助産師、麻酔医、臨床心理士、ヨガ指導者、体操指導者、ベビー・マッサージ指導者など
の専門家が顔を揃えていました。さらにコースの半分は夫婦での参加でした。しかもこれ
らのクラスが平日の午前中とか夕方からというのも日本と大きく違う点だと感じました。
イタリアのプレパパは仕事を休んだり、早退してこれらのクラスに参加し、妊娠段階から
子育てに参加している姿が見られました。
次にイタリアでは心のケアにも十分配慮がされていました。たとえば夢を分析して
どのような不安があるかを探ったり、マタニティーブルーを夫婦でどのように乗り越えた
らよいかを話し合ったりしています。またイタリアでは姑が育児に口出しをしがちなため、
新米ママがストレスを受けないように、周りの影響を受けず自分たちが育てたいように育
てるようにと助産師はアドバイスをしていました。
チャイルドシートにおいては、その義務付けと正しい取り付け方を厳しく指導して
いました。後部座席に後方を向けて設置し、中古の場合は安全項目をチェックし、エアバ
ッグ機能はオフにすることなど細かい指導もされていました。
ほかにもクラスの終わりにヨガが取り入れられていたり、自己紹介の時にもうすで
に決めてある赤ちゃんの名前で話をするところなどはイタリアらしいと感じました。
【
入院の準備
】
病院へ持っていくもののリストは各病院で渡されますので、それに応じて準備しま
すが、イタリアならではのものとしては、身分証明書となる ID カード、納税者番号、血
液型が記された用紙、保険証、エコーと健診結果、無痛分娩を予定している場合麻酔医か
ら渡された用紙などです。
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また、イタリア人は入院中でも赤ちゃんの服は個人
のものを着させたいという希望から病院によっては病院
側で新生児服を支給していません。そのような場合は自
宅から新生児服を持参してください。ちなみにイタリア
では縁起をかついで、臨月になるまでは赤ちゃんのもの
は買わないという習慣があります。
Photo by Nora Kohri
新生児服は自宅より持参です
【
希望できるお産
】
日本と大きく違うところはイタリア人の多くが無痛分娩を希望していることだと思います。そ
れでも病院側では自然分娩を勧めていました。さらに夫立ち合いは一般的で、計画された帝王
切開の場合でも立ち合えます。水中出産も人気があるようですが、限られた私立病院にしか設
備がないことと、あえて水中出産を希望していても、利用者が重なったり、壊れていたり、掃除中
であったり、なかなか運が回ってこないようです。このあたりもイタリアらしさが表れていました。
【
お産の流れ
】
公立病院でも決して機械的に処理をすることなく、お産の自然の流れを尊重していました。
それは自然に陣痛がつくのを待つことから始まっていました。陣痛間隔が短くなったら病院へ出
向き、救急に回され、車いすに乗せられて病室に向かいます。お産の進み具合を分娩監視装置
でモニターし、産まれるぎりぎりまで待って分娩室に向かいます。たとえ無痛分娩を希望していて
も、痛みを和らげるアプローチをまずとります。産まれるとへその緒を切らないうちに赤ちゃんを
母親の胸に置いてくれます。その後すぐ母親の手首につけられたタグの内容と赤ちゃんの手首
につけるタグの内容が一致しているかを確認して赤ちゃんの手首にタグをつけます。へその緒
は父親が切ります。そして授乳もすぐできます。その後、赤ちゃんは産湯につかるため別室に連
れていかれます。次に胎盤が出て、会陰切開が縫合され、再び赤ちゃんが母親のもとに連れて
こられます。そして最後は親子水入らずの時間を設けています。
【
入院中の様子
】
公立病院のほとんどが、赤ちゃんは新生児室で過ごし、授乳のときのみ、母親の病室に
連れてこられ、授乳後数時間赤ちゃんと過ごし、その後また新生児室に戻すといったシステムを
取り入れていました。夜間は預けたままにもできるので、母親はゆっくり休めます。ただし、最近
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では母子同室を取り入れている病院もでてきています。そのような病院では母親自らおむつ替
え、へその消毒などの赤ちゃんの世話をします。

病室
私立病院の場合はほぼ全室個室ですが、公立病院は 2 人部屋から 6 人部屋といったよ
うな大きな部屋があてがわれます。もし公立病院でも個室を望むのであれば、保険が適応しな
い部屋が特別病棟のようなところに用意されています。部屋にはたいていトイレとシャワーが備
え付けられています。相部屋によってはしきりのカーテンがないところもあり、プライバシーがな
いことに日本人は驚いていました。しかし、イタリア人は女性同士の場合、それほどはだかにな
ることに抵抗がないので、悪露によるナプキン交換も、お尻への注射も同じ部屋で行われていま
す。しかし、ドクターによる診察が行われる時は来客は退室を命じられますし、特別な処置が必
要な場合は別室で行われますので安心してください。

