第2章 国内外の火山地帯と火山灰分布地域 5 世界の火山地帯 目下、世界で活動中または活動可能な火山の総数は、噴火記録のあるもの、噴気中のもの、及び噴気地帯を含 めると八〇〇以上もあり、その中の八割程が、環太平洋地域の弧-海溝系に属するものであると言われている。 その他、現在、活火山ではないが、鮮新世第四紀(五〇〇万年前から一六〇万年前までの期間で、新生代の第五 の時代)に活動した火山は三八〇〇程もあると言われている。実に、大陸部も島弧も含めて地球上のあらゆる陸 地全体が、かつて何らかの噴火活動によって形成されてきたようだ。 ところが最近の海洋底の調査によると、島弧や大陸縁部の火山に対して、海中に存在する海底火山の予想外の 活発さを示す痕跡が発見されている。即ち、太平洋には非常に沢山の火山があり、中央部だけでも二〇万の火山 円錘丘と二〇〇〇から一万の平頂火山(ギョー)の存在が知られている。ハワイ諸島を始め、地殻内部からの熱 の噴出が活発なことで知られるガラパゴス諸島やイースター島はこうした海底火山の頂部が海面上に姿を現わ したものとされている。またハワイ北方に、海面下に一列に並んでいる天皇海山群も海底火山であり、古くは、 ハワイ諸島のように海面上に姿を現わした火山島であったものと思われる。 そして太平洋以外でも、例えば大西洋の中央海嶺にもこうした海底火山が特に集中しており、海丘、即ち、海 洋学者が言うところの小火山の総数は、数十万という膨大な数に達しているようだ。海洋底は地殻が大陸部に比 較して薄く、地球内部からの熱の湧出量も高く、特に海嶺部分は、地殻下面からの高温の熱水及び蒸気の混合体 の大規模な噴出地帯と見られている。インド洋についても同様のことが言える。ここでは、海面下に存在する膨 大な海底火山は別にして、直接、姿を見せている大陸部及び島弧の活火山について挙げてみよう。 まず、環太平洋地域であるが、ここは世界でも最多数の活火山が存在し、特に最も多いのは、カムチャッカ弧、 東北日本弧、千島弧、そしてインドネシア弧の各火山帯となっている。そしてこの環太平洋火山帯を、南端の南 極大陸から見ていくと、ここの火山の分布は、ロス海西側の南極大陸沿岸部の火山群と、南極半島から西南極大 陸のはずれに続く火山群とに大別される。前者には、ロス海西端の火山島のロス島にあるエレベス山、メルボル ン山、ディスカバリー山、ブラウン半島、ブラック島、ホワイト島、デイリー諸島等によって代表されると言う。 また後者には、デセプション島があり、フォスター湾は、火山活動後に陥没してできたカルデラであるとされて いる。更に両火山群の中間部にはハンプトン山、ベルリン山等の火山がそびえていると言われている。このよう に、南極にも火山が存在しているが、地震の方は、厚い氷の為に地上で観察されるものはないとされている。 次に南米大陸に渡ると、南端のパタゴニアからアンデス山脈に沿って多数の火山がある。特にチリ北部のアタ カマ砂漠付近の火山やチリ中央部の火山、そしてペルーのミスチ、エクアドルのコトパクシ、チンボラソ等の火 山が知られている。またカリブ海の西インド諸島では、小アンチル諸島におけるべシー、スーフリエール、モン ベレー等が有名である。そして中央アメリカから北米大陸にかけては、シエラマドレ、シエラネバダ、カスケー ド、ロッキー等の各山脈に沿って、特に米国やカナダの太平洋側に沢山の火山がそびえてアラスカに至っている。 主な火山としては、コスタリカのイラズ、ボアス、エルサルバドルのイサルコ、ニカラグアのモモトンボ、グ アテマラのサンタマリア、フエゴ、アグア、アカテナンゴ、そしてメキシコではオリサバ、ポポカテベトル、パ リクテン、コリマ、カリフォルニア半島部のトレスビルヘネス等の諸火山がある。大火山国のアメリカにも、ベ ーカー、ラッセンピーク、シャスタ、クレーターレイク、セントヘレンス、サンホアン、アブサロカ等があり、 カナダではレイニア山、そしてアラスカではマッキンレー、カトマイ、マウント・スパー等がある。 そして北米大陸からアリューシャン列島のタナガ、ウナラスカ、ノパブロス等の火山島を経てカムチャッカ半 島に至る。ここは世界で最も多くの活火山を有し、ベズイミアニ、クリュチエフスコイ、シベルチ、プロスキ等 がある。更に多数の活火山が存在じている千島列島から日本に至るのである。この千島列島は、二重の弧状(南 側の歯舞~色丹島、北側の国後~択捉島)の配列をしている。このうち、南側の島々には数百万年前以降に活動 した新しい火山はない。しかし、北側の国後島からカムチャッカ半島まで続く島々のうち、最北端の占守島を除 く島々では新しい火山活動が起こっており、文字通りの火山島である。現在でも活動中の火山が多く、北方領土 の国後・択捉の二島だけでも、気象庁の認定による一〇もの火山がある。 火山灰及び火山に関する考察:11 参考までに、千島列島の火山を紹介すると、アライド火山があり、島全体が火山島であるアライド島、チクラ 火山やシリヤジリ火山があるパラムシル島、黒石火山や幽仙湖カルデラがあるオンネコタン島、ハルムコタン火 山があるハルムコタン島、芙蓉火山があるマツワ島、ケトイカルデアとカルデア形成後にできた火山群からなる ケトイ島、プロトン湾カルデアと橘湖カルデアなどのカルデラ火山やシンシル富士火山などがあるシンシル島、 地獄山火山やベルゲ火山などがあるウルップ島、美しい山容のアトサヌプリ火山や溶岩ドームで有名な択捉島、 爺爺岳火山がある国後島である。 なお、日本の活火山は、これだけでも一〇〇前後の膨大な数になるものである故に、別項に譲ることにして、 日本の南方にいくと、真南にはウラカス、アグリガン等の火山があるマリアナ諸島の火山列島が連なり、更に南 にはインドネシア、ソロモン、ニューヘブリーズ、トンガ、ケルマデイックの火山諸島が弓なりに連なっている。 また日本の南西方面には、琉球列島を経て、台湾、フィリピン、そしてインドネシアで合流している。フィリ ピンでは、ピナツボ、タール、マヨン、ヒボックヒボツク等の活火山があり、またインドネシアは世界有数の大 火山群島であり、スマトラ、ジャワ、セレベス、ニューギニア等を中心に沢山の火山が存在している。