Page 1 Page 2 ー24 高知大学学術研究報告 第25巻 ー 人文科学 第9

Robert
Frost、A Masqueof Reasonについて
一一フロス トとヨブー
石 堂 哲 也
(高知大学文理学部英文学研究室)
An
Appreciation
with
Reference
of
Robert
to
the
Frost's
Relation
Tetsuya
(£)epartment
A
Masque0/ Reason
l
Between
Frost
and
Job
ISHIDO
of Englishj Faculりof
Arts
and
Sciences)
Synopsis
Robert
and
Frost's
Satan
between
Masqueが尺どα∫on
words
solemness
comprehending
A
j
exchange
of
close examination
speech
of Job
BoysWill
relation
that
that A
import
(1945)
is a problem
significance
of the
play,
in a queerly
message
and
flippancy
from
the
however
leads
essential
us
messages
Job
and
have
God,
Job,
tone.
of the
to a discovery
of
Frost's
North of Boston,
New Ham夕shire, etc.
What
might
in which
whimsical
tone
The
Job's
wife
discrepancy
prevents
us
from
satisfactorily.
of this work
is derived
between
(2) Job
the
this work
of great
God
been
in this work
identified
bears
with
Masque
of Reason
isa teuospective
A Masque
o f Reasonwillbe appreciated
some
Frost
work
more
is indicated,
analogy
himself,
of Robert
properly
that a large
poems
already
therefore,
to that of Frost
and
portion
consequently,
of the
published
in y1
is that (1) the
and
we
Nature,
can
and
assume
Frost.
by
this perspective.
(1)
Robert
Frost
題作>である.
が1945年に発表したA
MasqueofReason (「道理の仮面劇」)は詩人晩年の<問
Frostの詩の世界に親しんできた読者は,まずこの仮面劇の舞台設定に,それ
までの作品群とは全く異質な試みがなされていることに驚かされる,即ち,登場するのが,神,
Job,
Jobの妻,そしてSatanであり,場面は砂漠の中のオアシス,更に時は劇中のJobの言葉
によると最後の審判の日である.そして作品の最後には,“(Here endeth
chapter 句rり-ihre.p.
of
J必)”(1)と記されている.言うまでもなく旧約聖書『ヨブ記』は第42章で終ってお’り,このことか
ら分る通り,この作品は『ヨブ記』の後日談の形をとったparodyである.
しかし,この作品の更に大きな特徴は,そこに展開される自由奔放に飛躍して読者の意表を突い
て来る大胆な見解の応酬であろう.典型的な例を引くと,まず神がJobに向って長い間,礼を言
わなければならないと気にかけていたのだ,と話を切り出す.つまり Job のおかげでThere's
no
may
connection
fail and
man
can
wickedness
reason
out
/
Between
his
just
desert
and what
succeed."'^'という原理をうち建てることかできたのだ,と言う.「ひ
ととなりは全く,かつ正しく,神を恐れ悪に遠ざかった」(3’はずの義人Jobが,いわれなく次々
と襲って来る不幸にもかかわらず“integrity”を堅持したことに対し,神は次のように感謝の理由
を述べる.
he
gets.
/
Virtue
高知大学学術研究報告 第25巻 人文科学 第9号
124
My
thanks are to you for releasing me
From
moral bondage
to the human
race.
The
only free will there at firstwas man's,
Who
could do good or evil as he chose.
l had no choice but l must follow him
With forfeitsand rewards he understood
Unless I liked to suffer loss of worship.
l had to prosper good and punish evil.
You
changed
all that. You set me free to reign.
