道 徳 社会生活をよくするために、 進んできまりを守ろうとする 態度を育てる 渡辺三枝子 東京都中野区立北原小学校教諭 いる様子が見られた。 て考えることで、社会生活をよりよくしてい こうとする気持ちや態度を育てていきたい。 指導の工夫 ●ワークシートに書くことでじっくり考える 中心発問で書く時間を取り、﹁わたし﹂の 思いを深く考えさせた後話し合わせることで もつことが大切﹂ということを実感させたい。 ﹁みんなが社会をよくしようとする気持ちを ●自己の振り返りで写真を使い、身近な事例 を通して考える たしは日常の中で児童に﹁善を善と感じ、恥 昨今、公共の場での自分本位な行動や、公 徳心の欠如と思われる行動が話題になる。わ れでよいとする気持ちもある。目先の楽しさ ことがある。また、だれも見ていなければそ 他人への気遣いが浅いため、実行が伴わない を 持 ち 帰 れ ば そ れ だ け 山 が き れ い に な る。 ﹂ みだけでなく散らかっているいくらかのごみ 登山者が急増し以前とだいぶ変わってし ま っ た 丹 沢 を 嘆 く﹁ わ た し ﹂ は、 ﹁自分のご 児童の身近な事例写真を使い、気付きや思 いをもたせることで、道徳的実践力を高める。 を恥と感じる心﹂を育てていきたいと考えて れずに遊んでしまったり、ほかの人もやって を優先するあまり、周りの人のことを考えら と子に話す父の言葉にはっとする。﹁だれだっ 資料の概要 いる。これは教育目標﹁すてきなことを見つ いるからとつい野球が禁止されている公園で きまりを守ろうとする場面が多く見られる。 は 静 か に 待 つ︵ 話 を 聞 く ︶ ﹂ な ど、 学 校 で の に本時を通し、ほかの人のことを考えて行動 う行動について、考え話し合ってきた。さら まで考えられず自分さえ楽しければいいとい こ れ ま で、 行 楽 シ ー ズ ン の 後 の ご み の ニュースが話題になった際、ほかの人の迷惑 ●出典 ﹁ふくらんだリュックサック﹂︵荻原 武雄作︶ ︵ ﹃6年生の道徳﹄文溪堂︶ うや小さい行為の大切さに気付かせたい。 らない⋮﹂という心を問題にし、心のもちよ るのはなぜだろう。 ﹂を共に考え、 ﹁自分さえ よければ⋮﹂ ﹁自分だけやってもどうにもな また、移動教室での集団生活においても、 互いに気遣い合って生活し、公共の場や国立 することの大切さについて身近な事例を通し 3 公園の中にごみを落とさないよう気をつけて 児童の日常の様子を見ると、例えば﹁時程 に合わせて行動する﹂ ﹁大勢で集まったとき けられる子︵感じる心 力・︶ ﹂を育てる一つと 考える。 て汚れた山を好きな人はいないのに山が汚れ しかし、個々を見ると、きまりを守ること の大切さは分かっているが、行動の活発さや 2 野球を楽しんでいた実態もある。 はじめに 公徳心・規則尊重 第5学年 1 道徳と特別活動 2004/2 ● 20 ● 道徳実践例 4 学習指導案 ○主題名 公共物を大切に ○本時のねらい 社会生活をよりよくしていこうとする心の大切さを知り,進んできまりを守ろ うとする態度を育てる。 〈4−⑵公徳心・規則尊重〉 【展 開 例】 導入 展 開 学習活動(主な発問と予想される児童の反応) 指導上の留意点 ○ みんなで使うところで, 迷惑だな, 嫌だなと思っ たことはありますか。 ・山や海が空き缶やごみで汚れていた。 ・公園のトイレに落書きがあった。 ・経験を思い出させ,価値への導入を する。 2. 「ふくらんだリュックサック」を読み, 話し合う。 ○ 人の群れから離れて腰を下ろした「わたし」は, どんなことを思っていたでしょう。 ・なんて不愉快なんだろう。 ・このマナーの悪さはひどい。 ◎ 父親が子どもに話している言葉を聞き,はっと した「わたし」はどんなことを考えたでしょう。 ・自分は不愉快だと気分を悪くしていただけだ。 ・自分だけやっても仕方がないと思っていた。 ・父親の言葉のとおりだ。 ・その気持ちをみんながもつことが大切なんだ。 ・自分もごみを拾って帰ろう。 ○ 「わたし」はどんな気持ちになって,自然と口 笛を吹いたのでしょう。 ・なんて気持ちがいいのだろう。 ・すてきな親子だな。 ・感想を聞いてから発問する。 ・山を訪れた人々のマナーの悪さに, 不快感をもっている「わたし」の気 持ちをとらえさせる。 ・ワークシートに書く時間を取ってか ら話し合う。 ・「はっとした」という言葉から話合 いを深める。 ・「みんなが社会をよくしようとする 気持ちをもつことが大切である」と いうところまで掘り下げたい。 ・自然と口笛を吹いている「わたし」 の姿を想像させ,気分が明るくなっ ている「わたし」に共感させる。 ◎ 「きまりを守って行動している」と思うことや, ※近くの人と話すことで,自分の考え 「周りの人がきまりを守っているので助かる」と を確かめたり広げたりする。 思うことはありますか。 ・移動教室のとき,山でごみを落とさないように ☆自分の経験を公徳心に結びつけて考 気をつけた。 えているか。 (発言) ・駅のエスカレーターで,止まっている人が左に 1列に並んでいるので,急いで行きたいときに ☆友達と話し合うことで,いろいろな 助かった。 場面できまりを守ろうとする意欲が ・使った物がきちんと元の場所に戻っているので もてたか。 (発言・態度) 使いやすい。 終末 3.教師の話を聞く。 次に使う人の気持ちを考えてトイレを使っ ているという恩師の話に感銘を受けた自分 の経験を話す。 ・普段の生活の中で実行していこうと いう意欲を高める。 ○評価 ・ 「わたし」の気持ちを考えることで,みんなが社会をよくしていこうとする気持ちを もつことの大切さに気付いたか。 ・きまりを守ることの大切さを自分のこととしてとらえることができたか。 21 ● 道徳と特別活動 2004/2 授業の記録 5 ▲ ワークシート ▲授業の流れとポイントが分かる板書の工夫 C 自分のごみは持ち帰り、そのほかにごみ をみんなで拾って山をきれいにしようとい ︿中心発問で﹀ ︵ワークシートに書いた後、話し合う。︶ C いつも自転車が広がっているんだよね。 C 知らないところで自転車を直してくれて いる人がいるんだ。 ろを通りかかり、写真に撮ったものです。 が っ て い て 危 な い。 ﹂と片づけているとこ パ レ ー ド す る の に、 こ ん な に 自 転 車 が 広 C ︵あっ、あそこだ。と口々に反応︶ T 野方祭りの日、みんなのパレード二時間 前のことです。一人の女性が﹁北原の子が T さっき自転車のことが出たけれど、この 写真を見てください。 C いつ行ってもディズニーランドのトイレ はきれいだよ。大勢が使っているのに。 C 店先に何気なく止めた自転車が、店を出 るときはきちんと並べられてあった。 C ごみを落とさないよう気をつけている。 C 近所でごみ置き場の近くをいつもきれい にはいてくれる人がいる。 班での話合いを全体に広げてください。 合ってみましょう。 ているので助かる﹂ことについて班で話し T 自分が﹁決まりを守って行動している﹂ と 思 う こ と や、 ﹁周りの人が決まりを守っ うこと。 ︿振り返りで﹀ たでしょう。 T 父親が子どもに話している言葉を聞き、 はっとした﹁わたし﹂はどんなことを考え C わたしはごみを見て、ただ嫌だな、汚い なと思うだけだった。 C わたしは何もせず、なんて汚いんだと思 いながらも素通りしているに違いない。 C 自分だけやっても仕方がないと考えてい た自分が恥ずかしい。 C みんなが自分のごみのほかにさらに持ち 帰ったら山がきれいになる。 C 自 分 は 考 え て い る だ け、 見 て い る だ け だった。