JOMF 上海セミナーレポート - JOMF:一般財団法人 海外邦人医療基金

JOMF NEWS LETTER
No.232 (2013.5)
【編 集 部 より】去 る 5 月 14 日 に海 外 で初 めてセミナーを単 独 開 催 致 しました。2011 年 7 月 に検 討 を
開 始 して、講 師 と打 合 せ、国 内 セミナーで海 外 講 演 の前 触 れ企 画 を開 催 し参 加 者 にご意 見 やご希
望 を伺 ったりもして約 2年 で開 催 が実 現 いたしました。
今 回 は上 海 ということもあり近 郊 からご参 加 の方 もいらっしゃいました。開 催 にあたり、 駐 上 海 総 領
事 館 ・丸 山 浩 一 首 席 領 事 のご挨 拶 をいただき、会 場 や機 材 の手 配 には上 海 の複 数 の日 本 企 業 の
ご助 力 をいただきました。ご支 援 をいただいた皆 様 、ご参 加 の皆 様 にあらためて御 礼 申 し上 げます。
今 回 は、講 師 の一 人 で帰 国 後 ただち にレポートをまとめてくださった 下 野 淳 子 氏 による報 告 をご紹
介 いたします。
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JOMF 上海セ ミナー レポート
~上海セミナーを終えて想うこと~
ルックスコンサルティング∞ジャパン 代表
下野
淳子
上海の空港へ到着後、まず目に飛び込む風景は灰色の空です。
街への移動の車の中から沈みゆく真っ赤な夕陽が灰色の空と対象的な力強さを感じさ
せました。これが「大陸の力」のように。
私が以前に訪れたことのある中国は香港だけです。香港では、人々の多さ、足取りの
速さ、狭い土地にひしめきあって天に向かってそびえるビル群、時間の流れ方が日本
とは異なる速さがあるというのを感じました。ここ上海では、また違った大陸的な時
間の感覚があるというのを肌で感じた次第です。
灰 色 の 空 の 向 こ う に 見 え る ビ ル 群 は お お ら か で 、街 を 行 き 交 う 人 々 の 足 取 り も ど こ か 、
ゆったりとまったりとしているように感じます。
日本の東京などの人の多さ、足取りとはまた違う異国の時間感覚や街に漂う独特の匂
いを味わうことができます。
さて、「上海は世界有数の世界都市であり、同国の商業・金融・工業・交通などの中
心 の 一 つ で あ る 。 2012 年 に は 、 ア メ リ カ の シ ン ク タ ン ク が 公 表 し た ビ ジ ネ ス ・ 人 材 ・
文 化・政 治 な ど を 対 象 と し た 総 合 的 な 世 界 都 市 ラ ン キ ン グ に お い て 世 界 21 位 、特 に ビ
ジ ネ ス 分 野 で は 世 界 7 位 と 高 評 価 を 得 た 。 2012 年 6 月 時 点 の 常 住 人 口 は 2,400 万 人 を
超 え て お り 、市 内 総 生 産 は 2 兆 0,101 億 元( 約 31 兆 円 )で あ り 、首 都 の 北 京 市 を 凌 ぎ
中 国 最 大 で あ る 。国 務 院 に よ り 国 家 中 心 都 市 の 一 つ に 指 定 さ れ て い る 。」
( wikipedia)
そ ん な 上 海 は 今 や 世 界 一 邦 人 滞 在 者 が 多 い 都 市 に な り ま し た 。5 万 5 千 人 と い う 日 本 人
が暮らす都市です。そんな中でメンタルヘルスに関わる問題が多くなるのも当たり前
のことです。
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No.232 (2013.5)
上海の臨床心理士グループとの出会い
滞 在 中 に 、 2 軒 の ク リ ニ ッ ク へ 訪 問 さ せ て 頂 く 機 会 に 恵 ま れ ま し た 。 ( 5 月 13 日 )
そこで働く方も含め、上海で活動中の女性の臨床心理士さんの会(まだ団体の名前も
決まっていない)が発足していました。それぞれの方々がいろいろなクリニックに所
属しています。そこで現地で起きている様々な問題を持ちより、「何ができるか?」
ということを真摯に話し合い、前向きに取り組む姿勢には頭が下がる思いがいたしま
した。
情報交換の中で、駐在する奥様たちのお話を聞くにあたり「こんな話は今まで誰にも
したことがない」ということをおっしゃる方々が多いようです。
彼等の提供する安心・安全・信頼という守られた空間の中では、誰もがゆったりと自
分の気持ちを語り始めるという事です。そして「母国語で聴いてくれる人がいる」と
いう安心感から日頃から溜まっているモヤモヤした気持ちを話すことで「こんなこと
言っていいんだ」「気分が落ち着いた」とおっしゃる方が多いようです。
どうしても心の問題は「こんな事は言ってはいけない」「カウンセリングに行くとい