You are the Emancipator of your God, ’‘
And
as such l promote you to a Saint.(4)
一言で言えば,この作品の最大の特徴は,このような恣意的とも言える観念の遊ぴであり,この
物分りのよい,そして,いささか威厳に欠けるうらみのある神に対して,
Jobとその妻が質問を
浴びせかけ,あるいは自分の感想を述べていく過程が,全体約500行のblank
verse で描き出され
ていく.議論は主に,善良な民Jobか何故苦しまなければならなかったのか,という“reason”
の不在をめぐって進むのであるが,特にJobの妻は,液神的な発言もあえて辞さない.「道理と
不条理」,「神の業と人間の位置」,「悪の存在」などという,いわば人間存在の根源にかかわる
問題の厳粛さと,それとは対称的に,時にfarceまかいのpanやbathosを折り混ぜた大胆不敵な
語り口とが,巧みな一時にはきわどいー一一バランスを保っている.
例えば,上に引用したJobに対する感謝の言葉の中で,神は次のように述べている.
I should have spoken sooner had l found .
The word l wanted
You would have supposed
One who in the beginning tvas the Word
Would be in a positionto command it.
l have to wait for words like anyone.<"
この真剣とも戯れとも判断しかねる議論か進むうちに,やがて神i}<.
に対する見せしめ(“showing
Job,
Jobに下した苦難は悪魔
or)であった,と言明するに及んで神はSatanを呼び寄せ,神.
Satanの三者か揃った所をJobの妻がコダッ列と収める,という象徴的な場面で,この奇
妙な仮面劇は終る.
A Masque
ofReaso?i を読み終えた時,読者ぱa
momentary
stay
against
confusion” も ,
“a clarification of life” もあまり期待できまい.得られるのは摂理の不可解さ,人間存在の困難さ
に対する再認識と,大胆な聖書解釈に対する当惑と,そして恐らく,
Frostが巧みに用いる仮面の
陰に隠れて作品の意図が容易に把み取れない事に対する少なからぬ焦立ちとではあるまいか.
(2)
しかし,この作品に展開される議論を注意深く辿っていくと,ひとつの興味深い現象か浮びあか
って来る事に気かつく.即ち,
Frostがそれ以前の詩集に収めて既に発表していた諸作品の背後に
潜んでいた思想が,この仮面劇の登場人物たちの発する言葉の中に,繰返し現れて来るのである.
そしてこの現象は,特にJobの言葉に集中して現れる傾向かある.
Robert
Rfiasoれについて(石堂)
Frost. A lAasque
一例を示すために,まず我々は時間を20年程さかのぽって,詩集Nexu
ている傑作‘The
Grindstone'
Hampshire に収められ
を考察しなければならない.
この詩は,冬のある日,林檎の樹の下に放置されて雪に埋れている回転式の砥石の描写に始っ
て,やがて「私」かその昔,ある男と一緒に刃物を砥いだ時の思い出に移っていく,.「私」がハン
ドルを回し,相手の男が砥石に刃を押し当てる.
l gave
it 〔i.e. the grindstone〕the
And
poured
And
when
on
water (tears it might
it almost
gaily jumped
A Father-Time-like
Armed
with
He
turned
And
slow
l changed
man
a scythe
on
me
and
will-power
down
from
preliminary
have
and
got on and
spectacles
to increase
spin,
been),
flowed,
rode,
that glowed.
the load
-
hand
to hand
in desperation. <"
この二人の,回す力と抑えつける力のいずれが相手に勝っても砥石は用をなさない.「私」と,
「時の翁のような男」は,この互に対立しあう作業に全力を注ぐ.ところが,刃は容易に砥ぎあが
らない.砥ぎあかったと判断するのは「私」であろうか,「彼」であろうか,という疑問がしきり
に起こる.
l wondered who it was the man thought ground The・one
w ho held the wheel back or the one
Who gave hislifeto keep it going round ?(7’
そのうちにはずみで砥石か危うく軸受けから飛び上りそうになる.「私」は「彼」が軽い外傷で
もして,このいつまでも終りそうにない仕事か延期になってくれればいいと思う.