主なもの では、スマトラ島のマラビ、リリンチ、クラカタウの火山、ジャワ島ではメラピ、クルート、ラウン、タンク・ パンベラフ、ニューギニア島ではラミングトン、ファルコン等の火山があり、その他にバリ島のアグン、パトー ルや小スンダ諸島のタンボラ火山が有名である。 そしてニュージーランド北島にも、タラウエラ、ルアベフ等の火山があり、ロトルア湖やタウポ湖は火山爆発 によって生じた陥没湖であるという。また、ビルマやベトナム地方には活火山と呼べるものは一つもないが、鮮 新世第四紀火山は実に四〇余りもあり、ここでも昔、火山活動があったことが知られている。同様に、オースト ラリアやタスマニア地方も活火山こそ殆ど存在しないが、火山群中の個々の火山体を一つ一つ数えていくと、鮮 新世第四紀に活動した火山が六〇〇余り程あることが解っている。 そして、中国東北部、モンゴル、シベリア、朝鮮等にも数は少ないが活火山が分布しており、広大な溶岩台地 もあり、鮮新世第四紀火山も九〇余り存在していると言う。因みに、中国東北部には、中国を代表する火山の長 白山火山(半分は北朝鮮に存在し、朝鮮名は白頭山)があるが、これは、一〇世紀に過去二〇〇〇年間で、一八 一五年のタンボラ火山(インドネシアのスンバワ島)噴火に次いで世界最大級の噴火をして、三〇〇個以上の火 山体からなる巨大な玄武岩質複成の活火山である。また、中国・モンゴル国境近くの大興安嶺山脈には伊爾施(イ ルス)火山があり、更に奥地(北東部)にも、伊爾施(イルス)火山よりも大きな火口湖を持つ火山が幾つもあ るようだ。また、長春市南方の馬鞍山火山、黒龍江省牡丹江市南方の鏡泊湖火山も知られており、黒龍江省北西 部の中国最北部の五大連池火山は、合計一四個の火山から成り中国で最も新しい火山である。我国に最も近い韓 国の済州島や鬱陵(うつりょう)島も火山島であり、本土にも多くの火山が分布している。 中国には、先の東北部の玄武岩質火山群の他に、ヒマラヤ造山系の安山岩質火山群があり、チベット高原周辺 部、タリム盆地南側のコンロン山脈、中国南東部の雲南省騰沖周辺部、また海南島及びそれに面する中国大陸側 にも火山活動が知られているようだ。中央アジアに通じる中国西域のタクラマカン砂漠の入口トルファンという 地の近郊にも、その昔、火焔山という火山が赤々と燃えていたと中国の古書に某詩人が謳っていることが伝えら れている。今は周囲がすっかり砂漠化してしまったが、火焔山は、決して赤々と太陽を背に受けて燃えるようで あったとかの比喩ではなく、案外、火山そのものであり、周囲一帯はかつては火山の噴火する地帯であったよう に思われる。 なお、アジアの台湾、フイリピン、インドネシア、中国、インド、これらは皆火山国である。 またアラビア半島からアフリカに目を向けると、紅海付近からエチオピアを経て東アフリカ大地溝帯にも多数 の活火山が分布している。即ち東アフリカでは、キリマンジャロ、ニーラコンゴ、ニヤムラギラ、ミケノ、カリ シムジ、オルドイニョレンガイ等の活火山があり、更に離れてギニア湾に面したカメルーン、そして大陸部に近 い大西洋上にはカナリア諸島のテネリフエ島、アセンション島、セントヘレナ島、インド洋上のレユニオン島等 の火山島がある。またサハラ砂漠中央部にも火山があると見られており、リビア、アルジェリア、チュニジア、 モロッコから地中海を経てフランス中央高地のオーベルニュに至っている。 火山灰及び火山に関する考察:12 そしてヨーロッパでは、火山の博物館として有名なこのフランス中央高地やライン地溝帯があり、イギリスに もスコットランド地方に広大な溶岩台地があって、アドナムルハン半島には火山が存在し、ムル島はカルデラで あると言う。更に東ヨーロッパからトルコ、中近東に及び、中央アジアに達している。ノアの箱舟で有名なアラ ラト山は確認されてはいないが、古い火山ではないかと思われる。 また地中海には、イタリアを中心に、ポンベイやリクラニウムの都市を壊滅したべスビウスを始め、ストロン ポリ、エトナ、プルカノ、サントリン等の地中海火山群が存在し、バルカン半島から先の東ヨーロッパと連なっ て、小アジア、中央アジアへと続いている。なお、イスラエルとシリアとの係争地であるゴラン高原は火山灰の 宝庫だ。そしてイスラエルやシリア、サウジアラビア、イラク、イランなどは正に砂漠の国である。 一方、大西洋中央海嶺沿いには、北のアイスランドのスルツエイ、ラキ、ヘクラ等の火山から、アゾレス諸島、 ファロス諸島、バーミューダ諸島、そしてトリスタン・ダ・クーニャやアフリカ西岸に近いフエルナンドプー、 プリンシップや先述の火山諸島があり、海嶺から大陸に向かって遠去かるにつれて生成年代も古くなっている。 さて、太平洋に目を転ずると、ハワイ諸島は有名な火山群島であり、オアフ島にワイアナエ、クーラウ、ハワ イ島にはコハラ、ファラライ、マウナケア、マウナロア、キラウエアの火山が存在して、東にいくにつれて新し い活動型の火山となっている。またクリスマス島やビキニ島等はサンゴ礁が発達して上部は石灰岩で覆われてい るが、その下は火成岩による火山島または海底火山等となっていると言われる。他にも多数の活火山のある火山 島が存在している。 こうした活火山の他に、世界には多くの溶岩台地も見られる。例えば、北アメリカのアリゾナ州のウイリアム キャニオン、インドのデカン高原、北アメリカのコロンビア台地、スコットランド、北西大洋地域、南アメリカ のパタゴニア台地等である 6 世界の火山灰分布地域 火山灰は、より微細な粒子の火山塵や、より粒径の大きい火山砂、火山礫と共に、火山噴火に伴って空中に放 出され、風によって周囲に飛散する。そして火山爆発の威力や、爆発時や爆発地域の風の方向や速度等によって、 これらの火山噴出物は、空中に長期間滞留したり、遠方に運搬されて降下堆積することになる。地球上には、低 緯度では貿易風、中緯度付近で偏西風、極地付近で極東風、そして季節的な気圧配置による季節風や、地勢学的 な気温変化に伴って生ずる各種の地域的な風が存在している。火山灰は、こうした様々な風に乗って風下に向っ て飛来し降下堆積する。従って火山灰は、火山分布地帯はもちろん、それから遠く離れた非火山地帯にも降下し て賦存することになる。 火山灰は地域独特の気候風土の下で、即ち、特有の雨水や太陽光線・熱、それに微生物等の様々な作用によっ て種々の成分や性状の物質に風化変質する。