172 基礎塗装講座(第 IV 講) J. Jpn. Soc. Colour Mater., 85〔4〕,172 – 178(2012) 自動車外板塗装における最近の技術動向 寺 田 勝 *,† *ABB ㈱オートメーション・モーション事業部ロボット部門塗装機部 静岡県島田市相賀 948-1(〒 427-0033) †Corresponding Author, E-mail: [email protected] (2012 年 2 月 20 日受付; 2012 年 2 月 21 日受理) 要 旨 最近の自動車塗装技術の動向について,塗装機,塗装ロボットと制御システムについて述べた。今日の塗装技術に対してさらなる 環境負荷の低減が求められており,塗装ブース面積の縮小化と多色化に柔軟に対応する塗装システムが求められている。塗装機にお いては,エアモータの高性能化による塗料の大吐出量化,塗料のオーバースプレー量を大幅に削減できるパターン制御技術,塗装ブー ス面積の縮小化と多色化を実現できる洗浄機能付カートリッジ,および塗装機に飛散した塗料粒子が付着することを防ぐ汚れ防止機 構について述べた。塗装ロボットにおいては,可動範囲の広い壁掛け式ロボットと,本ロボットが可能にするブースの省面積化につい て述べた。制御システムにおいては,一般的な機器構成,制御方式および機器のもつ遅れの補正について述べた。 キーワード:自動車塗装,回転霧化式静電塗装,塗装ロボット,プロセス制御 1.はじめに 2.塗装機 2.1 1960 年代後半に日本国内において自動車塗装に静電塗装が適 用され始めてから今日まで,塗装技術は時代の要請に応えるた 塗料の大吐出量化 自動車塗装ブースの空調に使用されるエネルギー消費量は, め日々改良が重ねられてきた。吉田 1)は静電塗装機の誕生から 塗装設備全体におけるそれの半分以上を占め,ブース面積を縮 今日までの自動車塗装のトレンドを,年代別に次のようにまと 小することが二酸化炭素(CO2)排出削減に有効である 4)。そ めており,2000 年代を「さらなる環境負荷低減の追及」の時代 のためには,塗装ブース内に設置する塗装機の台数を減らすこ とまとめている。 とが必要となる。そこで,一台の塗装機が吐出できる量を大幅 1950 年代 静電塗装機の誕生と普及 に増やす大吐出量化が図られた。現在,塗料の微粒化状態は維 1960 年代 自動静電塗装の幕開け 持しつつ,最大 1000 ml/min の塗料を吐出することができる塗 1970 年代 静電化(高塗着効率化) 装機が開発されている。本技術を支えているのが塗料の微粒化 1980 年代 高外観仕上がり(ベルカップ高速回転化) を担うエアモータの性能向上である。Fig. 1 は,最新型の塗装 1990 年代 直材費削減と環境対策 機と従来の塗装機で使用されているエアモータにおけるタービ 2000 年代 さらなる環境負荷の低減の追及 ンエア圧とベルカップ回転数の関係である 5,6)。最新型の塗装機 また,昨今のカラートレンドに見られるように,自動車ボデ で用いられているエアモータは従来の塗装機と比較し,小さい ィにおいてユーザ層の好みによって異なる演出を行ったり,北 供給エア圧でも立ち上がりが速く,到達できる回転数が高い。 米,ヨーロッパやアジア太平洋など地域により異なる塗色の流 また,供給できるタービンエアの最大圧も増加されている。 スプレーパターン制御技術 4) 行があることから,多様なカラーデザイン(多色化)への対応 2.2 も求められている 2,3)。 スプレー塗装時に発生するオーバースプレーによる塗着効率 本稿では,これらの要求を満たすための最近の取り組みにつ の低下を防ぐための技術であるスプレーパターン制御技術(パ いて,塗装機,塗装ロボットと塗装システムという三つの視点 ターン制御)について述べる。Fig. 2 左に示すように,従来の から解説する。 〔氏名〕 てらだ まさる 〔現職〕 ABB ㈱オートメーション・モーション事業 部ロボット部門塗装機部 〔趣味〕 ドライブ,旅行 〔経歴〕 1998 年拓殖大学大学院工学研究科博士前期 課程修了,2004 年千葉大学大学院博士課程 単位取得退学,博士(工学) 。 Fig. 1 − 36 − Turbine air performance comparison of conventional atomizer and present atomizer.
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