う の は 、私 が 心 を 病 ん で る と 思 わ れ て し ま う か ら 行 け な い 」な ど 、ま だ ま だ 日 本 人 は 、
カウンセリングに対して足取りが重たいようです。
クリニック見学
今回訪問した、2 軒のクリニックをご紹介いたします。
① 桜華(サクラ)クリニック
( 開 業 14 年 、 年 中 無 休 : 日 本 の 海 外 旅 行 保 険 に キ ャ ッ シ ュ レ ス 対 応 )
こちらでご活躍の臨床心理士:小野辺さんのご紹介で訪問させて頂きました。
励
洪(レイ・コウ)医師との会談では、先生は九州大学ご出身であり、日本語での
会話でいろいろなお話をお聞きすることができました。
励
洪先生の今までの御苦労されたお話や事例を
お聞きし、上海には安心できる清潔で安全なクリニ
ックがあるのだと確信しました。また、全て日本語
での対応が可能ですので、安心です。やはり、問題
点としては、言葉の問題が挙げられました。
クリニックへの入り口
言 葉 が わ か ら な い → 外 出 し な く な る( 引 き こ も り )
→子育て等のストレス(子どもにあたる)→負の
スパイラルに陥る。
待合室
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気候など外的要因なども加わり益々、引きこもってしまう等、海外に暮らすというこ
とは大きな環境の変化が心に影響を与えるということを改めて認識しました。
とくにメンタルヘルスに関わる心の問題は、外科的な問題ではないので、母国語で対
応できることが重要です。先生の事例では、やはり夜眠れるかどうかが第一のポイン
トだとおっしゃっていました。
もう一つ、薬のお話は興味深いものでした。
それは、「製造地の違う薬では効果がでないことがある」という話題でした。同じ成
分の全く内容の同じ薬でも、自国製でないものでは効果がでないことがあるというも
のです。
確かに欧米の実験で患者さんによく効く薬といって、単なる水の入ったカプセルを飲
ませ続けたところ効果があったという報告があります。
その逆で効果は同じなのにも関わらず、「日本製でないから効き目は無い」という思
い込みで薬が効いていないと思いこまれることがあるそうです。
このような事例をお聞きするとき、人間の身体は 本当に心と連動しているのだと改め
て実感してしまいます。
② Shanghai Delta Clinic
(上 海 デ ル タ 西 ク リ ニ ッ ク : 新 し い ク リ ニ ッ ク で す 。 年 中 無 休 24 時 間 体 制 : ほ と ん ど
の海外旅行保険に対応)
こちらも先程の臨床心理士グループの杉谷さんか
らのご紹介で訪問させて頂きました。
こ ち ら の 特 徴 的 な と こ ろ は cardiac
rehabilitation program :心 臓{ し ん ぞ う }リ ハ
ビリテーションプログラムを備えているところで
す。
まるでスポーツジムのような運動器具が備わって
いる部屋があります。運動を通して心臓疾患のリ
クリニックロビー
ハビリを行うそうです。
こ ち ら は 、欧 米 人 向 け と い う 印 象 で は あ り ま す が 、
日本語での対応も可能です。設備は新しく、清潔で高機能 に整っています。
② は 24 時 間 の 日 本 語 で の ホ ッ ト ラ イ ン が あ り 、上 海 で の 急 な 病 気 や 心 の 問 題 に 対 応 し
てくれます。そして、どちらも日本人が多く暮らしているところにあるという立地も
ありがたいですね。
上海に暮らす日本人の方々やこれから向かわれる方々が安心して受診できるクリニッ
クです。
この訪問の合間に打合せに立ち寄ったイタリアンレストランでは、中国人スタッフも
日本語が通じますし、日本人の多くが利用している ようでした。欧米では日本語の通
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じるレストランは日本食レストラン以外にはなかなか見つけられませんが、やはり、
中国という距離と日本人が多く暮らすという地の利のせいか、店を選べば言葉のスト
レスは軽減されるのかも…ですね。
しかしながら、そんな地域から少し離れてしまえば、タクシーや乗物すら日本語は通
じなくなるもので、やはりここは外国ということを認識せざるを得なくなります。
セミナー開催
5月14日には、海外邦人医療基金として初めての海外セミナーが上海で開催され、
講 演 者 と し て 参 加 さ せ て 頂 き ま し た 。 会 場 は 花 園 飯 店 2 階 会 議 場 で す 。( 当 初 32 階 の
こじんまりした会議室を予定していましたが、会場側の都合で 2 階の部屋へ変更とな
り、結果的に来場者にとってアクセスがよくなり、事務局側も安堵していました。今