そして厳しい気候環境の下では、含有する某種の元素やイオンを選 別的に流出したり、残留させたりもする。また風化して粘土化したり、有機質と混ざって来た時には、多大な肥 料効果を土壌に提供したりして肥沃な森林地帯や穀倉地帯、そして果樹・牧草等の地帯に変えていくことも多い。 逆に著しい乾燥気候の下では、大砂漠や荒地に変化させることもある。 今日の高温多雨の熱帯地方である東南アジアやブラジル等の丘陵地帯や山岳地帯の地表は、ラテライトと呼ば れる赤褐色で砕け易く多孔質な土壌(赤・黄色土)に覆われ、極めて肥沃な山野を形成している。実はこのラテ ライト土壌は、周囲のまたは遠方の火山爆発によって持たらされた火山灰が風化し、某種の成分が溶脱したもの と思われる。即ち、降下堆積した火山灰が、東南アジアや南米独特の太陽光熱、雨水、微生物等による強い化学 的風化作用の下で粘土等に変質し、更に、それから粘土中のNa(ナトリウム) 、K(カリウム) 、Ca(カルシ ウム) 、Mg(マグネシウム)の各イオンが次々と溶脱する。 そしてこれらの各イオンは地表や地中の水を中性あるいはアルカリ性に変え、その結果、比較的溶脱しにくい Si(珪素)も溶脱することになる。しかし、Al(アルミニウム)やFe(鉄)はアルカリ性の水には溶脱し にくいので、地表や地表近くの地中に残留することになる。こうしたAl(アルミニウム)とFe(鉄)は、酸 素や水分子と化学的に結合して水酸化物を作り出すことになる。こうしてできた鉱物の色がラテライトの色だと 火山灰及び火山に関する考察:13 言われている。そして特に、シンガポールの南にあるビンタン島や、南アメリカ北部のギアナ等の赤道付近では、 厳しい気候条件の下で、ボーキサイトといわれるアルミニウム鉱石に恵まれることになるのである。 また北半球の亜寒帯北部に連なる針葉樹の大森林地帯、即ち、タイガの下に、発達した土はポドソルと言われ、 逆に、鉄やアルミニウム、それにカルシウム等の塩基成分が、水によって溶脱され下方に洗い流されて生成され たもので、火山灰の風化変質と何らかの関係があるものと思われる。そして低緯度地方のラテライト(赤・黄色 土)と高緯度地方のボドソルの中間地域には、湿潤地帯では褐色森林土、乾燥地帯では灰色森林土やチエルノー ゼム(ステップの土)が分布している。褐色森林土は、比較的温暖で湿潤な地方の、主として広葉樹の下にでき る褐色の土である。そしてアルカリ金属やアルカリ土金属の相当量が流出しており、粘土鉱物に富み、鉄やアル ミニウム等の溶脱は余り行なわれないと言われる。これも火山灰の風化と何らかの関係を有しているのではと思 われる。 更に、ヨーロッパ・ロシアのような乾燥地帯では、北から南へ下るとポドソルから灰色森林土、そして更にチ エルノーゼム(ステップの土)と変化する。この灰色森林土地域の森林はナラを主体としたものといわれ、ポド ソル分布地域とチエルノーゼムの分布地域の中間にある。その為、ポドソル化作用と腐植集積作用の両方の影響 を受け、褐色森林土よりも粘土生成作用が少ないと見られている。これの成分や性状も火山灰と何らかの関係が あるものと思われる。 そしてチエルノーゼムは、ウクライナ地方に分布し、ステップ気候によって生成された黒色の土で、大量の腐 植土が地中に集積して世界的大穀倉の黒土地帯を形成している。これとよく似た土は、他にも北アメリカ中央部 の大平原に拡がるプレーリーがあり、同様に肥沃な穀倉地帯となっている。実にこの腐植土の集積である草原の 黒い土は、日本でも黒ボク土などといわれて肥沃な土壌を形成しているもので、火山灰が降下堆積して特有の気 候条件下で風化したものである。 その他、今日の肥沃な地帯を形成している多くの河川の流域も、上流の火山灰が適度の気候で風化し、そして 有機腐植土などと混ざりあって優れた肥料効果をもたらしているようだ。即ち、ナイル河流域やユーフラテス河 流域、そしてアマゾンやラプラタ河流域の肥沃さは、何らかの形で火山灰が関係しているようだ。世界の全ての 森林、田畑を形成している土壌には、何らかの火山灰の風化物が混ざりあっていると思われ、火山灰が適度の雨 水や太陽光熱、そして生物等の作用により、様々に変質した上で種々の腐植土、溶脱土、粘土等に生成し、これ らが適度に土壌を構成しているものと考えられる。また地域的にも多種多様の土壌が存在するのも、当初の火山 灰自体の成分や性質上の差異に加えて、その地方独特の気候風土等の環境から来る風化条件の多様性によるもの と思われる。 一方、地球上には、森林や田畑等のように植物が繁茂する地域以外に、極度の乾燥気候によって大砂漠や大荒 地を形成している地帯がある。こうした大砂漠地帯等に多量に分布する砂も実は火山噴出物としての火山灰・火 山砂であることが多いと思われる。たとえ、成分的に特定のものに偏していても、それはその地方独特の乾燥気 候によって変質したり溶脱したものであり、元来は火山灰に由来するものも多いと思われる。そして森林の伐採 や田畑の酷使等の人為的理由によって砂漠化した地域でも、有機質や粘土質が極度に乾燥分解して消滅して、元 の無機物である火山灰質のものに還元されたものもあることと想像される。南米チリ北部のアタカマ砂漠の砂は アンデス山脈中の多数の火山噴火によりもたらされたものと思われる。 また米国南西部のアリゾナ、ユタ、ネバダの各州にある砂漠も、溶結凝灰岩の柱状節理が示すように、周辺の 火山群よりの火山灰・火山砂等によるものと思われる。メキシコ地方の砂漠も同様である。そしてアフリカの大 サハラ砂漠も、大西洋及び紅海・大地溝帯の火山からの噴出物に関係があるのではと思われる。同様にシリア砂 漠やネヘド砂漠も紅海や地中海の火山群からの飛来物によるのではと考えられる。更に、中国の黄砂、黄土も微 細な多孔質の物質であり、西方の砂漠地帯から風で運ばれて来るが、元来は火山灰の一種ではないかと思われる。 これらの砂漠では、砂漠特有の気候により、溶脱されて褐鉄鉱が著しく発達したり、石膏、カリ塩、岩塩等がた まることもあるが、火山灰質も極めて多いものと想像できる。 火山灰及び火山に関する考察:14 7 日本の火山地帯 我国は世界でも有数の火山国であり、世界の一割程になる約七〇~八〇の活火山が存在すると言われており、 昔から火口より噴煙を上げて活動中のものは、以前からでは桜島火山、阿蘇山、三原山、浅間山の四つであった が、最近噴火した火山では有珠山、雲仙普賢岳、三宅島がある。