「金融市場NOW」 vol.14 コモディティ価格と金融・経済の関係 高騰を続けていた原油を中心としたコモディティ価格は7月初旬の高値をピークに足元、反落しています。原油を中心としたコモディティ価格の高騰は、世界最大の原油消 費国である米国をはじめ、先進国の景気や為替市場、経常収支にも影響を及ぼします。今回はこの点に焦点を当ててみます。 原油を初めとする一次産品価格の高騰は、交易条件(※) の悪化を通じ企業収益の減速要因になります。実際、2007 年以降の原油急騰を受けて交易条件は大幅に悪化しまし た。圧迫された企業収益環境を受け、企業の価格転嫁の動 きが観測されています。 ドルと原油価格に代表されるコモディティ価格は、おおむね 逆相関で推移してきました。2007年以降はインフレ高進に 伴い、この関係が強まり、いわゆるインフレ・トレード(ドル売 り/コモディティ買い)が活発に行われた模様です。米国は世 界最大の原油消費国・輸入国ということもあり、同国の景気 は、原油価格の動向に敏感に影響を受けます。例えば、原 油価格の高騰は輸入物価の上昇を招き、家計の実質購買 力を低下させ、GDPの約7割を占める個人消費の下押し圧 力となります。このため、原油高騰に伴う米景気減速観測 からドルが売られるとの見方が両者の逆相関関係の背景 にはあるようです。 <②原油価格と米国の交易条件> 140 1 130 0.85 110 100 700 500 0 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 300 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 1995 <④米国実質GDPと原油価格対前年比> <⑤MCIと原油価格> 120% 4% 150 2005 2007 原油価格(左軸) MCI(右軸) 引締的(右軸) <⑥米欧の流動性供給状況と原油価格> 緩和的(右軸) (ドル) (ドル) 18% 1.0% 16% 14% 140 80% 110 -1.0% 12% 100 90 -3.0% 10% 80 -5.0% 8% 60% 40% 1% 20% 70 0% 50 -20% -40% 原油価格(右軸:対前年比) 2003 130 2% -1% 2001 100% 3% 0% 1999 原油価格の高騰を演出した要因の一つに、米国を中心とした大幅な金融緩和によって引き起こされたカネ余り状態が挙げ られます。この有り余ったオカネは高い収益を求め、原油に代表されるコモディティ市場に流入したという見方です。コモ ディティ価格の高騰が収束したかどうかを判断するためには、大量の流動性供給環境が転換したことを確認することも必 要だと思います。図表⑤は金融環境が引締的であるのか緩和的であるのかを判断する分析手法の一つである、マネタ リー・コンディション・インデックス(MCI)と原油価格の推移です。これを見ると、現在の米国の金融環境は大幅に緩和的で あり、依然として大量の流動性を供給しているように見えます。また、図表⑥はオカネの供給(M2(※)で代替)が実体経済 (鉱工業生産指数の伸び率で代替)比でどれほどの水準であるのかを示すグラフと原油価格のチャートです。こちらで見て も、実体経済の伸びを上回るオカネが供給されている環境に大きな変化は見られません。当面はコモディティ市場の先行 きを占う上で、カネ余り環境の動向から目が離せません。 原油価格は世界最大の原油消費国である米国の景気動向 に連動し推移してきました。特に、米景気が0近傍成長となっ た過去の2局面(図表 囲い部分参照)では顕著です。今後、 米国景気が低迷するとのマーケットコンセンサスが具現化し た場合、原油の需要減が予想されます。その場合、ファンダ メンタルズ面からは、原油価格だけが一人歩きし、高騰して ゆく可能性は低いと考えています。 米実質GDP(左軸) 1997 出所:IMF (注)2008年はIMF見通しベース(2008年4月時点) 出所:ブルームバーグ 5% 米国 -700 08 140% 日本 -300 -500 70 94 中東 300 100 -100 80 コモディティ指数(左軸) 中国 (10億ドル) (※)輸出物価/輸入物価 1単位の輸出品で何単位の輸入品と交換 できるかを示す指標 出所:ブルームバーグ -900 90 150 -2% 80 20 0.8 350 250 900 40 120 400 100 60 原油価格(右軸) 0.9 ドル実効指数(右軸) 450 <③世界の経常収支バランス> 120 0.95 500 6% (ドル) 160 1.05 <①ドル実効指数とコモディティ価格指数> 200 米交易条件(左軸) 1.1 原油価格が高騰すると、世界最大の原油輸入国である米国の 原油輸入金額が名目ベースで増加するため、短期的には、米国 の経常収支赤字の拡大要因となります。このため、ドルに下落 圧力がかかるとの見方もあります。近年の原油価格の高騰に伴 い中東産油国の原油輸出が増加し、同地域の経常収支の黒字 幅拡大につながっています。現在は、米国の経常収支赤字が中 東と中国の黒字によってファイナンス(埋め合わせ)されていると 見ることもできます。 -60% 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 出所:ブルームバーグ 米欧流動性(M2伸率−鉱工業生産伸率:左軸) 60 6% 30 10 -7.0% 4% -9.0% 2% 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 出所:ブルームバーグ 120 原油価格(右軸) 40 20 03 04 05 06 07 08 (※)通貨供給量の代表的指標 出所:ブルームバーグ
© Copyright 2024 Paperzz