大学生のメールにおけるあいづち 堀口純子(桜美林大学) 1 はじめに 最近、 「学生と話をすると、反応が少なく、話しづらい」とか、「人の話を聴かない・聴 けない学生が目立つようになっている」というような報告がある。 日本語で会話をする場合、話し手は聞き手が相づちを打ってくれると話しやすく、打っ てくれないと話しにくい。話し手は、聞き手の相づちによって、聞き手の理解や関心を判 断し、話を進めるための力を得、また話の方向を修正したりすることもできる。また、聞 き手は適度な相づちを打つことによって、話し手とともに会話の成立に貢献している。す なわち、日本語の会話においては、相づちが重要な役割を果たしているといえる。 ところで、大学生たちは朝から晩までメールのやり取りをしているが、メールは相づち が無くても成立するように思われる。もしメールでは相づちを使っていない、または必要 としないのであれば、そのことが大学生の反応の少なさの一因である可能性も考えられる。 そこで、東京都内の私立大学の学生 71 名を対象に、メールにおける相づちの使用につい て調査を行った。この調査の目的は、次の2点を明らかにすることである。 1) 大学生はメールにおいて相づちを使うか 2) 相づちを使う場合、どのような相づちを使うか 2 データの概要 大学生 71 名(男性 21 名、女性 50 名)を対象に、メールにおける相づち使用について調 査を行った結果、メールにおいて相づちを使うという回答は 63 名(89%)で、男性が 17 名、 女性が 46 名であった。また、63 名から提供された相づちの総数は 257 例で、そのうち男 性が使用した相づちが 94 例、女性が使用した相づちが 163 例であった。 257 例の相づちのうち 220 例(86%)は、顔文字や絵文字や記号だけで表わしている相づち や、これらと文字の併用や、規範を逸脱した表記などによる相づちである。257 例のうち、 話しことばで使用される相づちと同じ形式、すなわち顔文字や絵文字や記号や規範を逸脱 した表記などがない「うん」「そうね」「はいはい」「そっかそっか」などは、37 例(14%)で あった。37 例中 23 例が男性が使用したもので、女性が使用したのは 14 例であった。以下 では、 話しことばで使用される相づちと表記が異なる 220 例について、具体的に見ていく。 3 記号・絵文字・顔文字の使用 使用されているのは、「!」「?」 「~」「-」「W」「.. . 」「。。 。 」「♡ 」「♪」 「☆」などで、 「!!!!!」「WWW」のような連続使用も見られる。最も使用が目立つのは、「!」と「?」 と「~」である。これらの記号や絵文字やさらに多様な顔文字によって、音調や気持ちや 表情などの、文字では表わしきれない非言語情報を表しているのであろう。以下の (1)は 記号のみの連続使用の相づちの例で、(2)は記号と文字の併用による相づちの例である。 (1) 発信者:今日起きたらもう夕方だった・・・ 受信者:WWWW (2) 発信者:英語苦手だし、間違って変な文になってたら、余計点数が下がりそうだか ら、日本語でせいかくに書こうかなあ。 受信者:だよねゝゝゝゝゝ!いいよねゝゝゝ!!うんうん!そーしよう!!!!! 4 規範を逸脱した表記による相づち 書きことばの規範に従った表記で表わされている相づちは、257 例中 37 例であり、メー ルにおける相づちは、規範を逸脱した表記によって、発音や音調や気持ちなどを表わそう としているのであろう。具体的には、小さい平仮名の使用(そっかぁ、おぉう)、記号の併 用(へぇ~、そうなんだ~!?、了解~)、アルファベットの併用(お K)などが見られる。 5 メールの相づちに見られる若者ことば 「相づち詞」のうち「そう系」 「うん系」 「はい系」はメールの中でも多く使用されてい るが、その他に、従来あまり代表的な相づちとされてこなかった「そうなんだ」 「まじ」「了 解」「なるほど」 「確かに」などが見られる。これらは、大学生の話しことばでも使用が目 立つようになってきた相づちであるが、メールでもかなりの使用例が見られた。 さらにメールでは、表記のバリエーションが目立つ。 「まじ」には、 「まじか!」 「まじか ー!」 「マジかー!」「まぢかー」など 12 種類、 「了解」は「了解―!」 「りょーかい!」「り ょ!」など 11 種類の表記が使用されている。 6 おわりに 大学生たちがメールでは相づちを使っていない、または必要としないのであれば、それ が話しことばにおける大学生の反応の少なさの一因であるかもしれないと考えて、大学生 のメールにおける相づちの使用について調査を行った。 その結果、対象者 71 名のうち 63 名(89%)がメールで相づちを使用すると回答した。また、 メールの相づちは、話しことばで使用される相づちとは異なる表記が多く見られ、そこに は発音や音調や気持ちなどを表わそうとする多様な工夫が見られた。 大学生たちは、友だちと良い関係を築き、それを保ち続けることを強く望んでいる。そ のためには、メールを受け取ったらすぐに反応することが重要であり、その反応には相づ ちがかなり使用され、さらに相づちの表記に気持ちを込める多様な工夫が見られた。 以上のことから、話しことばにおける大学生の反応の少なさは、彼らが常にメールを使 用していること、そしてメールでは相づちを使用しないことに一因があるのではないかと いう図式は成り立たないことが明らかになった。今回の調査で得たデータは友人間のもの が多く、一方、大学生の反応の少なさを指摘しているのは、年長者であるというところに、 今後の課題を設定する必要があろう。 【参考文献】 堀口純子(2013)「相づちに対する大学生の意識」『第 25 回日本語教育連絡会議発表論文集』 三宅和子(2011)『日本語の対人関係把握と配慮言語行動』ひつじ書房 山崎敬一編(2006)『モバイルコミュニケーション-携帯電話の会話分析』大修館書店
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