ピエール・アルカン 国際関係大臣 フランス語圏担当大臣 昼食会スピーチ 2009 年 9 月 29 日 於:ホテルニューオータニ ガーデンタワー 翠鳳の間 日本語訳 カナダ商工会議所副会長殿 カナダ大使館公使殿 ケベック州政府在日事務所代表殿 そしてご臨席くださった皆様 皆様こんにちは。 本日、皆様とご一緒する機会を得まして大変光栄に存じます。面積ではカナダ最大、人口 では第 2 位の州であるケベック州の国際関係大臣として、スピーチさせていただきます。 今回は私が昨年 12 月、 国際関係大臣の職につきましてから、初めての訪日でございますが、 今年 7 月の天皇皇后両陛下の歴史的なカナダ公式訪問の折には、両陛下に拝謁を賜りまし た。私にとっては、この偉大な国・日本との関係を築く第一歩として、またとない貴重な 機会であったと存じます。 今回の訪日の第一の目的は、先週 幕張メッセにて開催されました東京ゲームショウにおい て、ケベック投資公社の CEO ジャック・ダウ氏とともに、ゲーム関連のケベック州企業団 をサポートすることでしたが、また、名古屋と静岡を訪問し、静岡では川勝平太知事と面 会いたしました。 歴史的な政権交代が行われたこの時期に訪日できたことは幸運と存じますし、日本企業の 皆様とこうしてお会いする機会を持てましたことは、日本経済について知識を深め、今後 の日本とケベックの経済協力の将来展望を推察するためにも大変貴重なことと考えており ます。 ご臨席の大半の方々のために、英語にて私のスピーチを続けさせていただきます。 本日は、ケベック州政府が最も関心を寄せており、かつケベック州の経済発展の中心であ る話題についてお話を申し上げたいと思います。気候変動に起因する課題と、それに対す る答えです。気候変動に立ち向かう中で、ケベック州が北米地域でどのように真のリーダ ーシップを発揮してきたかをお話し、さらにこの分野には、まだ日本とケベック州が新し いパートナーシップを構築できる余地があることを、お示しできればと思います。 まず最初に、気候変動との戦いにおけるケベック州の姿勢は、根底を成すふたつの想いか ら導き出されたものであると考えております。それは行動を起こしたいという想いと、行 動を起こすに当たっては持てる力を最大限に発揮したいという想いです。各国政府や国際 機関が気候変動への取り組みを行っておられますが、もっと下のレベルでも関係当局が専 門的な知見を持ち、それを活用しながら責任ある立場で環境の変動に取り組み、中心的役 割を担っている例が実際に存在しています。カナダ国内の州政府や市当局、そして日本の 都道府県や市町村がそうです。 私どもは、気候変動問題に対して行動を起こしたいという、はっきりとした想いを持ち続 けてきました。そして、ケベック州政府として京都議定書の順守を決め、2012 年までに州 内の温室効果ガスの排出を、1990 年を基準として 6%削減するという目標を定め、それに 向けた一連の政策や対応策を実施しました。ケベック州はすでに、電力需要の 97%を水力 発電や、これまでにない規模に発展した風力発電などクリーンで再生可能な資源によって まかなっており、主にそうした努力が功を奏して、現在カナダ国内のどの州よりも温室効 果ガスの排出が少ない州であります。それにもかかわらず、さらにこうした方針を打ち出 したことは、注目に値する点だと思います。 ケベック州政府が採用した政策のうち、最大かつ最も充実したものは、間違いなく「ケベ ックと気候変動―未来への挑戦」と名付けたアクションプランでしょう。これは 2006 年か ら 2012 年にかけて実施されているもので、温室効果ガスの削減に最も深い関連を持つ主要 分野、すなわちエネルギー、交通、工業、農業、技術革新、政府事業などを対象としてお り、気候変動に適応するための極めて重要な問題に対する対策もいくつか用意されていま す。 このアクションプランには、1,300 億円の予算を計上しています。主な財源は化石燃料によ る二酸化炭素排出に対する課金で、エネルギー業者から徴収します。この炭素税の課税は 2007 年に決議されたものですが、これは北米地域では初めてのことでした。去る 7 月には、 こうした形での資金調達が気候変動対策の財源としてどのように機能しているか、それを 調査したいということで、日本の専門家の方々もお見えになりました。また炭素税以外の 財源としては、カナダ連邦政府から最大 300 億円の拠出を受けており、これは総予算の 23% 弱に相当します。 さて皆様ご承知のとおり、気候変動はグローバルな課題であります。気候変動に国境はあ りません。そのため、ケベック州は自州で政策やプログラムを採択し、実行することに加 え、気候変動などの環境問題に対応するための行動力をより強化するために、様々な国際 的取り組みや国際的ネットワークにも参加しております。 まず、気候変動と戦っていくには市場ベースでの対策が不可欠であるという信念のもと、 そのための具体策として、キャップ・アンド・トレード方式による北米地域最大の温室効 果ガス取引制度、西部気候イニシアティブ(WCI)に参加しています。