The thing that made me more and more afraid
Was that we'd ground it sharp and hadn't known
And now were only wasting preciousblade.(8)
矛盾した表現になるか,ここに描き出された二人の人間の<対立する共同作業>の光景か単に田
園風景の描写に止るものでない事は論を待たない.例えばJohn
F. Lynenは,この二人の行為
の対比に,人間の創造活動に伴う二通りの様相,つまり自然な活力と純粋な知性の対比一言い換え
るとデュオエユソス的原理とアポロ的原理の対比を認めている(9)そして,これか決っして奇矯な
解釈とは映らない.
ところでA
Frostか自からをsynecdochistと称した所以である.
Masqtぷe of Reason に戻ると,
Jobが神に対して,人間がunreason”にも服従し
なければならない事は承知していても,それでもなお“reason”に対して最も関心を抱くのだ,と
述べる部分で次のように自分の考えを表明している.
There's will as motor and there's will as brakes
Reason is, I suppose, the steering gear.
125
高知大学学術研究報告 第25巻 人文科学 第9,号
-一一
126
The
will as brakes can't stop the will as motor
For very long.
We're
Have
We're plainly made
going anyway
and may
to go.
as well ,
some say as to where we're headed for;(10)
動力として働く意志と,これを制御する力として働く意志の二者の存在を認めて,“reason”は思
うに,「舵取り装置」である,というのであるが,我々はここに,いささか唐突な響喩を用いて明
言されている二元論が,先に見だThe
Grindstone'
の構図を支えている原理と酷似している事
に気がつくはずである.
Frostの二元論的思考への傾向は根深いものであり,我々はすぐに‘Fire
and
Ice'
(Nezむ
Hampshire)のような作品を想起する訳であるが,この二元論的思考は当然,作品の中に<対立>
という要素を生む.例えば‘The
Death
‘Birches' (Mountain
Interり
of the
Hired
Man'
(North
ofBoston)を,あるいは
「)を思えばよい.前者は.“justice”どmercy”の相剋が劇的緊張
感へと高められた例であり,後者は天への憧憬と大地への愛着という湘反する志向の,対立をはら
んだままの共存を描いた傑作である.
いずれにせよ,このJobの言葉に,
20年という時間を隔た後に,
'The
New
England
Grindstone'の背後に巧みに潜められていた思想が,
の自然という額縁を取外されて再び現れて来ている事
は明らかである. ‥
A Masque
ofReason
に登場するJobが述べる言葉と,
Frostの過去の作品との間の,今述べ
たような関係は,この他の部分にも指摘することができるのである.
Jobは重ねて神に“reason”の所在を明かすようにと迫るのであるか,神は口範り明確な答を与
えようとしない.
Jobは次第に懐疑的な態度へと追い込まれていく自己の心中を次のように述懐す
る.
l fail to see what fun、whatsatisfaction
A God can find in laughing at how
Men
fumble at the possibilities
When
The
badly
left to guess forever for themselves.
chances are when
there's so much
preter!ce
Of metaphysical profundity ・.
The obscurity's a fraud to cover nothing.
I've come
Worth
to think no so-calledhidden valuがS
going after. Get down
into things
It will be found there's no more
Than
given there
on the SurfaCe.(ID
ここに見られる悲観的感想は,‘For
Once,
Then,
Something'
(Ne-mHampshi・削)に典型的に現
れた詩人の懐疑的な態度と同一の源から発している.
振返って考えてみると,殆んど常にその詩の世界をNew
England
の自然の中に求めて来た
Frost にあっては,人間が生きていくための支えとなる啓示の光を自然界に得られるか,というこ
とは終生の関心事であった.そして,時として,自然界に垣間見たふとした現象に,その答えを得
たかと思われる瞬間もあるものの,結局,現実の自然界に拒絶され,しばしば,この“obscurity”
Robert
Reasonについて(石堂)
Frost, AMasque
127
の前に呆然と立尽してきたのである.
