凍霜害防止用の燃料である米糠油の残渣からでき

凍霜害防止用の燃料である米糠油の残渣からできたバイオマス燃料の
着火性を改善したフィールドテストの結果と考察
-霜キラーの着火性の改善の模索-
長内伸剛*
長内繁昌*
The result and consideration of the field test which has improved the
ignitionability of the biomass fuel made from the residual substance of
rice-bran oil which is the fuel for Damage from Freeze and frost prevention
要約
三和油脂では米糠油の残渣から凍霜害防止用燃料商品名(霜キラー)を製造しているが着火性に難点がある。化
石燃料をマッタク使わない方法で実験した。主成分がエタノールとエチレングリコールのゾル状着火剤 480g を
霜キラーの上に塗り付けマッチで点火した。霜キラーが固体から液体状になった時点で,15cm程に切った荒
縄数本を9L缶の中に放り入れて芯に成るように試したところ白く気化したガスが発生したのを確認できた。芯
になる荒縄があると炎の勢いはすこぶる増す。缶の液状になった霜キラーが沸騰するのを確認できた。缶の中を
攪拌すると炎はさらに強くなり火柱も高くなり熱量も大きくなったのを確認でき,ほぼ無煙状態だった。
NobutakeOSANAI*
[Keywords]
The residual substance of rice-bran oil
ShigeyosiOSANAI*
Biomass fuel
Carbon Neutral
Damage from Freeze and frost
Frost damage prevention
1.
はじめに
旧山形農業試験場専任研究員の近野広行氏らは,水耕栽
培で使用されるロックウールに灯油を含ませて霜キラー
の上に置き助燃剤にしている。筆者は,果樹の凍霜害か
らのダメージを防止する方法を長年,研究してきた。特
* (有)弘前ビニロン 青森県弘前市外崎四丁目 6 の 35
に圃場形状を選ばず低温注意報下にも対処できる燃焼法
での方法を研究してきた。地球の温暖化で異常気象を招
く化石燃料を一切使わず燃焼してもカーボンニュートラ
ルになる物質を探しフィールドテストを試みたので,そ
の結果を報告する。
2.方法
(供試品一覧)
(イ)山形県の三和油脂製:米糠油の残渣から出来てい
る固形物、商品名(霜キラー)
。三和油脂の滝口氏に電話
して 10kg1袋を無償提供して貰った。
以下,霜キラーと省略して記述する。
(霜キラーは着火性が非常に悪いという欠点を有す。
)
(ロ)着火剤:商品名ファイアマックス:主成分はエタ
ノールとエチレングリコール。ゲル状でチューブに充填
されている。240g 入り2個。量販店で,@398 円。
(ハ)商品名 ビガーチャコールブリケット
バーベキュー着火剤。主成分は木炭粉を繊維と
ロウを紙モールドに固めて充填している。
(ニ)ニイタカ製固形アルコール25g。
(ホ)コーラ 150mL の空缶を円筒状に加工した物。3個。
(へ)荒縄を15cm 程に切った荒縄数本。
(ト)9L 半裁缶。
(プリザーブ用缶)
したが,400℃程と推測した。
推測の根拠は,FRP製のニトポールを炎にさらすと,1
sも経たずに即座に燃え始めた事にある。
10 月 8 日のテストの結果からファイヤマックス(エタノ
ールとエチレングリコール)のみで充分に意図する目的
は可能と判断し,
図 1 の状態でこの日のテストは終えた。
燃焼実験に要した実質所要時間は 7 時 30 分から 11 時 32
分の 4 時間 2 分である。10 月 8 日のテスト後の天候は風
が若干強かったりし,実験に最適な 10 月 25 日まで 2 回
目の実験が出来なかった。
(補足:アルミニューム缶の溶解温度は,約 660℃であ
る。
)
・補足,ロとハは新潟県三条市のパール金属が
中国で生産したと表示されている。
3.テスト日時
及び実験場所
2012 年 10 月 8 日(月) 快晴。ほぼ無風
午前 6 時より午前 11 時 32 分終了。
2012 年 10 月 25 日(木) 快晴。ほぼ無風
午前 7 時より午前 9 時 45 分終了。
※ 実験場所は 2 回とも筆者駐車場前。