食事
食事はシンプルです。朝食はパンとカフェオレか紅茶、昼食と夕食は似ていて、パスタ、お
肉、温野菜かサラダ、フルーツ、パンといった組み合わせが一般的でした。多少のチョイスもあり
ます。

新生児の世話について
海外ではめずらしく、イタリアの多くの病院でグループによる新生児の入浴指導、へその
緒の処理の仕方、おむつの替え方、授乳指導などが行われていました。小児科医による新生児
の特徴の話などはとても役立ったという評判でした。このようなクラスは強制ではなく、希望者の
みなので、講習を受けたい旨を伝えて初めてクラスが開かれるそうです。なにごとも積極的に情
報を求めることをお勧めします。
イタリアでは母乳育児を勧めていますが、十分に母乳が出なかったり、母乳を与えられな
い場合もあります。そのような赤ちゃんのために十分に母乳がでている母親がドナーとして登
録し、母乳の足りていない入院中の赤ちゃんに母乳を提供する制度があります。搾乳した
母乳は病院の係の人がドナーの自宅まで出向いて集められています。

面会時間
面会は一般の人は日中、夜は父親のみというところもありました。そのようなところでは来
客は新生児室のガラス越しのみの赤ちゃんとの面会で、父親のみの面会時間では夫婦でおむ
つを替えたり、父親が赤ちゃんを抱くことも許されていました。イタリアならではと感じたのは、な
んと面会時間が夜の9時半に設けられている病院があることでした。それはイタリア人が仕事を
終えてから、自宅に帰ってマンマ(母親や妻)が作った夕食をしっかり食べ、その後、病院に出向
くからです。
さらにイタリア人は一人で赤ちゃんを見に行くことはほとんどしません。たいてい家族、親
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戚、近所の人まで率いて、お祝いにかけつけます。同じ病室にほかの患者さんがいても彼らは
遠慮なく大きな声でおしゃべりをし、たいへんにぎやかに過ごしますので、日本人は多少迷惑と
感じるかもしれません。
【
早い退院
】
日本との大きな違いは短い入院期間でしょう。公立病院では帝王切開ですら産後5日目、
普通分娩ですと3日目に退院です。厳密には 48 時間の入院となっているようです。それは公立
病院では入院も保険が適用されるため、費用をなるべく低く抑える目的もあるようです。そのた
め、回復をうながすために、歩行は数時間後、シャワーも次の日から自分で浴びるように指導し
ています。もちろん母子ともに退院できる状態を確認してのことですが、それでも赤ちゃんのへそ
の緒はついたままですし、会陰切開は抜糸をせず退院です。それでもイタリア人女性のからだは
回復が早いようで、退院した次の日にもうスクーターに乗っているような人もいるそうです。
【
出生届や各種の登録
】
イタリアでは病院内で出生届を済ますことができるところもあり、その場合は 3 日
以内に申請します。ただし、病院で申請できない場合は 10 日以内に病院で渡された出生
証明書をもって住居区の市役所に届け出をします。日本より早いので、赤ちゃんの名前は
事前に決めておく必要があります。
子どもの健康保険を申請するにはまず身分証明書を作成し、財務番号を取得し、地
域の保健所で健康保険に加入します。この時に主治医となる小児科医も登録します。保険
証を取得したら、コピーを病院に送ります。これによって入院中の子どもの検査や診察代
が支払われます。
【
産前産後休暇と育児休暇
】
少子化問題はイタリアでも深刻です。そのため、産前産後休暇、育児休暇などが設
けられています。産前産後休暇は合計 5 か月ですが、産前休暇はお産の 1 か月、ないし
は 2 か月前から、産後休暇は 3 か月ないしは 4 か月とれます。この間、給料の 80%が支給
されるそうです。ただし、ほかの保障を足すとほぼ 100%の支払いが望めるそうです。ま
た、育児休暇においては、産休後 6 か月まで保障され、その間、30%までの給料が支払わ
れるそうです。
【
誕生をめぐって
】
イタリアではリボンの飾りで赤ちゃんの誕生を披露する習慣があります。この「生誕のリボン」
は本来、男児のみの祝いの習慣であったそうですが、現在では男の子であればブルー、女の子
であればピンクというように、男女ともにこのリボンを玄関や病室の入口に飾ります。リボンには
「生命力」、青には「空」に通じる神聖な力という意味があり、邪悪なものから赤ちゃんを守るパワ
ーがあると信じられているそうです。これらのリボンのほかにも小グマのぬいぐるみ、名前を刺繍
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したよだれかけ、こうのとりのイラストの入っているもの、風船をつけたものなど現在ではバラエ
ティーに富んでいます。
他にも砂糖でできたお菓子をお祝いに配ったり、
金や銀のブレスレットをプレゼントする習慣があります。
カトリック教徒の多いイタリアではだいたい 1 歳前
までに教会で赤ちゃんに洗礼をほどこします。
Photo by Nora Kohri
病室の入口に飾られた生誕のリボン
次回はイタリアでの子育て、特に医療にまつわるトピックをお伝えします。