Mar.2011 Vol.6 The Academia Highlight アカデミア・ハイライト [6] 超⾳波が拓く⾮侵襲治療への新しい道 うのめ・たかのめ by 超音波エネルギーが生体内に熱を発生させることは古くから知られており、1950 年代には すでに温熱癌治療が臨床応用されていた。しかし、その当時は超音波を数ミリ単位の精度で 照射する技術も、癌部位を正確に表示できる画像診断技術もないために、それ以上進展する ことはなかった。 MR ガイド下の強力集束超音波手術法は、日本ではイスラエルの InSightec 社製装置に子 宮筋腫用として 10 年近い待機の末、2009 年に薬事認可が下りたのを機に、GE ヘルスケア・ ジャパンが市販を開始した。癌治療法としては欧米でも臨床応用は意外と遅く、重慶海扶技 術社製の CE マーク取得済み装置を用いて、英国 UTL 社がオックスフォード地域の病院で 臨床試験に入っている。腎臓、肝臓では成功しており、膵臓、骨および乳房でも有効のよう である。おそらく、子宮筋腫などの良性腫瘍には有効であっても、癌細胞が熱に弱いことを 頭では理解していながら、悪性腫瘍を超音波で 60~90℃に温めて本当に死滅できるかどうか 懐疑的だったためだろう。オランダのユトレヒト大学病院でも本法による本格的な乳癌治療 試験に入ったところだが、これらの治療成績によって、上皮細胞由来の癌、すなわち肺癌、 乳癌、胃癌、大腸癌、膵臓癌、子宮癌、卵巣癌、前立腺癌、咽頭癌、喉頭癌、食道癌などへ の適用は急速に進むだろう。 カテーテル誘導下で超音波エネルギーと加温効果により、急性肺塞栓や脳梗塞への血栓溶 解剤静注の効果を格段に高める研究は、慈恵医大で長年続けられた経頭蓋低周波超音波血栓 溶解法や、次世代 DDS の技術研究の一環として数年前から奈良県立医大・京都大チームで 始められたものなどがある。臨床面では、米国 EKOS 社の血栓溶解超音波装置が昨年末 CE マークを取得して話題になったのは耳新しい。しかし、その一歩先を行く血栓溶解術が米国 ImaRx Therapeutics 社で開発されている。薬剤ではなく、ガスかガス発生可能な脂質小胞 を静注した後、血塊の部位に超音波を当てて小胞を破裂させることで血栓を溶解させる。治 療の進行は MR でモニターする。カテーテルを必要としないから、非侵襲性は格段に向上す る。このマイクロバブルを利用した目的部位での超音波エネルギー印加による治療法は、超 音波造影剤を用いる診断技術の延長線上にあり、東北大では一歩進めて、診断に必要な 2MHz 級の高周波と治療に使う 500kHz 級の低周波の 2 種類の超音波が同時に使えるプローブ開発 に注力している。難しい技術開発だが、成功すれば診断と治療が切れ目なく実行できる。 超音波エネルギーを別の機序で治療に活用する動きも浮上している。米国ノースウェスタ ン大の指導の下、SUNUWAVE Health 社は糖尿病性足部潰瘍治療用の超音波パルス照射装 置を開発して、この 1 月 FDA から市販前販売許可を得た。音響的圧力を患部に間欠照射して 血管新生とポジティブな炎症反応を引き出し、治癒サイクルに誘導することに成功している。 このように見てくると治療装置で日本メーカーの名前が出てこないのが寂しい。開発が進 められていることは間違いないが、厳しい治験の壁が立ちはだかっているのだろうか。いず れにしても非侵襲性に優れ、治癒率も高く、手術跡とも無縁の、患者にとっては願ってもな い治療法がすぐそこまで近づいていることは心強い。
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