図1
(10 月 8 日:午前 11 時 32 分
蓋をする直前図)
(1)実験の方法と経緯
10 月 8 日のテストの記述
商品名ファイアマックス2個 480gを9L半裁缶の底に
絞り出し,燃焼に必要な空気が容易に入るのを期待しコ
カコーラ 150ml 缶を円筒状に加工したアルミニューム缶
3個を煙突状に置いて,残りの空間に,霜キラーをほぼ
満杯に充填し,その上に商品名ビガーチャコールブリケ
ットを載せた後,紙モールド部分に午前6時にマッチで
着火した。バーベキュー用着火剤のビガーチャコールブ
リケットは勢い良く燃焼したが,霜キラーが溶解するま
でには至らなかった。
7時30分にコカコーラの円筒を取り外した。
ニイタカ製固形アルコール 25g を 20 個缶の中に放り入れ
て火力を保持して様子を観察した。なかなか期待した火
力の勢いが出ないので,山形県の近野広行専任研究員が
荒縄を川の字状に霜キラーの上に載せていたのを,思い
だし物置から急いで取り出し切り花用ハサミで 15cm程
の長さに適当に切断し7本程,缶の中に放りこんだ。
(図
2 参照)結果は非常に良好で,芯になる物の有無でマッタ
ク違うのを確認できた。荒縄を置く事で空気の入り込む
間隙が出来て燃焼力が増したと推測した。ロウソクに芯
が無ければ燃焼しない理屈と同じと思う。荒縄の燃えた
隙間から,霜キラーが気化し白くガス化していくのも確
認できた。さらに,FRP製ニトポール(トンネル支柱
用)の端材(棒状)で缶の中をこね回したら,霜キラー
は完全に液状に成っているのを確認でき,攪拌する事に
よって火柱は,60cm程を保持しほとんど無煙で燃焼を
続けた。サーモグラフィーや放射温度計等の測定機器を
所持してないので炎に手のひらをかざして輻射熱を推定
図 2 (山形県専任研究員、近野広行氏撮影)
(2004 年 9 月 16 日 山形県農業試験場最上分場にて)
(2)10 月 25 日のテストの記述
1回目同様、消防署に電話した後,1 回目の残りの霜キ
ラーの上にファイヤマックス 480g を絞り出してマッチ
でファイヤマックスに着火した。着火時刻は,午前 7 時
00 分開始。炎は驚くほど勢い良く燃焼した。霜キラーが
燃えつくすと図 1 の稲藁の燃え残った上に余剰供試品の
霜キラーを重ねて用いたので,缶の底に残っていた完全
に燃えきっていない稲藁がくすぶり白煙を多少,発生し
たので午前 9 時 25 分に,蓋をして 2 回目(10 月 25 日)
の燃焼実験を終了した。燃焼時間は,午前 7 時 00 分から
午前 9 時 25 分の 2 時間 25 分である。霜キラーの量が 1
回目と 2 回目で異なるので燃焼時間の比較は注意を要す。
(図 3 参照)
ある。ファイヤマックスを使って実験した時の粘度の感
触は,キューピーのマヨネーズより多少粘りがあった。
筆者は化学の知識に疎いのだが,両物質の比重を比較す
ると、エタノールが液体 0.793 気体 1.11 である。
エチレングリコールが比重 1.1088 である。
4.結果と考察
以上,記述した事から言える結果は次のとおりである。
※メタノールとエチレングリコースが主成分のファイヤ
マックス 480g を直接霜キラーの上に万遍なく絞りだし
着火した方が化石燃料を一切使わないと言う目的は果た
せるという結果を得た。しかし 10a に 30 から 40 火点程
を必要とするので,1 火点あたりのコストが高すぎて実
用化は困難と筆者は思う。着火性能と使い易さも確認で
きたが、実用化する手立てを考えて見たい。
※ここでは、 メタノールとエチレングリコースのゲル
化を安価に行なう方法を検討,考察してみる。
メタノールは良く知られた物質で化学式は、CH3OH で表さ
れる。しかし筆者の意に反し燃焼時の反応で、二酸化炭
素も発生させる。化学反応式は、2CH3OH+3O2→2CO2+4H
2Oで表される。従ってファイヤマックスの成分を詳細に
分析する必要がある。
有機物(炭素Cを含んだ物質)を燃焼させると必然的に
二酸化炭素が発生するので,いかにしてファイヤマック
スの代用になる助燃剤のゲル化の調合法を確立するかが,
今後の課題となると思う。
メタノールの比重が気体になると 1.11 になるのは筆者にと
っては意外である。(通常,溶剤として販売されている時は
液体である。)粘性係数と比重との相関関係の説明はここで