親子を見習って一緒にやらなきゃ。 C よし、少しでもごみを 少なくするためにこのビ ニル袋にたくさんごみを 入れてちょっとでもこの 山をきれいにしよう。 う。 C ほかの人たちにも伝え て、もっとごみを減らそ T 何を伝えるの。 C みんなで山をきれいに しようという気持ちをも つことが大切だよって。 道徳と特別活動 2004/2 ● 22 ● 道徳実践例 察 子どもの善い行いに着目させる ◆子どもの善い行いの伸長と学級経営 するのは,普段の学級経営である。青木孝頼 指導案に子どもの実態を記入する欄がある。 先生は,「道徳の時間には,道徳教育を行わ その中のきまり文句として, 「本学級の子ど もは○○ができない」とか「∼が不十分であ る」 といった書き方が多く見られる。 また, 「∼ できる子どももいるが,大部分の子どもはで きていない」などともある。 今,子どものよさを伸ばすという考え方が ふう び 一世を風靡している感さえある。中には「欠 点」も個性として認めるという考え方もある。 そこで注目したいのは,本実践に例をとっ て述べるなら, 「時程に合わせて行動できる」 とか「大勢で集まったときは静かに待つこと ができる」子どもがいると渡辺先生が述べて いることである。これは当たり前のこととは いえ,すばらしいことではないかと考える。 それらを守っていくには,少なくともセルフ コントロールできるなど,努力のいることだ からである。指導ではそこのところに着目し たい。やろうと思ってもできない場合が多い のに,きちんとできることはすばらしいこと ない」と説く。 「味わい深い」の一語に尽きる。 ◆書くことの意味 書くことには, ○自分の考えを構想する ○自分の考えをはっきりさせる ○自分の考えを認識する ○自分の考えを修正する などの意味がある。一方,書くことに慣れて いなかったり,書くことを強いたりすると, ○自分の考えと必ずしもマッチしないこと を書く ○イージー(安易)なことを書く ○先生にほめられるようなことを書く などのマイナス面も出てくる。 近年,道徳の時間では書くことが多くなっ たが,話合いで済むところなのか,どうして も書く必然性があるのかを十分吟味してかか る必要がある。本実践では「はっとする」自 分に焦点化して,その心根を探ろうとしてい である。その努力している自分に気付かせる のが道徳の時間の指導である。 実行を伴うように指導したり,見守ったり る。妥当なことといえる。また,書くことは 教科指導でも普段から十分行う必要があるの は当然のことである。 (本誌編集委員会) 23 ● 道徳と特別活動 2004/2 まとめ ︻ワークシートの活用︼ じっくり考えさせたいところ︵中心発問︶ や一人一人の思いをつかみたいところ︵振り 返り︶でワークシートを使うことが多い。書 くことで自分に向き合う時間ができる。また、 後で一人一人の思いをとらえることができる。 話合いの後書き足す時間を設定すると、考 えの深まりや変化をつかむことができる。 ︻日常の振り返りの工夫として︼ 展開後段で、何枚か写真を用意した。本時 では、自転車の話題に絡めて一枚使用したが、 全員に共通する話題に広げるのに有効であっ 使うと、振り返りに効果的である。 た。身近な場面の写真を用意し状況によって ︻授業後の感想を書く︼ 授業後﹁心日記﹂に書いた感想を読むと、 授業では分からなかった児童の思いをつかむ ことができる。 ︵家で書いて翌朝提出︶ ・発言できなかったけどちゃんと考えていま した。父親が空き缶を拾うように⋮⋮ ・緊張したけど一回発言できてよかった。そ のとき言えなかったのですが、⋮⋮という 気持ちもあったと思います。 ・勉強して、⋮⋮と思うようになりました。 考 6
© Copyright 2024 Paperzz