そして最近、政府筋の某研究所からは、かつて 一万年以内に噴火活動した火山も活火山と再定義し直したようだ。そして新たに二〇ほどの活火山を追加したよ うだ。 日本の火山分布は、北から千島、那須、鳥海、富士、乗鞍、白山、霧島と多くの火山帯に細分化されるが、大 別すると近畿地方を境にして東日本火山帯と西日本火山帯の二つに区分される。これらの火山は、ある火山前線 (火山フロント)を境にして、これより西側に分布している。この火山フロントは、日本列島に沿って中央部を 南北に走り、富士山付近より南方の伊豆・小笠原諸島に向かっており、海洋地殻が沈降する太平洋側の海溝部か ら陸側一〇〇~三〇〇キロのところを走っている。 そしてこの火山フロントに近いところ程、多くの活火山が集中しており、火山フロントを離れる程、火山の数 もまた噴出物の量も減少している。そして噴出物も珪素(SiO2)に富んで粘性の強い安山岩質から、カリ(K 2O)やソーダ(Na2O)に富み粘性の小さい玄武岩質のものに、即ち酸性からアルカリ性に富んだものへと 変化する。また我国には、世界的に大規模なカルデラも多く、湖や湾や火口原として存在する。即ち、北海道の 屈斜路湖、洞爺湖、支笏湖、東北の十和田湖、九州の阿蘇山、姶良、阿多等の巨大カルデラ群である。次に、参 考までに、日本の有名な火山を列挙しておこう。 まず北海道では、千鳥列島の国後島の爺々岳から知床半島の硫黄山や羅臼岳、そして屈斜路湖、摩周湖のカル デラ湖や雄阿寒岳、雌阿寒岳等を形成する阿寒国立公園区域の各火山がある。旭岳を主峰とする大雪山系や十勝 岳は大雪山国立公園の火山である。なお、北の日本海側の利尻島は火山島である。また北海道南部では、洞爺湖、 支笏湖の大カルデラ湖を始め、昭和新山、羊蹄山、有珠山、樽前山等の火山があり、支笏洞爺国立公園となって いる。近くにはニセコ火山群もある。そして南に下ると、駒ヶ岳、恵山、渡島大島等の火山がある。 東北地方では、下北半島に恐山があり、そして岩木山がある。次いで大カルデラ湖の十和田湖、八甲田大岳を 主峰とする八甲田火山群、そして八幡平、焼山、岩手山、駒ヶ岳等の十和田八幡平国立公園の火山がある。そこ から南にいくと、磐梯山、吾妻山、安達太良山、月山等の磐梯朝日国立公園の火山や、栗駒山、蔵王山、鳥海山 等の国定公園の火山がある。また日光国立公園には、男体山、燧ヶ岳、日光白根山、那須岳、茶臼岳等の火山が あり、周辺には、榛名山や赤城山がある。なお、茨城県の筑波山も古い火山であろうと思われる。 そして上信越高原には、浅間山、荒船山、草津白根、妙高山、焼山、霧ヶ峰、八ヶ岳等の火山があり、中部山 岳地域には、乗鞍岳、焼岳、立山、御獄山等の火山がある。日本一の成層火山の富士山や箱根山の南には、天城 山、大室山等の天城火山群のある伊豆半島があり、太平洋に進んで、三原山のある大島、雄山をいただく三宅島、 新島、式根島、神津島等の伊豆七島の火山島があり、国立公園区域となっている。更にその南方海上には、御蔵 島、八丈富士をいただく八丈島、青ヶ島、明神礁、スミス礁、鳥島、西之島新島、西之島、北硫黄島、硫黄島、 南硫黄島等の火山島が一列に連なっている。また北陸から山陰の日本海側にかけては、白山、大日山、大山、三 瓶山、飯ノ山等の火山があり、日本海上の隠岐諸島の中で最大の島である隠岐島後は火山島である。 そして九州には、雲仙岳を中心とする雲仙火山群を始め、阿蘇山、九重山、由布岳等の火山があり、南部では 霧島山の大火山群、姶良カルデラの一部に噴出した桜島、開聞岳があり、更に南西海上には、硫黄島、口永良部 島、中之島、諏訪之瀬島等の火山列島が続いている。そして西海地域にも、五島列島の福江島に鬼岳、火ノ岳等 の小火山があり、国立公園地域を形成している。なお、対馬海峡の壱岐は、全島が玄武岩の溶岩台地である。以 上の他、瀬戸内海の屋島や、近畿地方の奈良盆地の大和三山等は古い第三紀の火山と言われている。そして火山 ではないが、熱水や熱気の噴出地帯として火山同様の活動をしている地域は沢山ある。 8 日本の火山灰分布地域 我国は、世界的に見ても多様な火山の宝庫であり、実に様々な良質の火山灰が多量に賦存する。火山灰は火山 火山灰及び火山に関する考察:15 からの噴出物である故に、当然、先程の火山地帯に多く分布する。火山の噴出物は、火山塵や火山灰のような粒 径の小さいものから、次第に粒径の大きい火山砂、火山砂利、火山礫、そして火山岩や溶岩と多様である。火山 噴火の際、空中に放出されたこれらの噴出物は、比重の大きいものから早く且つ火口近くに順次落下する。そし て火山灰や火山塵のような微細な粒子は、空中に滞留している時間も比較的長く、風に乗って火山地帯から遠く 離れた地域に運ばれることも多い。 我国の場合、その折々の季節風や地域風によって、空中高く放出された火山灰が流される方向や距離は異なる が、概して、偏西風に乗って火口より東側地域に運ばれることが多い。そして爆発火口に近いところ程、堆積す る火山灰の量も多く層も厚いようだ。また遠方にいくに従って降下堆積する量も少なく層も薄いようだ。それ故 に、降下堆積された同種同質の火山灰の層厚を辿っていくことによって、噴出された火山灰の給源火山を突きと めることができると言えよう。 こうした調査によって、現在では、栃木県宇都宮市近郊の園芸用に利用される鹿沼土の火山灰が、群馬県の赤 城山の火山から噴出して飛来降下したものであることや、関東平野一帯に堆積する関東ローム層の火山灰が、遠 く富士・箱根の両火山より持たらされたことも解っている。また、九州南部の鹿児島県全体や、宮崎・熊本両県 の一部に数百億立方メートルもの火山灰を降下させて、大シラス台地や姶良・阿多の両カルデラを形成した大火 山の爆発は、実に遠く東方一帯に、関東平野にまで及んで火山灰を飛来させたことも解っている。 実に、微粒子の火山灰は火山周辺に比較的多く賦存してはいるものの、それ以外にも、即ち非火山地域にも多 量に飛来し堆積されることもある。その例として、東京に近い千葉県の房総半島である。