は,省略する。ゲル化と着火特性や燃焼性状の最適値を与え
るエチレングリコールとエタノールの配合割合をテストし
サジ加減が判った時点で報告したい。
メタノールとエチレングリコースの物性の詳細を燃焼理論
的見地に立ち調べていくと,ファイヤマックスにおいてはメ
タノールが,燃焼力を高めエチレングリコースが燃焼時間を
長くする構図が読み取れ,着火剤として相互の短所・長所を
補完し合っていると思う。水酸基のラジカル反応も影響して
いると推定できる。
図4 10月25日 (着火直後の図。炎の高さは60 cm程)
※専門家に 480mLの灯油とファイヤマックス 480g の燃焼
時の二酸化炭素の排出量を訊いて見たいと思う。
図3
10月25日(2回目のテスト直前の図。
)
※エチレングリコールの化学特性について詳細に調べて
いくと化学式は C2H4(OH)2 で0℃の温度下で粘度の単位
で 48 センチポイズあるので,もともと粘度のある物質で
あるのがわかる。
(1 ポイズは、流体内に 1cm につき 1 センチメートル毎秒
(cm/s)の速度勾配があるとき、その速度勾配の方向に垂
直な面において速度の方向に 1 平方センチメートル(cm2)
につき 1 ダイン(dyn)の力の大きさの応力が生ずる粘度と
定義されている。
)
実際に試薬を購入して計ったのでないで断言は出来ない
が、かなり粘っこい物質と推定される。
メチルアルコールが0℃の温度下で 0.86 センチポンズで
ある。20℃の温度下ではエチレングリコールは、33.50 で
山形県の専任研究員,近野広行氏とやり取りしていた時期に,
ポリ袋に灯油を入れて,霜キラーに自動着火させる試みを幾
度かした事があったが,灯油 500mL程度では,ポリ袋が熱
で溶けて灯油が,霜キラーの間に入り込み着火出来なかった。
(技術が進歩した今日なら、紙おむつに灯油を含ませて霜キ
ラーへの助燃剤にする事も可能と思う。
)
5.今後の課題
凍霜害防止法には,放射冷却現象を利用した、防霜ファンが
あり国の半額補助で設置できるが,7m程の高さに逆転層の
温かい空気の存在が必要条件になる。防霜ファンはお茶の栽
培が盛んな静岡県から始まり茶栽培の圃場には,ほぼ 100%
導入されている,2010 年には西日本に凍霜害が多く 120 億
円の被害をだした。農水省の被害統計発表では静岡県の被害
額は,50 億円との事である。
東北地方には晩霜の頃にしばしば大陸からの寒気団が入り
込み,低温注意報が発令されるが逆転層の存在が無いので,
防霜ファンは被害を助長させる結果になる。
散水氷結法も可能だが水利権等のからみがあり日本ではさ
ほど普及していない。
弘前大学の荒川修教授と話しをする機会があり,イタリアの
ボルツァーノ地方では散水氷結法が普及しているとの事で
ある。
そのほかに,被覆法があるが設備費がかかり敏速に転張が出
来ない欠点もある。
消去法で選択すると,我が国では燃焼法が,最適と思う。
霜キラーの着火しずらい点を改善し無煙化が可能になれば
お茶の栽培にも導入でき,筆者の開発した「お知らせ電話シ
ステム」と組み合わせる事により,高齢化が著しい果樹栽培
専業農家の一助になると確信する。
※ 以下、参考図です。
米の栽培は毎年行なわれるので資源の枯渇の問題も無くな
り,地球の温暖化も緩和され,再生可能なエネルギーにも寄
与し,稲藁にはセルロースやリグニンが含まれているので,
貴重な木材の伐採も減らす事が可能と筆者は思料する。
※
※
ふじのサビ果(窄汁用の取引価格1Kg 20円)
ジョナゴールドのサビ果(窄汁用の取引価格1Kg 20円)
上図は、筆者のサイトから引用。
最後に,この研究に助言,アドバイスしてくれた多くの方々
に謝辞を述べて終りにする。
参考文献
1)築野食品工業(株)Web サイト
http://www.tsuno.co.jp/j/10/index_structure.htm
2)理科年表 平成23年版
3)東京大学地震研究所 平田安廣*中尾 茂*
地殻変動観測データの携帯電話によるデータ収集システムに
ついて
4)東北農業研究 33,207-208
5)東北農業果樹部会 60, 147-148
永山宏一*桑名篤*畠良七ら
果樹生産における防霜用燃焼資材の実用性評価
(福島農業総合センター果樹研究所)
※ BDF燃料の燃焼実験図
2008 年 1 月 20 日(日)
固形アルコール等で少し温度を上げると良く燃焼します。