Reuben
A Browerが指摘しているように(12),11音節の歩格(hendecasyllabic
驚くべき技巧に支えられだFor
Once,
Then,
Something'は,
meter)という
Frostに於るこのような想像力
と現象界との対立を象徴的に示している.
物事を探究していっても,結局そこには表面にあるものしか見出せない,という落胆を,逆に突
き離して皮肉な調子で描き出したのが‘The
Most of lt’(A
Witness 7rダ)であり,そこでは,
まさにJobと同じ失望感が,湖を間にはさんだ人間と大鹿の対応で暗示されている・
神は人間をこのように深刻な苦境に立たせておいて笑っているのではあるまいか,という疑惑
が,上の引用の冒頭の部分の神に対する不満の言葉となって出て来ている,と見る事ができるので
あるが,謎に取り囲まれて,みじめにも手探りしている者としての人間の姿は Frost に生涯つき,
まとった観念であり,我々はその跡を処女詩集A
Boys
Wぶ所収の‘The
Demiurge's
Laugh'
にまで辿る事ができるのである.
Jobの言葉は更に続く.
We
don't know
where
We
don't know
one another; don't know
Don't know
we are, 0r who
what time it is. We
we are.
You;
don't know,
don't we ?(13)
ここに到ってJobの悲観的態度は殆ど不可知論にまで近付くのであるが,ここでもやはり,
Frostの読者は,例えば‘Neither
Out
Far Nor
in Deep' (AFurther
R ange)に同様な人間の姿
が描かれていた事を知っているし,あるいはまた,ユーモラスな逸話を含む‘The
CNezり Hampshire)に登場する隣人Brad
McLaughlin
Star-Splitter'
なる人物の事を思い出す事もできる.
この男は,自分の家に放火してせしめた保険金で望遠鏡を買い込むのであるが,それというのも
「無限に取囲まれた人間の位置についての終生にわたる好奇心を満たすため」(“To
long
cutiosity / About
our
place among
望遠鏡を覗き込みながら,思いを夜空の方へ向けるのであるが,“We've
after all where
satisfy a life-
the infinities.”)<14)なのである.彼と「私」は交互に
looked
and looked,
are we ?”(19という皮肉な感想でこの詩は終っている.
以上に見て来たように,言わば過去から響いて来る Jobの言葉に,我々は詩人の肉声をはっき
りと聞き取る事ができる.“reason”の所在を明そうとはしない神を前にしたJobにとって,世界
か謎として映る事は,
Frostに自然界の現象か人間の想像力では容易に突破る事のできない謎とし
て映ったのと同じである.言い換えると,この仮面劇に現れた神とJobの関係は,自然とFrost
’の関係とパラレルである,と見る事ができる.
そして更に,A
Masque
ofReason のJobの言葉に,
Frostの過去の作品の残響が集中してい
るという事は,この仮面劇に於て詩人が自からをJobの立場に置いて,その人生を振返っていた
のではあるまいか,という推測をもたらすのである.
(5)
A Masque
ofReason を発表した時,70才を越えていたFrostは,それまでに四度にわたって
Pulitzer賞を与えられていた他に,各地の大学から名誉称号を受け,また多くの名誉職を歴任し
て,既にアメリカの国民詩人としての名声を一身に集めていた.機会あるごとに招かれて,人々の
暖い視線を受けながら講演し,あるいは自作の詩を朗読するこの老詩人の姿に族長的な風格かあっ
but
高知大学学術研究報告 第25巻 人文科学 第9号
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-
たであろう事は想像できる.
FrostとJobを結びつけるのは,この族長的なimageだけではない.彼の輝かしい業績とは
逆に,身辺の出来事を辿っていくと,その人生は苦難の連続であった.
まず第一に,半ば神話化されかけている長く苦しい無名時代がある.若くして結婚し,
Elinor Bettina
Elliott,
の二児の死に遇い,様々な試みをした挙句に,一家を引連れてイギリスヘ渡った時,
Frostは既に40才に近かった.