房総半島一帯は海が隆 起して形成されたもので、南方海域から移動して形成された房総半島南部の火山系地質を除き、火山活動は全く ないが、小高い丘陵地帯に多くの山砂が存在する中に、明らかに火山灰と認められる地層も多くある。また長い 九十九里や外房などの海岸線にも、極めて断熱性に富んだ砂が多く、これらも同様に火山灰である。これらの火 山灰は、遠く富士、箱根の両火山より、また伊豆七島等の火山より偏西風に乗って飛来したものであろう。 同様に、日本海側に突き出た能登半島一帯にも、火山はないが比較的多くの溶結凝灰岩層(グリーンタフ)に 恵まれている。恐らくこれも周囲のまたは遠方の火山から、例えば白山、大日山、大山等の日本海側の諸火山や 中部山岳地帯の方面からの火山噴出により持たらされたものだろう。 なお、有名な鳥取砂丘は強風によって砂山が重なり合った風紋が出来るが、小さな砂紋は不可能であり、また 昆虫がいたり植物が繁茂しているが、単に、地下の粘土層に蓄えられた雨水により砂が湿っているからであり、 それに真夏には高温に熱されるから、耐熱性のある微細な火山灰ではなく普通の砂である。 我国の国土は極めて豊かな森林や田畑に恵まれているが、田畑でも半分以上は火山灰地土壌であると言われて おり、上流から土砂に混って運搬されて来てできた土壌等も考慮すると、実に火山灰が何らかの形で関係してい る地域は更に広範に及ぶのではないかと思われる。それは、大雨が降った後に、河川に流れてくる多くの土石流 とか泥流とか言われるものをつぶさに観察すると、実に山野に堆積する火山灰が、降水と共に流出してくるもの と思われ、日本の山野は正に火山灰の豊富な堆積層であろうと思われるからだ。 そして我国で火山灰や火山礫が極めて豊富に賦存する地域は、姶良・阿多の両カルデラによる爆出で持たらさ れた九州南部であり、また十和田湖の大カルデラによる青森、秋田、岩手の各県にまたがる降灰地域である。そ して大東京の近くでは、富士山麓、伊豆半島、群馬県の赤城、榛名、浅間の各火山周辺、栃木県の日光付近、更 に大島、三宅島、新島等の伊豆七島の各火山島が火山灰・火山礫の最大の且つ比較的新しくて工業的に利用可能 な分布地域と言えよう。 更に我国の周辺にも火山灰・火山礫は極めて豊富に賦存している。例えば、韓国の済州島や鬱陵(うつりょう) 島)は全島が豊富な火山礫で覆われた火山島であり、韓国本土にも多く賦存している。ただ韓国には降水により 流出してしまったせいか、火山灰は少ないようである。また台湾やフィリピン、インドネシアはもちろん火山王 国であり、更に千島列島からカムチャッカ半島にかけては、世界最大の火山地域であり、島弧全域や半島全域に 亘って極めて豊富な火山灰・火山礫の分布地域となっているものと思われる。そして北朝鮮から中国東北部、ロ シア国境地帯にかけても広大な溶岩台地を形成して、極めてアルカリ質に富んだ火山灰・火山礫が存在すること 火山灰及び火山に関する考察:16 と思われる。 なお、我国は火山列島であり、全国土の山野が火山灰で覆われていると言うことである。これは何を物語って いるのかと言えば、降雨があれば山野から洗い出された泥、土等が河川に流入して、所謂、泥流や土石流となっ て氾濫していくことを考慮しても理解できるが、ダムや湖沼、沼、河口や湾口、海底に堆積し沈殿するヘドロ状 の堆積土の殆どが火山灰そのものであると言うことだ。微細な結晶の崩落しやすい土石や泥、ヘドロの実態は実 に火山灰と言うことだ。そして豊穣な田を形成している粘土も、また果樹などを生産する地帯の土地の腐葉土も、 実に火山灰が風化したものであると言うことだ。 日本の海岸も実に青松、白浜で美しい風景を醸し出しているところが多い。この白浜も実に火山灰そのもので あることが多いようだ。もっとも海岸の砂には岩石が風化していったものもあり、こちらは、太陽の光熱で熱さ れて表面温度が上昇するものであるが、火山灰の白浜海岸の砂は結晶構造も微細で、断熱性もあって太陽光熱で も熱くなく、また、豊富な虫が生息する環境を形成しているようだ。即ち、海岸の砂には、岩石が風化してでき た砂と、火山灰起源の砂とがあると言うことだ。これらの相違は結晶構造もさることながら、断熱性、耐火性、 虫の棲息性、噛み合い効果による堅固な堆積性、降水に対する崩落性等が挙げられるであろう。 9 砂漠こそは火山灰の宝庫 砂漠こそは火山灰の宝庫 砂漠は世界最大の且つ地球上で最後に残されたフロンティアである。この砂漠の砂こそが、世界最大の未利用 資源であり、実にその性状は火山灰そのものである。これは、人類史上において誠に画期的な大発見である。こ の砂漠こそは、歴史的に最後に残された有効活用が可能な天然資源である火山灰の宝庫とも言えるものだ。 火山灰を有効に活用していけることが明らかになってきたこの段階で、その火山灰が実に地球上で最後に残さ れた最大の天然の未利用資源であることも既に指摘した。そこでこの火山灰が大量に賦存している場所が、実に、 砂漠に他ならないことを指摘しよう。これは実に、誰も明確には気付かなかった歴史的大発見ではないかと思わ れる。全く何の利用価値もない砂漠の砂が、実に有効な資源に大変換していく可能性を有することになった。 岩石が風化し崩壊してできた一般の砂利や砂では、太陽の光熱によって表面が熱くなるほど断熱性もないが、 火山地帯や荒れ地や原野や砂漠の火山砂は決して熱くならないほど、極めて断熱性に富んでいるものである。こ れは日本の海岸の砂でも、断熱性において相異があるようだ。即ち、海岸の場所により、岩石が風化した砂で熱 いものと、火山灰による砂で熱くないものとの相違である。これは、実に、多くの人の常識を打破する画期的な 思考と言えるだろう。 即ち、砂漠の気候が暑いのは、水分が無く太陽光熱が熱いからだ。砂漠の砂自体は、断熱性に富み、決して熱 くはないのである。ここに大きなヒントが隠されていると言えよう。砂漠では、ジープがパンクもしないで疾走 したり、ラクダや人間が裸足で歩けたり、様々な動物や昆虫が棲息するという事実からも、砂漠が決して熱くは なく、そして不毛の地ではないと言うことが、容易に理解できるであろう。即ち、砂漠は、豊富な火山灰、火山 砂という、実に豊かな世界最大の未利用資源が存在する宝庫なのである。 当方が実に、砂漠の砂は火山灰であることに気付いたきっかけは、一枚の写真であった。