この制度にはカナダ からはオンタリオ州など 4 州、米国からはカリフォルニア州など 7 州が参加し、2020 年ま でに温室効果ガスを 2005 年基準で 15%削減するという地域目標を掲げております。この制 度は 2012 年に正式導入されますが、モントリオール証券取引所とシカゴ気候取引所の合弁 事業であり、カナダ初の炭素排出量取引市場である、モントリオール気候取引所の発展に も寄与するものとなるでしょう。 東京都でもキャップ・アンド・トレード制度を実施しておられますが、東京都の制度には この西部気候イニシアティブ(WCI)とのいくつかの類似点があります。一方、先日木曜日 に東京都の御担当者にお目にかかった際には、それぞれの制度特有の特徴についても意見 を交換することができました。ちなみに私どもケベック州と東京都はともに、今般国際炭 素行動パートナーシップ(ICAP)に加盟しました。これは炭素排出量取引に関する情報や 知識の共有を促進するための国際的なグループであり、最終的には世界の主要な排出量取 引制度の相互連携へとつなげていこうとするものです。 気候変動に対する国際的取り組みとして、ケベック州が行っているもうひとつの重要な活 動は、気候の安定へ向けて、各国の連邦州や地方公共団体が政策決定の足並みをそろえ、 対策を積極的に推し進めていくために、当局間のネットワークを主導することです。 そうしたネットワークが提唱し、ケベック州とマニトバ州の首相が音頭を取って実現した 行事のひとつが、自治体リーダーサミットです。2005 年 12 月、第 11 回国連気候変動枠組 条約締約国会議と並行して、モントリオールで開催されました。そのリーダーサミットで は 33 の連邦州政府の代表が、持続可能な経済と温室効果ガス排出削減の両立を可能にする 新しい取り組みを通じて、気候変動と積極的に戦っていくことを明確に再確認した「モン トリオール宣言」に署名しました。 第 2 回自治体リーダーサミットは昨年 12 月、ポーランドのポズナニで開催され、また国連 気候変動枠組条約(UNFCCC)のイボ・デブア事務局長との会談も実現しました。次回は 本年末、コペンハーゲンでポスト京都議定書の新たな目標が決定される大規模な会議と並 行して開催され、世界中から自治体のリーダーが再び集結します。 この取り組みは、次第に大きく結実しております。その素晴らしい一例をご紹介しましょ う。先週の国連総会では、日本が気候変動との戦いにおけるリーダーシップを表明されま したが、その総会と時を同じくして、気候保全団体の「気候グループ」、国連財団(UNF)、 ニューヨーク市の共催による大規模な国際会議「気候ウィーク NY℃」が開催されておりま した。開会式はトニー・ブレア英国前首相が執り行い、ケベック州首相ジャン・シャレは そこに連邦州および地方自治体代表として参加しました。席上、シャン首相は自治体リー ダーを代表して、潘基文(パンギムン)国連事務総長に宛てて、気候変動との戦いには自 治体政府レベルの貢献が不可欠であることを強調し、来たる 12 月のコペンハーゲン会議で 設定される目標達成に向けて、地方自治体および連邦州政府が共に手を携えて積極的に活 動していくことを宣言した声明文を提出しました。 自治体リーダーサミットなど国際的なネットワーク活動を通じて、州政府および地方自治 体は次第に結集してその活動を強化しており、また気候変動との戦いにおいて自治体が果 たすべき重要な役割についての認識も定着してきております。こうした自治体の貢献が、 望ましい「コペンハーゲン議定書」の枠組みの中に正式に盛り込まれることを、特に望ん でおります。 ケベック州はこれまで、先ほどお話したような国際的活動を通じて、そこに参加された米 国、欧州、オーストラリアほか多数の国、州、地方政府などとの関係を発展させてまいり ました。気候変動対策においては、日本も非常に重要な役割を担っておられますし、日本 の地方自治体から長年にわたって優れた取り組みが提唱されてきたことも考え合わせます と、こうした国際的ネットワークに日本の都道府県や大都市が参加していただくことは、 大変有益なことだと考えております。日本側にとっても、温室効果ガス削減への取り組み に関するベストプラクティスや政策について、海外の仲間と地域レベルでの理解を共有で きるという点は、大きなメリットであろうと思います。 お話したい最後の点は、技術革新の問題です。これもまた気候変動対策の不可欠な要素で あり、ケベック州でも温室効果ガス削減のための総合的対策の基盤の一部を成すものです。 低炭素経済へ移行することは、技術革新、経済成長、雇用創出など、大きなチャンスを数 多く生み出すと同時に、エネルギーの安全保障をも向上させるものであると確信しており ます。ケベック州はすでに、環境コンサルティングエンジニアリング、二酸化炭素の回収 と隔離、多様な原料からのバイオマス産出、温室効果ガス測定などの分野で産業基盤が整 備されておりますし、専門性の高さも認知されております。最後に申し上げた温室効果ガ ス測定に関しましては、実はケベック州で開発した技術が、日本の JAXA(宇宙航空研究開 発機構)の人工衛星に乗って、現在、軌道を回っております。1 月に打ち上げられた温室効 果ガス観測技術衛星「いぶき」に搭載されている温室効果ガス測定装置は、多国籍企業 ABB 社の子会社であるケベック州の ABB アナリティカル社が設計したものです。 