A
Boy's
Wぶ(1913)Nortfi ofBoston(1914)で地位を確立し
た後も,この詩人には不幸な事件がつきまとう.滞英中に得た無二の親友である詩人のEdward
Thomasの戦死(1917年).以前から精神症の兆候があった妹Jeanieが1920年に発病,入院.
(1929
年に死去.)幼い時から病弱であった娘Marjorieが結婚の翌年,出産後死去(1934年).妻Elinor
Whiteの死去(1938年).更に1940年には子息Carolが40才で自殺を遂げている.
耐えなければならなかった試練の厳しさに於ても,我々はFrostに神話的な人間の大きさを見
るのである.
このようなJobとFrostの関係についての推測は,いまひとつの類推,即ち,仮面劇の中の
Jobの妻と, Frostの妻Elinorとの聞の対応関係についての推測を伴う.
仮面劇の中のJobの妻は,神に対してJob以上の不信感を抱いており,自分達の問いかけに
明瞭な答を与えようとしない神について,
All You
When
[i.e. God】can
reason-hungry
seem
to do is lose Your
temper
mortals ask for reasons '"'
と述べ,またJobに向っでYou
won't
get any
このJobの妻の言葉は,勿論“Dost
thou
answers
still retain
out of God.”U7)とまで断言する.
thine
integrity ? curse
God,
die.”(18>という『ヨブ記』中の妻の言葉の記述と対応するものであると同時に,‘Home
and
Burial'
(North
ofBoston)の妻に映し出されているFrost自身の妻Elinorの絶望的な言葉とも相呼応し
ているのである.
‘Home
Burial' に登場する子供を亡くした女にとっては,人間の存在そのものか絶望的な孤立
としてしか映らない.彼女は次のように絶叫する.
But the world's evil. l won't
If I can change
it. Oh,
「この世は悪だ」というのは,
have
I won't,
grief so
l won't !(19J
Elinorが言った言葉一最初の子供Elliottを失った時,幾度も口
にした言葉−であったという(20)そして詩人はElinorが示した無神論的態度に心を痛めた,と
L. Thompsonは伝えている(21)
そして,このJobの妻が,夫の考えを次のように代弁する時,我々はA日卯'5
‘The
Will 所収の
Trial by Existence' に示されていた人生に対する覚悟,つまりこの世界は試錬の場に他
ならないという認識が,この詩人に一貫して変らなかづた事を見るのである.
Job says there's no such thing as Earth's becoming
An easier place for man
to save his soul in
Except as a hard place to save his soul in,
A trial ground where he can try himself
Robert
And
U^p.asnnについて(石堂)
Frost, y1 M,
129
find out whether he is any good,
It would be meaningless. <"'
以上のように,A
Masque
ofReason 一篇を詩人のそれまでの作品群,つまり過去の光に照ら
してみる時,我々はこの一見奇妙な仮面劇に新たな響きを聞き取る事ができるのである.
憂うつな思策家Jobぱreason”とは「神の後思案」(“afterthought”)なのではないかと言
う.
It sounds to me as if You [i.e. God]thought
And
An
it [i.e. reason] out
took Your time to it. It seemes to me
afterthought, a long long afterthought.<"'
“along long afterthought.”という一節が,処女詩集のtitleにその一部分を留めている,なつ
かしい歌の一節と共鳴し合う事に,我々は気付かないであろうか.言うまでもなく,
というtitleはLongfellowの‘My
A Boy's Will
Lost Youth' のrefrainの一部である. ,
'A boy's willis the wind's will,
And
the thoughts of youth are long, long thoughtsバ(24J
A Masque
ofReason を書いていた時, Frostの心中を去来していたのは自分のこれまでの人生
ではなかったであろうか.とすれば,この作品につきまとい読者を戸惑わせる冗談とも本気ともつ
かぬ調子は,自からをJobになぞらえる事を岨晦するためのカムフラージュであり,いかにもこ
の老詩人らしい仮面であったとは言えないであろうか.