それはある観光旅行 会社のパンフレットであった。そこには南太平洋の某島の海岸で、上半身裸でシーツも何も敷かないで炎天下の 太陽の下で寝そべる女性の姿であった。この一枚の何気ない写真が不思議と言いようのない衝撃というか注意を 引いたのであった。何も不謹慎で女性のヌード姿の写真に見とれたわけでも無く、当方の遙か来し方の原体験と 不思議と重なって、故郷の福井で過ごした子供の頃の記憶が呼び戻されたのであった。 これは何かと言えば、夏の炎天下での海水浴の光景や体験であった。太陽光線により射熱輻射された故郷福井 の海岸の砂の熱さは今でもはっきりと思い起こされるほど、熱くてしようがないものであり、海水浴の際には、 砂浜をとても裸足では歩けないものであった。浜茶屋で海水着に着替えた後は一目散に海岸に向かって走るか、 サンダルのような物を履いて行くしかないほど、砂の熱さはとても我慢できるものではなかった。 こうした子供の頃の原体験というべき記憶の中にある砂は、太陽光熱により熱された熱いものであり、とても 裸足で歩けないものという記憶であり意識であった。それが社会に出て間もなく見た観光パンフレットによる南 火山灰及び火山に関する考察:17 太平洋の海岸でシーツやマット無しで寝そべる女性の裸同然の姿は、「一体何だ、これは」と激しく興味をそそ られた想いがしたものだ。その後、伊豆七島の島々の海岸や、また日本列島の様々な海岸でも、同じような光景 があるのを見聞した。 そこで解ったことは、海岸の砂には、当方が子供の頃に夏の海水浴で体験した太陽光熱で熱く熱せられる砂と、 外に、全く太陽光熱により影響を受けずに、即ち熱くならない砂があることを知った。これは、前者は、コンク リートに見られるように、岩石と同じ成分であり、岩石が砂利や砂に崩壊・解体されていく過程でできた砂であ り、これは太陽光熱により暖められて熱されるものである。 ところが一方の全く熱くならない砂とは、岩石が風化解体されてできたものではなく、別の由来に関係する砂 であると言うことだ。これが実に断熱性に富み、微細で複雑な結晶構造を有し、昆虫や微生物も生息し得るほど の通気性や断熱性を有するものであることが解ってきた。こうした海岸の砂には決まって、単に太陽光熱により 熱くならないと言う側面の背後には、様々な昆虫や微生物が生息していることも知った。 こうした一例を挙げれば、後日知ったことだが、北陸の金沢近郊の海岸でも、また、千葉県の外房の海岸でも、 そして、東北の三陸海岸の釜石近くにある浪花海岸でも、実に夏の炎天下でも太陽光熱に晒されても全く熱くな らない砂であると共に、多くの虫が生息していた。砂をよく見ると実に多孔質の結晶をしており、通気性にも富 んだものであった。 極めつきの写真は、某高名なカメラマンが写した中央アジアの砂漠を疾走する馬車の姿であった。普通の人は 殆ど気付かないものだが、何と当方は、そこに写っている写真に不思議と見とれたものだった。それは砂漠の砂 に明確に写っている車の轍(わだち)であり、砂埃(すなぼこり)であった。「一体それがどうした」と言う者 が殆どであろうが、ここが大きな発見に至る分かれ目とも言えるだろう。 つまり、普通の岩石が風化してできた砂の上を馬車や車が疾走しても、砂が湿っていない限り、轍やタイヤの 跡ははっきりと付かないものである。そして轍や車の跡が付く以上、湿っているが故に、砂埃は立たないのであ る。つまり、普通の砂では車輪の跡と砂埃は両立しないのが常識である。それが砂漠を疾走する馬車が走った跡 は、くっきりと轍が残ってしかも砂埃が立っていたと言うことである。これは実に砂漠の砂が、単に岩石が風化 してできた普通の砂ではないと言う大きな疑問から解明へと繋がっていくことになる。 この光景は日本でも、注意深く見ると、渚ドライブウェーと言われる海岸でもよく見られるものだ。即ち、普 通、岩石が風化した海岸の砂では、砂が崩壊し易いために、雨で砂が湿っていない限り、車が走ってもタイヤが 砂中にめり込んで、容易に疾走できるものではない。逆に言えば、砂が湿っていれば、タイヤは砂の中にめり込 まないで疾走できるというものだ。そして疾走できる際には、砂埃は立たないものだ。こうした海岸は先程の金 沢近郊の海岸の渚ドライブウェーでも見られるし、千葉郊外の房総の九十九里浜海岸でも見られることだ。 こうした車や馬車が、乾燥した砂の上を疾走してもくっきりと明確な跡が残り、且つ砂埃(すなぼこり)が舞 い上がるという光景は、砂漠の砂、そして渚ドライブウェーの海岸の砂は、共に同じ性状、成分であり、同じ生 成・起源であるものと推察されると言うものだ。その結果、これらの砂漠の砂や渚ドライブウェーの砂は、実に 火山噴火によりもたらされた火山灰起源の砂であるという結論に到達した次第である。 こうした観点から、砂漠や、その砂漠の砂を改めて観察すると、実に様々な現象や光景が解ってくる。即ち、 世界中の荒涼とした原野や荒れ地や広大な砂漠の砂は、実に火山噴火の際にもたらされた火山灰である。そして 砂漠ばかりではなく、地球上の殆どの地表面は火山灰に覆われており、それらがその地域特有の気候や風土によ り、風化した火山灰として、強酸性物質などの成分の一部が溶脱し変質したりして、ゼオライトや粘土や腐葉土 質に変化したしていっていることが多い。 その中でも砂漠の砂は、地域の気候風土の特性によっては、幾分成分が溶脱したものもあるが、大抵の砂漠の 砂は火山灰そのままの原形を留めていると言っても良い。実に、これは極めて破天荒で大胆な発想であり、歴史 的にも一大発見であろう。つまり、世界的にも火山地帯をはじめ、多くの荒涼とした荒れ地や原野、砂漠地域に、 無尽蔵と言っていいほど賦存する砂は実に火山灰である。荒涼とした原野や砂漠の砂は、単に岩石や砂利や砂が 風化して微細になったものではない。そもそも成因や結晶構造が異なるものである。 火山灰及び火山に関する考察:18 岩石が風化し崩壊してできた一般の砂利や砂では、太陽の光熱によって表面が熱くなるほど断熱性も耐火性も ないが、火山地帯や荒れ地や原野や砂漠の火山砂は決して熱くならないほど、極めて断熱性に富んでいるもので ある。即ち、砂漠の気候が暑いのは、水分が無く太陽光熱が熱いからだ。砂漠の砂自体は、断熱性に富み、微細 な結晶構造で多孔質の性状を成しており、決して熱くはないのである。