ケベック州の環境産業は、この 5 年間に加速的な発展段階に入り、現在約 1,600 の事業所、 3 万 5,000 人分弱の雇用を擁しております。この分野を本格的に発展させるため、州政府と しても支援策をとっており、一連の政策の中で最も重要な政策である、ケベック州の環境 技術産業のための開発戦略が昨年採択されました。この戦略には 240 億円の予算が付き、 特に産業研究プロジェクト、技術の創造と実証、事業開発に対する手厚い支援が可能とな っています。 この戦略を完全なものとするには、さらに分野ごとの施策が必要です。そこでちょうど 1 カ月前になりますが、エネルギーに関して、自然エネルギー技術開発のための支援プログ ラムを開始しました。このプログラムは、風力エネルギー、太陽光エネルギー、地熱エネ ルギー、水素エネルギー、バイオエネルギー、電気自動車の分野において、応用研究プロ ジェクトの数を増加させることを目指したものです。 またケベック州では、森林管理の枠組みの見直しの一環として、州内で建築資材として木 材使用を促進する戦略を採択しました。これが気候変動にどのように関連しているのか、 あまり知られていないのですが、次のような関連があります。建築に使われる材料の耐用 年数を種類ごとに比較すると、木材製品は最も環境にやさしい材料のひとつであることが 判明しました。コンクリートあるいはスチール 1 立方メートルの建築資材を同量の木材に 換えると、温室効果ガスの削減に直接的な効果があり、その削減量は二酸化炭素約 1 トン に相当すると試算されています。 ケベック州の環境技術産業は、ビジネス開発にせよ、研究開発にせよ、外国からの支援が なければ十分な開発は望めません。そのことは明白な事実です。外国のパートナーと協力 せずして、この産業分野での活動を大きく発展させることは不可能です。その点からも、 環境技術および再生可能エネルギー開発における世界的リーダーである日本は、私どもに とって将来の大変重要なパートナーであると感じております。日本とケベック州は、航空、 自動車、IT、アグリフード、ナノテクノロジー、木材製品などの分野ですでに強固な関係を 築いておりますが、近い将来、ここに環境産業および環境技術産業も加わるに違いないと、 私は確信しております。 環境問題には緊急な対応が必要です。ケベック州としては、環境関連分野で活躍している 州内の実業家および研究者の皆さんが、日本での交流や連携の機会について特に注目する よう、確実な促進策をとっていきたいと考えております。また日本の皆様にも、ケベック 州への関心を高めていただけるよう、十分な取り組みを行ってまいります。申し添えます と、ケベック州は、GDP に対する研究開発費支出の割合がカナダで最も高い州です。パー トナーシップ案件をお考えの方がいらっしゃいましたら、ケベック州政府在日事務所へご 連絡ください。喜んでお手伝いさせていただきます。 ケベック州の広大な土地のうち、70%は未開発といわれています。ケベック州政府が北部 開発を目的とした「ノーザン・プラン Northern Plan」を提唱しているのはそのためです。面 積でフランスをも上回る北部地域が、潜在天然資源の宝庫であることは疑う余地はありま せん。近い将来、北部地域の鉱床や森林、河川を、環境と先住民コミュニティーに配慮し たアプローチによって開発し、有効利用できるようにするのです。我々は新たな保護区を 創設し、そこに 10 万ヘクタールの新しい森を作ろうとしています。この森が成長すれば、 年間 8 万トンの温室効果ガスを吸収することができるでしょう。これは乗用車を年間 3 万 2000 台減らすのと同等の効果を発揮します。ケベック州政府のビジョンが現実のものとな れば、地球と人類のために気候変動を阻止する闘いにおいて、大きな一歩を踏み出すこと になるでしょう。我々はこのプランを成し遂げるために、日本のパートナーの方々と緊密 に連携していきたいと強く願っております。 最後になりましたが、本日お話した内容に関連して、今後モントリオールで開催されるふ たつの大規模な国際イベントに皆様をご招待申し上げたいと思います。ひとつは 2010 年 9 月に予定されている第 21 回世界エネルギー会議です。ケベック州政府もメインスポンサー に名を連ねております。世界エネルギー会議は 3 年ごとに開催される大規模な会議で、1995 年には日本動力協会を通じて日本の皆様の御尽力をいただき、東京で開催されました。 もうひとつは、2011 年 3 月に予定されているアメリカーナ・トレードショーです。北米最 大級のイベントで、技術的側面、科学的側面、商業的側面から環境に関する交流を行いま す。これらふたつのイベントを皆様のスケジュール帳に書き込んでください。そして、ぜ ひモントリオールにお越しいただきたいと思います。 御静聴ありがとうございました。また本日はお招きいただき、誠にありがとうございまし た。 (日本語で) 「どうもありがとうございました」
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