(4)
G.
Steinerによれば『ヨブ記』は,その最終章に於て,
Jobか自分に課せられた苦難の代償と
して,以前に勝る富と幸とを以って神に祝福されているが故に,悲劇的ヴィジョンとは相入れない
ものであるという.つまり「代償(compensation)がある所には公正「」ustice)が存在し,悲劇
は存在しない」(25)のである.
とすれば,
Frostにぱcompensation”は与えられたのであろうか.「人間の正当な報酬と,
実際に受取るものとの間に道理で理解できる関係」を見出す事はできたのであろうか.
A Masque
ofReasoれ を発表した後, Frostは更に20年近い人生を送る事になる. 確かに,こ
の間にKennedy大統領の就任の際の自作詩の朗読に象徴されるように,世俗的名誉は頂点に達し
た.しかし,
Frostは「永遠に取囲まれた人間の位置」を知る証しは得たのであろうか.
勿論,詩人ははっきりと答えてくれない.ただ,
Frostが世を去る前年,
1962年に最後の詩集
171 theClearingが発表された.その中に,次のような一篇か収められているのであるか,この二
行に,我々は,詩人が,言わば神を相手に交換条件付きの和解を求め,A
中の神の言葉を借りて言えば,人間に対する神の“moral
bondage”
すかにうかがう事ができるのである.
Forgive,
And
O
Lord,
I'll forgive
my
Thy
littlejokes on・Thee
great big・one
on meア6’
Masque
ofReason の.
の回復を求めていた事を,か
150 高知大学学術囲盤賤しg25を 人文科学 第9亙
〔註〕
Frostの作品の引用はIn the
(Jonathan
1.
Cape,
Clearingの他は全てRobert
Fro叫Complete
1- Ibid.,
Frost
CompletePoems of Robert Frost
1967)による.
Poems, p. 463.
p. 449.
3.
The BooiこofJob, \.\.
4 .
Frost,
5.
Loc.cit.
6.
Ibid.
C。mplete
P。ems^
p. 449.
, p. 215.
1 .
Lof. cit.
8. Ibid・
,
9 . John
F.
p- 216.
Lynen, The
10.
Frost,Co?nf>lete
11.
Ibid.,
12.
Reuben
Press,
13.
Pastoral
Art of Robert Frost(Yale
univ.
Press,
1967),
p. 92.
Poems,p,455.
pp. 456-457.
A.
BrowM,
1968),
The Poetりof
Robert F7・ost:
C onsteUations
of
Intention(Oxford
univ.
p. 138.
Frost, Complete Poems, p. W1.
14.1bid.,
p. 202.
15.
Ibid.,
p. 204.
16.
Ibid.,
p. 452.
VI.
Ibid.,
p. 457.
18. Job,
1.9.
19.
FrostComplete
20.
Lawrance
p.
597.
Poems,p.
Thompson,
75.
Robert
Frost:
The
1\. Selected
L etters of Robert Frost, ed.
by
22.
Frost,
23.乃id.
Comμete
,
Early
Years:‘
Lawrance
j∂ク4−1915(Jonathan
Thompson
(Jonathan
Cape,
Cape,
1967),
1965),
p. 244.
Poems, p. 458.
pp. 455-455.
24.
Henry
W.
25.
George
Steiner, The
LongfellowLongfellovus
26.
Robert
Frosi. In
Poetical
L:)eath of Tragedy(Faber
theClearing(Holt,
Rinehart
χ?/orks(Oxford
and
Faber,
and ‘Winston),
univ.
1963),
Press,
1917),
p. 308.
p. 4.
p. 39.
(昭和51年9月30日受理)
(昭和52年2月18日分冊発行)