ここに大きなヒントが隠されていると言 えよう。 砂漠では、ラクダや人間が裸足で歩けたり、様々な動物や昆虫が棲息するという事実からも、砂漠が決して熱 くはなく、そして不毛の地ではないと言うことが、容易に理解できるであろう。即ち、砂漠こそは、世界的に見 て実に最後に残された未利用の無尽蔵な資源である豊富な火山灰の宝庫なのである。火山灰、火山砂という、実 に豊かな世界最大の未利用資源が存在する天然資源の宝庫なのである。これは正に世界的な大発見であると言え よう。 ここで、砂漠の砂、即ち、火山灰が招来する様々な特性、性状において、非常に解りやすいものは、火山灰の 断熱性、耐火性である。そしてこの外には、吸着性、耐酸性、耐アルカリ性、殺菌性、滅菌性、堅固緻密性、水 に弱い崩落性、微細で多孔質な結晶構造性、超軽量・浮遊性などである。これらの特性に関する諸現象について、 先程の砂漠を疾走する馬車の轍や砂埃との関係や砂漠に棲息する多くの動植物との関係を含めて幾つかの事例 を挙げて紹介しよう。 (1)湿ってもいないのに砂漠の砂に轍 (1)湿ってもいないのに砂漠の砂に轍と埃が 湿ってもいないのに砂漠の砂に轍と埃が 普通の岩石が風化してできた砂の上を馬車や車が疾走しても、砂が湿っていない限り、轍やタイヤの跡ははっ きりと付かないものである。そしてこうした砂の上に轍や車の跡が付く以上、砂自体が湿っているが故に、砂埃 は立たないのである。つまり、普通の岩石が風化した砂では車輪の跡と砂埃は両立しないものであるのが常識で ある。それが砂漠を疾走する馬車が走った跡は、くっきりと轍が残ってしかも砂埃が立っていると言うことは、 実に砂漠の砂が、単に岩石が風化してできた普通の砂ではないと言うことで、他ならぬ微細で緻密で超軽量の結 晶構造を有した火山灰であるからだ。 (2)車が砂漠を疾走できるのは何故だろう サハララリーとかで、砂漠の中を車で疾走するレースが行なわれる。これもよく見ると、普通ならば、砂の上 を車が疾走すると、車の重量でタイヤが砂の中にめり込んでいくものだが、決してそうはならず、まるで堅固な コンクリート道路の上を疾走しているものだ。何も砂漠の砂を人工的に固めて疾走しやすくしたものではないの は明らかだ。実にこの砂漠の砂こそ、火山灰に他ならない証拠であり、複雑で緻密な結晶構造を有する火山灰の 性状により、噛み合い効果を発揮して、堅固な地盤を形成するものだ。普通の砂漠の舞い上がる砂塵を見ている と、不思議に思うものだが、一旦、締め固められたが堅固な構造を発揮していくもので、それが風や雨水などで 崩壊すると、恰も泥流や土石流の如く崩落し飛散し浮遊していくものである。 (3)砂漠の砂は何故に熱くないのか 北アフリカのチュニジアの砂漠で、海岸近くの砂浜に小さな虫が多く棲息していた画面がテレビで映し出され ていた。普通は、太陽光熱が強い砂漠の砂浜は熱く照射されて、とても昆虫や生物が生存できないほどであるの が常識である。例え、海岸であっても、砂漠であることには変わりはない。このように、多くの砂漠では、ラク ダや人間が裸足で歩けたり、様々な動物や昆虫が棲息している。この事実は、実に砂漠が決して熱くはなく、そ して不毛の地ではないと言うことを物語っている。然るに、海岸近くの砂漠の砂浜に小さな虫が大量に棲息して いるのは、その砂浜の砂が多孔質で断熱性に富んだ火山灰であるからに他ならない。砂漠の砂が熱いのは太陽光 線で乾燥し水分が消失しているから熱く感じるのであって、砂漠の砂自身は、内部に潜れば極めて断熱性、耐火 性に優れており、内部まで太陽光熱が浸透はせずに、ひんやりとし、それが為に多くの動植物が棲息できるもの である。夏の季節に、コンクリートの上を裸足で歩いてみれば、熱く感じてとても歩ける状態でないのが解ると いうものだ。 (4)凝灰岩が堅固な住居を提供 先日、北アフリカの砂漠の民であるベルベル人の垂直に切り立った洞窟住居、穴居住居がテレビで映し出され 火山灰及び火山に関する考察:19 た。正に切り立った断崖絶壁の住居構造を可能ならしめるのは、火山灰が凝固した凝灰岩によるものであろう。 乾燥した火山灰だからこそ、湿気もなく、カビも生えずに快適な環境を提供してくれるものと言えよう。実に、 ベルベル人の穴居住居は、堅固な構造を有する火山灰が凝固した凝灰岩によるものである。 なお、切り立った洞窟住居は、中国の黄河上流の黄土高原にも見られるものだが、こちらも同様に、火山灰が 堆積し凝結した結果、微細な結晶構造が緊密に噛み合わさった故の堅固な構造と言えるであろう。他にも、絵葉 書などで見ると、ギリシャ地方に断崖絶壁上に古い教会建築物が建てられていたが、案外、垂直の切り立った断 崖上に建築されているのにも拘わらず安全なのは、火山灰が堆積し凝固した結果の凝灰岩による土質の影響であ るものと思われる。 (5)海岸近くの砂漠の砂浜から塩分が無い真水が浸出 (5)海岸近くの砂漠の砂浜から塩分が無い真水が浸出 アフリカの砂漠の海岸近くの砂浜で、住民達が穴を掘ってそこから水を汲み出していたが、そこから湧き出る 水は何と、飲料に供していたほどに、真水であった。普通は、海岸近くから浸出する水は、海水が浸透してきて 塩分が混じっていることが多いが、何も塩分が混入していなくて、実に真水になっているようだ。これは正に砂 漠の海岸の砂が火山灰の砂であるためで、火山灰による海水中の塩分の吸着効果によるものであろうと思われる。 先に指摘した米国のフロリダ半島での、海水が真水に変化する現象と同じ原理によるものと言えよう。 (6)黄土高原からの黄砂は火山灰 遠く日本や米国にまで飛散し飛来してくる黄砂の発生源は、カザフスタン東部の砂漠地帯(サルイ・イシコト ラウ砂漠など) 、タクラマカン砂漠・ジュンガル盆地、ゴビ砂漠とその南縁の小砂漠群(バタインジャラン砂漠、 ソニド盆地など)、黄土高原(オルドス)であるが、それらの黄砂も付近や更に遠い西方の火山から偏西風に乗 って飛来して来たものであろうと思われる。この黄砂は微細な粒子結晶の火山灰に他ならず、黄河の濁った水流 を観察すると、実に微細な火山灰特有の泥流である。火山灰地は、こうした水に弱い泥流と化す災害地であるか、 または砂漠などの不毛の地となっている場合が多いようである。 