回は初めての単独海外開催で会場手配や機材については上海の日本企業にサポートを
い た だ き 、 こ こ ま で こ ぎ 着 け た と の こ と で す 。)
初めに日本国駐上海総領事館
首席領事
丸山
浩 一 様 よ り 、今 回 の JOMF セ ミ ナ ー
開催につきましてごあいさつを賜りました。
お忙しい中、わざわざお越し頂きましたことに感謝致しております。
丸 山 首 席 領 事 の お 話 の 中 で 、「 お 酒 」に 関 す る 言 葉 が あ り ま し た 。そ れ は 、中 国 な ら で
は の「 仕 事 上 で の お つ き あ い で の お 酒 」あ る い は 、「 個 人 的 な 嗜 好 で の お 酒 」と い う と
ころで、どうしても量が増えてしまう傾向にあるので、気をつけましょう。というお
話しでした。この言葉には何か深い中国という文化と日本人の文化に差があるのだと
いう事を感じさせるものがありました。
そして、
<<午前の部>>
演 題:
『異国でこころを病んだとき -これまでの各地メンタル
ヘルス事情調査結果から読み取れること-』
講 師:鈴 木 満 外 務 省 メ ン タ ル ヘ ル ス 対 策 上 席 専 門 官・海 外 邦
人メンタルヘルス連絡協議会代表世話人(写真1)
1
『海外赴任のために必要なこと~駐妻たちのメンタル事情~
あなたの家族は大丈夫?』
講師:下野淳子
ルックスコンサルティング∞ジャパン 代表
(写真2)
2
<<午後の部>>
演 題:『 海 外 生 活 を 豊 か に 送 る 為 の メ ン タ ル( セ ル フ )コ ー チ
ングを身に付けましょう
~ワークショップを実体験してコ
ミュニケーション力向上のヒントを学びませんか?~』
講師:栗栖佳子 株式会社『宙』代表(写真3)
3
JOMF NEWS LETTER
No.232 (2013.5)
という内容にて滞りなくなごやかなムードで開催できました。
参加者の中には、無錫からわざわざお越しくださいました方や、先程の臨床心理士の
方々、また、日本商工会、と様々な分野の方々をはじめ、上海に駐在されている企業
の方々、そのご家族にもご参加頂きました。
この度の上海セミナーを通じて中国という大国のほんの一部を知ることができました。
ま た 、そ の 大 国 に 暮 ら す 日 本 人 の 方 々 が 鳥 イ ン フ ル エ ン ザ 、PM2.5 等 、日 本 に 暮 ら し て
いる時にはまったく縁のない環境の中で前向きに、活動的に仕事に取り組み、前へ前
へと進もうという気持ちを感じることができました。
日本人は何かあるとすぐにマスクを付ける習慣がありますが、上海でマスクを付けて
いる人はほとんど見かけません。そんな中で日本にいるならマスクを付ける人もここ
上海でマスクをつけていないというところは、
「 郷 に 入 れ ば 郷 に 従 え 」と い う 思 い が あ
るのかもしれません。この姿勢が他国の人々と交わろうという前向きな気持ちの表れ
ではないのでしょうか。そんな、上海で頑張る日本人の方々にエールを送りたい気持
ちでいっぱいです。
私も現地ではマスクなしでおりました。アレルギー持ちの私の鼻は耐えかねて鼻炎が
悪化し、帰国後、耳鼻科を受診ということになってしまいましたが、今は すっかり治
りました。また、ビジター的な短期の訪問では、言葉の問題もありませんでしたが、
一人で異国の地の他言語圏に放り出されたらとてつもなく不安でたまらないだろうと
いう気持ちになりました。
日中関係やいろいろな問題は山積みですが、なんといってもアジアです。お隣の国
です。街を歩いていても、大衆の中にいても、地下鉄の駅にいても、なんとなくどこ
か、懐かしい、不思議と自分が異邦人なんだという感覚はあまりありません。
食に対してもやはりアジア、日本人には馴染みやすいものが多いのです。
欧米は日本から距離もあり、人種もバラバラ、髪の色さえ異文化を感じさせます。
食 文 化 も 日 本 と は 大 き く か け 離 れ 、街 に い て も ど こ に い て も 異 邦 人 感 は い な め ま せ ん 。
そのような観点からすると、やはり中国はお隣の国なのだとあらためて感じ た次第で
す。
時 差 も 日 本 と 一 時 間 、そ し て 一 年 を 通 じ て の 季 候( 気 温 )、日 照 時 間 、様 々 な 自 然 環
境としては日本と近いので、体内時計的にはありがたい環境ではあります。常夏や白
夜という特殊な環境ではないので、なじみやすさもあります。
ただ、自動車の爆発的な増加や開発による大気汚染はひどく、この汚染が解消される
のにはまだまだ時間がかかりそうですが、20-30年前の日本も光化学スモッグ 警
報の発令などの環境汚染があり、それを乗り越えて今の環境を手に入れてきました。
今後の中国が美しく青く澄みわたる空で覆い尽くされることを願 っています。