なお、黄河が流れ込む渤海湾は火山灰・黄砂が沈殿堆積した泥の海であるようだ。 (7)砂漠の砂が海水を濾過 火山灰地である砂漠の海岸近くの砂浜から塩分が出ない真水が浸出するのも火山灰の性状に由来するものだ。 北アフリカの砂漠の海岸近くの砂浜で、住民達が穴を掘ってそこから水を汲み出していたが、そこから湧き出る 水は何と、飲料に供していたほどに、真水であった。普通は、海岸近くから浸出する水は、海水が浸透してきて 塩分が混じっていることが多いが、何も塩分が混入していなくて、実に真水になっているようだ。これは正に海 岸の砂が火山灰の砂であるためで、火山灰による海水中の塩分の吸着効果によるものであろうと思われる。先に 指摘した米国のフロリダ半島での、海水が真水に変化する現象と同じ原理によるものと言えよう。 (8)敦煌遺跡の壁画の保存状態が良好なのは火山灰が関係 目下、日本の高松塚古墳内部の壁画は、開封して時間が経過してくると、湿気の充満などでカビが発生して大 問題となっているようだ。然るに、中国西域のシルクロードの敦煌などの古代遺跡の壁画の保存状態は極めて良 好だ。この付近は見渡す限りの砂漠地帯であるが、細かな微粒子の堆積する火山灰地帯である。恐らく、この敦 煌遺跡の内部の壁も、吸湿性に富んだ火山灰により形成されているものだろう。それ故に、壁画の保存状態が良 好なのは、火山灰に関係しているものと思われる。 (9)裸足で疾走できるのも火山灰が原因 かつてマラソンで、裸足で力走するエチオピア出身の選手がいたが、これは普通の堅いコンクリート上では、 幾ら堅固な足を有していても、長時間の走行は無理である。何故なら足の筋肉に多大な負担が掛かるからである。 現地では裸足で走っても、コンクリートの路上では、最後には靴を履かざるを得なかったようだ。これは猫でも、 柔らかい土の上に落下すれば怪我がないが、コンクリート上に落下した場合には、骨折することも有り得ること でも理解できる。そこで、裸足のマラソンランナーの場合は、エチオピアの高原地帯の土が柔らかく弾力性に富 んだ火山灰であったからこそ、鍛錬によって、マラソンのような長時間疾走が可能であったものと言えよう。 火山灰及び火山に関する考察:20 (10)ジンギスハーンの大陸制覇も火山灰草原が大きく貢献 10)ジンギスハーンの大陸制覇も火山灰草原が大きく貢献 一三世紀の初めにモンゴル帝国を興したジンギスカンの広大なユーラシア大陸制覇を可能にしたのは、騎馬軍 団による迅速果敢な戦闘技術によるものである。ところが、この短時間で草原の大移動を可能にしたのは、実に、 草原の有する土の特性に他ならない。即ち、断熱性があって堅く敷き固められた柔らかい火山灰の影響である。 この草原こそ、下手すると、乾燥化して砂漠化と隣り合わせのものでもあるが、これにより、馬の全力疾走を可 能にし、一気呵成に大遠征を可能にし、大帝国の建設を成し遂げられたものである。 目下、地球上の砂漠は、数年に一回程度大雨が降る以外は、殆ど降水のない地域で、川は大雨の後だけ一時的 に水が流れるところが多い。気温の日較差が著しく大きいので、岩石の風化と風食が盛んな地域である。この砂 漠の定義に関しては、広辞苑や気象の辞典によれば、『砂漠とは、乾燥気候のため、植物がほとんど生育せず、 岩石や、砂礫からなる荒漠不毛の広野』とされるぐらいである。然るに、世界最大の過疎荒廃地である砂漠が、 決して不毛の地ではなく、不毛の砂漠の砂こそ、火山灰に他ならず、火山灰が有効利用できものである。実に砂 漠こそが、地球上において最後に残された、世界最大の未利用天然資源の火山灰の宝庫と言えるものだ。既に砂 漠が、世界最大の未利用資源の宝庫であることが解った以上は、その開発に大きな歴史的展望が開けてきたと言 えるだろう。この指摘は、実に歴史的にも画期的なものと言えよう。 なお、この地球上の実際の砂漠地域を見ていくと、殆ど全大陸に亘って広大に広がっていることが解る。特に、 北緯三五から五〇度に亘る中緯度砂漠が有名だが、これは中緯度においてほとんど常時吹いている西寄りの風で ある偏西風の影響も関係しているものと思われる。世界の砂漠は、中規模程度の砂漠まで含めると非常に多く存 在しているものだが、大砂漠は次の通りである。 北アメリカ地域では、アメリカ西部のグレートベーズン砂漠(Great Basin)四九万平方キロ(以下、単位 は平方キロ)、メキシコのチワワ砂漠(Chihuahuan)四五万、アメリカのアリゾナ州、カリフォルニア州およ びメキシコのソノラ州にかけて広がるソノラ砂漠(Sonoran)三一万、アメリカ南西部のカリフォルニア州、ユ タ州、ネヴァダ州、アリゾナ州にまたがるモハーベ砂漠(Mojave)七万、 南アメリカ地域では、南部のパタゴニア砂漠(Patagonian)六七万、チリ北部のアタカマ砂漠(Atacama) 一四万、オーストラリアでは、南部のグレートビクトリア砂漠(Great Victoria)六五万、北西部のグレート サンディ砂漠(Great Sandy)四〇万、中央部のシンプソン砂漠(Simpson)一五万、アジア地域では、サウ ジアラビアのアラビア砂漠(Arabia)二三三万、モンゴルのゴビ砂漠(Gobi)一三〇万、中央アジアのトルク メニスタンにあるカラクーム砂漠(Karakum)三五(三〇)万、カザフスタンとウズベキスタンにあるキジル クーム砂漠(Kyzylkum)三〇万、中国の新疆ウイグル自治区にあるタクラマカン砂漠(Takla Makan)二七 (三二)万、イラン北部のカビル砂漠(Kavir)二六万、シリア砂漠(Syrian)二六万、パキスタン東部のター ル砂漠(Thar)二〇万、イラン東部のルート砂漠(Lut)五万、アフリカ地域では、サハラ砂漠(Sahara)八 六〇万、南部のカラハリ砂漠(Kalahari)二六万、ナミビアのナミブ砂漠(Namib)一四万、などが有名で、 他にも、スーダンのヌビア砂漠(Nubian)、ケニアのニーリ砂漠(Nyiri) 、国土の三分の二が砂漠のモーリタニ アの砂漠などがあり、アフリカ地域は小計九〇〇万平方キロで多く、地球全体の合計では一七六五万平方キロに も達する。 火山灰及び火山に関する考察:21
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